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更新日時: 2011/07/29 06:02 JST
ブルームバーグ
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920012&sid=aXQQ6RoIcMZg
7月29日(ブルームバーグ):気温38度に近づいた7月のある朝、福島県の学校では生徒たちがマスクも付けずTシャツ姿で校庭を駆け回っていた。生徒たちが肌をさらす戸外の放射線量は、原子力発電所の作業員が1年間に浴びる量に相当していた。
高校の国語教諭として25年務めた宍戸俊則教諭は、生徒たちにマスクをつけ長袖を着て肌を守るよう2カ月前から注意してきた。そのアドバイスが顧みられることなく終わったのは暑さのせいではない。学校側が生徒への注意喚起を控えるよう指示したためだ。宍戸教諭(48)は今週、県立福島西高校を退職した。
「生徒の被ばくを止めることもできず、呼びかけることもできない状態から逃げ出したかったのかもしれません。今、退職する身になって、ようやく生徒たちに福島にいることのリスクについて話すことが可能になりました」と語った。
地震と津波で東北地方が壊滅状態となった3月11日以降、政府は住民47万人を避難させた。そのうち16万人は福島第一原子力発電所の放射線漏れによる危険を逃れるために避難した人々だ。都道府県としては日本で3番目に広い福島県には、27万1000人の子供を含む200万人以上の住民がとどまっている。
文部科学省学校健康教育課の石田善顕課長補佐によれば、政府は放射線レベルを注意深く監視しているという。
石田課長補佐はブルームバーグ・ニュースの取材に、「現段階で避難する状況になっているとは思っていません」と述べた。
福島西高校の石川清春教頭は、一部の生徒や親から苦情が出たため、授業で放射線の話に多くの時間を割かないよう宍戸教諭に伝えたと説明。宍戸教諭が退職したことを認めた。
「見えないヘビ」
世界原子力協会(WNA)は、放射線は人間の細胞やDNAを破壊し、長期にわたって被ばくすれば白血病や種々の癌を引き起こすと説明する。子どもは細胞の成長が早く、放射線の影響も受けやすい。
アルスター大学(英国)客員教授のクリス・バズビー氏は先週、福島県を訪問し健康へのリスクついて情報を提供した。「目に見えるものは何もない。木は木のまま、人は相変わらず買い物に出歩き、鳥は鳴き、犬が通りを歩いている」と話し、そのような場所でも「ガイガーカウンター(放射線測定器)を持ち出せば、あらゆるものが光を発し、死の使者のような見えないヘビに皆が噛まれているのがわかる」と続けた。
宍戸教諭は8月8日に福島を去り、妻と13歳と10歳の二人の子供がいる札幌に移る予定だ。札幌では福島からの3000人の避難者が就職先を探すためのネットワーク作りに励むことにしている。
被災者受け入れ住宅
北海道庁住宅管理グループの今井敏文主管によれば、北海道は公営住宅2140戸を福島や宮城、岩手県などからの被災者受け入れ住宅として提供。一部は無料で提供される。被災者はさらに道庁から最高50万円のローンを無利子で受けられるという。
今井主管は、「本来は北海道民に家賃を払っていただく公営住宅を福島や被災者の皆さんに提供しています。まだ、空きがたくさんあるのでいらしてください」と呼びかけている。
宍戸教諭は今年5月、生徒にマスク着用を奨励したり放射線の健康への影響を説明しないように学校側から指示を受けたという。それ以降、自身のブログから一部コメントを削除した。
福島市の主婦、西方嘉奈子さん(33)には11歳の息子と8歳の娘がいる。「ある日、小さな男の子たちが砂けむりを上げて楽しそうに野球をしているのを見ました。その時、一体だれがこの子たちの将来を守るのだろうと思いました」と振り返る。福島西高校の宍戸教諭について、「子どもたちを守れないからという理由で教師をやめるというのはとてもショックです」と語った。
ほとんどが半袖、マスク付けず
西方さんは、福島から親子グループが8月17日に高木義明文部科学大臣を訪問し、子どもたちを県外に避難させるよう要請する予定だと話した。
福島西高校(生徒数873人)では7月14日、校舎内で0.07マイクロシーベルト(毎時)、校庭では1.5マイクロシーベルト(同)の放射線量が観測された。古川教頭(57)によれば数値は政府と県が定める安全基準内だ。体育の授業や運動部の活動も続けられているという。
古川教頭は、「これで安全だとは私も思っていません。依然として(放射線レベルが)高いことは分かっています」と打ち明ける。「最近は半袖で、マスクをしない生徒がほとんどですね」と語った。
福島県教育委員会の担当者はブルームバーグの取材に匿名で応じ、福島西高校が宍戸教諭を制止したのは意外だと述べた。また、委員会は県内301校にカウンセラーを派遣し、生徒たちが精神的問題を抱えこまないように配慮していると説明した。さらに委員会では、外で遊んだらうがい・手洗いをするよう生徒たちに呼びかけているという。
年間20ミリシーベルト
「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」は、4月の測定値を基にした最近の政府発表によれば、福島県では約1600の教育機関(小・中学校、幼稚園、保育所)の5分の1で、放射線量(年率換算)が少なくとも年間20ミリシーベルトに達すると指摘。国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた原子力発電所作業員の線量限度と同等の数値だ。
これら教育機関の4分の3以上で0.6マイクロシーベルト(毎時)の放射線量が検出されており、東京都心の新宿で検出される平均値の10倍にあたる。
福島から今週二人の子供を連れて京都へ避難した佐藤美由紀さん(36)は、「放射能が怖ければ、家にいて外に出なければいいと言われるかもしれません。でも子どもの成長にとって、太陽の光を浴びたり、花を摘んだり、虫を捕まえたりというのは大切なのです」と訴える。7月19日に市役所で行われた政府担当者との集会に出席した佐藤さんは、福島から避難したものの、月々12万円の住宅ローンを払わなければならない。「どうか、全ての子供たちをこの福島から一時的に避難させて、資金補助をしてほしい」と話した。
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