02. 2011年9月06日 08:36:10: xB72IhbrUs
http://www.tokyo.diplo.de/Vertretung/tokyo/ja/04__Pol/Besucher/2011/Trittin__Gaiko.html ドイツのエネルギー政策が進むべき道−「同盟90・緑の党」はこう考える ユルゲン・トリティーン
ドイツ連邦議会議員 ドイツ連邦議会「同盟90/緑の党」院内総務 元ドイツ環境・自然保護・原子力安全大臣 (訳文) ドイツのエネルギー政策はいかなる方向に向かうべきか。緑の党は多数の答えを用意している。緑の党は、1980年の結党以来、原子力技術に別れを告げ、再生可能エネルギーを推進しようと一貫して訴えてきた。緑の党にとり初めての政権参加となった社民党との連立政権において、2001年、原子力利用の終結だけでなく、再生可能エネルギーの普及拡大を決めたのもそうした背景からだ。当時の取組があったからこそ、ドイツは今回、保有する全原発の実にほぼ半数をいちどきに即時閉鎖とすることができるのである。2001年当時、電力供給量全体に占める再生可能エネルギーの割合はわずか4パーセントで、その大半が大型の水力発電施設によるものであった。この割合を2010年には12.5パーセントまで拡大するのだと当時私たちは考えていた。しかし、実際に2010年達成された数字は17パーセントを上回ったのである。こうした展開を可能としたのは、一つには再生可能エネルギー法(EEG)制定により確立されたしっかりした政策の枠組があるが、もう一つは脱原発の方向が打ち出されたことで電力市場に新たなプレイヤーが参入できる見通しが開けたことである。 緑の党は、この10年間に達成された前進を励みとし、将来的に100パーセント再生可能エネルギーからなるエネルギー供給体制の実現を目指している。まず、2020年には総電力量に占める再生可能エネルギーの割合を40パーセント以上に拡大し、2050年には、電力だけでなく、熱供給、交通も含め必要なエネルギー生産全体を100パーセント再生可能エネルギーで確保することを目標に掲げている。 電力の安定供給についても、また温暖化防止についても、原子力エネルギー利用は解決たりえないと、緑の党は当初から明確に考えてきた。原発は世界中で、年々老朽化していく一方、新規建造は進んでいない。欧州で現在新規建造中の原発は2基にとどまっている。米国はこの30年、原発の新規稼動を行っていない。世界のエネルギー供給全体に占める原子力の割合は今日3パーセントにも満たず、しかも縮小傾向にある。将来のエネルギー供給を原子力に託す国は少なくなってきている。 原子力は解決をもたらすのではなく、むしろ数多くの問題を発生させている。世界のどこにおいても未だ解決が見出されていない放射性廃棄物最終処分の問題は、将来の世代への大きな重荷となるだろう。私たち自身は原子力利用の恩恵をこうむりながら、解決策を見出さぬまま子どもたちに高レベル放射性廃棄物を残すというのは、無責任だ。 チェルノブイリの事故でも、また今回の福島第一原発の事故でも、原子力発電は決してコストの安い発電方法ではないということが明らかになった。こうした事故が発生したとき、人間、環境、経済にふりかかる被害は計り知れない。原発が「低コスト」だとの主張は、正にこの意味において今回日本で三重に否定されているも同然である。 原子力利用からの脱却は、再生可能エネルギー時代への突入を同時に目指せば実現可能であるとドイツの例は示している。こうした立場についての緑の党の一貫性と説得力ある姿勢は、各種選挙においても明確な支持を得てきた。バーデン=ヴュルテンベルク州において、今年5月にドイツ初の緑の党所属の州首相が誕生したのも、その表れである。しかし、福島原発事故があったからこそ、緑の党は選挙で好調なのだとする見方は的外れだ。すでに、3月11日以前から、各種世論調査で緑の党への支持率は高い数字を示していたことからも、それは分かる。支持の高さは、エネルギー政策分野の問題に対する党の立場が常に明確であったことによるものだろう。 キリスト教民主同盟/社会同盟(CDU/CSU)とドイツ自由民主党(FDP)からなる保守中道連立の現政権は、2010年秋に、原発の最長運転期間を2040年以降に延長する決定を下していた。この決定に対し、ドイツ国民の3分の2は不支持の立場を示し、2020年までの原子力撤廃を求めていた。その後、連立与党は、福島第一原発の事故発生後、複数の選挙で大敗したことから、これまでの方針を転換し、前政権が決定していた脱原発スケジュールへの回帰を余儀なくされたのである。国民と現政権の間には、脱原発以外においても、エネルギー政策上明確な温度差がある。