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経産省の原発クーデターが始まる
天下り100人リスト
再生エネルギー重視に大きく舵を切ろうとする菅政権の足を引っ張っているのが、原発推進・東電擁護の経済産業省だ。長年続いた癒着の構図が背景にある。
伊原智人は6年ぶりに霞ヶ関で働くことになった。リクルートに勤めていた彼が、再び政府の職を得たのである
東大卒業後の1990年、通商産業省(現経済産業省)に入った。同期の間で「政策センスがいい」と評され、いずれ事務次官も夢ではなかった。そんなエリートの彼が官職を辞し、民間に転職したのは、2004年に同省を揺るがした「核燃問題」への関与を疑われたからだ。当時伊原は30代半ば、資源エネルギー庁の課長補佐だった。
原発からの使用済み核燃料を再処理して、プルトニウムやウランを使える燃料として取り出すことを「核燃料サイクル」という。経産省が国策として推進し、電力業界は2兆2千億円もの巨費を投じて青森県六ヶ所村に核燃料サイクル施設を造った。
当初の建設予定費は6900億円だったがその3倍もかかってしまい、これを動かすにはさらに19兆円もの費用がかかる。もはや経済的に見合わないと考えた当時の若手官僚たちは、核燃が政策的に破綻している実態をひそかに要路に訴えた。それが、原発推進を掲げる経産省幹部に睨まれ、彼らは枢要なポストから遠ざけられた。伊原も1年後、霞ヶ関を去っている。
あの男が帰ってきた
彼に再び働く場を提供したのは、再生可能エネルギー特別措置法案の成立に政治生命をかける民主党の菅政権である。菅直人首相の旗本といえる国家戦略室は6月12日、エネルギー政策のための職員を公募し、応じた伊原は7月1日、課長級の内閣官房企画調整官に任じられた。
東京電力の福島第一原発事故を受けて、菅は原発推進一本槍だった経産省主流派に不信感を抱くようになった。原発事故対応に小田原評定を繰り返すばかりで、満足な選択肢を具申してこない。そもそも東電など電力各社と癒着し、太陽光や風力など再生可能エネルギーに不熱心である。しかも野党の自民党と結び「菅降ろし」に関与した疑いがある。
あいつらには任せられない、首相がそう考えるのは自然の成り行きだった。菅はG8サミットで20年代の早い時期に再生可能エネルギーの比率を20%超にするという意欲的な国際公約を宣言すると、6月7日、玄葉光一郎国家戦略担当相を議長とする「エネルギー・環境会議」を立ち上げることを決めた。
伊原はそんな玄葉の腹心として、新しいエネルギー政策の立案に取り組むことになる。エネルギー政策には今も関心がある、取り組んでみたいテーマです、伊原は言葉少なにそう語る。
国家戦略室はAKB48
6月22日にあった第1回のエネルギー・環境会議は、記者たちを閉め出した非公開の場になると、菅政権の閣僚たちが白熱した議論を展開している。松本龍環境相が口火を切った。
「再生可能エネルギーへの投資は中国やインドよりも日本が劣ります。風力発電メーカーの世界シェアをみると、上位10社のうち中国が3社を占め、日本メーカーはひとつもない」
再生エネルギー産業を育成してこなかった経産省の産業政策を暗に批判したのだ。仙谷由人官房副長官も応じた。
「こんな狭い国土なのに、50ヘルツと60ヘルツに東西で分断されているのはおかしい。こんなのは世界でも例がない」
周波数によって東西の電力会社は棲み分け、隣の東電に中部電力が融通できる量はわずかに限られている。そんな状態を仙谷は「日本の電力産業はガラパゴス化している」と例える。
玄葉が引き取って言った
「原子力の安全性確保を図りながら、原発への依存を徐々に減らして、省エネ、再生エネルギーを開拓することが必要です。核燃は重たい課題だが、重厚に検討する。整理しつつ、しっかり議論したい」
