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週刊現代7月16日23日合併号より
転載開始
「福島第一の再爆発に備えよ」 日本人は楽観しすぎている
全米で最も著明な理論物理学者ミチオ・カク教授(ニューヨーク市立大学)が明かす
「福島第一の再爆発に備えよ」 日本人は楽観しすぎている
全米で最も著明な理論物理学者ミチオ・カク教授(ニューヨーク市立大学)が明かす
取材・文 松村保孝 ジャーナリスト
「いいですか。忘れてはいけませんよ。いったん作業員全員が避難するようなことになれば、あとはもうフリーフォール(止めようのない急降下)です」。最悪の事態はこれから起きるのかもしれない。
これは時限爆弾です
「1906年4月、私の祖父はマグニチュード7.9のサンフランシスコ地震に遭遇しています。そのときの44倍以上のエネルギーが、今回の東日本大震災では放出されました。
それほどの巨大地震だったわけですから、何ヶ月あとになっても大きな余震は起こりうる。マグニチュード9・1のスマトラ島沖地震では3ヵ月後にマグニチュード8.6の余震が発生しています。東日本大震災のマグニチュードは9.0でしたから、それに近い規模の巨大地震がいつ東北地方や福島第一原発を襲っても決して不思議ではありません。
日本の専門家の中には、『多くの死者と行方不明者を出した地震津波に比べて、原発事故の被害は少ない』という人がいるようですが、それは楽観しすぎです。指先でビルの屋上の外壁にぶら下がり、『見てみろ!安定しているじゃないか!誰も死んでいないのだから、すべてOKだ』と言っているのに等しい。本当はいつ再爆発してもおかしくないーーーー これが福島第一の実態なのです。」
こう話すのは、ニューヨーク市立大学教授(理論物理学)で日系3世のミチオ・カク氏(64歳)である。
カク教授は、ハーバード大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。ニューヨーク市立が医学で30年にわたって教鞭を執る一方、物理学の普及活動にも熱心に取り組んでおり、『アインシュタインを超える』など多くの著書がある。
東日本大震災以降は、CNNやABCなどの報道番組に精力的に出演し、福島第一の今後などについて解説を行っている。その明晰な語り口は人気が高く、いまアメリカで最も著明な理論物理学者である。
カク教授は福島第一の現状をどう捉えているのか。ニューヨーク・セントラルパークの北にあるキャンパスの研究室を訪ねた。
――――事故発生から4ヶ月近くが経過しました。当初のような大きな爆発が最近おきてきませんが、福島第一はヤマを超えたのでしょうか。
カク とんでもない。私は福島第一を、静かに時を刻む「時限爆弾」だと考えています。時限爆弾は一見安定していますが、爆発させないためには信管を抜かなくてはならない。
翻って福島第一は今、瀬戸際でぐらぐらしていて安定していない状態です。原子炉の水温は高いままで、来年にならないと冷温停止にはならないでしょう。
しかも、ちょっとした余震に見舞われて、原子炉を冷却するパイプが破裂し、原子炉の圧力容器や格納容器、使用済みの核燃料プールの破壊が進めば、事故処理はまた振り出しに戻る。現時点でさえ、作業員は原子炉建屋の一部にしか入れず、一回の作業時間もたった数分から数十分に限られ、そのわずかな時間で年間許容量の放射線を浴びることもある。いつ状態が悪化してもおかしくない福島第一は時限爆弾なのです。
明日爆発してもおかしくない
―――福島第一にとって「最悪のシナリオ」とは、どのようなものを想定していますか。
カク ご存知のように、炉心溶融が1〜3号機の3つの原子炉で起こりました。
計測器は、これまでの予想を大幅に上回る深刻な事実を記録していますが、最悪のシナリオは未だ至っていません。
仮に巨大余震に襲われて敷地内のパイプやタンクが壊れたとしましょう。その時点で大量の高濃度汚染水が漏れ出し、放射能レベルは一気に上がる。作業員はプラントから全員避難せざるを得ない。そこから原発事故は悪化の一途をたどるのです。
原子炉内に水が絶えず注入されていないと、すぐ干上がってしまう。しかし、原子炉の破損がよりいっそうひどくなれば、壊れたカップに水を注ぐようなもので、いくら注いでも水はさっと流れ出す。そうなると炉心溶融が起こる―――これが、私の考えている最悪のシナリオなのです。
