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日経新聞をはじめとして、もし脱原発をして火力発電で代替しようものなら電気料金が爆上げすると脅しています。はたしてそうでしょうか? 本当に原発は火力発電に比べて安いのでしょうか?
たとえば毎日新聞によると、原発停止が全国的に広がったせいで火力発電の追加燃料費が2兆円を超えそうだと電力会社の言いぶんを伝えています。
ではこの試算が正しいのか検証してみたいと思います。
以下に紹介するのは技術者さんのサイトで、けっこう面白いのです。ただ小難しい数式やデータも多くわかりにくいと思います。なので先に要点だけをを述べておくと……
「近年主力であるLNG(ガス)の燃料費は1kwhあたり、1ドル=80円として熱効率も加味した実質値でおよそ4・36円ほど。これで原発の発電量をすべて代替すると年間の燃料費は1・2兆円になる。しかしウラン燃料費を差し引かないとフェアじゃないので、ウラン燃料費の3000億円を引いた場合、実質的な追加燃料コストは一兆円を超えないというもの。電力会社・マスコミのいう3兆円とか4兆円とか膨大な金額は嘘っぱち」
という感じです。
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No634(2011/07/20)
ウランとLNGの燃料費試算
原子力発電所を止めて火力発電で代替すると、電気料金が高くなるという話しが聞かれるようになってずいぶん経ちます。私自身は、安全に比べれば金で解決のつく問題など大したことは無いと思っています。それでもあんまりふざけた金額だけが一人歩きしているのは気分がよくないので、少しだけ確認することにします。
まず、今言われている追加経費の話は、原子力発電所の燃料費に比較して火力発電の燃料費がどれだけ高いかという話ではないことを確認しておかなければなりません。
現在の電力料金には、既に数年先までの原子力発電用のウラン燃料の費用が加味されて決まっています。ご存知のように、日本は自前で原子力発電用のウラン燃料をほとんど作っていません。海外に濃縮ウランあるいはウラン燃料そのものを外注して委託生産しているのです。この委託してまだ製造されていない燃料費までが総括原価のレートベースに加味されて電力料金が決まっているのです。
そこで、仮に原子力発電を停止すると、ウラン燃料費は既に電力料金に含まれていますから、それに加えて火力発電用に予定していなかった燃料費が発生することになるのです。今話題になっているのは正にこの燃料費用がいくらになるかという話なのです。
本来なら、電力会社の内部事情で原子力発電から火力発電に発電方式を変えるのですから、既に発電経費に含まれている原子力発電のウラン燃料費を含めた運転経費、事業報酬のレートベースに含まれるウラン燃料費は差し引いた上で料金を計算しなおすべきです。これを明らかにせずに、追加費用だけを電気料金に加算して消費者に転嫁するというのは燃料費の二重徴収であり、言語道断です。
まず以上の点を確認したうえで、実際に燃料費がどの程度かかるのかを推定してみます。火力発電用燃料として、LNGを利用するLNG火力について試算します。
LNG価格は現在8USドル/100万BTU程度です。
100万BTU≒293kWh程度です。つまり、1USドル=80円とすると
80×8円/293kWh=2.18円/kWh
程度です。LNG火力発電の熱効率を50%とした場合のLNG火力発電電力の燃料費は次の通りです。
2.18円/kWh÷0.5=4.36円/kWh
2009年の原子力発電の供給実績は2.774×1011kWh程度です。これを全てLNG火力で代替した場合の追加燃料費用は次の通りです。
4.36円/kWh×2.774×1011kWh=1.209×1012円=1.209兆円
巷間言われている3兆円とか4兆円という数値はかなり大袈裟な数値のように思えます。
さて、次にウラン燃料費です。これは具体的なデータが無く、はっきり言って全くわかりませんが、わかっているところまでなるべく確からしい数値を示すことにします。
まず、日本の場合、イエローケーキを買い付けて転換・濃縮・再転換・燃料成型までの全てを行っているわけではありません。それどころか、ウラン燃料の製造はほとんどを海外に依存しています。六ヶ所村の濃縮工場はご存知の通りまともには動いていません。
