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孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(1) (2)(ニコニコニュース)
http://www.asyura2.com/11/genpatu15/msg/382.html
投稿者 五月晴郎 日時 2011 年 8 月 08 日 17:08:25: ulZUCBWYQe7Lk
 

(回答先: 孫正義さんとのトコトン議論を終えて〜勝者は日本国民だ!(BLOGOS) 対論者 堀義人はただの原発プロ推進者であった。 投稿者 スカイキャット 日時 2011 年 8 月 07 日 17:10:16)

http://news.nicovideo.jp/watch/nw97044 (1)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97043 (2)

「ニコニコニュース」から
@『「"脱原発"ではなく"原発ミニマム"論者」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(2)』
A『「脱原発を叫ぶ前に――」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(1)』
を転載投稿します。

関連の図表(資料)は上記URLで

=転載開始=

@

 原子力から自然エネルギーへのシフトを訴えるソフトバンク社長の孫正義氏は2011年8月5日、ビジネススクールなどを展開するグロービス代表で「電力安定供給論者」の堀義人氏と、日本のエネルギー政策について公開討論を行った。

 堀氏が「100年先を見据えたエネルギー政策を、子供たちの未来のために」というテーマでプレゼンを行い、「性急な脱原発は現実性を欠いており財政危機を招く」と語ったのに対し、孫氏は「猛省しているのか」「どういうコスト試算をしたのか」と疑問をぶつけた。そして孫氏は、自身のプレゼンの番を迎えると、原発の真のコスト試算や電力会社の問題点を挙げながら、一方で自らを「脱原発」や「減原発」ではなく「原発ミニマム論者」と語った。

 以下、孫氏と堀氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。

「脱原発を叫ぶ前に――」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(1)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97044

■原発の真のコストとは

孫正義: (テーマは)「日本の未来のエネルギーを考えて」。原発は3つの神話があった思います。一つは「安定的な供給電源」。いま、堀さんも仰いました。原発が無くなると、安定的な電源が無くなって、産業界が成り立たなくなるのではないか。「安い」という神話があった。これが高くなると産業が成り立たない、人々の生活が苦しくなる。「安全」だという神話があった。これもどうであろうか。この3つの神話について、今日僕は「この3つの神話は崩れた」ということを申し上げたい。

 一発目は、「安全、安定的な電力の供給源である」ということ。今回の大事故の前に、既に東京電力は、例えば2003年の所でトラブル隠し。今回の事故で僕は初めて東京電力は「とんでもない会社だ」という風に実は思ったのですが、これはどうも体質であった。過去にもトラブルがあって、それを隠して、社長、会長がクビになって、原発も全面停止、運転停止ということが過去にありました。全面停止になると、いきなり今まで30%とか頼っていた電力が、ズドンとゼロになるわけですから、オール・オア・ナッシングの危険性がある。これは安定的な電力供給源であろうか。全停止のリスクがある。新聞にも出ています、「東電の原発すべて停止。トラブル隠し」。「隠匿体質」というのは、今回だけではなくて、昔からあったのだなと、改めて僕は今回学びました。

 2番目の点、「安い」。本当に安いのか、安価なのかという点ですが、「原発のコストが安い、安い」と、堀さんも仰いました。多くの原発擁護論者は言います。でもそのコストは、国民が負担している税金の中から負担している交付金。僕に言わせれば、地方への賄賂です。「このお金上げるから、原発を抱えて下さい」。交付金漬けになってしまって、財政がそれに頼っている。今回の事故の賠償金、それから産業の被害、つまり、今まで交付金だけでもどのくらいあったのか。原発1基につき、開始前で1基当たり450億円。運転を開始してから35年間で1基当たり約2000億円。1基当たり合計で2500億円。これを54基で掛け算すると、13兆円もの交付金が今まで払われていて、それは今まで電力会社の電気代には表れていない。でも本質的には電気代ではないのか。原発のコストはこれを足すべきだ。これをオミット(除外)して原発が「安い」というのは、全然これはいかさまだ。

 今回の事故でも、法案(東電救済法案こと原子力損害賠償支援機構法案)がまさに8月3日に可決ということがありましたが、「援助に上限を設けない。何度でも援助する。全額援助する。電力会社を債務超過にさせない、潰さない」。つまり丸抱えの国による補償ですね。「上限なし」。これはすべて国民が払っているお金だ。これはすべて、原発の真実のコストの重要な部分だ。今議論されている原発事故の補償金の額は、本当はもっとはるかに大きいのではないか。チェルノブイリで起きたもの、ベラルーシのところだけで事故後30年間で約19兆円、損失額に対して見積もられています。IAEA(国際原子力機関)です。堀さんのお兄さんのところです。これはウクライナとかロシアとかそういうところは足していません。ベラルーシだけでそれだけの金額。これを3つ足すと一体どのくらいになるのか、恐ろしい金額になる。つまり事故は起きて、その1年2年で処理が終わるのではない。30年40年、いまだにまだずっと続いているということ。

 産業被害、農産物、今もう、牛の肉を食べるのでも「この肉は大丈夫か」とドキドキしながら、ロシアンルーレットでもするような感じで食べる。これっておかしくないかということです。農産物、観光、例えば食品の輸入規制が各国で、日本の福島あるいはその近辺のものについては、全食品を輸入規制、全面停止というような所が続々と現れている。この被害コストは原発のコストではないのか。それから観光客も半分に減ってしまっている。この産業のロス、産業被害、これはまさに原発のコストではないのか。

■3つの安心神話は崩れた

 それから、先日国会でも児玉先生(東京大学アイソトープ総合センター長:児玉龍彦氏)から発言がありました。感動的な内容でしたけれども、「イタイイタイ病」のカドミウム汚染。この土地の地域の除染をするのに、国費の投入で1500ヘクタールで約8000億円かかったという話がありました。今回の福島の事故はその1000倍ぐらいになるのではないか。もし仮に1000倍だとすると、800兆円。恐ろしい金額になる。800兆円本当に使っていいのかどうかは別として、そのくらい除染にはコストがかかるということです。長くて暗くてつらい作業だ。