たとえば、国民の多くは再生可能エネルギーの一層の普及と、建物の省エネ改修への補助拡充を望んでいるが、政府は昨年、まさに正反対の決定を行ったのである。これについて政府は今のところ、この分野での必要なエネルギーシフト実行に向けた取り組みへの姿勢を示していない。 野党であるドイツ社民党を含め、ドイツの大政党は総じて将来のエネルギー供給を石炭火力等、化石燃料に頼る傾向が強い。しかし、石炭の利用拡大は、1997年の地球温暖化防止京都会議以来、国際社会が目指してきた温暖化防止目標の達成とは相容れない。また、ドイツはすでに石炭資源の3分の2以上を国外からの輸入に頼っており、その価格は予想が難しいだけでなく国際市場価格が上昇を続けていることから、コストが高いという問題がある。ちなみに、これは石油等全ての化石燃料に共通する問題で、だからこそ緑の党は電気自動車の生産を、購入補助金支給など導入・普及促進のための逓減的な補助により強力に推進すべきだと訴えてもいるのだ。こうした措置を講じることなくして、2020年にドイツ国内の電気自動車の台数を200万台まで引き上げるとする目標は達成できないであろう。現政権は、こうした分野の取り組みにおいて構想力をほとんど発揮しておらず、受け身であり、フランスなど他の欧州諸国のあとを追うばかりといった様相だ。 市民は、エネルギー政策における緑の党の力を高く評価している。エネルギーシフトについての緑の党の政策は、イノベーションと持続可能性という点において最も先進的であり、一般家庭から重工業にいたるまで、社会のあらゆる分野に及ぶ内容を誇っている。 産業部門では、エネルギー効率向上、エネルギー節約という面において、一層の取組を進める可能性が多く眠っている。また建物の場合、家庭部門でも業務部門でも省エネの余地は大きい。電気製品の購入や使用等、日常気をつけて行動することによる省エネ効果もかなり期待できる。価格が高くても、エネルギー効率、省エネ率が高い製品であれば、最終的に安くつくことが多いにも拘らず、ドイツでは、これまでのところ消費者は主に製品の販売価格に左右されている。 緑の党の政策は、再生可能エネルギー関連設備の設置に関わる規制・制限等の撤廃にも及ぶ。例えば、風力発電設備の高さ規制の撤廃や航空障害灯・障害標識に関わる規制緩和を提案している。こうしたことと並び重要なのは、イノベーションが絶え間なく行われるようなインセンティブだ。これによりこの10年間、再生可能エネルギー関連設備の効率が大幅に改善しただけでなく、コスト削減も大きく進んだ。こうして風力は今や、新規の火力発電設備と競争できるまで強くなってきている。それゆえ、迅速かつコストをかけずに容量拡大を図ることのできる陸上風力に私たちは現在とくに大きな期待をかけている。同時に、沖合洋上風力、太陽光、バイオマスや地熱も、発電における重要性を増している。 発電や送配電をはじめとするエネルギー経済活動を見るときには、常に欧州全体の文脈も考えなければならない。ドイツに原発がなくなればフランスのような他の欧州諸国からの電力輸入に依存しなければならなくなるという誤った見方が繰り返し広められているが、これは全くの作り話で、エネルギー大手各社があおっている面がある。現実は全く違っている。そもそも、エネルギーの消費量が多い冬と夏の時期、フランスは、ドイツから電力を多く輸入しているのだ。ちょうどその頃は、原発の冷却に必要な河川の水位が低いことから、フランスの原発は稼働できなくなるのだ。全体としてドイツの電力純輸出量は、年間で200億から300億キロワット時の間を推移している。年全体で大型発電所7基分に相当する量だ。これらの数字を見れば、電力不足の懸念、フランス原発への依存といった話は作り話であることがはっきりするだろう。また、高い電力価格の実現と正当化のために、大停電の危険があると消費者は脅されているが、2009年のドイツの電力需要の最大値は7万3000メガワットという値であったのに対し、今回即時閉鎖となった原発の分を差し引いても、8万8000メガワット弱は常時供給することが可能なのだ。 また、原発は安定的電力供給を低コストで実現できるという主張も、日本の例を見ればわかるとおり誤りである。日本の現在の電力供給の問題は、原発があるにも拘らず発生した問題という捉え方は誤りで、正に原発依存ゆえの問題なのだ。原発は、競争力がなく、補助金を必要とする。この時代遅れの技術に、ドイツでは、最終的に納税者の負担で1960億ユーロの補助金が費やされてきた。 これらの状況を見ると、フランス政府がドイツの脱原発計画に反対の立場を取るのは、輸出への悪影響を懸念するからというより、必要に迫られてと言うべきだろう。他方、ドイツはエネルギー政策の面でその他のヨーロッパ諸国から孤立すべきではない。