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長塚洋一さんのブログ Supersymmetry Brothers より転載
なかなか1000円で読めるみすず書房の本はお目にかかれませんが、
「熱学思想の史的展開」やったと思うんですけど、その著者の山本義隆さんの
Supersymmetry Brothers
@Rotsk / Yo1 Richard Otsuka(昼寝中)
2011年9月15日 (木)
『福島の原発事故をめぐって』山本義隆
みすず書房 2011
山本義隆さんは、先方は知らないだろうが、私の恩師である。確か、二年にわたって駿台予備校で授業を聞いた。物理学科に進みたい割には物理の成績がもっとも悪かった僕には実際、恩人みたいなもんです。そのため、最初に読んだ山本さんの著書は、駿台予備校の物理のテキストということになる。次が、名著『磁力と重力の発見』だ。この三分冊の書物は科学史をやることの重要性を教えてくれた。
本書は、みすず書房の雑誌『みすず』に寄せる予定の文章がおもわず長くなり、単行本で出す事になったのだという。本人が「あとがき」で触れているとおり、特別なことが書かれているわけではない。やはり、多くの人と同じように事故以降に関連する文献を集め、自分なりの理解をして意見をまとめている。ただ、科学史的な視点が提供されているところはさすが著者ならではだと思う。
「実際、原子力(核のエネルギー)はかつてジュール・ヴェルヌが言った「人間に許された限界」を超えていると判断しなければならない。
第一にそのエネルギーは、ひとたび暴走をはじめたならば人間によるコントロールを回復させることがほとんど絶望的なまでに大きいことが挙げられる。石油コンビナートが爆発し火災を起こしても、何日かせいぜい何週間で確実に鎮火され、跡地に再建可能である。しかし、チェルノブイリにしてもフクシマにしても、大きな原発事故の終息には、人間の一世代の活動期間を超える時間を要する。そしてその跡地は何世代にもわたって人間の立ち入りを拒む。このような事故のリスクは個人はもとより企業でさえ負えるものではない。そのうえ、廃棄物が数万年にわたって管理を要するということは、どう考えても人間の処理能力を超えている。
第二に、原子力発電は建設から稼働のすべてにわたって、肥大化した官僚機構と複数の巨大企業からなる”怪物”的大プロジェクトであり、その中で個々の技術者や科学者は主体性を喪失してゆかざるを得なくなる。プロジェクト自体が人間を飲みこんでゆく。」
どうですか。普通ですよね。ひらたく言えば、これは、人間の手に負えない、という感覚である。それを言うために、資料を集め、歴史を書かれている。一読しての感想は、ああ、普通の感覚だよな、というのにつきる。
僕は、山本さんの書かれる”怪物”的プロジェクトについては、巨大プロジェクトが”怪物”的になるのはどういう場合なのかについて、本当は、もう少し丁寧な議論が必要だと考えている。実行可能性の点では、日本における官民合同の巨大プロジェクトでも、例えて言えば、軍隊を動かすのに必要になるような規律と緊張がある政府組織が管理するなら何とかなるのではないかという気がしている。日本でも、原子力発電以外にも、たとえば銀行のオンラインだとかダム建設だとか空港建設だとかの巨大プロジェクトはあり、それらが全部だめだったかというとそんなことはもい。僕自身は、原発がなぜこのようなプロジェクトになってしまったかについては、もう少し先まで考えつもりなので、興味ある方は『新原発お節介学入門』のタイトルの過去記事をごらんください。本書についても、その第6回で、戦後の核エネルギー開発が核兵器開発できる技術の維持に力点がおかれていた政治的な背景を解説している参考書として例示している。
この本では、昔日の東大全共闘議長の面影も垣間見える。それだけ、怒りが深いと僕は受け取った。静かな抑制のきいたいつもの文体だが、否定の迫力が違う。この問題に向き合う一科学者の書物として参考に読むというよりも、連帯のために読みたいというような性質の本だ。1000円で買えるみすず書房の書物は少ない。というか、ない。出版社も気持ちを入れて作った本だと思う。本屋で見ても、凛として浮き立って見える。駿台生や物理好きだけでなく、多くの人に読まれる事を願う。
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