02. 2011年9月26日 23:38:12: pYSZQS0KT6
http://www.young-germany.jp/article_521エネルギーシフト 10の質問とその答え エネルギーシフトはどのような手順で進められる? 国内原子力発電所は22年までに段階的に廃止され、再生可能エネルギーをはじめとする他の電源に取って代わられる。どの順番で原子炉を停止していくかは、各原発のリスク評価と地域電力網に占める重要度によって決まる。停止された原子炉1基を、いわゆる「待機予備力(cold reserve)」としてひと先ず温存する必要があるかどうか、連邦ネットワーク庁が検討にあたる。原子力発電事業者は稼動期間短縮による逸失利益の補償措置として、「エネルギー・気候基金」への予定されていた払い込み義務を免除される。これによって基金側に生じる資金の不足を補填するため、連邦は12年以降排出権取引から得られた収入を、すべてそのまま基金の収入に充てる。エネルギー・気候基金は、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、エネルギー網、Eモビリティに関連する技術の研究開発奨励、エネルギー効率向上措置助成、電力集約型産業助成、開発途上国や新興国、中欧・東欧諸国の気候保全イニシアチブ支援を主たる目的とする連邦政府の基金。 エネルギーシフトに向けて解決すべきインフラ面の課題とは?
原子力エネルギーが使えなくなる分、他のエネルギーを最大限効率よく活用する必要があり、そのためには電力網の拡充整備が欠かせない。原発廃止の影響を受けるのは基本的に中部以南の州(バーデン=ヴュルテンベルク、バイエルン、ヘッセン)なので、北部を中心に風力発電された電力を、できるだけロスの少ない方法で南部へ送電することが重要となる。損失の少ない長距離送電技術として、とくに期待されているのは高圧直流送電。連邦ネットワーク庁は電力網拡充事業の透明性を高めるため、一般市民から広く意見を募りネット上で公開する試みを実施した。また、連邦経済省はいわゆる「スマートグリッド」――再生可能エネルギー発電特有の出力変動に対応して、柔軟に需給バランスを調整できる次世代送電網技術――の研究を重点的に助成している。この技術は、需要予測に基づいて大規模発電された電力を、生産側から消費側へ一方的に供給する「消費本位発電」から、生産・消費の両方を行う多数の拠点を統合したネットワークによる「供給最適化された電力消費」への転換を可能にする。 原子力を代替するのはどんなエネルギー?
最終目標は再生可能エネルギーの比率を最大化することだが、目標達成までの中継ぎ技術として、高効率な化石燃料発電技術も重要な役割を果たす。ドイツの石炭火力発電所は今日すでに発電効率の高さで世界トップレベルにあるし、有害ガスの排出量が極めて少ない最先端のガスタービン・コンバインドサイクル発電技術の開発でも、ドイツは他をリードしている。だが、連邦政府のエネルギー構想の柱はあくまでも再生可能エネルギー。最終エネルギー消費(電力・熱・燃料すべてを含む)に占める比率を、30年までに30パーセントへ、40年までに45パーセントへ、50年までに60パーセントへと引き上げることを目指す。諸種の再生可能エネルギーのなかで最も重要な役割を担うことになるのは、とくに洋上発電の分野で巨大な未活用ポテンシャルのある風力。すでに普及のかなり進んだ太陽光発電については、電力網への統合技術向上に力を入れる。バイオエネルギーと地熱発電も利用をさらに推進する計画だが、水力はドイツの場合、すでに利用できるものはほぼ利用し尽されていると言ってよい。 再生可能エネルギー分野でブレークスルー間近のドイツ製革新技術とは?
発電効率の高い有機太陽電池から、地熱発電のための新しい資源・立地調査技術まで、連邦研究省が助成対象としている革新技術研究テーマは極めて幅広い。加えて連邦環境省の助成プログラムもある。具体的なプロジェクトをいくつか挙げるなら、例えばドイツの複数の研究機関とGEウィンドエナジー社が共同で設計し、実験にもすでに成功している騒音の少ない風力発電機。騒音の抑制は風力が広く社会に受け入れられるために重要である。あるいは、バーデン=ヴュルテンベルク太陽エネルギー・水素研究センターが10年に発表した薄膜太陽電池。20.3パーセントという変換効率で世界記録を更新した。シュトゥットガルト大学建築構造研究所が中心となって開発されたばかりのガラスファサード向け太陽熱コレクターシステムは、エネルギー変換効率が極めて高いばかりでなく、日除け・採光調節機能も兼ね備える。 ドイツは再生可能エネルギーにどのくらい投資している?
ドイツにおける再生可能エネルギー分野の投資は、世界金融・経済危機の影響下にもかかわらず、2010年には再び対前年比およそ30パーセントの増加を示し、投資総額も270億ユーロ弱と過去最高を記録した。連邦政府によれば、この投資の約90パーセントは、再生可能エネルギー法(EEG)の奨励策によって可能になったもの。エネルギーシフトに向けて先ごろ改正されたEEGには、さらにいくつもの新しい代替エネルギー奨励策が盛り込まれている。例えば、洋上風力発電の促進プログラムとして総額50億ユーロの融資枠が設けられたほか、まだ十分に活用されていない地熱発電を奨励するため、この技術によって発電された電力の買取価格を再度引き上げた。2011〜14年の連邦政府による先端エネルギー技術研究開発投資は、総額およそ35億ユーロに上る。 エネルギーシフトがもたらす経済的チャンスとは?