ウランの世界市場では、通常イエローケーキと呼ばれる70%ほど天然ウランを含むウラン精鉱の形で取引されています。ウラン鉱石の平均品位は0.2%弱程度であり、そのままで取引するにはウランの含有量が少なすぎるので、ウラン鉱山に隣接する粗精錬工場でイエローケーキに加工されます。
天然ウランの組成は235Uが0.7%、238Uが99.3%程度です。軽水炉用のウラン燃料の235U含有率を5%と仮定します。100万kW級原発の年あたりのウラン燃料は30t程度といいます。日本の原発を100万kW50基と仮定すると、年間に必要なウラン燃料は30t×50=1,500tです。ここに含まれる235Uの重量は次の通りです。
1,500t×5%=75t=75,000kg
一方、イエローケーキAポンドに含まれる235Uの重量は、
0.454A(kg)×0.70×0.007=0.00222A(kg)
以上から、1年間に必要なイエローケーキの重量A(ポンド)は次の通りです。
A=75,000÷0.00222=33,783,784(ポンド)
イエローケーキの市場価格は次の通りです。
(引用者注:記事の一番上の画像参照)
このところかなり大きく価格が変動しているようですが、2007〜2009年の平均値として、次の値を用いることにします。
(136+40)/2=88ドル/ポンド
以上から、1年間あたりのウラン燃料の製造に必要なイエローケーキの購入価格は次の通りです。
33,783,784(ポンド)×88(ドル/ポンド)×80(円/ドル)≒2,378億円
さて、この2,378億円分のイエローケーキからウラン燃料を製造する転換・濃縮・再転換・燃料成型に更にどれだけの費用が掛かるのか何とも言えませんが、加工工程の複雑さを考えれば数倍〜十数倍?の価格になってもおかしくないように思いますが、その詳細は不明です。また、ここで求めたイエローケーキの重量は、ウラン燃料を製造する転換・濃縮・再転換・燃料成型の各工程の235Uの歩留まりを100%とした場合の必要最少量です。実際にはこれよりもかなり多くのイエローケーキが必要になります。
通常、軽水炉ウラン燃料費は2億円/t程度だと言われます。ウラン燃料の年間必要量を1,500t/年とすると、1年間当たりに必要な軽水炉ウラン燃料費は3,000億円ということになります。これはイエローケーキの購入価格である2,378億円から考えてあまりにも廉いように思いますが・・・。
いずれにしても、全ての原発をLNG火力発電で代替した場合に掛かる実質的な追加燃料費は1兆円を超えることはあり得ないということになります。
さて、もし仮に日本がウラン市場からイエローケーキを購入して、自前でウラン燃料製造を行う場合はどうなるでしょうか?転換過程で膨大な低レベル放射性廃棄物が生じ、濃縮過程では膨大な劣化ウランが生じることになります。これらの廃棄物を日本国内で処理する場合、保管・処理に対する費用は莫大なものになりますから、ウラン燃料費は暴騰することになります。
そのためにもモンゴルに放射性廃棄物の捨て場と、米軍用の劣化ウラン弾の製造工場が欲しいと言うのが本音なのかもしれません。
ちなみに、使用済み核燃料再処理によって製造される軽水炉用のMOX燃料価格は25億円/t程度だと言います。この価格のほとんど全ては加工費ということになります。もし仮に(そんなことはあり得ませんが)50基の軽水炉燃料を全てMOX燃料にすると、年間燃料費は
3,000億円×25/2=3.75兆円
になります。これでは燃料費でも全く火力発電に太刀打ちできないということです。この燃料費でLNGを購入すれば3倍程度の電力量を供給することが出来ます。プルサーマル発電そして軽水炉核燃料サイクルなど全く無意味なのです。
最後に確認しておきますが、今回検討したのは、あくまでも緊急避難的に原子力発電を火力発電に切り替えた場合の短期的な追加燃料費を推定したものです。原子力発電電力を総合的に評価するためには更に原子力発電所建設・運用費用や使用済み核燃料保管・処理費用、廃炉費用、放射性廃棄物保管・処理費用などのバックエンド費用を考慮することが必要であり、これらを含めると原子力発電は最も高価な発電方式であることは言うまでもありません。
http://www.env01.net/frommanager/2011/fm2011_19.htm#n634
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