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呆れてものが言えない「原発推進」行政 税金で「国民洗脳マニュアル」を作っていた
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2011.7.18 週刊現代 :「日々担々」資料ブログ
史上最大規模の事故が起きたというのに、お構いなしに原発推進を叫ぶ人々がいる。原発がなければ経済が成り立たない。電気が足りなくなる……。ちょっと待って欲しい。それ本当に自分自身の考えですか? 誰かに「洗脳」されてませんか?
事故は原発推進のチャンス
〈停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが大衆である〉
〈不美人でも長所をほめ続ければ、美人になる。原子力はもともと美人なのだから、その美しさ、よさを嫌味なく引き立てる努力がいる〉
〈繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る〉
〈原子力がなければどんなことになるか、例をあげて説明するのがよい〉
文面から溢れる傲慢、不遜、上から目線≠ノ、開いた口が塞がらない。同時に、3月11日以降、我々がずっと違和感を持ってきた、「原発擁護論」の不可解さに通じるものがあることに気付く。
実はこれは、「日本原子力文化振興財団」がかつてまとめた、原発推進のための国民洗脳マニュアル≠フ一部である。
同財団は、文部科学省、経済産業省という、国の原子力推進のツートップ官庁から業務委託を受け、「原子力への国民の理解増進に寄与するため、様々な広報活動を展開」(同財団事業報告書)する組織だ。
役員名簿には、電気事業連合会の幹部の他、東京電力の清水正孝前社長、関西電力の八木誠社長、佃和夫・三菱重工会長、西田厚聰・東芝会長など、電力・メーカー幹部の名前がずらり。東京大、大阪大などの名誉教授クラスも、理事に名を連ねている。
その運営の元手となる事業活動収入は、こうした会員企業・団体からの賛助金のほか、文科省、経産省からの受託事業による。'09年度の決算ベースで、そうした受託事業収入の総額は約3億2300万円に達し、同財団の年間収入の34・1%を占めている。
つまり、この財団は原子力村≠ゥらの上納金と、「税金」によって運営されているわけだ。そのカネを使って何をしていたのか。冒頭で紹介した「洗脳マニュアル」のようなものを作成し、原子力の安全神話≠撒き散らしていたのである。
問題の文書は、'91年に旧科学技術庁の委託を受け、同財団がまとめた『原子力PA方策の考え方』。PAとはパブリック・アクセプタンスの略で、「社会的受容性」などと訳される。簡単に言えば、「原子力への理解を一般大衆に広めよう」という目的で作成された文書、ということだ。
検討委員会に参加していたのは、当時の財団幹部、科学技術庁の原子力推進担当者に加え、読売新聞の論説委員、電気事業連合会の広報部長、メーカーの宣伝担当、シンクタンク研究員ら。議論は20年前のものだが、原子力村の国民を愚弄した思考法、手口がよく分かる資料だ。
そして、今回の福島第一原発の事故以降も、大手メディアで、あたかも事故などなかったかのような「原発擁護論」が垂れ流されてきたのは何故なのか。それがよく分かるので、ぜひ確認してほしい。
まず、このマニュアルによれば、〈広報効果の期待できるタイミングを逃さず、時機に応じたタイムリーな広報を行う〉
べきだという。では、どんな時がタイムリー≠ネのかと言えば、それはなんと、原発で「事故が発生したとき」なのだそうだ。
〈何事もない時の広報は難しい。事故時を広報の好機ととらえ、利用すべきだ〉
〈事故時はみんなの関心が高まっている。大金を投じてもこのような関心を高めることは不可能だ。事故時は聞いてもらえる、見てもらえる、願ってもないチャンスだ〉
笑止なことに彼らは原発は人気がない≠アとをよく知っている。原子力は〈積極的に近づきたい、知りたいという気持ちになる対象ではない〉と認めている。だからこそ、事故が起きて耳目を集めやすい時が、むしろチャンスだという。
