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全国知事会、「日本の再生に向けて−東日本大震災復興への提言−」に見る主体性のなさと無責任
既に2か月ほど前になるが、7月12日・13日と全国知事会議が開かれ、そこで「日本の再生に向けて−東日本大震災復興への提言−」なるものが取りまとめられた。たった二日の会議なので、実質的な話し合いがあったと言うよりも事務局が何人かの知事に相談しながらまとめたものを改めて読み合わせてみたと言うところだろう。しかし、それにしても主体性が全く見られない。また、今後近い将来起こるだろう次の震災、特に原発震災に関する発言が全く見られない。まさに無責任としか言えないものなのだ。以下、原発事故についての部分だけを取り上げ、幾つか例にあげながら、本来ならどのような提言がされるべきであったのか、それを述べてみよう。
例1:「放射性物質による汚染の影響は国内のみでなく、海外への食品をはじめ工業製品に至る多くの輸出品目に風評被害を与えている。また、放射能に関する安全基準が明確にされず、そのことが混乱に輪をかけている。日本全体の経済活動は電力不足の影響と相まって、このままでは活力の喪失にもつながりかねず、東日本大震災発災後4ヶ月経った今でも、復旧・復興の手がかりを模索する状況が続いている。」
この部分は提言の前提となる現状認識を述べている。しかし、この現状認識では最も大きな問題が全く述べられていない。つまり、福島県民は勿論のこと、東北から関東地方に至る地域の住民が被りつつある放射能汚染被害に関することが丸々抜け落ちているのだ。そればかりか、この文章だけを見ると、まるで住民が被る汚染の影響は「風評被害」であるかのようにさえ読めてしまう。
本来この部分は次のようになるべきだ。
「放射性物質による汚染の影響は広く関東地方から東北地方へ見られるばかりでなく、今後、全国的なものになる恐れがある。また、食品から工業製品に至るまで輸出品についても様々な影響が出ている。これらの原因はひとえに放射能に関する安全基準が明確ではないためである。アメリカが中心となって取りまとめた放射能汚染に関する安全基準は原爆保有国独特のもので、原爆保有を正当化するために放射能汚染の影響を故意に低く見ている。しかし、国際的な合意として、低線量被曝であっても、安全閾値なるものは存在せず、健康に悪影響を与える可能性があるとされている。」
例2:「提言2 原子力発電に関する安全対策の確立
今次の事故により得られた知見や徹底検証の結果等を踏まえ、防災指針や原子力発電所等に対する耐震設計審査指針などの安全基準を抜本的に見直し、国内の他の原子力発電所等における安全対策も強化すること。また、地域住民の安全・安心を確保する地域防災計画の見直しを早期に行うため、防災対策を重点的に充実すべき範囲(EPZ)を原子力発電所から8〜10kmに設定している現行の「原子力施設等の防災対策について(防災指針)」や国の「防災基本計画」を、都道府県域を超えた大規模災害にも対応できるよう、原発の立地しない地方自治体の意見も踏まえ、早急に見直すこと。」
まず事故原因についての言及がない。「徹底検証」という言葉が使われているが何を検証するのか、その対象が示されていない。そもそも、福島第一原発1号炉は地震の揺れで壊れたことが無視されている。この提言の文面では安全対策を徹底することで安全に原発の運転ができると言う印象を受ける。しかし、もともと、地震について現在の人類はまだあまり理解をしていない。地震学というものができてまだ100年もたってはいない。ましてや原発のようなこの数十年でできたばかりの建物に直下型の地震が起こったらどんな影響が出るかを確認したことがない。ただし、この例の後半部分でEPZを県境を超えて広範囲に設定するべきという点はいい提案だと思う。そして、もう一点、この部分には重要な点が欠けている。それは「る安全対策」の強化を求めるだけで一次データの開示を要求していない点だ。つまり、地震で原発事故が起こったと言うことについて故意に隠蔽をしているようにさえこの提言は見えるのだ。
本来、この部分は次のようになるべきだ。
「今回の原発事故の原因として挙げられるものに地震由来の故障・事故、津波由来の故障・事故、人為的な対応ミスによる事故がある。地震直前の状態からその直後のデータや写真の公開をし、そのことによって地震や津波、及び人為的な原因によって起こった事故や故障について、その因果関係を明らかにすること。その上で、原発の耐震安全設計などの見直しを行い、地震国日本に原子力発電がそもそも可能であるかどうかの検討を行うこと。もし可能であるのならば、どのような条件のもと可能と誰が判断し、事故が起こった時の賠償主体が誰になるのかを明示すること。」
例3:「提言3 放射能汚染に対する安全対策の推進
オフサイトセンターが今回の事故では機能しなかったことを十分検証し、今後の対策に反映させること。また、放射線量等に関するモニタリングを強化し、広域的かつ長期・継続的な測定を国が責任をもって実施するとともに国内外に正確な情報を迅速に発信すること。更に、放射線量、飲料水、食品、放射性物質に汚染された土壌や上下水汚泥、廃棄物等に関する各種安全基準や取扱い等に関する指針を速やかに明確に設定した上、住居や公園・校庭・園庭等の土壌、農地の除染や、廃棄物等の安全な処理方法の提示と実施など、住民生活や子どもの学校生活等の安全・安心を確保する対策を強化すること。さらに、放射線量や放射性物質に対する監視・検査体制の拡充・強化を図るため、必要な資機材の配備等について、財政支援措置を講ずること。」
この部分が例1で指摘した現状認識に対応する提言だ。しかし、健康被害についての記述はない。まるで、「安全・安心を確保する対策を強化する」ことを今後やって行けば健康被害など生じないと言っているように見える。
本来、この部分は上に引用した部分に加えて次のように述べるべきだ。
