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記者の目:国策に依存する原発城下町・敦賀=日野行介
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/
毎日新聞 2011年8月31日 0時10分
◇自治再生で原子力政策の転換を
東京電力福島第1原発の事故が起きてもなお、なぜ立地自治体は原発維持を求め続けるのか。このテーマを追って「この国と原発 第1部翻弄(ほんろう)される自治体」(19〜25日朝刊連載)で、日本有数の原発城下町、福井県敦賀市を取材した。そこで強く感じたのは、「原発マネー」への依存心より、むしろ「国策に貢献する特別な町」という自負心に似た住民意識だ。「国策」にすがらざるを得なかった住民たちの心情を理解し、同じ目線に立って原発問題を考える必要があると思う。
05年春まで3年間、敦賀市で勤務した。6年ぶりに取材する住民たちは福島の事故で動揺しているだろうと予想したが、表面上はそんな様子はうかがえなかった。だが取材を進めるにつれて、複雑な住民感情の深層が見えてきた。
◇事故の危険訴え市議の得票減る
敦賀市議4期目の今大地晴美さん(60)は、今年4月の市議選で初めて「脱原発」を掲げた。既成政党の支援を受けず、環境問題に熱心に取り組んできた。従来は原発について特に言及しなかったが、「福島の事故は人ごとではない。このままではいけない」と考え、選挙で訴えの中心に置いた。事故直後だけに、危険性の訴えは有権者の共感を呼ぶと予想したが、反応は逆だったという。
演説で原発について触れると、聴衆の多くが立ち去っていった。「敦賀では事故は起きない」という反発の声も浴びた。結局、当選はしたものの、得票数は前回より1割以上減った。「ショックだった。(住民は)お上のお墨付きを受けた原子力にすがるあまり、何も考えないようになってしまった」と嘆く。
原発による直接の経済効果は、一般に考えられるよりは限定的だ。機器の多くは県外で製造されているので、系列や下請け企業が建ち並ぶ自動車や電機など製造業の城下町と様相が異なる。
それを補うように投下されてきたのが「原発マネー」だ。敦賀市にこれまで入った電源3法交付金は累計約460億円。巨額の固定資産税や匿名の寄付もある。その大半は公共施設、いわゆるハコモノ建設に使われた。豪華な体育施設や観光施設ができて街は見違えるようになった。だが、こうした施設には維持費がかかり続ける一方、交付金など収入は年月がたつほど減っていく。建設業などを別にすれば、住民たちはさほど恩恵を実感していない。
推進を主張する住民も「別に原子力を好きなわけやない。ないに越したことはない」と口をそろえ、原発に愛着や思い入れを持つ様子はない。では、住民たちの本当のよりどころはどこにあるのか。
それは、原子力が「国策」だという点にあると思う。菅直人首相が「脱原発依存」と述べたことについて、ある市議に尋ねると、「これまで協力してきたのに、はしごを外されてたまるか。国策なのになんでぐらぐらするんや」といら立った声が返ってきた。「国策」の正否はさておき、「国策に協力してきた特別な町」という意識が彼らを支えている。
◇立地地域住民の自負心に理解必要
都市と地方の二極分化が進む中で、原発が来た我が町も思ったほどの発展はない。深く考えるのをやめ、すがる他にないのだ。
事故後も原発推進の姿勢を崩さない立地地域に対して、原発から遠い都市部の住民の視線は冷たいように思われる。「原発関連の経済依存から抜け出せない」とか「原発マネーにたかっている」という声さえ聞かれる。だが、「国策に協力」という自負心を理解しないステレオタイプなとらえ方は、立地地域を反発させ、「国策」への依存をさらに強めかねない。
原子力政策は国の限られた利害関係者が「国策」として決め、立地地域の自治体が従う形で閉鎖的に進められてきた。そこには、それぞれの自治体の住民自身がまず考えるという地方自治の精神もなければ、広く国民世論を反映する仕組みもない。これこそが問題なのだ。
原子力に代わる将来のエネルギー源として期待される自然(再生可能)エネルギーは、地域ごとに自立した小規模分散型電源とされる。担い手となる地方自治の主体的な取り組みが不可欠だ。国が過疎地に押しつけてきた原子力とは、いわば対極にある。
これからのエネルギー政策の論議は、「国策」の押しつけがいかに地域住民の意識を呪縛してきたかという反省から始めなければならない。自分の町のことは自分たちで考えて決めるという地方自治の基本に立ち返ること。それが、エネルギー問題を考えるうえで重要ではないのだろうか。(大阪社会部)
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