 つまり13兆円の交付金と、無制限の上限なしの賠償金、産業被害のもの、除染コスト、こういうものを入れ始めると、本当に原発は安いのかとつくづく疑問が出てくる。なぜかと言うと、10社の電力会社、すべて足しての年間の売上が15兆円。それをはるかに超える被害額がある。つまり、すべての売上をはるかに超える。これって一体どうなるのだろう。もちろん、すべての電力が原発で賄われている訳ではありません。ですから、原発のコストだけに換算すると、ものすごい一番高いものにやっぱりついたのではないか。過去40年分の原発によって得た利益は、一発の事故で全部吹っ飛んだということです。

 次、3つ目が「安全神話」ということですが、これは語るまでもなく、悲惨な事故を起こした。「これのどこが安全だ。どこが猛反省だ」ということを僕は問いたい。今回の事故はたまたま顕在化した事故、でも実は原発のトラブルは日常茶飯事で、頻繁に起きている。この10年間で228回もの原発トラブルが起きている。その内のどれか一つでも、あとちょっとミスれば大事故になったかもしれないということを、228回もトラブルを背負っている。つまり今回の事故は、たまたま津波が来て、たまたま1回だけ起きたのではなくて、何回もスレスレの状況というのがあった。これからも、もし使い続ければ(事故スレスレの状況が)あるということです。

 今、福島の子供たちが2年ごとに甲状腺の検査をしなきゃいけないということが決まりました。だいたい子供がね、幼い子供がそんな検査をずっとしなきゃいけないということ自体が、もう既に悲しくないか。さらに、そもそも原発の核燃料については最終処理の方法論が未確立だ。どこが確立してるんだ。誰か言ってください。私は一度もそれを誰からも聞いたことがない。マンションの中にトイレ作らずに、「マンション完成です。はい住民住んでください」と、10階建てのマンションにトイレがなかったらどうしますか、ということです。その最終処理の方法が未確立で、最終処理の場所もない、最終処理にこれから膨大なコストがかかる、何万年このコストをかけるんだということです。

 さらに、これからもし無軌道に再稼働を焦ってバンバンやりましたと、仮に仮定します。ストレステストをやる。が、そのストレステストを大丈夫だと保証できるのか、誰がもう一回大きな事故が起きないと保証できるのか。もちろん堀さんに出来るはずがない。どの総理であっても誰だって、保安院だって、そんなことを保証できない。保証しろという方が無理だ。そもそも保険会社は原発に対して保険は請け負いませんと言ってるわけです。保険会社が請け負えないようなものを誰がやるんだ? 実は膨大なコストだ。従って3つの神話、「安定的である」「安価である」「安全である」、3つの3安心神話。これは神話として、もろに崩れたということです。

■今の節電努力なら火力と水力でピークを賄える?

孫正義: そこで原発の再稼働の話が出ていますが、2つの案があります。ストレステストを合格したら、全部再稼働しようというA案。不足している電力分のみ再稼働を許そうというB案。どっちの案がいいでしょうか? そもそも今現在、日本は原発に30%頼っていて、原発がなくなると30%なくなって、「皆さんは30%電力のない世界に住んでいきたいですか?」と言っていつも脅されます。本当でしょうか。今は54基のうち実はたった16基しか稼働してない。16基しか稼働してないのに、何とかなってるじゃないか。日本国民、僕は素晴らしいと思います。皆が力を合わせて、ちょっとでも無駄な電気は節電しようよということで頑張りました。再稼働はいったい何基したらいいのか、いつしたらいいのか、どういう条件がそろったらいいのか、ということについてこれから述べたいと思います。

 そもそもの供給力が、この青い線(※資料1)です。東京電力の管内です。需要はどんどん減っていってる。つまり節電が皆の意識が高まって、節電の工夫がどんどん進んできた。電力のうちの約3分の2は、企業と工場。企業のオフィスと企業の工場、これが電力の使用の3分の2です。これがウィークデイ(平日)に重なっていたから、ピークのところがビューンと張り出していた。それを企業が今努力して、週末とか、ほかの日になるべく曜日をシフトした。それだけでドンとピークが落ちた。結局電力のマネジメントって、ピークマネジメントだけが鍵だ。ピーク以外は非常に余るほどの電気がある。自由に使えるということですが、実は需要がどんどん減ってきているということであります。
 
 そこで、このグラフ(※資料2)を見ていただきたい。今まで、いつも出されていたグラフは原子力が一番下に書いてあって、これをベース電力だと言ってきました。これがないと成り立たないでしょという話です。逆に原子力を一番上に持ってきて、本当に必要な時だけ使いましょうということで、原子力、その次に自家発電、その下に一般の火力と水力。それで過去の10年くらいの電力のピークの日、実はピークって1年間に5日間くらいしかない。しかも1日のうちの4時間くらいしかない。つまり1年間の中でピークって本当は10時間程度、12時間程度だ。そのことをピークと呼んで、その日が耐えられないってみんな大騒ぎをしている。でもその一番のピークの日を全国の電力の供給量でグラフを引いたら、この赤い線です。つまり今まで過去10年のピークは、実は全部原子力なくても本当はいけたんじゃないか。

 さらに日本国民の努力で今は、去年よりも同じ温度の日で22%節電できています。22%の節電、今のペースで死ぬほど苦しくはないですよね。それなりに皆で努力しているけど、この努力のペースが過去10年間ずっとこうであったとしたならば、この点線(※資料3)のところ、今の並の努力を過去10年間ずっと続けていたら、自家用発電に頼らなくても、原子力に頼らなくても、火力と水力だけで全部実は賄えた。ピーク未満で済んだ。その供給力は十分済んだのじゃないか、もしかしたら。これをぜひ検証すべきだ。

 ただしこれを言うと「それは全国ベースでしょ」と。電力会社単位で見ると、ぎりぎりでちょっと超えていた日があるかもしれないということです。これは電力会社の怠慢だ。電力政策としての経産省の怠慢だ。電力会社と電力会社が、ヨーロッパなんて国をまたがって送電網がつながっているのに、日本国内で送電網をしっかりお互いの電力会社同士がやり取りできるようにしていないことがそもそも経産省の怠慢だ。地域独占を守る、関所のように自分の電力をオラが大将で独占する。それがむしろおかしい。そのツケを国民の安全で払わせるということは、僕は問題だと(思う)。