チェルノブイリでは水蒸気爆発と水素爆発が殆ど同時に起こりました。福島でも同じようなことが起こりえます。すでに福島では数回の水素爆発がありましたが、大きな水蒸気爆発にはまだ至っていません。水蒸気爆発は原子炉全体を吹き飛ばす。チェルノブイリでは炉心の25%が気化して外界に打ち上げられました。たった25%が気化しただけで、今回の福島の事故の5倍もの放射性物質が放出されたわけですが、もし福島第一で水蒸気爆発が起きたら、その被害はチェルノブイリどころでは済みません。
なぜなら、水蒸気爆発したチェルノブイリ原発4号炉に装填されていたウランの燃料の送料は190トンとされていますが、福島原発1〜4号機は合計351トンチェルノブイリの2倍近くもあるからです。
このシナリオはもう一回巨大示威sンが福島第一を襲ったら、十分ありうる話です。再度の地震、パイプの破裂、作業員の避難、炉心に水を注ぐ要因の不在、炉心溶融、そして水蒸気爆発が炉を吹き飛ばすといったことは明日にでも起こりうるのです。そうなればデットゾーン(避難区域)の規模はすさまじくなる。チェルノブイリのデットゾーンは19マイル(30km)居住も農業などの生産活動は一切禁止され、ゴーストタウンと化している。
放射性物質は50マイル(80km)ぐらいは容易に飛散する。東京は福島から150マイル(240km)離れていて安全圏だとしてもパニックが起こり、多くの人々が東京を脱出する。
私はこの「時限爆弾」がただちに爆発するとは言っていません、明日起こるかもしれないし、全く怒らないかもしれない。しかし、こうした予測シナリオを描き、分析するための多くのコンピュータープログラムを開発し、それを元に行ったシュミレーションこそ、われわれ理論物理学者が50年かけて研究してきたことなのです。
日本政府は信用できない
−――日本政府は計54基の原発中、現在非稼動の35基を順次、再稼動させようとしています。本当に原発を運転再開させても大丈夫なのでしょうか。
カク まず何よりも日本政府の威信は地に落ちました。多くの人々が日本政府や東京電力のもたらす情報を信用していません。われわれアメリカの物理学者は、自分のコンピュータープログラムに事故のデータをインプットし、今回の事故の再現をしています。」毎時間ごと、毎秒ごとの炉心損傷と放射性物質の放出量の分析をしている。これが日本政府の発表する、聞く人を安心させるような情報とは一致しなかったのです。
彼らは当初、「炉心は何らかの損傷を受けている可能性がある」とし、損そうの程度も「ごく一部に過ぎない」と説明していました。しかし、われわれはその時、すでに100%損傷している可能性があるほど甚大は被害が出ていると予想していた。結局、東電が炉心溶融を認めたのは事故から2ヶ月も経過した5月中旬のことでした。
また、われわれの計算では、放射性物質の放出量は公式発表よりずっと多かった。すると4月の段階で放射線放出量を37万テラベクレと推計していた日本政府は、6月になって2倍以上の77万テラベクレルに上方修正した。
幾度となく日本政府は安心させるようなことを言ってきましたが、コンピュータープログラムでチェックすると、彼らの言動は信用できないとわかるのです。
―――それでみギリギリのところで福島第一の状況悪化が踏みとどまったのは、何が理由だと重いますか。
カク 炉心溶融するほどの大事故を食い止めたのは奇跡としか思えません。現場の吉田(昌郎)というリーダーが海水注入を続けたおかげです。中央からの命令に背いて海水バルブを開き続け、原子炉を冷やした。彼こそ英雄です。窮地を救った。当時のあらゆる楽観的な見通しは、「原子炉を廃炉にせず、過去の投資を無駄にしたくない」という考えに発したもので、確かに海水を注入すれば炉は二度と使えなくなる。しかし、海水注入こそが唯一の正しい答えで、あとの選択肢はすべて間違いだったのです。
事実、われわれのコンピュータープログラムの事故再現によれば、炉心の損傷は激甚で、さらに圧力容器に穴が開いていることも警告していた。それでもなお、日本政府が延々と言い続けたのは、「格納容器は破損していない」「スリーマイル島事故のような事態にはならない」ということでした。それが現在は格納容器の損傷を認めている。この事態は重大です。推移が下がれば容器に底がある溶けたウラニウムが再び暴走し始め、大事故につながりかねない。ですからわれわれは日本政府を信用できないのです。
―――日本政府が「夢の原子炉」として実現を目指している高速増殖炉についてはどう考えていますか。
カク 高速増殖炉は燃やした以上に燃料(プルトニウム)を産み出すというまるで手に触れた物をすべて黄金に変えるギリシャ神話の「ミダス王」のような代物です。
