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東京電力福島第1原子力発電所の事故後、民主党内で原発事故の賠償のあり方を規定した原子力損害賠償法(原賠法)の改正案がひそかに作成されていたことが分かった。現行法ではあいまいな国の責任を明文化することで被災者支援に万全を期す内容。現政権は「一義的には東電の責任」と応じなかったが、与野党は改正で合意しており、次期政権ではこの案をたたき台に改正議論が進むとみられる。1961年の制定から半世紀。改正案からは「重大事故はあり得ない」との安全神話の下で置き去りにされてきた現行法の「欠陥」が浮かび上がってくる。
「東電を免責にすると賠償主体がなくなるって知ってますか?」。5月、財務省の勝栄二郎事務次官は大手行首脳にこう問いかけた。
現行の原賠法では、原則として事故の賠償責任は電力会社に負わせるが、「異常に巨大な天災地変の時は、この限りではない」(3条ただし書き)と免責条項を設けている。だが定義はあいまいで、「国の賠償」にも触れられていない。
電力会社が免責されなければ賠償総額は巨額に上り破綻は必至。それでも国は「必要な援助を行う」と定められているだけで、賠償責任は明確ではない。現行法では、免責でも、電力会社の破綻でも賠償主体がなくなって支払いが滞りかねない。
◇被災者を最優先
2万人を超す死者・行方不明者を出した今回の震災が「異常に巨大な天災地変」に該当しないのか。
東電に融資する金融界は当初、東電の免責を主張した。だが国の負担増につながる「東電免責」を避けたい勝次官の言葉に対し、この大手行首脳は「賠償主体がなくなるとすれば、(原賠法は)欠陥法ですね」と応じ、被災者救済を最優先することに理解を示した。
「東電が免責の場合、賠償主体がなくなることに留意すること」。政府内で東電に対する賠償スキームの検討が本格化した5月6日の関係閣僚会議。会議後に回収された資料にも法の欠陥がこう記され、議論は東電を存続させることを前提に進められた。
「異常に巨大な天災地変」を「関東大震災、東日本大震災を超える地震、津波」と定義し、電力会社が原発事故の賠償を免責された場合、政府が賠償する。民主党内で練られていた原賠法の改正案にはこう明記されている。現行法で「国が必要な援助を行う」としか規定されていない天災地変によらない事故は、電力会社の賠償限度額を定め、超過部分は「政府が賠償する」とした。
改正案を作成したのは、民主党の吉良州司・前外務政務官を中心とするメンバー。党の原発事故影響対策プロジェクトチーム(PT)や首相官邸に「法の欠陥を放置してきたのは政治の怠慢ではないのか」と法改正の必要性を訴えた。枝野幸男官房長官が「一義的には東電の責任だ」と述べるなど政府側の動きは鈍かったが、原発事故被害者の賠償スキームを決めた「原子力損害賠償支援機構法案」の修正協議では、原賠法の「欠陥」が焦点になった。菅直人首相は7月に入り、原賠法の「欠陥」を認め、民主、自民、公明の3党は7月、法改正することで合意。改正論議は、民主党内部の案がたたき台になる見通しだ。
◇生かさず殺さず
「日本史上最大の東日本大震災が『異常に巨大な天災』に当たるのは明白」
法の欠陥を突くように、東電の株主である弁護士が6月10日、国を訴えた。原賠法の免責規定を適用しなかったために株価が下落したとして、150万円の損害賠償を求めた。8月1日に東京地裁で初弁論が開かれるが、政府内からも東電の免責を巡る訴訟は相次ぐとの見方が出ている。
「現行法では東電に賠償主体になってもらうしか方法はなかった。今後も(東電を)生かさず殺さずだ」。政府高官はこう語り、東電を賠償主体として存続させることに意欲を示す。
◇原子力損害賠償法
原子力発電所などで周辺住民や環境などに損害を与える事故が起きた際、被害者を救済するため定められた。制定は1961年。過失の有無にかかわらず、電力会社など事業者に賠償責任を課す。賠償総額が巨額で電力会社の負担能力を超えることが想定される場合、政府が「必要な援助を行う」とだけ定める。「異常に巨大な天災地変」による事故の際は事業者を免責する規定もあるが、福島第1原発事故では適用されなかった。
毎日新聞 8月1日(月)2時35分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110801-00000010-mai-pol
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