 もうひとつ。例えば今すでに一生懸命節電していますが、さらに、もし今使っている白熱電球あるいは蛍光灯を、LEDに全部置き換えたらどうなるか。年間に922億キロワットアワーの節電ができる。つまり原発にして13基分ですね。いま原発が16基動いている。電球を変えるだけで、原発13基分さらに節電できますよ。現在の状況ですでにもしかしたら、原発なしでも電力容量は足りていたんじゃないかということですが、さらにその上に念を入れて。地デジだってね、何年間の努力で古いアナログのテレビを全部地デジに変えたじゃないですか。同じようにLEDに集中的にエコポイントを渡して、インセンティブとペナルティで、例えば「3年以内に全部LEDに変えましょう」と国策で決めたならば、さらに原発13基分浮きます。

■脱原発でも減原発でもなく「原発ミニマム論者」

孫正義氏

孫正義: もう一度聞きます。人為的に決めたストレステスト、大体そのストレステストって僕は見たことがない。誰がどうやって決めてんだ、そのストレステストのバー(基準)は。それよりも私は、本当にどのくらい不足するんだ。500万キロワットか? つまり原発5基分か? 僕のさっきのグラフではもしかしたら1基も無くても足りたかもしれない。それをもう一回きちっと精査すべきだ。本当に本当に5基分足りないなら、5基分だけ一番安全なところから順番に動かしてもいい。

 僕は「原発ミニマム論者」です。脱原発でもなくて減原発でもなくて、うんぬんでもなくて。原発はどうしても必要なら、つまり停電して産業が成り立たない、国民生活が成り立たない、本当のギャップは何キロワットだと。どうしても本当か? と。それは3年足りないのか? 2年足りないのか? その足りない期間だけ、次の手立てができるまで、足りないミニマムの部分だけ、3基分だけ、じゃあ再稼働を許しましょうというミニマム論のほうがベターではないか。

 いきなり全世界すぐ(原発を)ゼロにせよとは言わない。でも少なくとも地震が多すぎる日本、古い原発ばかりの日本、それでは(原発を)ミニマムにするということによって、リスクをミニマムにできるのではないか。そして自然エネルギーへ。自然エネルギーが当てにならないと言うけれど、ヨーロッパでしっかり自然エネルギーを中心にやっている国がもう既にある。その自然エネルギーが頼りにならないという、そういう抽象的な言葉で惑わされちゃいけない。ヨーロッパで現に自然エネルギーを中心に、スペインだって風力と水力、この辺だけで4割5割という時間を賄っているところも立派にあって、さらにどんどん増やしている。彼らはちゃんとコントロールタワーをしっかり作って、コンピュータを使って気候を予測し、誤差は5%未満で済んでいる。そのギャップはこのようにガスタービンだとかいろんなものを使えば良い、ということです。

 自然エネルギーを使うと高くなる、という議論が今されています。キャップをはめようとか言われてる。でもよく考えると、10年後に200円上がるという議論は高すぎると言ってます。でも何の議論なしに、東京電力はこの半年で既に530円上げました。何の議論もなしに530円上げているんです。それで自然エネルギーは高くなり過ぎるからと、10年後の200円を高すぎると、1家庭あたりね。これって何かおかしくないか。ドイツは自然エネルギーを高く買いすぎて問題だ。日本は誰かが賄賂をかましてるんじゃないか、「政商」だろうと言ってますが。ちょっと待ってくれ。日本は今、1家庭あたり1キロワットあたり2倍弱ぐらいの値段で自然エネルギー、太陽光を買おうか、と。風力その他については同じくらいの値段で買おうという話ですが、ドイツは6倍、スペインは10倍で買っています。これは自然エネルギーを一時的に補填してでも早く立ち上げて流れを興そうという「世界の知恵」です。

 日本だけでなく40数カ国が行っている理由、それは今から10年後20年後30年後には必ず自然エネルギーはテクノロジーの進化で発電コストは下がるということがあるからです。産業界は雇用が無くなると言いますが、むしろ雇用が増える。売上もGDP(国内総生産)も増える。日本は決定的に遅れていて、後進国になっている。ちょっと時間になりましたね。ちょっとまだもう少しページありますが、いったん、ここで終わらせていただいて、どうせ今日はトコトン議論だから。どうもありがとうございました。

■堀義人氏からの意見・反論

堀義人氏

堀義人: 孫さん、ありがとうございます。さすがに私が尊敬する起業家で、おそらく日本で最もプレゼンテーションが上手い方だと思います。最初に「猛省」の話があったんですが、私が現地をいろいろと回って、飯舘村、南相馬、そして福島、あるいは南の方からずっと楢葉とか回ってたんですが。感じることは、これは福島の小児科医師のブログからですが、4月に県内のほとんどの学校が再開した。遅れて卒業式をやった学校もあった。ここまではよかった。僕はこの場にもいたんですね。4月中旬に文科省の年間20ミリシーベルトという基準が発表されてから、世の中が騒ぎ出した。この時期の福島市の放射線は前から下がってたわけですね。その中で世の中の偉い学者さんが泣いて記者会見した。1ミリシーベルトじゃなくちゃダメだと。それから世の中の人たちが、それはおかしい、許せない、この国は嘘つきだと非難し出した。今ここで生活している私たちが一番困っているのは、用心のために即刻避難すべきだという論調だと言うんですね。この部分だと。

 つまり私が感じるのが何かというと、本当に重要なことは、放射線は正しく恐れなければならないというのが私のポイントです。その部分が重要になってくると思います。100ミリシーベルト未満の被ばくに関して言うと、健康への害は認められていない。暫定規制値の1キログラムあたりのベクレルに関して言うと、全体で年間5ミリシーベルトになる値で設定されていたので、かなり安全側に立っているというのが今の考え方です。リスクに関しては、国立がんセンターの資料ですが、100ミリシーベルト未満は基本的に検出不能。ほとんど今まで健康に害があったという事例がない。100ミリから200ミリ(シーベルト)が野菜不足と一緒、受動喫煙と一緒だと。肥満、やせが200ミリシーベルト以上ある。喫煙者が1000ミリシーベルトのがんの可能性がある。