しかし、そもそもプルトニウムは非常に毒性が強い化学物質で、兵器への転用が可能です。ハイジャッカーやテロリストが手に入れたプルトニウムから核兵器を作り出すかもしれない。そんな危険なプルトニウムを生み出す高速増殖炉をアメリカ人はミダス王とは呼ばずに「ファウストの契約」と呼んでいることを知っています。
ファウストは悪魔に魂を売って全能を手に入れた、ゲーテの作品の主人公です。つまり日本人は、無限にプルトニウムを生み出すことのできる高速増殖炉を手に入れるために、命を代価として差し出したのです。
今回、福島第一の敷地内からはプルトニウムが検出されましたが、日本列島に住む人々はプルトニウムにそれほどの価値があるのか、あらためて論議すべきではないでしょうか。
福島第一がこれほど甚大な被害をもたらしたうえ、巨大余震の可能性から免れることもできないとすれば、日本人は原発からの段階的な撤退を真剣に考えたほうがいいと思います。とりわけ東海地震の予想震源域に立つ浜岡原発は、一刻も早く運転を永久停止するべきでしょう。
―――日本政府による「過小評価」は、パニックを抑制するためと見る人がいます。
カク 原発はエネルギー効率がよく、CO2の排出量も少ないのは事実ですが、同時に大きな危険性も伴います。日本の人々にこれらすべてが十分に説明されていたならが、広大な居住地を失い何十万という人々が退避しなければならないことに突然気づくようなことはなかった。こんなに大きな衝撃も受けなかったでしょう。
収束には50年、100年かかる
―――事ここに及んで日本政府は真実を伝えていると考えていますか?
カク 未だに最小限の情報しか与えていません。たとえば、避難されている福島の人々はまだ、もと住んでいた家に戻れると考えている。ある時点で、一部の人には自宅に戻れないと伝えるべきです。放射能によって汚染された表土を10cmほどブルドーザーで削ったとしても、農地は助からない。チェルノブイリ同様のデットゾーンになるしかないのです。
日本政府は「いつかは正常に戻る」という根拠のない話をしていますが、問題は福島に正常化などはないということです。本当のことを伝えなくてはいけない。さもなければ今後、現実を知らされたとき、人々はパニックに陥る。
放射線除去作業が始まった際、それは数十年かかる作業であると伝えられるべきでした。福島第一にプラントを納入している東芝は10年、日立は30年と見ているようですが、アメリカのエンジニアの中には50年から100年かかると見ているひとがいます。思い出してください。チェルノブイリ事故は25年たった今でも収束していないのですよ。炉心は地中にメルトダウンしており、原発自体を覆うための高さ100mの巨大ドームを建設していますが、まだ完成には至っていません。福島の事故もおそらく50年から100年は収束しないでしょう」
―――暗澹たる話ですが、このように語る科学者が日本にはほとんどいません。
カク 日本人には何が起こったのか。そしてこれからどうなるのかについて全面的に伝えられていません。われわれ物理学者は、過去に何度か同じような事例を見てきて、それをコンピューターモデル化しているから、福島第一の事故の規模はもっと大きいと知っているのです。
繰り返しますが、福島第一が安全であると主張することは、指先でビルの屋上の外壁にぶら下がり『見ろ、すべてが安定している。誰も死んでいない。すべてOKだ』と言っているようなものです」
―――CNNに出演した際、潜在的にはこの事故によって東北地方全域で人が住めなくなる可能性があると語っていました。
カク その通りです。北日本の大部分です。福島第一が制御不能になれば、潜在的にはチェルノブイリより事故の規模が大きいのです。いいですか。忘れてはいけませんよ。いったん作業員全員が退避することになるようなことになれば、あとはもうフリーフォール(止めようのない急降下)です。
ロボットに複雑な作業は無理です。放射能汚染水は蒸発するか漏出して事故処理は振り出しに戻る。再び爆発が起こって、チェルノブイリのような大惨事が起こりうることも想定しながら、今後の対策を考え、備えておくべきです。
転載終了
ということは、やはり、冷温停止にならない限り、水蒸気爆発の可能性はありえるし、いつ起こってもおかしくないというのがカク・ミチオ教授のお考えなのですな。
阪大西村名誉教授とか、東大名誉教授とか、長崎大学の山師多教授とかみ〜んなカク教授と比較すると楽観論。
武田教授も一見ブログではカク教授より楽観論だけど、実際は同じことを言っていると思う投稿者地震は。
皆さまどう感じられますかね?
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