ドイツの再生可能エネルギー業界では、現在すでに37万人近い人々が働いている。連邦環境省によればこの数は今後もさらに増え続け、2030年までには50万人を超える。ドイツ経済研究所(DIW)エネルギー部門のクラウディア・ケムフェルト部長によれば、エネルギーシフトはさらに環境保全テクノロジー部門(廃棄物処理、リサイクル、水処理など)にも大きなブームをもたらすものと見られ、エネルギーシフトの雇用創出効果は全体で100万口にも達するという。世界をリードするドイツの再生可能エネルギー産業は、海外への設備・要素技術輸出でも大きな成功を収めている。そのお蔭もあって業界の年間売上高は、05年の86億ユーロから10年の253億ユーロへと急速大幅に増加。エネルギーシフトはさらに大きな飛躍をもたらすものと見られる。 運転を終了した原子力発電所は、どうなるか?
運転終了後の原発は、解体・撤去される。まず、使用済み核燃料が搬出され、最寄りの中間貯蔵施設に一時保管され、後に最終処分場に移送される。放射性物質の大部分を運び出した後の原子力発電所の解体には、運転終了後直ちに解体を開始するか、あるいは安全な形で密閉管理した後、解体撤去するか2通りの方法がある。解体は、外側の装置から建物内の施設へと順々に行われる。すなわち、配管内などに付着している放射性物質を除去し(系統除染)してから、格納容器、圧力容器を解体撤去し、空っぽになった建屋の除染を行う。その後、放射能汚染の危険性が完全になくなったことを確認してから建屋の解体作業、および原発建設前の状態に環境を復元する作業を開始する。1974年に運転終了したニーダーライヒバッハ原子力発電所やドイツ最初のカール実験用原子力発電所の場合など、ドイツはこうした原発の解体撤去・復元作業をすでに何回か経験済み。 ドイツの外国からの核電力輸入量は、将来増えるのか?
福島原子力発電所の大事故発生を受けて、直ちにドイツ国内の原発7基の運転を終了したときは、一時的に核電力の輸入量が増加したことは確かである。しかし、運転終了した原発からの電力がなくてもドイツ国内の電力供給は安定しているため、連邦政府にとって外国からの核電力輸入増は適切な選択肢ではあり得ない。もともと、国家間で電力の売買を行なっているヨーロッパでは、各国の電力輸出入量はつねに変動する。例えば、ドイツは現在すでに風の強い時間帯には電力輸出国に変わるが、今後数年間に風力発電が拡大されればその傾向はさらに強まるだろう。基本的には、化石燃料を使用する最新の火力発電施設と、再生可能エネルギー利用の電力生産を徹底的に推し進めることが、ドイツが国外からの電力輸入に依存しないで済む方法といえる。連邦政府は、将来の電力輸入では再生可能エネルギー使用電力最優先の立場を明確にとる。 エネルギー効率の改善には、何が必要か?
現在、ドイツの最終エネルギー消費の約40パーセントは建物の暖房需要で、その際のエネルギー損失は依然として高い。この状況を打開するために、連邦政府は国内の既存建物の全エネルギー消費量を遅くとも20年までに20パーセント削減する計画を打ち出した。その目標実現へ向けて、エネルギー収支がゼロとなる家を標準仕様とし、50年までに建物のエネルギー需要をすべて再生可能エネルギーで賄えるようにする。また、新たに設置した「エネルギー効率基金」を運用して、建物のエネルギー効率改善や家庭用省エネルギー/光熱費節約チェックなどを奨励し、省エネ工事を実施した家主には補助金を支給する。さらに政府は、新設の「エネルギー貯蔵・助成イニシアチブ(Förderinitiative Energiespeicher)」に差し当たり総額2億ユーロを充て、経済活動の途中におけるエネルギー損失の改善に役立つ基礎研究を促進する。 再生可能エネルギーの利用拡大に向けてのドイツのグローバルな取り組みは?
ドイツは国際的パートナーシップの強化に力を入れている。なかでも、07年に議長国ドイツの提唱で発足した「アフリカ・EUエネルギーパートナーシップ会合」は、注目すべき一例だ。同会合は10年、アフリカ諸国内のさらに1億の人々が、最新で持続可能なエネルギーサービスにアクセスできるようにすることを取り決めた。また、「クリーンな調理用コンロのためのグローバル・アライアンス(Global Alliance for Clean Cookstoves)」の共同設立者であるドイツ連邦政府経済協力開発省とドイツ国際協力公社(GIZ)は、この目標の実現に尽力し、環境にやさしい木材利用とバイオガス等の代替エネルギー源の利用拡大に努めている。さらに、ソーラー発電施設を地中海のアフリカ沿岸に建設する「地中海ソーラー計画」と、サハラ砂漠太陽熱発電計画「デザーテック」をもドイツはサポートしている。気候変動との関連でも極めて重要なエネルギー問題は、ドイツの外交政策の中核的テーマのひとつであり、11年7月、国連安全保障理事会の議長国を務めたドイツは、気候変動問題を国際的な平和と安全への潜在的な脅威と捉える議長声明を採択した。
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