 こうしたことを考えた場合、放射線というものは、本当に恐ろしいのかどうか正しく検証しなければならないと思っています。したがって、正しく恐れることがすごく重要になってきます。今私が(福島に)行って思うことは、「危険だ!」という幻想みたいなものが出来上がっていて、それに対して怖がらせられている福島県民の状況を見て、非常に悲しくなってきます。それは低い方がいいに決まっています。ただし、それが本当に危険なのかどうなのかということをしっかりと認識した上で、それから取り組む必要性があると思っています。

■何が本当に怖いのか、何が大丈夫なのか

 僕は個人的には電磁波の方がもっと怖いです。本当に怖いです。これは明らかにWHO(世界保健機関)も、電磁波とガンへの関係性があることを明言しています。スウェーデン、テルアビブ、イギリス王立大学、オハイオ、フランス。電磁波と放射線、もしも孫さんが放射線が怖いと言うならば、電磁波に対する怖さというものを正当に考えた上で、それをしっかりと認識する必要性があると私は思っています。何が本当に怖いのか、何が大丈夫なのか。そうでなければ「怖い!」というものに対して、そう言われて、それに対して怖がらなければならないという状況が今ある。

 私は一昨日「KIBOW」福島に行って、その司会のお母様のお友達の方が発言された声を聞いたんですが、彼女が仰るのは「学者さんがいろんなことを言う。よく分からない。誰が信用できるかよく分からない」。孫さんが仰ったように私はラッキーで、私の兄がIAEA(国際原子力機関)から福島に3月末から4月上旬にかけて土壌調査をしたんですね。私が福島に行く時に携帯に電話したら、私は常磐道を上がっていて、彼らは東北道を下がっているところで、福島の多国籍チームとしての調査を終えたと。多国籍チームというのはロシア、ハンガリー、そしてイギリス。そのメンバーとして参加した兄に電話したら「大丈夫だ」と言うんですね。北西地域に一部危ないところがあるけど、基本的に大丈夫だ。いわきの野菜も食べていいと言ったんですね。私は幸いなことにそういうことを知っている状況なので、全く怖がらず実際に行けた。多くの人たちにそれを認識していただきたいと思っていて。私はこの関係で放射線医療の方々にも会いましたけど、「大丈夫だ」と言った瞬間にものすごい批判のメールが来るんですね。私にも今おそらく殺到してると思うんです。ただし、何が正しいかという科学的根拠に則ってそれを信じなければ、何をもとに意思決定するのか、逆に福島県民を怖がらせてしまっているのではないかということを、私は訴えたいと思っています。

 それから地震対策に関してですが、柏崎、女川、福島第一、福島第二、東海村、すべてにおいて制御棒は挿入されて、止まる、冷やす、閉じ込めるというのが上手くいった。ただし福島第一原発に関していうと、津波ですね。津波にやられてしまった。これは津波が来るまでは基本的にすべてが順調に動いていた。しかし津波が来たことによって、あれだけの、想定外と言ったら怒られるんでしょうけど、津波が来たことによって電源の問題、バックアップ電源がすべて水に浸かってしまった。電源をもっと高いところに置いておくべきだった。あと重要設備の水密性、潜水艦のハッチのようにして、それでも回るようにしていくと。水の冷却水、冷却機能を確保していくことによって、今まで30年間、全く安全に運転してきた。200数十件の事故と言っても、原子力関係の従事者が本当に可哀想なのが、ちょっとした事故でも対処する前にすべて報告しなければ「遅れた」とか言われてしまう。200数十件の事故というのを、もう一回見ていただきたいと思います。どういった事故なのか。他国と比べてそれが事故と呼べるものなのかどうか。この検証が必要だと思っています。

■自然界は原子力そのもの

 最後に原子力廃棄物に関してですが、孫さんに一つ質問したいのが、1人の人間が一生涯生きてきて、全部原子力で電力を生み出す時に、どのくらいの大きさの廃棄物が生まれると思いますか?

孫正義: 知らない。

堀義人: どの位か大体想像で。

孫正義: たくさん。

堀義人: ゴルフボール1個分です。これが高レベル廃棄物の一生分です。一番言えることは・・・

孫正義: え? ちょっと待って下さい。今・・・。

堀義人: 事故は除いてますよ。事故は除いて、高レベル廃棄物として生まれてきたものが、一生涯かけて、生まれる廃棄物の量です。

孫正義: それで何人が致死量に達します? 膨大な数ですよね。ゴルフボール1個分で・・・致死量としては。

堀義人: 僕の時間なんで、もう少しだけ時間ください。(その議論は)後で。ガイア理論のラブロックさん(科学者、ジェームズ・ラブロック氏)、彼は有名な環境保護者ですが、彼が言ってるのは、「化石燃料より原子力が目立って優れているのは、廃棄物の処理が容易である。すべてを閉じ込められる」と。今回の事故は別に考えないとならないのですが。石炭の廃棄物は(原子力の)200万倍、しかも大気にすべて排出してるわけです。それと比較した場合、どう考えられる。例えば太陽光(発電)の産業廃棄物も、結局これ最後どうするんですかね、埋めていくことになると思うんですね。

 一方で地球というのは、宇宙すべてが、核分裂反応と核融合反応で出来ています。太陽は核融合で出来ている。地球は核分裂反応の崩壊熱で温まっています。自然界には核分裂炉があったんですね、そこで自然な核分裂を起こしている。従って地球というのは放射線があったまま、太古の時代から人類は、生物は生きてきて、今はもっと(放射能が)減ってきている。ということは原子力そのものだ。したがって世界へ(飛行機などで)出張する度にその放射線を浴びるわけですが、そういう状況の中で、そういう認識した上で考えていく。

 そう考えた場合、今対策が出来ていないと仰っていますが、法律でもうすでに地層に埋めると。これはもうすでに深さまで決まっていて、その地層というのは研究がされています。どこに埋めるのか、どういった場所がいいのか。ただし最終処理場がまだ決まっていません。それが今の現状です。ただし今の中間、核燃料物質に関して言うと、これは再処理をして、また燃やすことができます。

 ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)はテラパワーという原子力ベンチャーに投資をして、核燃料廃棄物を燃やしていくと。「風力や太陽光はお金持ちの道楽にはいいけど、それでは世界の問題は解決しない」と彼は言ってます。しかも風力とか太陽光に関して彼が言っていたのは、すべての90%のお金が補助金として投下されていく、イノベーションが生まれない。つまり躯体の工事とそれから発電に生まれてくるのがそういった再生可能エネルギーだと考えた場合、原子力の廃棄物だけ考えてそれが問題だと言うよりも、ほかと比較しなければなりません。何が一番問題で、何が問題じゃないのか、それを比較した上で考える必要性があって。

 当然風力の場合には低周波公害の問題がある。私は正直言って怖いです。あるいは太陽光に関して言うと面積がかかる。あるいは廃棄物に関しても産業廃棄物として埋める時の面積が大きいと。そういったさまざまなことを総合的に考えていくことが重要ではないかと考えています。論点は後でまとめますが、従ってそういったすべてを勘案して意見交換したいと思いますし、孫さんが仰られたポイントにはすべてお答えしますので、また後に時間があるときお時間頂いて、お答えしたいと思います。どうもありがとうございました。

「原発よりも電磁波のほうが怖い」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(3)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97160

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 原子力から自然エネルギーへのシフトを訴えるソフトバンク社長の孫正義氏は2011年8月5日、ビジネススクールなどを展開するグロービス代表で「電力安定供給論者」の堀義人氏と、日本のエネルギー政策について公開討論を行った。

 孫氏を「『政商』の様に振る舞い、自分が都合が良い方向、日本にとってマイナスな方向に導いている」と批判した堀義人氏。これを受け、「堀義人さんは、結局の所、原発推進論者ですか。一度、トコトン議論しますか?」と応戦した孫氏。2人の今回討論会は時間無制限の「トコトン議論」となった。

 しかし最初の1時間はルールが設けられ、まず堀氏が20分間のプレゼン、それに対し孫氏が10分間の意見・反論を行う。次に孫氏が20分プレゼンし、それに対し堀氏が10分間の意見・反論を行うというもの。まずは「ボコボコにされても構わない」という堀氏が、脱原発を叫ぶ前に「実現性・代替の可能性」を探るべきだと訴える。

 以下、孫氏と堀氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。

■ボコボコにされても構わない

堀義人: 皆さん、こんばんは。ようこそトコトン議論へ。僕は今日、朝からソワソワしていまして、ワクワクした気持ちで参りました。日本を代表する企業家である孫さんと「トコトン」まで議論できるということで、今日はありがとうございます。(2人握手を交わす)本当に僕みたいな若輩者に時間を下さいまして、ありがとうございます。

 僕はマスコミには基本的には出ない方針で来ました。テレビは避けて、動画も控えて、経済誌以外のマスコミは断ってきました。敵も作らずに、政治的な発言も控えて参りました。そして教育と産業育成に専念して参りました。ところが3月11日の大震災を経て、私が被災地に行って、ものすごく強い衝動が中から湧き上がってくるのを感じました。津波に流された街、そこに立ち止まって、日本を何とかしなければならない、自分の考えていることをもっと多くの人に伝えよう、何とかしようという気持ちが、ものすごい気持ちが湧き上がってきました。

 一方、政府はその間、無策でした。思いつきの「脱原発依存」発言、そして一向に進まない復興再生計画、政治の迷走、それを見て憤りを感じました。孫さんは、菅(直人)首相に「10年続けてほしい」ということで持ち上げられました。孫さんは、「ソフトバンクの本業として脱原発を行う。原子力の危険性を訴えることが本業だ」と仰いました。それで、メガソーラーに入っていきました。メガソーラーに入っていくことは私は大賛成です。孫さん、ぜひとも続けて頂きたいと思っていますが、企業家としてぜひとも自由競争のもと、市場原理にのっとった形でやって頂きたいと、それを訴えたいのが今回の一つ目の目的です。

 二つ目の目的は何かと言うと、原子力の危険性を訴える「脱原発」ではなくて、「脱原発」か「原発推進」という二元論でもない。エネルギー政策というのは、将来を見越して、安全保障、命、あるいは環境への影響、そして実現性、安定性、経済性を考えて、地球次元で100年先を見据えたものだという風に考えています。したがって、エネルギー政策をじっくりと議論したいということが、私が来た目的の二つ目です。

 この二つを訴えたいということで、今日は参りまして、基本的にはすべてマスコミにオープンです。私は、恐らく相当な批判を受けることになると思います。ボコボコにされても構わない、それよりも自分が正しいと信じることを訴え続けようという気持ちで参りました。

■「100年先を見据えたエネルギー政策を」

 3月11日の大震災の3日後に、仲間と一緒に3月14日に「(Project)KIBOW」を立ち上げました。「HOPE」の希望と「RAINBOW」虹の架け橋です。「希望の架け橋」になろうという思いで「KIBOW」(きぼう)と名付けました。目的は三つ。「KIBOW」を現地、被災地とともに分かち合って復興再生を遂げよう、これが一つ目です。二つ目が、日本の現状を「Twitter」「メール」「Facebook」を使って、架け橋として世界に発信をしていこうと。私自身も世界を駆けずり回って、南米、アメリカ、アジアを行ってきました。三つ目が教育です。これから東北、茨城を含めた被災地に対して、教育を施そうということで、水戸、仙台、いわき、盛岡を含めた教育を行うということで「KIBOW」を立ち上げました。

 その一環で、私は被災地を回りました。6カ所で「KIBOW」の会合を行いまして、水戸、いわき、仙台、盛岡、八戸、福島。福島は一昨日行ってきました。その時に、海岸沿いのすべての被災地を回りました。大熊町と双葉町以外はすべて回りました。いわきから八戸までずっと見て回りました。一方では、原発関係の飯舘村、南相馬、あるいは遠野も行ってきました。NPOの中継地点です。私が見た光景の中で一番強烈な感慨を持ったものが、富岡町の光景でした。これが富岡町の私が見た姿です(※資料1)。後ろに見えるのが、福島第二原発、この後ろ側にあるのが福島第一原発、左側が太平洋です。20キロ圏内ですので人はいません。そこへ私は防護服も着ずに行ってきました。たまたま私の兄がIAEA(国際原子力機関)の研究員として福島の土壌を調査していまして、彼から「大丈夫だから、行っていいよ」と言われて、私は中に行って来ました。常磐線には瓦礫が積み上がっていて、歩くとぬかるんです。そして、手を合わせながらその家を回って思ったことは、「二度とこういうことはしてはいけない。二度とこういうことを起こしてはいけない」と強い気持ちを持ちました。