脱原発は、国際的に広がって初めて、真の意味で効果があるからだ。つまり、フェッセンハイムやカトノムといったフランスの原発は、ドイツから見て安全性が確保されていない古いものであり、これら独仏国境付近の原発に対してはいかにドイツ国内の原発事故対策を採ろうとも、効果が限定的になってしまう。しかしここにきて、原子力産業にとり儲かる国であったフランスでも、原子力の未来に疑問を呈する声が高まっている。コシウスコ=モリゼ環境担当相は、「原発の稼動期間を延長しない可能性もありうる」と発言しており、こうした変化が国民の間にも広がっていることは、62パーセントが脱原発に賛成という調査結果にも現れている。ここで、イノベーションと再生可能エネルギーの普及拡大に向けた取り組みが可能となるかどうかは、フランス政府の行動いかんにかかっている。ただ明らかにしておかなければならないのは、一国だけでエネルギー技術の自給自足を図ることは、ここではあまり意味を持たないということだ。それよりも、再生可能エネルギーにつきものの発電量の変動を平準化するために、ヨーロッパ全体で送配電網の拡充を図り、スマート・グリッドの整備を進めることが必要だ。こうすれば経済的であるばかりか各種の重複を防ぎ、蓄電分野の技術革新も可能になる。例えば、ベース運用ができないということが目下再生可能エネルギーの最大の問題であるが、再生可能エネルギーで発電した電力を北欧やアルプスの揚水発電に蓄電することができる。以上のような取組を進める一環として、高圧直流送電網の拡充にも取り組む必要がある。これによりドイツの場合、風力に恵まれた北ドイツ地方や洋上風力発電の電力をロスが少ない形で南部へ供給することができるようになる。その関連において、国民に広く受け入れられている地中ケーブルの敷設を拒んできたドイツ政府の姿勢も問われるべきだろう。 当然のことながら、再生可能エネルギーをめぐるこのような対策や研究支援、固定価格買取制度等を通じた再生可能エネルギー推進は資金を必要とし、電力料金を多少押し上げることになる。しかし福島のような深刻な原子力災害がもたらすコストを考えれば、再生可能エネルギーは高いと言い募る原発推進派の論理は完全に破綻する。過去10年間、再生可能エネルギーのコストはその普及に伴い低下の一途をたどっているうえ、言わばまだ習熟曲線が続いている状態だ。現時点で既に風力発電所は新規の火力発電所に対する競争力を備えている。ガスや石炭は今後も価格上昇が見込まれるが、再生可能エネルギーのコストは下がり続ける。数年後には、ほとんどの再生可能エネルギーは従来型の発電より安くなるだろう。経済全体から見ても、資源の輸入に費やしていた数十億ユーロが節約できることになり、国内・地域内に売上げがほぼそのままとどまり、また利益も国内・地域内で得ることができるという効果がある。また温室効果ガスを出さないことなどにより、経済全体に将来かかるコストも大幅に下がる。経済全体にかかるコストと言えば、災害・事故によるコストリスクも回避できる。福島における住民の避難や移転、周辺の除染、汚染水の浄化、農業・漁業への被害抑制などにかかってくるためのコストや、懸念される健康被害に対応するためのコストは計り知れない。 忘れてはならないのは、再生可能エネルギーのコストは、資金の流れが一方通行ではないということだ。分散型エネルギー供給によりこれまでも、そしてこれからも多くの新規雇用が生じる点で、経済全体にもたらされる利益は莫大だ。政府統計によると、再生可能エネルギー関連の雇用は37万、総電力量に占める割合は17パーセントであり、実に大きな可能性が秘められていることがわかる。 ドイツはトップランナーとしての地位を強固にするため、想像力を駆使して前に進む必要がある。風力・太陽光発電で生じた余剰電力を天然ガス供給網に貯蔵することで、送電網への負担を避ける技術の開発もその一つだ。余剰電力を利用して二酸化炭素をメタン化すると、いわゆる「合成天然ガス」が発生するのだが、このガスは容易かつ大規模な投資なしに既存の供給網に供給することができるのだ。同様のことは作物由来のバイオガスでも可能だが、その生産は食の安全保障と環境への影響という観点から十分に検討しなければならない。 以上、全体を見ると、大幅なエネルギーシフトを実現するには途方もない努力が必要であることが明らかになる。しかしこれは、コスト拡大が続く化石燃料利用に依存したり、温室効果ガスや放射性廃棄物を発生させ次の世代に問題を押し付けたりすることとの比較において、より好ましい選択肢だ。再生可能エネルギー、エネルギー効率向上、エネルギー節約を強力に推し進める「グリーン」なエネルギー政策を避けて通ることはもはやできないのである。 (同内容は外交専門誌「外交」Vol.8に掲載されました。) |