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どうなる放射能汚染物の処理【4】“原発並み”の放射能抱える東京の下水道施設(ECO Japan 8/2) 小出さんが的確なコメント「普通の放射性物質を取り扱う施設と同じ常時モニタリングなどの措置や高性能フィルターなど設備が必要」 8月3日
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http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110729/107086/?ST=print
下水道施設が放射性物質の集積地点となっている──。
下水道が生活の場から放射性物質を取り除くという非常に重要な機能を果たしている反面、もともと放射性物質を取り扱う施設になっていないことによる外部への流出による“二次汚染”が懸念されている。
原発並みの放射能
東部スラッジプラントの周辺を調査し、同プラントからの放射性物質の再飛散の危険性を指摘した神戸大学大学院教授の山内知也氏がとくに懸念していたのは下水道施設に集まる放射性物質の量である。
「焼却灰で1kg当たり1万ベクレルとか2万ベクレル。それが1日に100t。(下水道施設には)すごい量の放射能があることになります。普通の研究室が持っているレベルじゃない。これは原発並みですよ」
下水道施設に集まる放射性物質の量について、東京都議会議員の柳ヶ瀬裕文氏が試算し、6月24日に都議会で発言している。
「東京都から提出された1日当たりの汚泥の量、焼却灰の量、そして放射能の量、こういったものを掛け合わせていくと、1日当たり、東京都全体の下水汚泥の総放射能量、これは約21億5000万ベクレルになります。焼却灰の放射能総量、これは17億6000万ベクレルなんですね」
1日で約21億5000万ベクレル。これが東京都の下水道施設に集積される放射能量という。仮にこの状況が1年間続くとすると、7847億5000万ベクレルである。これほど大量の放射性物質が集積される場所は原子力関連施設以外ではまず考えられない。
柳ヶ瀬氏の都議会での質疑の引用を続ける。
「とてつもない量の放射能、放射性物質を扱っているわけですが、ポイントは、放射性物質は焼却してもどこかに消えることはないということなのです。その姿が気体になったり、固体になったりはするものの、トータルの放射能量、これが減ることはありません。つまり、この汚泥に存在した21億5000万ベクレル、焼却灰となって捕集した17億6000万ベクレル、この数字を引いた1日3億9000万ベクレル、これが行方不明となっているのです。どこに行っているかわからない。都は、この3億9000万ベクレルがどこに行ったのか、これを合理的に説明することができるのでしょうか」
この質問に東京都の松田二郎下水道局長は答えなかった。3億9000万ベクレルの行方について、柳ヶ瀬氏が質疑の中でこう述べている。
「大きな可能性としては、これは2つあります。排ガスとなって大気に排出されている、もう1つは、水処理によって溶けている、そのどちらかです」
この行方不明の1日3億9000万ベクレルが施設外に出ているとしたらどうだろうか。大気中への1年間の放出量は1423億5000万ベクレルにおよぶ。これがどのような数字なのか。
たとえば、青森県六ヶ所村に、原発から発生する使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す六ヶ所再処理工場がある。この六ヶ所再処理工場が1年間に放出することを許されているのはヨウ素131で170億ベクレル、セシウム137で11億ベクレルである。これらを合わせた181億ベクレルに比べると、東京都内の下水道施設から放出される放射性物質は約8倍に及ぶのだ。
施設ごとの試算でも、たとえば新河岸水再生センター(板橋区)では1日で約1億3700万ベクレルが行方不明となっている。年間で約500億ベクレルに達し、六ヶ所再処理工場の3倍近いとの結果が出ている。
