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児玉龍彦(東大先端研教授)×津田大介(ジャーナリスト)対談Vol.1「福島のため、日本のためにいまするべきことは何か」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/15159
2011年08月11日(木) 現代ビジネス
グーグルアースのような線量マップを
津田: 今日は対談というより、聞き手として、児玉先生が国会で言い足りなかったことなどをお伺いできればと思っています。児玉先生は先日、国会に証人として出席し、その映像が YouTubeなどで広まって話題になりました。反響はいかがでした? 相当あったと思うんですが。
児玉: やっぱり反響の大きさにびっくりしました。
国会でいろいろ証言するっていうのは、これまでも食の安全懇談会などでやってきました。ちょうどあの日は、国会で子ども手当などの問題もあったりしたため、委員の出入りも多かったんです。彼らもあんまり集中して聞いてるわけではなかった。それで、私の内部では言いたいことがいっぱいあったので、自分で勝手に盛り上がっていくのを抑えながら話していくっていうのが大変だったんです。終わってから、また普通の仕事へ戻ってました。そしたら、そのうちに息子のほうから「大変なことになってるよ」とか連絡があったんです(笑)。
津田: なるほど。
児玉: それでも翌日は農水省の会議とかに行ってたんです。そのころから急にワーッと1時間に100通くらいフェースブックで友達になろうとか、ツイッターでもフォロワーとかが増えた。たくさんの方から励ましや心配、そしてご批判とかをいただいて、やっぱりすごくありがたいと思います。
学問では、ブラウン運動っていうんですけど、いろんなものが出てきてそこから発展していくっていうところがあるんですけど、今回も急に乱気流に入っちゃったみたいです。でも私のことをいい人と勘違いされてる人もいるかも知れないけど、大したことない人間ですから。
津田: (笑)。
児玉: だいたい友人から言わせると、賞味期限2週間くらいだから、1週間くらいのうちに機会があったらいろいろ言っといたほうがいいよとかって(笑)。
■これまでの法律では通用しない
津田: 僕は先生の参考人でお話になるのを拝見していてて、「あ。なるほど」と思ったんです。科学に対して深い理解がないわれわれは、放射線が漏れてきて、放射能をたくさん浴びるとガンになる、というような、ものすごくざっくりとした理解をしてしまうわけです。児玉先生の説明だと、放射能というものは分裂期のDNAに影響与えて、それがガン抑制遺伝子に障害を起こして細胞増殖に変化をもたらし、それがガンになるんだっていうことをすごく丁寧な言葉で議員の先生たちに説明されていた。
今回の児玉先生がやられていることって震災以降すごく問題になっている、いわゆる科学コミュニケーションの問題、つまり科学者の人がデータを元にいろいろな見解を述べることに対して、一般の人の理解がすごく差があり、そこを埋める重要性がすごく増していることを浮き彫りにしたのかなとも思っています。
児玉: 科学者が議論するときには前提があるんですよ。その上で議論してる。ところが前提が間違っていると、みんな間違っちゃうんです。まず最初、(手元の資料を示して)ここに出したやつなんかでそれを言いたかったんです。
津田: 今日はそれをお聞きしたいんです。
児玉: 前提を切り替えるっていうのが大変なんですよ。これまでの議論では、みんな放射線が安全かどうかっていうのは何マイクロシーベルトだとか、そういうどこにいくつ出てるから安全だとか、あるいは不安だとか、その数量を巡って延々とやってますよね。
だけど今回の事態で、僕が最初に思ったのはそうじゃないんです。原発から100km離れたところで5マイクロシーベルトという量が検出されている。平均は5マイクロシーベルトかも知れないけれども、あるところではその10倍、あるいは100倍ってところがあるかもしれない。500マイクロシーベルトかも知れないし、またすぐそばでも0・5かも知れない。
