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クローズアップ２０１１：原発再稼働、統一見解へ 首相、「安全」譲らず
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20110709ddm003010071000c.html
毎日新聞 2011年7月9日 東京朝刊
◇安定供給に課題も
菅直人首相が指示した原発のストレステスト（耐性試験）を巡る政府の統一見解の発表は週明けに先送りされた。東京電力福島第１原発事故を受けて「国民の安全・安心」優先を打ち出した首相に対し、「唐突」「閣内不一致」など手続き面の批判は強いが、ストレステストの導入そのものを否定する声は少ない。「はしご外し」に反発する海江田万里経済産業相も首相の「８月退陣」を暗黙の前提に協力する構え。首相が在任中の再稼働阻止に動いたことで日本のエネルギー政策は「安全優先か、電力の安定供給か」の選択を迫られている。
「今回の原発事故を踏まえると、多くの国民や住民は再稼働についても、これまでの（経産省）原子力安全・保安院による安全評価だけでは十分でないと感じているのではないか」。菅首相は８日の衆院本会議で、運転停止中の原発の再稼働を認める前提としてストレステストが必要との認識を改めて示した。
原子力行政を推進してきた経産省に対する首相の不信感は強く、「（内閣府の）原子力安全委員会が関与する形で新しいルール作りを進めるべきだ」とも答弁。同委員会を所管する細野豪志原発事故担当相は同日の記者会見で「海江田大臣としっかり連携しながら、首相の最高責任者としての判断を尊重していきたい」と述べた。
九州電力玄海原発（佐賀県玄海町）の再稼働目前までこぎつけていた海江田氏は「玄海原発再稼働についてストレステストと絡めようと言ったのは首相だ」と不満を隠さない。経産省幹部は「福井県などほかの自治体との交渉も崩れてしまう」と語り、菅政権が続く今夏中の再稼働は断念せざるを得なくなったことに頭を抱える。
与謝野馨経済財政担当相は「海江田大臣が地元の自治体関係者に誠実に説明を行い、了解をいただいたこと自体は称賛に値する」と海江田氏を擁護し、「日本経済の下ぶれリスクの一つは電力の供給態勢」と訴えた。枝野幸男官房長官は「安全・安心優先」で首相に同調し、閣内の路線対立が表面化した。
海江田氏は７日の参院予算委員会で「時期が来たら責任を取る」と発言したが、８日は「まず、この夏の電力供給に遺漏ないようにしなくてはいけない。同時に中長期的な方向性もとらえなければいけない。そのために全力を尽くす」と当面の辞任を否定した。
民主党の岡田克也幹事長ら執行部は、再生可能エネルギー固定価格買い取り法案の成立など首相の示した「退陣３条件」の実現に取り組み、８月退陣の花道にしたい考え。野田佳彦財務相は「（海江田氏の発言は）重要法案が通った後の判断を示唆された。そのころはすべての閣僚が同じ心だろう」と語った。
そこまでは再稼働阻止にも協力して「延命」の芽を摘もうとしている海江田氏らに対し、ストレステストの導入を機に「脱原発・再生エネルギー推進」の流れを在任中につくりたい菅首相。退陣時期とエネルギー政策の行方が絡む駆け引きが激しくなりそうだ。【平田崇浩、野原大輔】
◇経済に下押し圧力 来年３月「原発ゼロ」に現実味
新たな安全評価が原発再稼働の条件になることで、定期検査中の原発は長期停止になる可能性があり、国内の商業炉５４基すべてが１２年３月末までに停止する「稼働原発ゼロ」も現実味を帯びてくる。暖房需要が増える真冬や、来夏も電力不足が続けば、経済活動は大きな影響を受け続けることになる。
東京電力の柏崎刈羽原発（新潟県）では、７基のうち４基が運転中だが、８月末までに２基が定検に入り、残る２基も１２年３月中旬までに停止する予定だ。他の電力会社の原発も相次いで１３カ月ごとに義務付けられている定検に入るため、再稼働が認められない状況が続けば、これを最後に国内の稼働原発はゼロになる。
東電は今夏、火力発電のフル稼働とガスタービン発電設備増設で対応しているが、８月末の供給力は猛暑時のピーク電力すれすれの５５６０万キロワット。原発が全基停止すれば２４５・６万キロワットの供給力を失う上、定検に入る火力もある。暖房が集中する真冬の朝夕は、需要が５０００万キロワット程度まで上昇するため、「電力不足が恒常化しかねない」と警戒する。
関西電力では、福井県に設置する原発１１基のうち４基が定検停止中で、さらに２基が２０日前後に定検入り。１２年２月には全基停止を迫られかねない。６〜１０年前から休止中の火力発電所が３カ所あるが、「部品も要員もない。立ち上げには２、３年かかる」（八木誠社長）。今冬のピーク需要は２６６５万キロワットだったが、来冬の供給力は２７１１万キロワットに落ち込む可能性があり、１５％節電要請の再開も視野に入る。
九州電力は年末までに全６基が停止する可能性が高まっている。１２年１月の供給力は１３５３万キロワットまで低下し、ピーク需要の１４２０万キロワットを賄えなくなる懸念がある。
ＳＭＢＣ日興証券は、原発が順次停止して再稼働できなかった場合、スケジュール通りに再稼働できた場合と比べて、国内全体の供給力は、８月末で５％▽１２月末で９％▽１２年３月末で１１％−−落ち込むと試算。火力発電などへの代替が燃料費高騰などで計画通りに進まなければ、来夏にはピーク需要を供給力が５・７％下回ると予測する。この結果、企業では勤務・操業時間の短縮や夏休みの長期化、生産を海外に移す動きなどが本格化することが予想される。スケジュール通り再稼働できた場合と比べて、鉱工業生産指数は今夏に約２％、１２年夏に約４％押し下げられる可能性があるという。同社の宮前耕也エコノミストは「節電が進まず、計画停電が実施されたりすれば、電力不足は日本経済をさらに下押しする」と指摘する。【立山清也、横山三加子、和田憲二】
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■ことば
◇ストレステスト
東京電力福島第１原発事故を受け、政府が全国の原発を対象に実施する耐性試験のこと。一般的には機器に予想以上の負荷（ストレス）を加えて、どの段階まで機能が維持できるかを点検するもの。原発については欧州連合（ＥＵ）が６月から、統一基準を用いて実施中。日本の場合は地震や津波で全電源を喪失し、原子炉などの冷却機能が失われた場合、どの段階まで安全性が維持できるのかを、コンピューターで解析して調べる。
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