さらに調べていくともっと恐ろしい数字にいきあたった。それは東京都の下水道施設における放射性物質の放出量が原発並みであることを示していたのだ。以下に具体的に示す。
今回の放射能汚染を引き起こした福島第1原発が1年間に放出する最大量として定められているヨウ素131の量は4800億ベクレル。柳ヶ瀬氏の試算からヨウ素131の行方不明分のみを取り出すと1日で1億4800万ベクレル。1年間では540億ベクレルとなり、福島第1原発の9分の1の放出量となる。
福島第1原発には1号機から6号機まで6基あり、このヨウ素131の年間放出許容量は6基を合わせた値となっている。単純計算すると1基分では800億ベクレルとなり、東京都の下水道施設はその3分の2と原発1基分に迫る放出量となる。これは突如として都内に小型の商業用原発が1基出現したのと変わらないといってよいだろう。
実は、柳ヶ瀬氏が試算に使った6月上旬の採取データかなり控えめなデータなのである。東京都が最初に汚泥や焼却灰の放射性物質を調べた5月中旬採取のデータで試算すると、汚泥中の放射能量が約33億ベクレル、焼却灰中の放射能量が約21億ベクレルで、行方不明量が12億ベクレル、1年間だと4380億ベクレルである。
これは六ヶ所再処理工場の年間放出量の24倍に達する。福島第1原発とのヨウ素のみの比較でも、1年間で1314億ベクレル(1日3億6000万ベクレル)と原発1.6基分におよぶ。もはや原発並みどころか“原発超え”とすらいえるかもしれない。
ちなみに都議会では、のちに柳ヶ瀬氏が指摘した放射能の収支が問題になった。理由は、(1)汚泥や焼却灰のデータが2009年度のものだった、(2)別の採取日で計算した場合、焼却灰の放射能量が汚泥の放射能量を上回ることがある──ことから、「根拠のない計算」で「都民の不安をあおるパフォーマンス」だと鈴木章浩議員が指弾したのである。
これに対して柳ヶ瀬氏は「(1)は都が今年のデータを出していなかっただけで、(2)はむしろ測定データに問題があるのではないか」と反論する。
実際に柳ヶ瀬氏が試算に使った2009年度ベースの下水汚泥や焼却灰の量と今回都が示した量を比較すると、2009年度データのほうが控えめな量となっており、都が示した直近のデータで試算し直すと、むしろ汚泥中の放射能総量は約21億5000万ベクレルから約23億3000万ベクレルへと増大する。行方不明となっている量は3億3000万ベクレルへと減るが大筋で間違っているわけではない。よって(1)は都がデータを公表したことにより、より正確になったことを喜ぶべきだろう。
(2)の指摘のように収支が取れないことがあるのはたしかだが、これについては都も認めている通り、サンプリングの誤差や測定のタイミングなど様々な要因がからむ。それはデータに問題があるのであって、試算がおかしいとこの時点で責めるような話ではあるまい。こういう試算をすることが間違っているわけではなく、長期にわたってきちんとした試算をして収支をとることが必要なのである。
東京都は「99.9%以上回収」と主張
質疑の中で都の松田下水道局長は、下水道施設周辺への二次汚染の可能性について次のように反論している。
「下水汚泥の焼却によって生じる排ガスやその影響についてでございますが、排ガスは煙突から排出をされる前に、細かいちりなどを除去できる高性能フィルターなどに通しまして、その後、さらにアルカリ性の水によって洗うことで、固形物を99.9%以上回収し、焼却灰が施設外へ飛散することのないよう適切に管理をしております。水で洗った後の排ガスの成分を専門家に委託して測定をした結果、放射性物質は検出されておりません。このため、周辺環境への影響はないと考えております」
このように東京都は実測した結果、問題なかったというのだが、どういうわけか調査結果が出てから1カ月以上が経つ7月29日段階でも、いまだにその測定結果を公表していない。筆者が入手した調査報告書によれば、測定をしたのは東部スラッジプラントの1号炉で、6月14日のことだ。その測定結果には放射性のヨウ素131のほか、セシウム134と同136、同137が「検出限界未満」となっている。