玄葉主宰のエネルギー・環境会議は毎週幹事会を開き、7月中に中間報告をまとめる予定だ。もっともドイツやイタリアのような性急な脱原発には踏み切れまい。「原発再起動には現実的な検討がいる」(仙谷)と、使いながら減らすしかない。玄葉の言うように、原発を段階的に減らし、その分を再生エネルギーで置き換える案が落としどころとしては有力だ。
そんな動きに焦るのが、エネルギー政策を所管する経産省だった。経産省は国家戦略室に日下部聡審議官を送り込んだものの、日下部はかつてエネ庁の制度改正審議室長として電力の小売り自由化を立案した自由化論者で、必ずしも親元ベッタリではない。しかも国家戦略室には菅が担当相だったときからの腹心――通称「Bチーム」と呼ばれる三菱商事出身の平竹雅人総理補佐官らがいる。日下部ら経産省出身組の通称「Aチーム」と違い、菅の直参である。二つのチームに日下部の「K」を取って、正副大臣も含めれば48人程度の国家戦略室は「俺たちAKB48かな」との冗談も飛び交う寄り合い所帯だ。
振り付けのきく委員会
日下部は伊原のような急進改革派ではないが、さりとて保守派でもない。親元の細野哲弘エネ庁長官が日下部への不満を庁内で漏らすのは、国家戦略室がまとめた「当面の検討方針案」に「発送電分離を含めた電力システムのあるべき姿に関する論点整理を行う」と記されたこともあろう。経産省が5月初めに極秘にまとめた「当面の対応」では「発送電分離は避ける」と東電の「国体護持」を防衛線としたのに、それを突破されそうだからである。
経産省は、エネルギー・環境会議に対抗するように、総合資源エネルギー調査会を再稼動し、「エネルギー政策を見直す」名目で同調査会に「基本問題委員会」を設立する。しかもエネルギー・環境会議を牽制するように、同じ7月中旬に論点をまとめる。たった1ヵ月でまとめるのだから、結論は決まっている。同省の内部資料によれば、「4つの柱」と題し、原発は「世界最高水準の安全性確保」のうえ、一つの柱と位置づけ続けることが明記されている。
基本問題委員会の委員長は、経産省が振り付けやすい三村明夫新日本製鉄会長に内定している。合計17人の委員候補には、環境派の京大の植田和弘教授や環境ジャーナリストの枝廣淳子、発送電が持論の東大の松村敏弘教授もいるが、「それはアリバイづくりにすぎない」とその一人も自嘲する。環境派も入れた会議体の場で、原発護持にお墨付きを得る、そんな腹案である。
経産省は、原発推進と東電護持を掲げたまま、政策転換できないでいる。ひとつには、いままでの政策を「誤り」と認められない無謬性への固執があるからだが、もう一つは、天下りや予算を通じて経産省が電力各社とともに「電力閥」や「原子力村」を形成するためである。
56法人に103人
電力会社やエネルギー関係の天下り団体56法人に、現時点で経産省のOBは少なくとも103人も天下り、老後の面倒を見てもらっている(表参照)。次官や長官を経験したキャリアはもとより、地方経産局採用のノンキャリアも含めて、多くが過去に電力やエネルギー関連の部署で働いていた。三菱原子燃料など「個人情報」をたてに開示しない企業や団体もあるため、実数はもっと多いだろう。
これらの団体には経産省から補助金や運営費交付金などが支出されている。たとえば原子力安全基盤機構は収入のうち93%を占める206億円余りがそうだし、日本原子力研究開発機構に至っては1768億円も注ぎ込まれている。補助金の比率が低いところは、加盟する電力会社などの会費収入が収入源になる。新エネルギー財団の補助金依存率は44.4%で、それ以外は会員企業からの会費収入と基本財産の運用で賄っている。つまり税金か業界に「たかる」構造にあるのだ。天下り構造が政策をゆがめている。経産省は何十年も続くこの構造に呪縛され、身動きがとれない。
それどころか省内には反政権機運が高まる。菅降ろしの「原発クーデター計画」である。
