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福島第1原発:「循環注水冷却」減らぬ汚染水
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110804k0000m040148000c.html
毎日新聞 2011年8月4日 0時27分(最終更新 8月4日 0時41分)
東京電力福島第1原発事故で、高濃度の放射性汚染水を浄化して原子炉の冷却に使う「循環注水冷却」へ7月2日に完全移行して、2カ月目に入った。浄化システムの稼働率は改善したものの、運転は不安定で、建屋やトレンチ(トンネル)の汚染水はむしろ増加傾向にある。早期の事故収束、避難対象区域の解除のためにはシステムの安定運転は不可欠となっており、予断を許さない状態が続いている。【中西拓司、関東晋慈】
◇稼働率低迷、65パーセント
「トラブルは減ったが、安定運転に達したとはまだ断言できない」。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は3日の記者会見で述べた。東電によると、浄化システムの2日までの1週間は大きなトラブルがなくフルに運転できたため、稼働率は約74%で前週(約58%)、前々週(約54%)の7月後半に比べて改善した。だが、通算の稼働率は約65%で、当初目標の90%、修正目標(7月)の70%にすら届いていない。
浄化システムは、放射性物質を除去し、原子炉の冷却水に再利用する「循環注水冷却」の要。しかし突貫工事の影響か、「汚染水を除去する薬液漏れトラブル」(7月10日)▽「停電による自動停止」(同21日)▽「ポンプ装置の停止」(同24日)−−などトラブルが頻発した。汚染水の処理も、配管内の汚泥の付着などの影響で本来の性能を下回っている。東電は約4キロに及ぶ配管のうち汚泥が詰まっているとみられる部分(約100メートル)を避けて水を通すバイパス工事に4日にも着手する方針だ。
稼働率が低迷する一方、本来は減少するはずの施設内の汚染水はじわじわ増えている。東電によると、1〜4号機の原子炉建屋やタービン建屋にたまっている汚染水は2日現在、12万770立方メートル(ドラム缶換算で60万本分)で、前週より120立方メートル増加した。
7月19〜20日にわたって大雨を降らせた台風6号の影響のほか、浄化システム停止時に近隣ダムからの淡水を冷却水として代用したことから、汚染水の増加につながったとみられる。東電は3日、この1週間の稼働率が上昇したことを受け、来週以降の目標稼働率を70%から90%に修正することを明らかにした。
稼働率が今後70%で推移した場合、現在施設内にある全汚染水を処理できるのは12月上旬、90%を達成できた場合は11月下旬となり、安定運転が実現できれば、東電が目標に掲げていた年内までの汚染水処理を完了できる可能性もある。一方、50%台にとどまれば来年1月下旬以降にずれ込む恐れもある。
◇「緊急時避難準備区域」の解除要件
汚染水浄化システムの安定運転は、福島第1原発事故の収束の成否を左右するだけでなく、原発から半径20〜30キロ圏内に設定された「緊急時避難準備区域」の解除要件にもなっている大きな課題だ。
「原子炉の温度が100度以下の冷温停止状態になれば、放射性物質を含む蒸気発生も抑制され、周辺の空間線量率はさらに低下することが期待できる」。奈良林直・北海道大教授(原子炉工学)は、システムの果たす役割についてこう解説する。
東電は、6月20〜28日に測定された放射線量が全て原子炉建屋から放出されたと仮定した場合、原発敷地境界の線量は年最大1・7ミリシーベルトと試算。収束までのスケジュールを示した工程表のステップ2(7月中旬から3〜6カ月後)が終了する年明けまでに、同1ミリシーベルト以下に下げることを目指している。
1日現在の圧力容器底部の温度は1号機93度、2号機121度、3号機106度。炉心からの蒸気を減らすためには、原子炉への注水量を増やして温度の高い2、3号機を100度以下に抑え込む必要がある。しかし、現在は浄化システムの運転が安定せず、汚染水も増加傾向にあることから、汚染水の発生量を減らすため注水を絞っているのが実情だ。「汚染水の発生に気兼ねすることなく、原子炉に注水できる浄化システムの安定運転は絶対に必要。100度以下に抑制できれば、敷地境界線量を目標の年1ミリシーベルトまで引き下げることも視野に入る」と経済産業省原子力安全・保安院幹部は指摘する。
内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長は7月の記者会見で、「循環冷却(浄化システム)の安定運転が最大の課題」と指摘したうえで、原子炉からの放射性物質の放出が低いかどうかが解除を検討するポイントになるとの認識を示した。政府は月内にも解除に向けて地元自治体と協議に入る方針だが、浄化システムの安定運用がその前提となっている。
奈良林教授は「避難している福島県民のことを最優先に考え、できるだけ早く冷温停止を実現すべきだ。浄化システムの稼働率が落ちないよう、現行のように単一ルートではなく、さらなる複数系統化も検討すべきだ」と話している。東電は3日、現在の除染装置に加え、バックアップの役割を果たす東芝などのセシウム吸着装置「サリー」の設置計画を保安院に提出。今月中旬にも「複線化」に着手する方針だ。
◇汚染水浄化システム
汚染水に含まれる放射性物質を、(1)油分離装置(東芝)(2)セシウム吸着装置(米キュリオン社)(3)除染装置(仏アレバ社)(4)塩分除去装置(日立など)−−の四つのプロセスで除去するもので、6月28日に本格稼働した。設置費用は約531億円で、原発施設内にある約12万立方メートルの汚染水を処理した場合、処理費用はドラム缶1本当たり9万円弱の計算になる。
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