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◇損失不安、財政不安、電力不安 巨額社債の存在もネック
「先進諸国には企業が債務超過になれば、(株主や金融機関などの)ステークホルダー(利害関係者)が粛々と責任を取る極めて優れた法制度が用意されており、日本も例外ではない」。7月13日、国会内で開かれた超党派議員の勉強会。政策研究大学院大学の福井秀夫教授は東電の会社更生法による破綻処理を主張。東電に融資する金融機関や株主の責任をあいまいにしたまま電気料金値上げという形で国民に負担をさせる政府の支援策に異を唱えた。
金融界には東電が破綻すると市場が混乱するという見方があるが、福井氏は「単なる脅し文句。金融安定化のスキームも存在する」と指摘。電力の安定供給についても「破綻処理しても日本航空(JAL)の飛行機が飛んでいたように、事業は停止しない」と主張する。
東電社内でも破綻処理を望む声は少なくない。幹部の一人は「これからは賠償だけに追われる会社になる。もう夢も希望もない」と話す。転職を検討し始めた管理職もおり、別の幹部も「会社更生法を申請して『新生東電』として歩みたい」と明かす。退職者が出始めているだけでなく、社員のモラール低下が「第2の福島事故を招かないか」という指摘も出ている。一方、東電の勝俣恒久会長は法的整理には否定的で、あくまで民間事業者としての存続を図る方針だ。
東電への巨額融資を抱える大手行は東電破綻を防ごうと素早く対応した。震災直後、主力行の三井住友銀行の役員は「電気が止まったら銀行取引のある全国の中堅企業が死ぬ。東電から支援要請が来たら満額応じる準備をすべきだ」と行内で訴えた。3月末には同行を含む大手3行などが総額2兆円近い緊急融資を実行し、当面の資金繰りを支援。融資残高は震災前と合わせて計約4兆円に達した。東電の破綻は銀行の巨額損失を意味し、緊急融資の責任について経営陣が株主代表訴訟に問われかねない。東電と銀行は「一蓮托生(いちれんたくしょう)」となった。
「債務超過になって被害者が賠償を受けられなくなる不安を取り除くのが一番です」。7月上旬、国会内で永易克典・三菱UFJフィナンシャル・グループ社長と奥正之・三井住友フィナンシャルグループ会長ら大手銀幹部は自民党幹部を前にこう切り出した。表向きは全国銀行協会の新旧会長の交代あいさつ。だが、話の中心は、東電が国の支援で被害者への賠償責任を果たしながら事業を続ける「原子力損害賠償支援機構法案」の成立を促すこと。東電をつぶさせない要請だった。
同法案のたたき台作りに積極的に関与した三井住友銀行。巨額の財政負担を警戒する財務省。電力の安定供給を最優先したい経済産業省も東電の存続を「至上命令」(幹部)と位置づけた。「東電をつぶさない」点で、3者の思惑は一致した。
東電を破綻処理できないもう一つの理由が、東電の社債の存在だ。電気事業法には、仮に電力会社が破綻した場合、社債は賠償債権よりも優先して債務返済される規定がある。東電が破綻すれば、賠償請求権が社債の後回しになり、被害者が十分な賠償を受けられなくなる恐れがある。
福島県南相馬市の自動車整備工の男性(25)は、津波で家を流された女性と2人で川崎市の避難所で生活する。実家は福島第1原発から20〜30キロ圏内にあり、放射線への恐怖から当分住む気にはなれない。「東電のせいで仲間もばらばらになった。つぶれてしまえと思うこともある。でも、つぶれれば賠償してもらえないかもしれない。どこまで東電に振り回されればいいのか」と苦しい胸のうちを語る。
被害者への賠償より優先され、手厚く保護されるはずの東電社債だが、投資家も揺れた。
「本当のところ東電は大丈夫なのか」。6月、イタリアの大手年金運用会社の幹部は、国内の格付け会社に東電の存続について不安の声を寄せてきた。震災前は国債との金利差わずか0・1%という信用力の高さで「疑似国債」(米大手証券)とも言われ、国内外の投資家が東電債を運用に組み込んできた。だが震災後に東電債は急落(金利は急上昇)し、金利差は一時4・6%にまで拡大。東電ショックは国内だけにとどまらず、海外にも広がった。「信用力の高い東電債が紙くずになれば、巨額の財政赤字を抱える日本の国債にも大きな影響が及びかねない」(財務省幹部)との懸念も広がった。
投資家の不安をさらに助長したのが日本政府の混乱ぶり。東電の賠償支援の枠組みづくりにもたついたうえ、与謝野馨経済財政担当相が一時、東電免責を訴えるなど閣内のちぐはぐな発言も目立った。国内生保の運用責任者(51)は「投資家の脳裏には、日本政府が当初方針を翻してJALを破綻処理した残像が焼き付いている。本当に信用していいのか、と」。東電社債の価格はやや戻しているが、電力債は発行できない状態が続いている。「菅直人首相が交代すれば東電への対応も翻りかねない」との懸念も出ており、市場の不安は当分払拭(ふっしょく)されそうにない。
◇原賠法−−半世紀前消えた「国家補償」 「他産業に波及」大蔵省反対
原子力損害賠償法(原賠法)の「欠陥」から生じる賠償主体の空白。東日本大震災を経て同法の見直しが今後進む見通しだが、事態を懸念する声は半世紀前の立法過程で上がっていた。
原賠法の制定は1961年。政府はこれに先立ち、民法学の権威だった故・我妻栄氏を部会長とする原子力災害補償専門部会を原子力委員会に設置。原子力災害のあるべき損害賠償について助言を求めた。専門部会は「事業者がカバーし得ない損害が生じた場合は国家補償をなすべきだ」と答申したが、立法過程ではこの国家補償が抜け落ちた。
大蔵省(現財務省)が「国が直接賠償責任を負うような前例は明治以来ない。前例をつくることは他の産業災害にも波及し、財政負担は膨大になる」と反対したためだ。専門部会のメンバーの一人は今「大蔵省の反対で、理想から離れた」と証言する。
「欠陥」を抱えた原賠法は、86年に旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発事故でも、99年の茨城県東海村JCO臨界事故の際にも見直されることはなく、未曽有の被害をもたらした東日本大震災が発生するまで顧みられることもなかった。(田畑悦郎、谷川貴史、三沢耕平、井出晋平、野原大輔、永井大介、大久保渉、浜中慎哉が担当しました)
毎日新聞 2011年8月1日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/biz/news/20110801ddm003010149000c.html
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