 「二度とこういうことはしてはいけない」と、私自身もそういう気持ちでいた時に、夜に「KIBOW」のいわきのリーダーが集まる会合に参加しました。その会合でさまざまな意見が出ましたが、「過去に原発に反対であった訳ではない」「今後は原発とどうやって共存するかを前向きに考える必要がある」という声があったり「反原発などがバブリーな状態になっている。何が正しいかをしっかりと見極めたい」という声を聞いて、私はすごい勇気をもらいました。この写真が「KIBOW」いわきの最後に撮った写真で、日経新聞の夕刊の「こころの玉手箱」の最後の写真に使われたもので、私が大事にしている写真です。この会合に参加して、勇気とエネルギーをもらいました。

 いわきを訪問して思ったことは「二度と起こしてはいけない」と。地震がある度に耐震設計技術が上がっていった。飛行機事故の度に飛行機の安全性が高まった、原発の安全性を高めなければならない。一方では、厳しい現実を直視した上で、反原発を叫ぶのではなくて、冷静に日本のエネルギー政策を立ち戻って論じたいという気持ちでおります。今日は「100年先を見据えたエネルギー政策を、子供たちの未来のために」というテーマで話をしたいと思います。

■「脱化石燃料」を考えなければいけない

堀義人:その(「100年先を見据えたエネルギー政策を、子供たちの未来のために」というテーマを実現させる)ために四つの視点があります。一つが「安全保障」「環境・命への影響」「実現性・安定性・経済性」そして「未来」です。安全保障に関しては、「エネルギー安保」「食料安保」という言葉がありますが、エネルギーの自給率は4%しか日本はありません。これは先進国で一番低いです。原子力を含めても19%です。原子力の場合には、今あるウランと使用済み核燃料を使って再処理を行い、高速増殖炉ができれば2000年、3000年のエネルギーができます。従って自給率に含まれることが多くあります。

 食料に関して言うと、40%しかありません。これも一番低いです。従って休耕地とか耕作放棄地というものは、自由化して農業ベンチャーをどんどん参入させて、食料自給率を高めていく必要性があります。私はエネルギー自給率も、そして食料自給率も100%になれるという風に考えています。

 73年からのオイルショックの後に、これ(※資料2)は電力の構成図ですが、オイルから分散しました。安全保障のキーワードは「多様化」です。「原子力・石油・石炭・LNG(液化天然ガス)」と分散できましたが、石炭もLNGも石油も化石燃料です。従ってCO2を生むし、全部輸入です。輸入に頼っている状況の中で、この部分をどんどん、「脱化石燃料」ということを考えなければなりません。将来的には枯渇していきます。そう考えた場合、何が残るか。それは原子力と再生可能エネルギーになります。

 そして、「環境・命への影響」に関して言いますと、CO2です。排出に関しては原子力は全く発電段階では(CO2を)生みません。再生可能エネルギーの場合には、雨とか風の影響によってバックアップ火力によってCO2が増えていきます。環境に関しては、原子力が一番優しく、国連の事務総長(潘基文)もクリーンエネルギーとして原子力を推進すべきだというポジションに立っています。

 一方で「命」に関してどうかというと、テラワットアワー当たりの死亡率ということです。石炭は原子力の250倍、多くの人たちの命を奪っています。石油あるいはガスも同様に多くの人たち、数十倍か数百倍の命を奪っています。水力(発電)も同様です。これは例えば肺炎になったりあるいは採掘段階とか、あるいはメキシコ湾事故(メキシコ湾原油流出事故)とかによって死亡者が出たりとか、水力(発電)の場合には建設段階とかダムの決壊によって生まれてきます。原子力は、テラワットアワー当たり一番少ない命しか奪われていないと。「健康・命への優しさ」という観点も重要になってくると思います。

■脱原発を叫ぶ前に「実現性・代替の可能性」

 三番目が「実現性面積」です。今まで私は、再生可能エネルギーと原子力だということを言っていましたが、今度は「実現性」に関してどうかというと、原子力(発電所)1基(分の電力)をつくるのに太陽光(発電)は山手線と同じ大きさの面積が必要になります。山の手線です。1基のために200倍です。風力はその3.4倍。山の手線の3.4倍の面積が必要となります。「面積を使えば良いのではないか」という議論もあると思います。ただし、今度は「安定性」が重要になってきます。雨が降ったらどうなるのか、これは(※資料3)グラフですが、「晴れた場合のグラフ」そして「雨の場合」は、一番下です。雨が降ったら新幹線が止まるということでは困るわけです。風が止んだらどうするのかと。風が止んだら工場が止まるということでは困ります。そのために蓄電ということもあるでしょうが、コストが合うかどうかということが重要になります。

 ベースロードということを整理したいと思いますが、原子力発電とか水力というのは夜間を含めてずっと一定の電力を発電します。もし、この部分の原子力がなかった場合には化石燃料で代替するしかありません。その部分をピークに合わせて火力を燃やしています。当然ピークカットという概念もありますが、ただし需要に応じてこれが増えていくことは変わりないです。その時にCO2が増えると、一方ではその燃料コストが上がっていくと。再生可能エネルギーはベースロードにはなり得ないのです。なぜかというと安定性が足りない。その中で、今どうしているかというと、夜間の安い電力を使って電気自動車を走らせるということを行なって、新しいイノベーションをつくっていく。そのうち、自動車も含めてガソリンが使えない可能性が出てきます。そのために電気自動車が必要になり、電力が必要になります。

