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原発の負の遺産をこれ以上背負いたくない――。脱原発を求めて、10代後半から20代前半の若者4人が東京・霞ヶ関の経済産業省庁舎前で9月11日から10日間のハンガーストライキを行っている。
午後5時。黒いスーツに身を包む中央省庁の職員たちが家路につく中、その一角だけはまるで「野外フェスティバル」のような弾んだ空気に包まれていた。
花柄のパラソルの下にゴザを敷き、4人の若者が鎮座する。傍らにはアコースティックギターと、大量のミネラルウォーター。その周りを多くの若者や外国人などが取り囲み、彼らの話に耳を傾け、写真を撮ったり、握手を求めたりしていく。
今回、ハンガーストライキを行っているのは、岡本直也さん(20)、米原幹太さん(21)、関口詩織さん(19)、山本雅昭さん(22)の4人。岡本さんと米原さんは地元の友人だが、ほかの2人とは福島第一原子力発電所事故後に岡本さんらが不定期に開いている「若者会議」で知り合った。
(写真:左から岡本さん、米原さん、関口さん、山本さん)
会議には以前から原発問題への意識が高い若者が多く集い、7月には関西電力の高浜原発や美浜原発が立地する若狭湾で合宿を実施。交流を深める中で、北海道・泊原発の営業運転再開や、山口・上関原発新設工事が進んでいることへの問題意識を互いに共有。岡本さんと米原さんの呼びかけに関口さんと山本さんが賛同し、ストライキを決めた。経産省前を選んだのは、原発の監督官庁という理由から。期間中は水と塩のみ摂取する。
「将来を想うハンガーストライキ」と題した声明文では、「私たち若い世代には、すでに日本の54基の原発が生んでしまった、半永久に消えることのない核のゴミと福島原発から漏れ続けている放射能を残されてしまいました。(中略)私たち若い世代は、原発の負の遺産をこれ以上背負いたくありません。そして最も放射能の影響を受ける子どもたち、その子どもたちに繋がっていく命に、これ以上の負の遺産を残したくありません(原文ママ)」と、訴える。
また、期間中に野田佳彦首相や枝野幸男経済産業大臣宛の請願書を経産省に提出する考えで、(1)上関原発など新規原発建設計画の白紙撤回、(2)福島県内や周辺地域住民の健康管理や避難後の生活面での保障、事故による損害の補償、(3)原発再稼働検討前に、原発の危険性と事故の責任の取り方を全国民に説明すること、(4)原発輸出の廃止、(5)原発、(高速増殖炉)もんじゅ、再処理工場など原子力施設の廃炉及び省エネ・自然エネルギー社会に向けた方針への転換――を求める。請願者名には岡本さんら4人のほかにも、20人の若者が名を連ねる。
ツイッターで集まる賛同者
ハンガーストライキ、という身体を張った抗議行動はともすると、パフォーマンスとも受け止められかねない。実際、最年少の関口さんは「命を粗末にする形の表現方法はどうなのかな、と悩んだ」と話す。静岡・浜岡原発と同じ東海圏の名古屋出身の関口さんにとって、原発はつねに脅威だった。が、「これまでは何もせず、結局は原発(維持)に加担していたのと同じ。原発をやめたいと思っているだけではダメで、思いを発信することが必要だと思った」
実際にはハンガーストライキが「向こう見ず」な行為でないことは、声をかけた岡本さんがいちばんよくわかっている。“実績”があるからだ。
幼なじみの影響もあり、2年ほど前から原発問題に関心を持った岡本さんは京都の大学を辞め、新規原発の開発が進む山口県へ移住。現在は漁師の手伝いをしながら、建設中止を求める運動に力を注ぐ。
今年1月には山口県庁前で、上関の埋め立て工事中止を求めて、米原さんら仲間5人と10日間のハンガーストライキを実施。厳冬の中、布団にくるまりながらの活動となったが、その様子がツイッターなどで広まり、多くの人が応援に駆けつけた。
山口県庁経由で全国から1000通を超えるファクスも届いた。「メディアの報道よりも、一般の方々が関心を示してくれて、深く考えてくれたのがうれしかった」(岡本さん)。
今回も実施4日目にして手応えを感じている。大学の同級生などそれぞれの知人や恩師のほか、ツイッターやユーストリームの中継でストライキを知った老若男女が、日々大勢訪れる。また、英フィナンシャル・タイムズ(FT)やロイター通信に取り上げられるなど、世界のメディアの耳目も集めている。
(写真:FTに載った自分たちの記事を読む)
実際に「若い世代だからこそやりたかった」と岡本さんが語るとおり、若者がストライキに臨む意義は小さくない。この日も、ツイッターで活動を知った若者が話を聞きに訪れていた。
関口さんも「普段、友達と原発について話すこともなかったし、原発問題に対してこれまで対話が足りなかった。だけど、若者会議やこうした場を通じて、恋愛でもいいし、原発でもいいし、対話をすることが大事だと思った」と話す。
福島第一原発事故からわずか半年、いまだ事故収束のメドすら経たない中、原発問題への世間の関心は早くも薄れつつある。若者が起こす無言の「抗議」は、国民の「関心」に再び火をつけることができるだろうか。
(倉沢 美左 =東洋経済オンライン)
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