〈事故時の広報は、当該事故についてだけでなく、その周辺に関する情報も流す。この時とばかり、必要性や安全性の情報を流す〉
世界史に残る大規模事故と放射能汚染を起こしたというのに、この4ヵ月、「でも原発は必要だ」という声が、不自然なほど強く唱え続けられてきた。実はそれこそ、マニュアルに則った「洗脳」の手口だったのだ。
最近は「電力不足」「節電」に関する議論が巷では喧(かまびす)しいが、実はこれも広報活動≠フ一環である。
〈夏でも冬でも電力消費量のピーク時は(原子力が)話題になる。必要性広報の絶好機である〉
原発がなければ、再稼働しなければ電力が足りない。耳にタコができるほど聞いたこのフレーズは、まさに〈繰り返し繰り返し〉の刷り込み工作に他ならない。
まずは父親からさらにマニュアルでは、ターゲットごとに効果的な宣伝方法を考えるべし、とする。まず「重要ターゲット」と位置付けるのは、父親=サラリーマン層だ。
〈父親層がオピニオンリーダーとなった時、効果は大きい〉
〈母親の常識形成にも影響が大きい。父親は社会の働き手の最大集団であり、彼らに原子力の理解者になっていただくことが、まず、何より必要〉生活を支えなければならない家庭の父親は、原子力や放射能が危険だからといって、すぐに仕事を放棄して避難する等の行動は取りにくい。
その一方で無意識のうちに、知識と情報があれば危険は避けられる、騒ぐ必要はない……とも思っている。
そこに付け込み、マニュアルは〈事故時などには簡単な原子炉のしくみなどを分かりやすい資料にして提供〉し、次にはその〈家族向けに作った簡単な資料を父親が家に持って帰る〉ように図れと言う。
さらには、〈原子力による電力がすでに全電力の三分の一も賄っているなら、もう仕方がない≠ニ大方は思うだろう〉として、こう方策が記されている。
〈サラリーマン層には1/3は原子力▽これを訴えるのが最適〉
〈電力会社や関連機関の広告に、必ず1/3は原子力≠入れる。小さくともどこかに入れる。いやでも頭に残っていく。広告のポイントはそれだ〉
どうだろうか? 生活のためには仕方がない。原子力がなければ生活水準が下がるかも―国民のそんな不安に付け込んで原発推進に利用しろと、マニュアルは提案しているわけだ。
一方、男性層に比べていっそう見下されているのが、女性・主婦層である。
〈女性(主婦層)には、訴求点を絞り、信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる〉
〈「原子力はいらないが、停電は困る」という虫のいい人たちに、正面から原子力の安全性を説いて聞いてもらうのは難しい。ややオブラートに包んだ話し方なら聞きやすい〉
主婦は有名人で落とす
女性を見下したような書き方になっているのは、マニュアルの検討委員がほとんど男性だったことも関係しているのか。
〈主婦の場合、自分の周りに原子力発電所がなければ、原子力発電を他人事としか受け取っていない。したがって、情報に対する興味が初めからない。興味がない人に注意を喚起する必要があるのか〉
ただしその一方で、主婦は〈反対派の主張に共感しやすい〉とした上で、その大きな理由として、「食品の安全性」に対する関心の高さを上げ、その点に脅威を感じている。
〈チェルノブイリ事故によって、輸入食品の汚染が言われるようになり主婦層の不安が増大した〉
〈その関心に真正面から応える記事でなければ受け付けてもらえない〉
まさに現在この想定通りの事態が起きている。しかし汚染の規模は想定をはるかに超えて巨大だった。では、真摯に食品の安全性確保に取り組むのかと言えば、そうならないのが原子力村≠セ。
〈環境、自然食品などエコロジーに関心の強い女性は、地域の消費者センターのような所を頼りにしている〉
〈そういったところのオピニオンリーダーを理解者側に取り込めたら、強い味方になる〉
リーダーを籠絡し、反対派を切り崩す……。これは、原発建設の反対運動を潰す工作にも使われている手法。福島でもかつて、反対派のリーダー格だった人物が、突然、賛成派に鞍替えして、後に町長になった例がある。コミュニティーをバラバラにする、こうした手法は原子力村のいわば十八番(おはこ)≠ニ言える。
