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大塚洋一さんによる『新原子炉お節介学入門』柴田俊一著(2005)の書評です。現在第4回まで連載されています。
今回は第1回を紹介します
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Supersymmetry Brothers
@Yo1_Otsuka / 大塚 洋一
2011年8月 9日 (火)
『新原子炉お節介学入門』柴田俊一 (本編 第一回)
2005.03 一宮事務所
お待たせしました。では、本書を材料に日本の技術の問題について書いてみたい。ここで問題と考えているのは、豊田有恒 『 日本の原発技術が世界を変える』の書評で触れたヒューマン・プラットフォームの問題が中心である。
予め注意しておきたいが、この本は恐らくは雑誌などへの寄稿文や連載の文章が元になっており、繰り返し同じ事象や課題について触れていることから「本」としてのまとまりとしては冗長で必ずしもよい出来というわけではない。この点は著者自身が断っているとおりだが、通して読むことで、むしろ著者が何を重要視しているかが自ずと分かる面があって、その意味ではやや飽きもするが、著者の主張のブレのなさに感心もする。専門的な内容も含まれているが、「学」というよりは経験知について触れたエッセイ集のような内容で読者を問わない内容だと思う。
しかし、この本が指摘している内容は非常に重く、『 日本の原発技術が世界を変える』の書評で日本の技術にとって最後の問題とした点をまさにつくものであるといってよいと思う。柴田さんは、学者としてやってこられた方だが生きた経験を重視し技術に対する厳しい観察眼をもたれた優れた技術者であると思う。その主張の中に、原子炉技術者が必要以上に放射能を恐れる風潮に対する慨嘆や低線量被曝に対する安全性の主張などがあることから最近の反原発派からは真っ先に敬遠されそうな気がするが、柴田さんから我々が学ばねばならないことは沢山ある。ここに書かれていることくらいは最低限吸収してその上で反対するなら反対したらいいと思う。この本を読んでいると、3.11以来嫌というほど見せられた原子力関係者のダメさ加減がいまにはじまったことでないのはよくわかる。やはり、この事故は起こるべくして起こっているのだ。しかし、これは原子力業界だけのことではない。こうしてこれを書いている僕の仕事現場にも似たような問題は明確にある。そして、それは科学技術の分野に限らない。日本の衰退は、この壁を乗り越えない限り避けられないと僕は思う。それが何であるか、明らかにすることができればと思う。
はじめに少し引用をしてみよう。
「すべてのことは、世界で最も優れた官僚の指揮の下、故障、破損などのトラブルや、それに続く事故などは起こらない、もしくは起こさない、という前提で勧められてきたが、ここにきてそうはいかないということが明らかになった。
現場のことを知らない者ばかりが指揮権を持ち、失敗すると前線の責任にする、ということでは安全を保てるわけはない。指揮官が最前線に出て、頑張ったが失敗した、と言えば、叱られはしても何となく許してもらえるのである。そういう体制なら、二度と同じことはやらないだろうし、まじめに改善するに違いない、と理解してもらえる。
遠いところから事情を知らない無責任な指示を出しておいて、事が起きて形だけ頭を下げて二度と起こしません、と言っても誰も信用しない。」
「昨日今日突然思いついたわけでもあるまいに、当たり障りのないことばかり言っていたのが、皆がそう言うなら俺もネタは持っているとばかりに一斉に百花繚乱の態となった。敢えて言っておくが、評論家達のこの態度、姿勢こそが前の戦争を確保引き起こした大きな原因なのだ。」
「こういう状態になったのは、もともとの原因はといえば、言うことをよく聞きそうな「巧言令色」流の先生方を選んだ役所の方に責任がある、ともいえるが、そういう巧言令色の類の人達は本来人格にも信頼するに値しないのが普通で、いざというときにはサッと身を隠してしまう。」
「現在、原子力関係の取材は、殆ど現場からではなくて、東京の役所が行う発表から始まっているようである。世の中至る所、成果主義が流行し、能力に欠ける無責任な上司から高い評価を得るには、現実に見える形で仕事を誇張して点数を稼ぐことが有効な方法と考えられている。これは大学の教員・研究者と同様で、特に文句の言える立場にない。」
「「大本営発表」だけの報道では国民は判断を誤る心配がある。」