例えば文科省が子どもの被曝を計算するときに、学校にいる時間の被曝を計算しているんです。だけど家に帰っても被曝する。だから意味がないじゃないですか。それから食品一個食べるときに、この食品を何百キロ食べたら害が出ますとかっていう言い方しますけど、全部の食品に入る可能性があるわけですよ。現実に、それがもう起こっている。それから思いもかけないところで濃縮されるってことも起こります。
だから問題の質が、これまでと変わっちゃった。この研究室にもいっぱいアイソトープの管理の記録っていうのがあります。これらは全部、ある点にアイソトープがあって、そこから距離を離せばいいとか、体に着いちゃったらその点の濃度を見ればいいっていう話なんです。しかし、今度は点ではなく面とか空間で出ちゃってるわけですね。だからいまの法律では対応できない。
ところが学会の主流の専門家も、それから文科省やその他のお役人も、政府の人も、問題が変わってることを気づいてない。だから従来の法律でそのまま考えてしまっている。
■いまはセシウムの問題をやるべきだ
津田: それくらいの規模のかなりイレギュラーな事態、大きな事態が起こってるにも関わらず、平常時のもので対処しようとした。「ただちに影響はない」みたいな言い方で、いろいろな処理が行われているわけですね。
児玉: しかもいま出ている食の安全とか、そういうのの議論も全部それじゃないですか。
津田: 「まず収束が」みたいなことばかり、言うようになってますからね。
児玉: ほかにもちょっと違うと思うのは、実際にわれわれがアイソトープの受け入れとか廃棄とかをやるときに、僕らは例えばP30というリン酸とI125というヨウ素は別々に扱います。例えば何マイクロシーベルトとという議論だと、それらをみんな一つにしちゃうじゃないですか。
アルファ線を出すトロトラストっていうのは肝臓へ集まるっていうことを国会でも言いましたよね。ヨウ素は甲状腺に集まります。セシウムは膀胱ガンになったりします。そうすると膀胱におけるセシウムとか、肝臓におけるトロトラストというのは、それぞれ影響が違います。
病気とか汚染とかを考えるときには、同じ水銀でも有機水銀と無機水銀は全然違う。水俣病になったのは有機水銀ですよね。今度、福島の場合、いちばん最初はやっぱりヨウ素なんですよ。だけどヨウ素のときは SPEEDIとかを伝えなかった。
津田: そうですね。
児玉: 半減期は8日ですよね。そうするとひと月で2分の1、4分の1、8分の1になる。ふた月で16分の1、32分の1、64分の1。三月で128、256、512っていうふうにもう全然検出限界以下になります。だからヨウ素の問題は本当はいちばん最初に「ここが危ないから避難しろ」というのを言うべきだったんです。だけど、そのタイミングはもう終わっちゃってる。
それでいまはセシウムですよね。いまセシウムの問題をやんなくちゃならないじゃないかと思っています。
■SPEEDIの予測をなぜすぐに公開しなかったのか
津田: SPEEDIに関して言うと、当初公開が遅れてしまったことについては、いろいろ問題も指摘されています。一方で科学者の方の中でも SPEEDIみたいものを公開しても、それを一般市民が見て正しく読み取れる人のほうが少ないから、むしろそれで混乱を招いてしまうので公開しなければいいんじゃないかっていう意見のお持ちの方も多い。児玉先生はそのへんはどう考えているんですか。
児玉: その前にですね、科学者の人が勘違いしているんですよ。
津田: と言いますと。
児玉: 昔の人はね、疫学とか統計学が好きなんです。いまコンピュータ世代の研究者って予測とシミュレーションが好きなんです。それでね、疫学と統計学と、予測とシミュレーションは全然違います。
津田: どう違うんですか。
児玉: 疫学とか統計学はパラメータが多いほど正確になるという考え方です。僕の専門は生活習慣病などです。よくメタボリックシンドロームとかいうじゃないですか。お腹の周囲が何センチとか、中性脂肪がどれくらいとか、コレステロールがいくつとか、何とかの人は心筋梗塞になったという統計処理をする。こういうのはレトロスペクティブにやるときはバラメータを増やせば増やすほど、ある因果関係がきれいに見えたように思える。