そして、女性を中心に、「信頼ある学者や文化人」などに弱い大衆をコントロールするため、力を注ぐべきは識者・有名人、そしてマスコミへの広報活動だとしている。
〈テレビの何々ショウといった番組で影響力の強い人がしゃべったのを聞いて、賛成になったり反対になったりする主婦もいる〉
〈原子力に好意的な文化人を常に抱えていて、何かの時にコメンテーターとしてマスコミに推薦できるようにしておく〉
〈コメンテーターにふさわしい人の名をマスコミが自然に覚えるよう、日頃から工夫する必要がある〉
ここでのポイントは、マスコミが「自然に覚える」よう仕向けるということ。「この人は中立的で良識派のコメンテーターだ」と、日頃からマスコミを慣れさせ、親しませておき、いざとなったら、彼らを解説者として送り込み、原子力擁護の論陣を張るのだ。
これは今回の事故当初、テレビや新聞に登場した「識者」が、いわゆる御用学者≠ホかりだった事実とよく符合する。無邪気な記者たちは、有事に際し記者クラブで名前が通っていて、役所の受けが良い学者たちに一斉にコメントを求めた。だが、実は彼らは皆、御用学者≠ホかりだったというわけだ。
〈文科系の人は数字を見るとむやみに有難がる〉
そんな、大手メディアの文系記者をバカにしたような記述もある。事故直後の1ヵ月以上、彼ら行政・原子力村御用達の学者は、そうしてマスコミと世論を惑わし、事故を過小評価し、メルトダウンなど起きていないと強弁し続けた。結果的に、それが国民が被曝から身を守るチャンスを奪ったことを忘れてはならない。
「青酸カリも原子力も同じ」もちろん、その一方で、直接マスコミに働きかけることも怠らない。
〈マスコミ関係者との個人的なつながりを深める努力が必要ではないか。接触をして、いろんな情報をさりげなく注入することが大事だ。マスコミ関係者は原子力の情報に疎い〉
〈テレビディレクターなど制作現場の人間とのロビー作り(利益代弁者作り)を考える(テレビ局を特定してもよい)。
特定のテレビ局をシンパにするだけでも大きい意味がある〉
〈人気キャスターをターゲットにした広報を考える。事件のない時でも、時折会合を持ち、原子力について話し合い、情報提供をする〉
原発に対する微妙なコメントや態度を繰り返してきた、何人かのキャスターの顔が眼に浮かぶようだ。ここでもマニュアルは、〈逆境の時こそマスコミにアプローチするチャンス〉などとしている。論調がブレているキャスターらは、籠落しやすい対象ということなのかもしれない。
まさに、転んでもタダではおきない。福島を訪れ、「ピンチはチャンス」とのたまった御用学者がいたが、こうして洗脳マニュアルを一通り眺めると、「何が何でも原発を推進する」、それこそが彼らムラ≠フ住民の、揺るがぬ総意であることが明らかになった。
当の日本原子力文化振興財団の現専務理事・横手光洋氏はこう話す。
「上から目線の物言いになっているのは、確かに我々が見ても不適切な表現かなと思います。ただ、現在もこれに沿って活動しているということはないと思います。『事故の時こそチャンス』なんて、まったく思っていませんよ。こういう状況ですからイベントなどは自粛し、いまは放射線に関する説明会や、講師の派遣などを行っています」
とはいえ、現在も続く安全デマ・ゴリ押しの原発推進論が、ここまで紹介してきたマニュアルの基本コンセプトと、非常に似通っているのは事実。むしろこの20年でプロパガンダの手法がすっかり定着し、ごく自然に洗脳工作≠ェ行われるようになったと考えたほうがよさそうだ。
マニュアルの中には、こんな一文もある。
〈誰が考えても、原子力は危険なものだ〉
にもかかわらず、彼ら原子力村の住民たちは、
〈対策さえ十分なら安全に取り扱える〉
〈危険でも安全に注意して扱えば安全になる。青酸カリでも火でも、なんでも同じだ〉
などと言い、遮二無二、原子力を推進してきた。
手口はよく分かった。国民はもう、二度と騙されることはない。
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