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那須塩原 会津若松 猪苗代 日光・・・ 消えた観光客「誰も来ない」この現実を見よ
放射能が歴史ある町を殺す
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/11962
2011年07月18日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
「震災から3ヵ月が経ち、ようやく復興への道筋が見えてきた」—。福島や栃木の観光業者は、この言葉を聞くたびに怒りに震える。観光地の惨状を知れば、こんな言葉は容易に口に出来なくなる。
■旅館がどんどん潰れていく
「お客さんが来ないので、新しく土産物を入荷しても意味がない。だから入荷を止めているんですよ。それで店内ががらんとしているんです。経営はジリ貧。飯盛山で自害した、白虎隊の心境が分からんでもないね」
会津若松市で土産物屋を営む男性は、力なく微笑みながらこうこぼした。
福島県にとって観光業がどれほど重要な産業であるかは、あまり知られていないかもしれない。福島のコメの出荷量は全国4位を誇り、その年間出荷額は948億円。コメをはじめとする農業が県の一大産業となっていることは周知の通り。だが、2011年度版「観光白書」によれば、福島県の観光消費額は四半期だけで約897億円と、コメの年間出荷額とほぼ同等なのである。観光産業は、農業とならんで福島の経済を支える柱となっているといっても過言ではないのだ。
ところが悲しいことに、大震災と原発事故によって、福島県の観光産業は壊滅的なダメージを受けてしまった。そして、震災から3ヵ月が経った今でも回復のメドはたっていない。
福島第一原発から約100・離れた会津若松市。歴史的な建造物が多く残り白虎隊の地として有名なこの町は、今年、鶴ヶ城天守閣の瓦を本来の赤い瓦に取り替えたばかりで、多くの歴史ファンの来訪を期待していた。しかし震災の後、客足がぱったりと途絶えてしまったという。
「赤瓦に替えたことで、今年はじめには旅行代理店の方々も『いい観光地になりますね』と様々な旅行企画を組んでくださったのですが、3月11日以降はすべてキャンセルになりました。震災直後と比べれば客足は少し戻ってきてはいるんですが、それでも苦しい状況に変わりはありません」(会津若松市観光課長・渡部啓二氏)
白虎隊の事績を伝える「白虎隊記念館」の入場者数も例年の2~3割程度と大きく落ち込み、冒頭の男性がこぼしたように、土産物店の売り上げも震災前と比べれば見る影もないという。
会津若松市から東へ10・。福島県の観光名所である猪苗代湖周辺の観光業者も、青息吐息の状態だという。
「3月11日直後はライフラインやインフラの破損でキャンセルが相次ぎました。それは仕方のないことです。ところがその後、修復が進んでも、原発事故の報道が増えることで、原発からは遠く離れているこの地域も『福島』というだけで敬遠されるようになってしまいました」(会津東山温泉観光協会)
福島の観光地にとって特に致命的だったのが、修学旅行客のキャンセルが相次いだことだ。この地域は北海道や東北地方の学校にとって修学旅行の定番だったのだが、「今年は例年と比べて9割減といったところですかね。震災前、宮城からは約160校が訪れる予定でしたが、5月から7月の間で、わずか4校にまで激減しました」(福島県観光交流課)。
北海道のある中学校では、修学旅行先が会津若松と知った生徒の親から「放射能で危険なところに、子どもたちを行かせていいのか」と苦情があったため、急遽旅行先を変更することになったなど、原発事故の影響は深刻なのである。
東日本大震災によって日本の観光業が受けた被害は、並ではない。観光庁が発表した旅行取扱額を見ると、3月分だけで対前年比約1270億円の減少。4月分は約1000億円の減少で、5月までの3ヵ月だけで3000億円以上の減少が見込まれている。
「しかも、これは旅行業者を経由した金額で、個人の旅行は含まれません。これも含めれば、わずか3ヵ月で5000億円程度落ち込んだ可能性があります」(第一生命経済研究所主席エコノミスト・永濱利廣氏)
観光客が途絶えればホテルや旅館が経営難に陥り、各自治体はその補償と税収減に苦しむことになる。ひいては日本経済全体にも打撃を与えることは、言うまでもない。事実、帝国データバンクの調査によれば、今年1月~5月のホテル・旅館の倒産件数は過去最多を上回るペースとなっている。日本経済は「負の歯車」が回り始めているのである。
■車が通らない
福島県のみならず、福島に近い県の観光地の被害も深刻で、「震災直後は、例年の2割弱しかお客様は来られませんでした」と言うのは、那須塩原の老舗温泉旅館・会津屋の主人。天皇家の御用邸があり、避暑地として知られる那須塩原も、観光客の激減に苦しんでいる。
「とにかく原発事故以降、この辺りを車がまったく通らなくなった。私も長く那須で商売をしていますが、こんなことは初めてです。やはり放射能が恐いという方が多いようですね。今年は、5月から自然豊かな御用邸の敷地を利用した『那須平成の森』という施設が開園し、多くの観光客が訪れると考えていたのですが、夏休みも例年の5割に届くかどうか、というところでしょうね」(同主人)
観光地には、福島原発周辺から避難してきた被災者のために、ホテルを避難所として開放しているところもある。しかし、被災者を受け入れている、あるホテルに事情を聞くと、こんな心情を吐露した。
「うちのホテルは一泊1万3000円が基本料金。もちろん被災者の方から料金をいただくわけではなく、国から補助が出るのですが、その額は一人当たり一日5000円。とても利益が出る状態ではありません。経営は厳しくなりますね。それと、大変心苦しいのですが、やはり被災地の方がホテルにいらっしゃると、観光に来られたお客様も『私たちだけ楽しんでしまって、申し訳ない』と思われるようで、それも観光客の足が遠のいている原因のひとつかな、と考えてしまいますね」