ところが、この報告書を何人かの専門家にみてもらったところ、適切な測定ではないと口をそろえる。名古屋大学名誉教授の古川路明氏は「吸引空気量が4m3くらいで、測定が1000秒(約17分)ですか。吸引量も測定時間も短すぎます。この測り方ならどこでも検出限界以下ですよ」と驚いたように話す。
測定条件をみていくと、排ガスは焼却炉から集じん機、洗煙塔、煙突と通り、施設外へと排出されるのだが、測定はこのうち洗煙塔と煙突の間にある窒素酸化物などの測定のためつくられた迂回路に捕集フィルターを設置し、ポンプで空気を引き込むことでフィルターに粉じんを吸着させる。この時は1分あたり24Lの排ガスを吸引し、3時間38分捕集した(計約3.9m3)。こうして採取した捕集フィルターをゲルマニウム半導体検出器という機械にかけて放射線を測るのだが、この計測時間が1000秒となっている。古川氏が続ける。
「排ガスは量がものすごい多いわけですが、捕集用のフィルターに吸着する粉じんはきわめて微量で目方はほとんどありません。そういう微量なものですから採取も2〜3日間ずっと吸引したり、測定も一晩くらいかけることも珍しくありません。少なくとも100m3、できれば1000m3くらいは(吸引量が)欲しい。ですからケタがぜんぜん違います。それにこんなに(ゲルマニウム半導体検出器で)短く測るのはよっぽど(放射線量が)高いものを測るときくらい。異例ですよ。恣意的とまではいわないですが、いい加減にやっているのは間違いない」
京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏も同意見だった。
「私たちは3月15日に東京都の空気を測定しました。その時どうやってやったかと言いますと、1分間に500リットルくらい、ハイボリュームエアサンプラー(という機械)で1時間吸引しました。『500L』かける『60分』ですから、3万Lの空気を吸引してその中に含まれている放射性物質の量を調べました。そのときはちょうど(風向きが福島から東京に向いていて放射性物質が)飛んできていた時なので、ヨウ素やセシウムがびっくりするほど含まれていました」
「私たちが使っているのと比べると(吸引量が)20分の1くらいのもので、約3時間くらいしか(空気を)採ってない。本当ならもっともっと採るべきだと思うし、1000秒の測定というのは……。私なんかは環境の放射能の測定をずっとしてきた人間ですけど、原子力発電所の汚染を見つけようと思うと、1つの試料をゲルマニウム半導体検出器で1週間かけて測定する。1日が8万6400秒で、その7倍ですから60万秒くらい。(都の測定時間は)もう圧倒的に少なすぎる。もっとちゃんとした測定をすべきです」
採取量も、採取時間も足りない
採取する量が少なすぎ、計測時間も短すぎる。となれば、まともな測定結果が出るわけない。それほどずさんな測定だったというのが専門家の見解である。
この間、東京都は「下水汚泥焼却炉の煙突での放射性物質を測る方法について、公定法がない」としきりにこぼしている。経済産業省放射性廃棄物規制課によれば、「今回の事故のような事態は想定されていなかった」ため、下水道施設への放射性物質の流入は当然ながら想定されてこなかった。よって規制値がないのだという。 規制値すらないのだから測定方法など定められているわけがない。
それ以前に、原子力関連施設における排ガス中の放射性物質の測定方法について法的な規定がないのだ。ダイオキシンや環境基準に定められている有害物質が法規制の中に測定方法まで明確化されているのに比べても、きわめて異例である。ほかの法制度から切り離して特別に管理してきたはずの放射性物質の測定方法が決められていないというのは明らかに国の不作為といってよい。その点で東京都に同情すべき余地はある。
ただし、原子力安全委員会が1977年に決定し、2001年に改訂した「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」が標準的な測定方法を示している。そこには「測定下限濃度を満たすための代表的な測定条件」が掲げられており、ヨウ素131やセシウム134、同137については、「50L/分で1週間採取」とされ、ゲルマニウム半導体検出器の計測時間は「4000秒」とされる。
