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菅首相の浜岡原発停止要請に、世論は、大英断と唐突なパーフォーマンスに分断された。官邸は、1か月前から、極秘協議を続けていたと言う。だが原発停止は、運転継続よりリスクを軽減できても、津波対策の防潮堤構築までの、その場凌ぎでしかない。
原発の安全神話は崩れた。福島原発の地震による損傷も、まだ検証されていない。他の原発では、予備電源の不足などが指摘されているのに、保安院は、中電の停止受け入れに併せ、この安全対策を容認しているのだ。
そして政府は、原発事故が収束せず、放射性物質の垂れ流しが続いているのに、定期点検中の原発再稼働を自治体に要請した。一部の自治会首長は、脱原発の声を上げている。だが多くは、住民や世論の動向を見ながら、国に安全基準の見直しと提示を求めている。
日弁連は、「未だ福島第一原子力発電所の事故は収束していない」。「事故の原因・経過の調査はその緒についたばかりで、事故の全体像及び詳細は未だ不明な点が多い」。政府がいう「津波と電源対策の強化だけで安全性が確保された」は、「客観的な事実に反している」。
また「原子力安全委員会は、安全設計審査指針、耐震設計審査指針、防災指針の見直しを始めるとした。」が、「これから検討される段階で」、「伊方原発最高裁判決(1992年10月29日)からしても、安全審査基準の見直しなく国が運転再開を認めることは許されない」と、原発再稼働声明の撤回を求めた(2011/6/23)。
脱原発の可否を、国民の多くが考えている。節電のために、企業はクールビズや残業を減らし、店舗は営業時間を短縮し、家庭では緑のカーテンを育て、エアコンの代わりに扇風機が売り切れたという。
この国民の努力をよそに、今の集権体制は、経産省が保安院の検査で再稼働の是非を判断し、自治体が同意する仕組みだ。経産省は、点検中の原発を安全と宣言した。それなのに今度は、全原発に安全性を点検するストレステストを行うという。
その背景には、菅首相による、浜岡と同じ政治決断の先送りと、政権の延命があるのでは? ストレステストを終えて、今後の方針は?そこには、浜岡で、脱原発の世論をガス抜きし、これまでの原子力発電体制を存続する意図がある。国民不在で、それが納得できるだろうか。
政権の迷走は、国民の不信を高める。地域で、住民は、原発再稼働とストレステストの関連を、もっと話し合うことが必要だ。今、日本に必要なのは、地震列島に54機の原発を、存続するのか否かの国民的論議ではないだろうか?
原発事故で、日本のエネルギー政策の根幹が、問われていることに異論はあるまい。だが脱原発・自然エネルギーへの転換は、環境と経済成長、生活スタイルの変革が関わり、国民的な論議が必要である。経済・社会・政治、それぞれに変革へのとまどいと、模索が広がっている。
一方で、ドイツ、イタリア、スイスなどでは、フクシマに対応し、原発政策を転換した。だが日本の政府は、休止中の原発再稼働に、「安全宣言」し、地元自治体に同意を求めている。安全神話が崩壊し、事故収束の目途も立たないのに「安全宣言」。この国は、壊れかけているのではないだろうか。
原子力ムラは、保守=原発推進、革新=反原発という対立の下で形成されたと言われる。だが反核の平和運動と、原子力の平和利用は別で、両立していた。反原発は、70年代に小さな事故の頻発で、保守=原発維持、リベラル=脱原発
の構図が生まれる。
それが不毛の対立に終わったのは、政・官・業などの原子力ムラに対し、脱原発の側が反対だけで、国民的な打開の手段や道筋を示せなかったからだ。脱原発に賛成か反対かで、多くの人は自分の意見と同じ方向の情報しか得ていない。
そうした状況で、国民投票をしても数字の上だけで、合理的ではない。自分と違う意見の人と話し合うことで、どれほど自分の意見に根拠があるのか気付くのだ。大事なのは、そこに住む住民が議論を交わすこと、住民主権で、国や地方自治体が決めることではない。
フクシマの事故で、ドイツのエネルギー政策転換は速かった。メルケル首相の舵取りに加え、脱原発に賛否両方の専門家が「倫理委員会」に呼ばれ、10時間の論議が行われて、国民の視聴者は150万人に及んだという。そこには、国民的な論議、国民参加の民主主義がある。
そこで,マスメディアに、住民が議論する場を求めたい。そこに出れない人は、FAXやメール、ツイッターなどを使い、大勢が話し合う場を、何回か開く。その上で、最終的に地域の原発をどうするか、住民投票で決めては。
そのためには、脱原発か、原発継続か、日本のエネルギー政策の目標を掲げることが必要だ。そのどちらにも、再生可能エネルギー転換など、段階的な道筋が求められる。閉塞した政治状況を打開するのは、こうした勇気と決断だ。ストレステストの時機を図れない菅直人に、それができるだろうか 。
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