エネ庁の木村雅昭次長が体調を崩して大臣官房付という閑職に退くと、代わって起用されたのが、1982年入省組の事務次官候補といわれる今井尚哉だった。経団連会長を務めた新日鉄の今井敬・元会長の甥で、伯父は故・今井善衛・元通産事務次官という同省のエースだ。基本問題委員会の委員長に内定した三村とは、当然新日鉄つながりで近い。安倍晋三元首相の秘書官も経験し、野党自民党とのパイプも太い。
疑われた経産官僚
今井とともに重責を担う幹部官僚が、麻生太郎元首相の秘書官を務め、84年入省組の次官候補の柳瀬唯夫官房総務課長である。彼は原子力政策課長だった06年に、原発推進を掲げた「原子力立国計画」をまとめた。そこには、原発製造の国際競争力を強めて、世界に日本製原発を輸出する路線が盛り込まれた。民主党政権がベトナムに原発を輸出することにしたのは、この政策の延長線上にあるためだ。売り込んだのは貿易担当の今井だった。
そんな柳瀬を、官邸に出入りする菅側近の民主党政治家たちは疑いのまなざしで見つめる。自民党に「菅首相が海水注入の停止を東電に命じた」と、虚偽の情報提供をしたのは、彼ではないかと疑っているのだ。柳瀬は震災発生後の3月12日夕、官邸に送り込まれ、同15日以降は政府と東電がつくった統合対策本部であわただしい日々を送っている。菅側近の民主党衆院議員は、こう打ち明けた。
「あの海水注入のときに官邸にいて、しかも中心から少し離れて中途半端な事実しか知らないのは誰だっけ、と。そう考えると、彼はあてはまる」
この菅側近の議員には、自民党の政治家を取材している複数の記者から「柳瀬さんがかかわっている」とのご注進が寄せられた。自民党の有力政治家が「柳瀬くんと原子力安全・保安院の寺坂信昭院長に取材すれば、わかるよ」と各社の記者に語った、というのである。政権中枢は、柳瀬か、あるいは経産省の主流派官僚の誰かが自民党と結託してクーデターを仕掛けた、そう推測する。それを柳瀬は、
「心外ですよ。ものすごいショックです。食事もとらずシャワーもあびず働いてきたのに、そう言われるのは悔しい」
という。彼は確かに海水注入が話題になったときに官邸の現場にいたが、
「総理が注水停止を命令した事実はない。マスコミの人間に聞かれても『総理が中断を命じたのは嘘です』と言ってきました」
と説明する。
「ブレない」原発政策
柳瀬によれば、この問題をメルマガで暴露した安倍元首相と話したこともないという。ただ、TBSや読売新聞、それ以外の報道機関からも、事実関係を尋ねる取材を受けてはいる。TBSと読売はこの問題を最初期に大々的に報じた、いわば「スクープ」した報道機関だ。
真相は藪の中だ。だが、菅の側近議員は、とても一課長だけで仕掛けられるはずがない、と経産省上層部の関与を疑う。菅は、浜岡停止を言った後から巻き返しがきつくなった、と側近に打ち明け、この側近は、
「菅さんのめざす方向ではない方向、つまり原発を堅持したい勢力がある」
と指摘する。
大きな存在は、エネ庁長官を経て次官になった望月晴文経産省顧問である。省庁再編時に旧科学技術庁と旧通産省にまたがっていた原子力行政機関を、経産省側にほぼ一本化させた「功労者」、すなわち、いまの原子力安全・保安院の生みの親でもある。いまもエネ庁の課長クラスがひそかに相談に訪れ、影響力を行使しているといわれる。
原子力行政課の課長席の後ろには、06年の原子力立国計画が掲げた五つの基本方針が、いまも大書きされてつるされている。その第一条には「『中長期的にブレない』確固たる国家戦略と政策枠組みの確立」とある。
歴代の先輩が敷いた路線に呪縛され、経産省は原発死守からブレることはできない。OBの天下り先を確保し、約4千億円の電力予算など税金をかすめ取る。そんな安逸な構造から抜け出せないのだ。 (本文敬称略)
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