 ドイツのことをよく聞きますが、ドイツは太陽光(発電)の累積投資として7兆円。全体の2%。原発の20倍以上のお金を掛けて、やっと原発1基分強です。家庭用30円、今最も高い家庭用の電力料金はドイツになっています。あとイタリアが高いのですが。3倍高いのです。日本の場合には、産業用と家庭用を変えるのは政治的にできないのでしょうから、産業用が影響を受けます。日本で脱原発を行うと、太陽光で考えた場合に、千葉県に相当する面積と、80兆円もの費用が必要になります。そればかりではなくて、年間3.4兆円ものバックアップ火力が必要になります。CO2を燃やして電力が必要になります。経済性を考えなければならないし、安定性そして実現性を考えなければなりません。脱原発を叫ぶ前に、「実現性・代替の可能性」を考えたいという風に思います。

堀義人: 今度は「未来」を考えますが、将来どうなるのか。2050年には92億人、人口が増えると。その時に何か残っているか。今後、化石燃料はいつか枯渇していきます。ウランも枯渇します。ただしウランの場合には、先ほど申し上げたような再処理ができて、今は使用済み核燃料がエネルギーとして燃やすことができます。さらにはトリウムというものがあります。そう考えた場合、数千年のエネルギーを生み出すことができます。そうすると将来的には化石燃料が枯渇した後は、再生エネルギーと原子力しか残らないのです。その時のベースロードをどう考えるのか。

 その一方で、時間がないので飛ばしますが、なぜ性急な脱原発が問題なのかということを申し上げます。電力料金が今急上昇している、これから急上昇していきます。短期的には年間3兆円の燃料費の増加になります。今はもう既に、脱原発によって燃料費が年間3兆円増えていく。3兆円の内、2兆円が企業のコストに直結していきます。長期的には、脱原発太陽光10%となると最大70%電力料金が上がってきます。電力料金が上がると何が起こるかというと、産業の空洞化が起こります。特に製造業が影響を受けます。製造業は裾野が広くて、しかも地方、地域にあります。私も被災地を回ったのですが、非常に多くの雇用を作っています。その製造業の周りにサービス業ができてきてコミュニティが出来上がっています。電力料金が上がって空洞化が起こると、そのコミュニティが崩壊していきます。衰退していきます。既にそういう現象がありますが、電力料金の影響がこれから大きくなる。なぜならば、経営者の中でアンケートをとると空洞化の一番大きな原因、なぜ外部に出すかというとそれは電力だと、「総合エネルギー対策」だという表現を使っています。

 さらに貿易赤字が定着をする。今は既に貿易赤字になっている。ずっと日本は貿易によって食べてきたわけです。貿易赤字になり、さらに怖い事に経常(利益)まで赤字になってしまう。これは2017年以降ですね。そうなると僕らはどうやって食べていくか。企業は海外に行って生き残るかもしれませんが、残された人々はどうなっていくのか。さらに財政赤字をどうやって返済するのか。少子化になっている、今生まれてくる子どもたちは、1人当たり1億円の借金を返さなければならない。1億円――私は5人(子どもが)いるのですが、5億円の借金を抱えているわけです。そういう現状を考えた場合に、経済を強くしていくことはすごく重要になってきます。

■一番恐れているのは財政破綻

 そして失業者の増加が出てきます。今後は失業率5%、さらに10%くらいになっていくのではないかと私は想像していますが、そういった経済への影響が大きいです。私はよく、「経済か命か」とツイッターで批判を受けるのですが、経済が成り立たなければ、お父さんお母さんの仕事が失われてしまうわけです。そういった経済というものをきちんと回していかなければ、子どもたちに借金を残していってしまうことになります。従って、政権の脱原発は電力料金が最大70%上昇して、産業の空洞化を招きます。貿易赤字の定着、そして雇用の喪失、財政破綻です。私が一番恐れているのは財政破綻です。これが高まってくると。そうすると、日本人が貧乏になって、子ども世代に借金を押し付けることになる。それをしてはいけません。子どもたちのためにも、未来のためにも、しっかりとしたエネルギー政策が必要になってきます。

 「結論」――。原発事故の猛省をしながら、悲しみと苦しみを乗り越えて、冷静に現実を直視して、どういうエネルギー政策が良いかを考えなければならない。再生エネルギーは大賛成である。孫さんは素晴らしいと思います。そういった「メガソーラー」(大規模な太陽光発電)を始められると。ただし、先進的な事例を鑑みて、問題点、安定性をどうするのか。実現性はどうなのか、面積を多く使う、あるいは経済性はどうか、コストがどうなっていくのか。高ければいくらでもできます。その結果として、産業を壊してしまって雇用を失ってしまったら、私たちは、未来の子どもたちに見せる姿がありません。日本の競争力が落ちていくということがあり得ます。しかも、原発の代替となるようなベースロードに成り得ない。これは、蓄電池を入れることによってできますが、風が止むとかあるいは雨が降るとかによって、影響を受けます。

 脱原発は、空洞化、雇用の喪失、貿易赤字、そして財政破綻の可能性を高めます。ぜひ、脱原発の前に「実現性・代替可能性」を確認したいという風に思っています。ぜひともそうありたいと思っています。私は飯舘村の子どもたちにも一昨日会ってきましたが、それが僕らの子どもたちに対してやるべきことであって、今日の孫さんとの「トコトン議論」は、そういう形で「未来のために、どうあるべきか」を語っていきたいという風に思っています。僕からは以上です。どうもご清聴をありがとうございました。

■孫正義氏からの意見・反論

孫正義

孫正義: 立派なプレゼンだと思いますし、それなりのポイントを突いておられる。僕は堀さんと「トコトン議論」したいというのは、別に堀さんを言い負かしたいとか、堀さんとだけ議論をすれば、それで終わりということではない。原発について、いろんな擁護する方がおられるが、堂々と名を名乗って、討論の場に出てくる人はなかなかいない。堀さんであれば「トコトン」真正面から議論をできるのではないかということで、それは私の堀さんに対する高い評価だという風に、ぜひご理解いただきたい。今日はその上で「トコトン議論」したいと思います。