ところが予測、プロスペクティブにあてると、パラメータが多いと外れます。パラメータを少なくしないとダメなんです。少ないパラメータで、メカニズムで予測しないとダメなわけですよ。 SPEEDI問題も、だから結局僕が見てると文科省とか原子力安全委員会がシミュレーションていうのをまったく理解していなかった。経済産業省とか原子力安全・保安院の報告書を見ると、SPEEDIはデータが足りなかったから発表しなかったと。
津田: データが足りないからこそ、むしろそのほうが予測が必要なんじゃないですか。
児玉: 予測ってデータが全部あったら試測であって、そんなものシミュレーションじゃないんじゃないですか。
津田: 確かに。
児玉: いま発表したらパニックになるとかなんとかって言ってる人は、予測というのをまったく理解していない。
予測っていうのは少ないデータでやってやるわけです。今回、少ないデータの中でいちばん正確な予測が SPEEDIなわけですよ。僕はコンピュータをいろいろやってますから知ってますけど、SPEEDIは民間企業が動かしているんです。国なんて全然できないの。
それで SPEEDIを動かしているところはフルに動かしていましたよ。それで後になってからデータが足りないからその結果を明らかにしなかったって言うけれど、シミュレーションだから当たり前なわけですよね。
コンピュータとかネットをやっている人はすぐ分かると思いますが、統計とか疫学っていうのはある意味で古いんです。われわれがいまやろうとしているのは未来の予測をやろうとしているわけ。予測をやろうとすると計算量もすごく多くなるし、コンピュータもフルに使えないとダメです。
予測を出したら不安になるんじゃないかとかという議論は、要するに疫学とか統計とか知らない人です。より正確な予測を出したら不安になるっていう議論はヘンだと思います。
津田: まあ、天気予報だってね、100%当たるわけじゃないですしね。
児玉: でもやっぱり天気予報も結構当たってきたでしょう。地球シミュレーターとかできて、すごくよくなってきてるじゃないですか。
津田: そうですね。
■空から撮った線量のマップをつくってほしい
児玉: 国会で言いたかったのは、「なぜ21世紀の日本なのに、19世紀みたいな議論をやってるの」ってことです。マイクロシーベルトがどうこうとか測りもしないで議論してるわけですよ。それで安全だとか言う度に、どんどんみんな不安に思っちゃうわけですよ。
津田: 他に国会でまだまだ時間が足りなくて言い足りなかったこととかあれば、伺いたいです。
児玉: いまいちばん大きいと思うのは、(放射線の)マップが出てますよね、いろいろと線量ののった。これを政府の力でできないのか、ということです。
データをたくさん取るという場合に、例えば原子力学会なんかはすごく古くて、1キロメッシュで取るとか言ってる。でも僕が思うには、アメリカ軍は空からバーッとスキャンしちゃいますよね、あのほうが全然早いですよね。僕も現地で測定とか除染とかやってるから、ものすごく知りたい。例えば300mとか500mとか上から取った航空から測定できないのか。
イメージングベースでって繰り返し言ってるんです。要するに空から撮るみたいに100mくらいの高さで舐めるように撮ってくれたら、どこの小学校が危ないかも知れない、どこの幼稚園が危ないかも知れない、ここの幼稚園はそんなに心配ないとか、そんなのが分かる。原発から同心円でどうこうとか議論やってる場合じゃない。
僕らの科学ってデータドリブンって言うんです。データで駆動されるっていうか、ドライブされる「データドリブンのサイエンス」っていうのが、コンピュータを使ういまや当たり前のわけですよ、サイエンスではね。ところがそういうのが全然入ってない。昔流に1キロメッシュと2キロメッシュとか暢気なことで話がすすんでいる。まず住民が求めているのはグーグルアースみたいなもんでしょ。
津田: グーグルアースで、拡大していったらここは線量高いみたいなのが分かるたいな。
児玉: だから「グーグルレイディオアクティビティ」を早く作って、クリックしたらその場所の放射線量はこれぐらいですよっていうのが分かるってのが当たり前だと思わない?