東京都の測定法と比較すると、都の2倍以上の吸引量で、46倍となる丸1週間の採取をして、ようやく4倍の測定時間が許されることになる。ちなみにこの指針で求められる検出限界濃度は都の測定の100分の1近い。都はこの指針の存在についても知っていた。にもかかわらず、あえて指針よりもはるかに短い時間と少ない量のサンプリングとし、計測時間もずっと短くして測定した。これはもはや放射性物質が検出されないような測定方法を最初から選択した“放射能隠し”ではないか。
改めて東京都下水道局に排ガス測定が適切だったか聞いた。
「モニタリング指針に比べてどうだとかいう人もいるが、下水汚泥に当てはまる測定方法が明確でないので、そういうのも参考にしながら(測定方法を)決めた。私どもとしては国の通知で示されている濃度限界が唯一の基準と思ってますので、それ以下であれば、“いわゆる定められた基準以下”でクリアとなる。意図的に短くしているんじゃなくて、濃度限界があるなかでそれをクリアする方法を考えた。安全と定められている濃度限界があって、それ以下で検出されなかったわけですし、学識経験者に吸引時間とかガス量とか測定時間についても、きちんとお示しして評価いただいている。私どもとしてはそのやり方で妥当と考えている」(小団扇浩・環境管理課長)
都は測定結果が出た6月21日から1カ月以上もこの結果を公表していない。その理由は「下水の煙突から測る方法について公定法がない。ですので実際にやった方法が妥当かどうか検証も必要。そういうことについて、大学の先生から見解などをいただいておりましたので時間がかかっている」(同)というものだ。
その学識経験者による「妥当」との「評価」が具体的にどのようなものなのか。「やり方とかをお示しして妥当だという回答をいただいてる」(同)というだけで、報告書があるわけでも、なぜ妥当と判断したのかの説明もない。こんなことに1カ月以上かかったというのである。
取材時、小団扇課長は「安心していただくために」と繰り返していたが、通常より厳しい測定条件で測って「だから安心してください」というならまだしも、はるかにずさんな測定方法で「安心しろ」といわれて納得できるひとがどれだけいるだろうか。
ましてや東京都の下水汚泥焼却炉の排ガス処理設備は原子力施設に設置された焼却炉に比べて簡易なのだ。都によれば下水汚泥焼却施設の排ガス処理設備は、セラミックフィルター、バグフィルター、電気集じん機のいずれかの「高性能フィルター」に、アルカリ水を噴霧する湿式スクラバーという2段構成となっている。
だが、これが原発にある放射性廃棄物の焼却炉の場合、前段にセラミックフィルターなどを採用するだけでなく、後段に「高性能フィルター」として、さらに微細な粒子も捕捉できる、ガラス繊維のろ紙を重ねたヘパフィルターを設置するのが当たり前である。柏崎刈羽原発のように前段のセラミックフィルターを二重にした上でヘパフィルターを設置するという3段構えも珍しくない。つまり、東京都のいう「高性能フィルター」を二重にし、さらに高性能なフィルターまで配置していることになる。それだけ都の設備は放射性廃棄物を扱うようになってないということだろう。前出・京大の小出氏はこう提言する。
「トータルとして人々の被曝量を減らさなくてはいけない。やらなきゃいけないことはわかっていて、(焼却炉の)排気系にできるだけ出さない。そのためには性能の良いヘパフィルタを追加して設置するということをまずやるべきだと思います。それに普通の放射性物質を取り扱う施設であれば、排気のところからリアルタイムでまず測っていく。もう1つは長時間吸引して試料をとって長時間測定する。そういうやり方が必要だと思います」
東京都は、計3カ所の下水汚泥焼却炉で測定を実施し、いずれも放射性物質は検出していないとの“安全宣言”を近く発表する。もし本気で都民の安全を考えるのであれば、こうした提言に耳を傾けるべきではないか。
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