被災者が暮らせる仮設住宅ができれば、この問題は解決するのだが、とこのオーナーは国の対策の遅れに対する不満を隠さない。
■東京電力に賠償請求
観光客の激減に伴い、各地の名物イベントも開催を断念せざるを得ない状況となっている。水仙や紅葉の観光名所として有名な宮城県南部の蔵王町では、宿泊客の相次ぐキャンセルによって、いくつものイベントが中止に追い込まれた。
「幸いにも9月以降は修学旅行客が戻ってくるめどが立ってきたので、秋からは持ち直すと思われますが、夏までは厳しい状況が続くでしょうね。春から予定されていたイベントは、ほとんど中止になりました。毎年4月下旬から5月いっぱいまでは、2万~3万人が集まる『すいせん祭り』が開催されるのですが、今年は断念しました。また、6月には全国のパフォーマーたちが集まる『大道芸フェスティバル』が開かれる予定だったのですが、これも中止となり、3万人の見込み集客が、すべてパーになりました。秋以降のイベントは例年通り行う予定ですが、春・夏の名物イベントを開催できなかったのは、残念で仕方がありません」(蔵王町農林観光課)
蔵王町に限らず、福島原発周辺の各観光地で伝統あるイベントが中止に追い込まれている。原発事故は、土地土地に根付いた文化も破壊してしまったのだ。
焦りといらだちから、東京電力に損害賠償を求めようとする観光地も増えている。茨城県のホテル旅館生活衛生同業組合は、6月17日、東京電力に風評被害の補償を求める要望書を提出した。
「茨城県の観光業者が放射能に苦しめられるのは、東海村のJCO臨界事故に続いて2度目です。一体なぜこんな悲劇を2度も味わわなければならないのか」(同組合)
栃木県の温泉地・鬼怒川の温泉旅館協同組合も、5月26日より東京電力に損害賠償を請求する方針を検討しており、那須塩原の組合も東京電力に損害賠償を求める予定だという。しかし、5月末に発表された原子力損害賠償紛争審査会の第2次指針によると、賠償の対象となるのは福島県内の観光業者で、他県については「検討中」の段階だ。
「たしかに首都圏からのお客様は減っているのですが、それが地震の影響なのか、福島原発事故の影響なのかははっきりと判断しづらいのも事実です。ですから、東京電力への賠償請求もできるかどうか。現段階では具体的な話にはなっていませんね」(前出・蔵王町農林観光課)
溝畑宏・観光庁長官は、6月25日に日光を訪れ、地元観光関係者と懇談するなかで「福島県に隣接する県も賠償の対象に考慮するよう要望していく」と述べている。しかし「国と東電の支払い能力問題もあるため、十分な賠償は難しいのでは。そもそも、海外からの観光客が日本全土で減っているため、それこそ隣接する県だけでなく、北は北海道から南は沖縄まで、損害賠償を求める声が上がる可能性がある。どこで線引きするかは極めて困難な作業となる」(観光庁関係者)との見方が強い。
「放射能の影響でしょう、外国からのお客さんがまったく来なくなりました。欧米系の個人客が前年比で90~95%減です。日光には外国人専用のホテルもあるのですが、そういう施設にはほとんどお客さんが入っていません」
日光温泉旅館協同組合の理事長・根本芳彦氏がこう嘆息するように、震災後、観光地から外国人観光客がパッタリと姿を消したことも、業者にとって大きな痛手となっている。韓国の大手旅行代理店・ハナツアーによると、7月から8月にかけて韓国から日本を訪れる観光客は前年より69・4%も減少する見込みだという。
「韓国の外交通商部が福島県と宮城県および岩手県沿岸地域を『旅行自制地域』とし、さらに茨城県全域も旅行する際には注意するようにという警報を出しているので、『放射能は危険。原発に近い観光地は危険、被災地には近づきたくない』という認識が強い」(在日韓国領事館スタッフ)
■どうしたらいいのか
学生が来ない、子ども連れが来ない、外国人が来ない。美しい町はそのままの形で残っているのに、たった一度の原発事故で主力顧客が失われてしまった—観光業者は、この不条理に直面し、悲嘆に暮れている。
こうした観光地の窮地を救おうと立ち上がった他県の自治体もある。会津若松市の惨状を知って、会津とは歴史上敵対してきた薩摩と長州も支援に動き出した。去る6月6日、鹿児島と山口の観光組合関係者が、数十名の旅団≠組んで会津に向かい、これからの観光支援を約束した。さらに滋賀県は「『滋賀から福島へ』観光ツアー推進協議会」を設立し、県庁に福島県の観光パンフレットを置くなどして、社員旅行などの団体旅行を呼びかけている。
また、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は「放射線の影響を受けにくい大人がこうした観光地に足を運び、少しでも復興の手助けをするべきでは」と提言する。
「子どもはともかく、放射線の影響というのは年齢とともに少なくなっていき、50歳では30歳に比べて実に50分の1程度まで低下しますから、放射線の影響はほとんどなくなると言えます。米国のデータによると、放射線被曝によるがんの死者数を比べた場合、50歳の死者数は30歳の50分の1にまで低下するのです。ですから50代以上の人は、福島や栃木などの観光地に足を運んでも問題ないでしょう」
放射線を「正しく恐がる」大人たちによる支援の輪が広がることを期待したいが、放射性物質の除去作業も含めて、最終的には国の大規模な支援が必要になるだろう。曲がりなりにもこの国が「観光立国」なる看板を掲げるのなら、歴史と伝統ある観光地から上がる悲痛な叫びを、しっかり受け止めなければならない。
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