津田: そのためには政府がお金をかけて、ほんとに細かく細かくモニタリングしたらいい。
児玉: 空から撮るイメージングのなんて、NHKスペシャルでもフランスのを借りてやってるとか言ってたくらい出回ってる器械なわけですね。
津田: 技術としてはもう十分にあるっていうことですね。
児玉: もう十分にそこはあるだと思うんですよね。まずそういうものを徹底して使って、被災地域を調べる。
これはどっかネットに出てた、どちらかの偉い方がこういうマップを作って下さってるんでわれわれも使えているんです。やっぱりこういうものを、政府がもっとなめるように調べて作ってほしい。もっと放射線量の低いところから細かく撮って、グーグルラディエーションの解像度のいいやつを早く作ってほしい。
■なんでそれができないんですか
津田: なんでそれができないんですか。それを邪魔しているものはなんなんでしょうね。
児玉: いちばん大きいのはですね・・・。国会でいろいろ提案したかったんですけれども、ある問題が起きて非常時になったときに、平常時の区分けだと無理ですよね。例えば食品のスクリーニングのことでこれまで私ずいぶん申しましたが、農産物を作ってるのは農水省の会議でやるわけです。だけど食品の検査って厚労省と保健所がやってる。それで機器の開発は経産省がやってる。
津田: ああ、そうか。
児玉: 国会の翌日も農水省に行って農水省の審議官の方と話をしてたんですけど、自分たちがいくら作っても厚労省が「うん」と言わないと使えないと言う。今回の非常事態の場合は、従来の障害防止法より上位の法律がいるんじゃないかと。
津田: 完全に縦割り行政の弊害がいま・・・。
児玉: 国会で「自分も法律違反やってますよ」ってさんざん言ったのは、アイソトープ運ぼうとするとたくさんの法律に関わってくるんです。航空法、船舶法、車輌法・・・、全部アイソトープを運ぶのに関わる法律です。これだけの法律があるわけです。そうすると曖昧な新しい法律作っても、きっといままでの法律とどっちが上位かっていう議論が延々に出てくる。
津田: なるほど。
児玉: それをいちばん感じたのは、5月の全国のアイソトープ総合センター長会議に行ったときのことです。私も東大のセンター長だから行って、九州でやったんですよ。「福島原発の後だから、みんなアイソトープ総合センターで熱い議論をやろう」って言ったわけですよ。文科省の方も来てたわけですね。それでいろいろ講演されてたんだけど、福島原発の問題を議論したときに、僕らがこういうのをやろうやろうということを言ったときに、非常に困っていたんですよ。
それで僕は割りとおっちょこちょいだから、あの調子で「文科省は国民の健康に責任を持とうっていうんじゃないんですか」って言ったら、「いや、私たちは国民の健康に責任を持つわけじゃなくて、いまの法律に従って取扱者を規制しなくちゃいけない」って言うんです。
最初は違和感を覚えたんだけど、考えてみたら僕が国会で「法律違反やってます」って言ったら、すぐいろんな方からワッと来て、「実際に放射線の取り扱いはどうなっているのか」とか言われるわけですよ。私みたいにある程度、ああ、あの人だったらいろんなヘンなことであってもやりそうだからって、打たれ強そうだって人ならいいけれど¨。
津田: キャラが(笑)
児玉: 普通の技官だとか職員の人は絶対できないです。
■予算を省庁に落としていたのではダメだ
津田: 役人はそう答えるしかないっていうことなんでしょうね。
児玉: だってお役人に「法律違反しろ」って言ってるわけです。自分でも、あ、これは申し訳ないって思ったんです。
津田: でも、やはりいまはそういうことを言っていられないくらいの非常事態なんだから、迅速にいろいろなものを変えていかなきゃいけない。それがまったく普通でないという状況なのに・・・。
児玉: それで誰が悪いのかと思ったら・・・。
津田: それは国会って、行き着きますよね。
児玉: 僕がそのことをちょろっと言ったら、すぐ知ってる人が阪神淡路のときは3ヵ月で23本特別立法ができましたということをツイッターかなにかに書いていた。だからやっぱり法律の方にも、もっと自分たちがなにをできるか考えていただきたい。とにかくさっき言ってた早くやるためには、いままでの法律より上位の法律がないとダメです。
津田: そうですよね。
児玉: もう一つは予算というのを省庁に落とすんじゃダメです。例えばお米の予算て年にこれぐらいってあるじゃないですか。その中から放射能にかかるお米の予算を出そうとしてもまず無理なんです。先に放射線被害に対して国としてこれくらい使いますっていうのを決めて、その中でやるしかない。だから上位の委員会、上位の法律の決定っていうのがないとね。
さっき「なんでできないのか」って言われましたよね。その理由はもうひとつある。ノウハウがみんな民間にあるわけ。
津田: 官民のうちの官のほうにノウハウが溜まってないっていうことですか。
児玉: 大学にもそんなにないんじゃないかな(笑)。
津田: それはちょっと問題発言じゃないですか(笑)。
児玉: 大学っていうのはだって基礎的なのをやるんです。
津田: 国会でもこういうノウハウが民間企業にあるから、それを生かしてやっていけばと仰っていましたね。
以降 vol.2 へ。(近日公開予定)
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