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福島産食品とどう向き合う?(東京新聞)
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東京新聞「こちら特報部」9月6日
福島第一原発の事故から半年。実りの秋を迎えて、消費者は大きな選択を迫られている。福島県産の農産物を食べるか否か、だ。東京都内で開かれた直売会では同県産のモモやブドウが快調に売れた。買い手は「生産者を守るために」。一方で「安全性が確認できない以上食べられない」という当然の感覚もある。簡単には割り切れない問題だ。あなたはどちらを選びますか。 (小倉貞俊、中山洋子)
「福島の旬の果物。とても甘いですよー」「ぜひ試食してください」
渋谷区・青山通り沿いの国連大前で三日開かれた農産物直売会。全国から集まった約五十の団体に交じり、首都圏のボランティアグループ「福島の野菜を食べる会」がブースを出店。買い物客に笑顔で呼び掛けていた。
「ふくしま」と記したのれんを見て素通りする人もいたが、おおむね売れ行きは好調。福島市産のモモ百個、郡山市産のブドウ五十房が、昼すぎには売り切れた。
「ささやかでも、苦しんでいる農家の助けになりたい。そんな思いで集まったメンバーです」。こう力を込めるのは、同会会長で団体職員の川村研治さん(54)だ。
福島第一原発事故後の三月末に発足した同会には、フェイスブックを通じて知り合った公務員や主婦、デザイナー、料理研究家らさまざまな職種の約三十人が参加。風評被害に悩む農家を探して販売の仲介を提案し、都内を中心に五回の直売会を開催。いずれも完売している。
売る品目は同県のモニタリング調査で放射性セシウムが暫定規制値(五〇〇ベクレル)を下回ったものだけとはいえ、微量のセシウムが検出された品目もある。商品そのものを検査をしたわけでもない。それでも購入する人の心理とは−。
「首都圏は原発のある福島にお世話になってきた。恩返しをしたい、それに尽きます」とは、モモを買った港区の女性公務員(34)。「微量のセシウムより、農薬の方がよっぽど怖い」と訴える。
六歳の娘がいる渋谷区の主婦(41)は「おいしかったので買った。ブドウは嗜好(しこう)品なので、毎日食べるわけじゃないですし」。港区のフランス人女性(45)は「放射性物質は怖いし、政府が『安全だ』と言うだけじゃ信用できないけれど、売り手の顔が見えるから」と笑顔を見せた。共通していたのは「福島を応援したい」という心意気だ。
川村さんは「地元では全く売れず、絶望している農家は少なくない。でも、県外では一定のニーズがある。それを伝えたいんです」と強調する。実際、直売会にブドウを出品した郡山市の果樹農家の男性(60)は「売り上げが例年の三割ほどにとどまって気落ちしていたけれど、少し期待が持てた」と話す。
「『福島の農産物を買うべきだ』とは言えないし、セシウムは少なければ少ないほど良いとは思う。ただ、趣旨に賛同してくれる消費者もいる以上、選択肢を提示することは大切」と川村さん。今後は農家との交流もしながら、取り組みを広げていく考えだ。
しかし「福島産」を買い控える消費者が多いのは事実。それも無理はないとする意見もある。
「検査があまりにも少なすぎるし、食品に直近のデータの表示もない。とても安心して買えるわけがない」と断じるのは、消費者問題研究所代表の垣田達哉氏だ。
原発事故後、次々に暫定規制値を超える食品の流通が明るみに出ている。厚生労働省の「抜き打ち検査」でも今月、市販の千葉県産と埼玉県産の製茶に大幅な「規制値超え」があったことが公表された。
垣田氏は「流通しているものが安全だと信じることはできない。検査に不熱心な自治体は人手不足や検査機器不足と言い訳をするが、消費者は“情報隠し”と受け止めている。消費者が安心できる詳細な検査と食品表示が欠かせない」と断じる。
日本消費者連盟の富山洋子氏も「原発を推進してきた国や県知事にいくら『安全だから食べてください』と言われてもうなずけない。放射線の測定値を表示することが先決。何を食べるかは、消費者が選択することで、国に押しつけられるものではない」と話す。
内部被ばくに詳しい琉球大の矢ケ崎克馬名誉教授は「汚染された食品はできるだけ取らない方がいい。体内にとどまる放射性物質は遺伝子を傷つけ、がんになる確率が高くなる。ましてや、五〇〇ベクレルという高い数値を設定して『規制値以下は大丈夫』とは大うそ」と強調する。
ドイツの放射線防護協会が提言する数値は大人で一キロあたり八ベクレル、子どもで四ベクレル以下。日本の暫定規制値はケタ違いだ。「政府は、被ばくを防いで国民の命を守ることのできる基準を作るべきで、生産者を応援したい気持ちを利用して『安全だから食べろ』と汚染を覆い隠すのは、民を捨てて、国と電力会社の責任を回避するもの」と話した。
実際、流通の現場では、独自の放射能検査に取り組むところも出ている。有機野菜などを扱う「大地を守る会」(本社・千葉市)では、以前から外部機関で食品の放射能検査をしていたが、震災後は独自に検査機器も導入。精度の高い機器で毎週百二十品目を検査するほか、入荷ごとに簡易機器でもチェックしている。同社の広報担当者は「子どもたちのために安全な食べ物を求める声が多く、そのためにも検査データの公表は欠かせない」と指摘。福島県産を含めた東北・関東の食品も扱うが、売れ行きは好調という。
信頼と詳細なデータがあれば、風評を克服できるという好例だ。
また「リスクの高い食品は大人が食べるべきだ」と提言するのは京大原子炉実験所の小出裕章助教。「福島はおろか、すでに日本中が汚染されてしまって、安全な食べ物などない。規制値以下は『安全』だと刷り込もうとしているが、そんなことはない」と主張する。
このうえは、子どもやこれから子どもを産む若者たちを被ばくの危険から守ることこそ最優先するべきだという。
「年齢で放射線への感受性が違うので、被ばくしても影響の少ない五十歳以上、六十歳以上が測定値を確認して食べるべきだ。私たちの世代を中心に、大人には、原発の推進を許してきた責任もある」
<デスクメモ>大先輩に「高齢者は内部被ばくなんか気にしなくていいんです」と言ったら、ものすごく嫌な顔をされた。気持ちはわかるが五十代の私も同様の扱いなので勘弁してほしい。ビョーキといわれるほど健康を追求してきた日本人。気がつけば、選択肢は「子孫のためによりよい道」しか残っていないらしい。 (充)
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