「どうせ難しいことは一般の人は分からない、というのは間違いで、分かってもらえる努力をして、間違った判断をさせないことが大切である。仮に多くの人は理解できなくても、中に混じっている少数の人は分かる可能性がある。そしてこの少数の人達が、集団をまともな判断の方に導いてくれる可能性は意外に大きい。
逆にいい加減なことを言って、中に分かる人があった場合、せっかくの広報活動は全体として信用を失って逆効果をもたらしてしまうのである。」
みなさん、どう感じるだろうか。これは、全て2005年に出版された本に書かれている言葉なのだ。なぜ、この言葉が少数意見として埋もれていたのかと思わざるをえない。このようなつたない文章をわざわざ僕などが書いて公表しなければならないと考えている大きな理由はこういうところにもある。少数意見をきちんと表明して集めていくこと、少数の意見こそが世の中を変えるパワーであることを証明すること、それこそが今一番大切な課題だと思うからだ。
柴田さんが本書で述べられている主張は多岐に渡るが、強く主張されていることは何点かに集約されると思う。同じ問題についての光の当て方という面もあるので、かならずしもこの整理が妥当かどうかは分からないが、僕が理解した範囲でやや脚色しつつまとめれば次のとおりだ。
原子炉プラントのような総合的な設備は、システム全体をとりまとめる責任者がいて、権限とともに責任をもたせられる体制が必要。霞が関のような誰も責任をとらなくてよい仕組みにまかせていては安全など保てるわけがない。
こうした権限と責任をもたせる責任者を育て、それなりの処遇をもって迎えるべき。
機械や設備でカバーできる不具合や事故への対応には限界がある。最後は人間の判断と対応が必要不可欠。
本だけの知識では原子力プラントの運用は難しい。事故も意識した実地の訓練が必要不可欠。そうした訓練抜きに責任を担うことはできないし、責任を問うことも難しい。
機械は故障する。故障する前提で、事故にしないようにする設計、考え方が大事。それでも、100%の安全というものは実現できないことを前提として不具合に対する対応を準備していくことが必要。
原子炉は安全になっているのではなくて、安全にできるようになっている。人間が安全にするのであり、本来は危険なものである。安全性は、関わっている人のレベルに依存する。
規制や報告は形式的な強化に意味はない。守ることにより自然と安全が強化され得になるような行き方が望ましい。
日本には、計画、手続き、設計、製作、点検、監視、保守などを通した総合的な検討を通じてプラント全体を成り立たせるための技術力が不足していて、とうてい一流国とは言えない。
事故報告などは、その報告を他のプラントも含めて関係する技術者が共有して以降の活動にいかせるようなものにしていかないと意味がない。
情報を公開することは、市民のなかに理解者を増やし国民の理解レベルをあげる意味で重要。
もちろん、ここにあげた主張は僕の関心に合わせて整理しているのだが、あまり外していないと思う。関心をもたれた方は、是非、原著に触れられることを勧める。
ここにまとめた10箇条は、それぞれ次のような課題に対応している。
全体責任者の明確化
責任者への処遇
運用技術の人依存性
実機による教育・訓練
安全設計の前提
同上
規制・基準と国によるガバナンス
全体エンジニアリングの技術力
情報共有
情報公開
これらの課題の関連性を図示したものが下図だ。
http://supersymmetry.air-nifty.com/blog/PastedGraphic2_1.pdf
巨大システムを作り運用していく過程を模式化した上に課題を配置してみた。このようにしてみると、柴田さんの問題意識が、システムのライフサイクル全体に渡る課題に集中していることが明らかになる。下の三層、「各種標準・基準」、「人的リソース」、「知的基盤」は、広い意味でシステムの基盤と呼ぶことができる技術領域の課題ととらえてよい。一番上の、「全体計画、全体指揮」というのはインテグレーションと呼ばれているものよりさらに広い範囲に対応する。これは、言わばシステムのライフサイクル全体に渡るリーダーシップを意味しており、必ずしも一人の人間だけが担うというわけではなくとも、開発と運用の両局面におけるそれぞれのリーダーは最低限明確になっているべきものだ。これらの各分野は相互に関係するので、繰り返しになる部分も出てくると思われるが、ひとまず、このそれぞれの課題分野にそって、柴田さんの意見を要約しながら僕自身の問題意識を重ね、今回の福島の事例に即して、今後どうしたらよいのかについて考えをまとめていきたい。
2011年8月 9日 (火) 原発 | 固定リンク
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