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記者の目:福島住民の内部被ばく調査=須田桃子
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110907k0000m070142000c.html
毎日新聞 2011年9月7日 0時37分
東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、福島県は6月下旬から、住民の一部を対象にした内部被ばく調査を開始した。この調査に対し、複数の専門家が「遅すぎる」と指摘している。発生後の数日で大量に大気中に放出された放射性ヨウ素は半減期が短く、既に検出できなくなっているとみられるからだ。実効性ある対策を立てるためにも、政府は被ばくの実態を一刻も早く、正しく把握することに力を注ぐべきだ。
◇一刻も早い実態把握が必要
被ばくには、体の外から放射線を浴びる外部被ばくと、大気や飲食物に含まれる放射性物質を体内に取り込む内部被ばくがある。第1原発から出た主な放射性物質のうちヨウ素131は、半減期が8日と短く、3カ月で約2000分の1に減る。セシウム134(半減期2年)とセシウム137(同30年)も代謝や排せつにより約100日で体内から半減する。このため、内部被ばくは検査が遅れるほど正確な測定が難しくなる。
福島県飯舘村では当初から内部被ばくを心配する声があった。高い放射線量が観測されながら、国が避難要請を出したのは4月11日と遅く、住民の多くは最も大気中の放射性物質が多かった時期に村内にいたからだ。特に、ヨウ素131は3月12〜15日ごろ、セシウム137の約10倍放出されたと推定されている。
◇時間が経過しヨウ素検出なし
住民グループが国や県などに内部被ばく検査を要望したが回答がなく、愛沢卓見さん(39)ら2人が5月末、自主的に検査を受けた。数千ベクレルのセシウムが検出されたが、ヨウ素131は検出されなかった。愛沢さんは「今後の医療ケアの資料となるデータを残したくて検査を受けたが、このままではヨウ素による内部被ばくはなかったことになってしまう」と懸念する。
県が同村などの住民約3320人を対象に内部被ばく検査を始めたのはその約1カ月後。最初に受けた109人の一部から、やはり微量のセシウムのみが検出され、ヨウ素は検出されなかった。
県は検査について、結果をみて安心してもらおうという狙いだと説明する。しかし、日数がたって検出されなかったからといって安心とは言えない。細胞のDNAが放射線によって傷つくと、がんの原因になる可能性があり、体内から放射性物質が消えても将来のリスクは残る。ヨウ素131は甲状腺にたまりやすく、チェルノブイリ原発事故では子供の甲状腺がんが増加した。他にも、今回の事故では、骨に蓄積しやすい放射性ストロンチウムが福島市などの土壌で微量ながら検出され、セシウムの放出量も多いなど、事態はチェルノブイリ以上に深刻とみる専門家もいる。
国立病院機構北海道がんセンターの西尾正道院長(放射線治療学)は「セシウムが検出された以上、ヨウ素も体内に取り込んだことは確かだ。事故直後に各地域で数人ずつでも内部被ばく量を測定すべきだった」と指摘する。
一方、低線量の被ばくについては、多くの専門家が「100ミリシーベルト以下では影響はみられない」などと説明してきた。だが、「この線量以下なら影響なし」という「しきい値」は見つかっていない。
被ばくの影響研究で最も信頼されているデータは、広島・長崎の原爆被爆者の半世紀以上にわたる疫学調査だが、対象者約8万7000人の8割の線量は100ミリシーベルト未満だ。この調査では、線量の多さに比例してがんなどの死亡率が高まっている。
放射線医学総合研究所の元主任研究官、崎山比早子さん(腫瘍細胞生物学)は「国際的に、しきい値はないという考え方が主流になっている」と説明。「低線量被ばくの影響があると示すためには非常に大規模な(集団の)調査が必要なので、疫学調査では解答が出ない」と話す。
1ミリシーベルト程度の放射線でも、人の細胞に将来がんになりうる損傷を与えるという報告もある。現在の労災基準が作られた76年以降、原発作業中の放射線被ばくによる労災が認められた10件(いずれもがんを発症)のうち9件は累積線量が100ミリシーベルト以下で、最低は5.2ミリシーベルトだ。
◇濃度試算も使い吸収量の推定を
調査の遅れは取り戻せないが、今からでもできることはある。鎌田七男・広島大名誉教授(放射線生物学)は「緊急時迅速放射能影響予測システム」(SPEEDI)によるヨウ素131の空気中の濃度分布の試算結果と実測値、さらに住民の行動記録から、呼吸による取り込み分の推定は可能だと考える。国や県はこうした提案に耳を傾け、即刻、本格的な調査に乗り出すべきだ。いま必要なのは、根拠のない「安心」ではない。(大阪科学環境部)
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