 堀さんが、最後に結論として「原発の事故については猛省をして、悲しみと苦しみを乗り越えて」という風に仰いましたけども、今のプレゼンを聞いていて、猛省していないのではないかと。猛省しているのであれば、その悲しみと苦しみを乗り越えてと・・・悲しみと苦しみもまだ乗り越えていない。それは、実際に直接的な被害を受けていない方だから、「悲しみと苦しみを乗り越えて」と言えるのではないか。

 現に今でも福島で、農家で牛を飼っていて、あるいは農作物を抱えている、幼い子どもを抱えた母親とか、全然まだ悲しみも苦しみも乗り越えていない。悲しみの真っ最中で、その方々の問題が何も乗り越えていないにもかかわらず、われわれは東京にいて、あるいはそのほかのところにいて、のうのうとしている我々が、悲しみと苦しみを乗り越えてとか言える立場ではない。それは経団連(日本経済団体連合会)の立派な方々にも、同じことを僕は申し上げたい。

 猛省をしてということは、つまり原発におけるいろいろな問題点を、すべて解決したなら「猛省をしました」と(言える)。猛省をしてかくかくしかじかの解決をしました、瓦礫を全部、高放射性物質をどんどん巻き散らかしている、放射線を巻き散らかしているという状況を解決した状態であれば「猛省をした」という風に僕は言えると思うんですけど、まだその状況ではないのではないか。

■被災地の方々の気持ちを本当に理解しているのか?

 いま堀さんは福島に乗り込むに当たって、IAEA(国際原子力機関)に勤めておられる専門家であるご自身のお兄さんに「大丈夫だ」と確認してから行かれたと仰いました。自分の信頼できる家族に、そういう専門家を持っておられる堀さんは、まだラッキーだ。普通の人は、そんな立派な専門家を家族に持っていないわけです。私が行く前に、「大丈夫かな」とそんなに本音で聞ける相手を家族に持っていない。なぜ堀さんが、家族の信頼するお兄さんに大丈夫かどうかを確認したかと言うと、それは心のどこかに「大丈夫かな」という心配が、いささかあったから確認したのではないか。その、いささかの心配を思い切り振り払って、自分の身近なお兄さんが言うから「大丈夫だろう」ということで、振り払って行ったのではないか。そういうことができる家族を持っている人というのは限られますよ。

 ましてや、いま福島にまだ今現在住んでおられる2歳3歳のお子さんを持った母親とかは、その心配から夜も昼も抜けられないという状況を、毎日過ごしている。でも自分の旦那さんが、家族が福島で仕事をしていて、自分の先祖代々の土地がそこにあって、なかなか逃げ出したくても逃げ出せないという状況の中で、毎日苦しんで嘆き悲しんでおられる方々の気持ちを本当に理解しているのか。

 再生可能エネルギーをやると(電力料金が)高くなりますと。本当ですか? あとで僕のプレゼンに出てきますが、10年間で経産省(経済産業省)の試算によると、200円くらい高くなる。10年後に一家庭当たりの平均コストで200円くらい上がる。200円分とは、コーヒー1杯の値段ですよ。1カ月にコーヒー1杯分の値段を各家庭が我慢してでも、自分の子どもたちとか、家族だとかいろんな人々の幸せ、安全を願うというのが大人の優しさではないかという風に、僕は本当に心底思うのです。それから、産業界がもうこの日本ではやっていけないと。70%コストが上がると。その70%上がるというコストは、どういう試算をしたのか。それについては、ぜひ詳しくその内容をお聞きしたい。

 コストが上がるということについては、一体どのくらいの期間上がるのか。本当にそもそも原発の正確なコストはいくらなのだろう、ということについても僕はいろいろな疑問がある。その辺についても今からちょっと触れさせていただきます。今日は「トコトン議論」ということで、皆さん終電の時間があったら帰らないといけないと思いますが、僕は納得するまで今日はいる。

■「政商」と言われているが・・・

 そういうことで、やっぱりこれは、本当に嘆き悲しみ苦しんでいる人たちのために、僕は堀さんとの議論というより、本当は経団連のお偉いさん方と「トコトン」やりたい。でも、そんなに長時間あの方々が本音で議論できるのかどうか分かりません。堀さんは、そういう意味で、単なる感情論ではなくて、立派に理屈も分かっておられて、今日は理論的議論ができるということで来ております。

 あともう一つは、年間で3兆円燃料費が上がると。それについても何がどの様に3兆円上がるのか、その辺の試算についても、もしご存じであれば詳しくお聞きしたい。それから、冒頭で「脱原発」がソフトバンクの本業だと、最近はそれを本業にしておられるというコメントがありましたが、僕はそんなことを言った覚えはない。僕は、ソフトバンクの本業はあくまでも「情報革命」だと。今、1日のうちの時間のかなりを、実はこの自然エネルギーあるいは原発議論のところに取られています。堀さんからは「政商」だとか言われていますが・・・。

 現にわが社は、1年間で6千数百億円の営業利益を現在出しています。年間数百億円増益しています。売り上げが3兆円を超えています。上場会社の僕が、最近は1日の半分以上くらい(を自然エネルギーあるいは原発議論の時間に)使いすぎて、役員にも社員にも怒られています。株主からも僕が「原発だ、自然エネルギーだ」と言う度に株価が下がると(言われている)。上場会社の社長で、利益を上げる責任を持っている立場の僕が、(1日の)半分を使うということは、いま6千数百億の利益を上げている仕事をほっぽらかして、かたやそれに見合うだけの利益を、この自然エネルギーで稼いで初めて、株主の立場から見合う仕事をしたと言われる訳です。でも当然、この自然エネルギーがそんな利益を稼げる訳ではないし、稼ごうとも思っていません。ですから、本当に純粋にお金をもっと儲けたくて、お金が大好きで、お金が人生の一番最も大切なことだと思っているのであれば、本業だけに専念する。その方が上場会社の社長として、立派に自分の責務を忠実に果たしていることになる。この事故が起きてから、そのことで僕はすごく悩んだのです。「本当に僕が、上場会社の社長として、本業以外の事にこんなに必死になっていいのだろうか」ということを悩んだ。ですから、銭金のことのために、この自然エネルギーだ、脱原発だみたいな話をしているということで、本当にそういう風に批判を受けるのはどうかなという風に僕は思います。

=転載終了=  

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