「放射性のセシウムやヨウ素をはじめ、プルトニウムなどの重金属に至るまで、マウスや豚などを使った低線量被曝、特に、内部被ばくの影響調査について、第2次大戦狩猟直後に行われたものの結果の公開や改めての実験を行い、客観的実証的にどの程度までの被ばくなら安全であり、どの程度以上ならば危険なのかを示すことを求めたい。このことについては、関東地方や東北地方の各大学にも要請を行う。次に、放射能汚染の被害の実態がまだ明らかにならないことを踏まえ、妊婦及び小学校入学前の乳幼児については、福島県内だけでなく、広く関東地方から東北地方まで、北海道や九州などへの避難について援助を東京電力及び国の責任において行うこと。また、福島第一原発で作業にあたっている人たちの健康管理の一環として自己末梢血幹細胞の採取・保存を東京電力及び国の責任において早急に行うことを求める。更に、今後30年以上にわたって、福島県内のみならず関東から東北地方については全住民の健康調査を定期的に行い、被ばくによる健康被害が見られた場合は東京電力及び国の責任において治療及び賠償を行うこと。」
なお、現状では福島県民について、ほぼ一生原発被害について健康診断をすると言う方針が立てられている。しかし、その前に、きちんと放射能汚染からの避難ができなければいけない。それをせずに単に健康調査のみを行うのはまるで放射線による健康被害についての人体実験を県がやっているようなものだ。哺乳類で人間と同じほどの寿命を持つものは少ないが5年から10年生きる生物は多くいる。マウスや豚などでの実験で5年程度までの影響なら調べられるはずだ。今すぐにでも実験をある程度の規模で始めるべきだ。
例4:「提言4 風評被害対策の強化
日本産食品等に関する輸入規制が強化・長期化されないよう、また、輸入規制に踏み切る国等が拡大しないよう、関係国等への働きかけを強化するとともに、政府として国際社会に対して、農林水産物、加工食品、工業製品、観光・サービスなど広範な分野・地域に関する安全性を緊急に宣言すること。また、これらの分野等に係る風評の払拭に向けた的確かつ積極的な情報発信や農林水産物及び工業製品等の安全性の証明に必要な検査等により生じる企業等の新たな負担に対する対策を講じること。また、被災地から避難された人々が、風評等により、いわれなく差別やいじめを受けることがないよう国民各層への周知を図るため、一層の情報発信に努めること。さらに、農林水産物等の風評被害による経済的損害について、確実に賠償等の対象とすること。」
これを読むと、実害がある食品は一切存在しないと言う前提があると気が付くはずだ。しかし、現実には農地汚染はかなり広がっている。つまり、この提言は二重の意味でだましが行われているのだ。国内向けの安全対策について全く触れていない。そして、輸出食料品についての現状が述べられていない。こうして、国内食品の汚染については現行の検査で万全だと暗に言っているわけだ。そして、このことは、国内で現在規制値以下として出荷・流通している食品が海外では流通が認められ
ない場合があることを示している。福島県産で海外に輸出されていた野菜や果物などが現在どう輸出先の国で扱われているか、それをまず調べてみるべきだろう。
本来、この部分は上に例として引用した部分の前に次のように述べるべきだ。
「農地の汚染状況を100アール(1ヘクタール)ごとに定期的に調べ、それを各町村で公表すること。その際、セシウムだけでなく、考えられる限りの放射性物質についての分析を一回は行うこと。土壌のサンプリングに際しては、最も汚染のひどいと思われる地点から採取すること。出荷規制の解除に際しては、なぜ規制値以下に汚染濃度が下がったのかの分析を行い、それを公表すること。食料品の流通に際しては、いつどこで収穫されたものであるかを消費者が確認できるようにすること。」
例5:「提言5 原子力災害に対する十分な財政支援
原子力発電所事故による影響を早急に払拭するために必要な地方の取組みに対し、使途の自由な交付金制度の創設等十分な財政支援を行うこと。」
この部分も唖然としてしまう。「原子力発電所事故による影響」を受けている地域とは福島や茨城、宮城などであろう。そうであれば、まず、汚染地域からの妊婦や乳幼児の避難について述べられなければいけない。一切述べられていないと言うことは、汚染地域からの避難については最低限しか認めず、それ以外は避難費用の負担はしないと言っているに等しい。自治体がこういう態度であるというのは瞠目に値する。
本来、この部分は次のように全面的に差し替えられるべきだ。
「原子力発電所事故の収束は今後10年以上かかることは確実であり、現在も放射性物質の吐き出しは続いている。その影響を受けるのは各被災地の住民である。そのため、事故収束に向けてその工程表の作成に際し、全国知事会からの代表者を参加させること。また、除染を出来る限り早急に行うことは勿論であるが、時間がかかるので、まずは妊婦や乳幼児の遠隔地への避難を進める必要がある。そのための費用負担を東京電力及び国の責任において行うこと。」
*以上見てきたように、少なくとも原発事故についてはまるで原発存続が既に決定されたかのような提言がされている。そして、放射能汚染についての健康被害は全く無視されているのだ。実を言うと、このことは、政府肝いりで作られた「東日本大震災復興構想会議」による提言でも同じことだ。http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/kousou12/teigen.pdf でその提言を見ることが出来る。ぜひ「第3章 原子力災害からの復興に向けて.」を読んでみていただきたい。たったの3ページ弱だから数分もかからずに読み終えることが出来るはずだ。
全国知事会、「日本の再生に向けて−東日本大震災復興への提言−」の記事は次のリンクにある。
http://www.nga.gr.jp/news/h23.7_1-1_nihonnosaiseinimukete.pdf
*6月8日の記事「近づく戦争・テロ社会、これらの動きを止めるべきでは?」から一連番号を付しています。<<691>>
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