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もう大分、プルトニウムは溜まったはずだから、核武装が目的だとしても、あまり再処理継続にこだわる必要もないだろうが
利権ができてしまうと難しいということか
まあ、低コストの革新的な技術が現れない限りは、潰れるのも時間の問題だな
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20110705/221302/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>記者の眼
「核燃料サイクルは破綻している」
今こそ再処理を考え直す時
2011年7月7日 木曜日
市村 孝二巳
3月某日。東日本大震災後、東京電力の「無計画停電」で首都圏が混乱を極めていたころ、かろうじて停電エリアからは外れた東京都内の我が家に、東電から一通のはがきが届いた。
3月分も2月分と同じ額をいったん徴収され、実際に使った分との差額は4月分で精算された
「平成23年3月分の検針中止に関するお詫び」と題する文面には、福島第1原子力発電所の事故と計画停電に関するお詫びに続き、こんな記述がある。
「ご報告が遅くなりましたが、平成23年3月14日(月)から3月16日(水)の間(一部地域については、3月23日(水)までの間)、東北地方太平洋沖地震の余震が多く、道路交通事情も悪化したことなどから、検針を中止させていただきました。
そのため、平成23年3月分の電気のご使用量については、前月の平成23年2月分のご使用量と同量とさせていただき、過日、電気ご使用量のお知らせ(検針票)を送付させていただきました。
なお、今回の取扱いによる電気料金の差額につきましては、平成23年4月分の電気料金をご請求する際に精算させていただきます」
震災後のバタバタで見落としていたが、これに先立ち、検針日を3月16日としながら、2月分と同額を徴収する旨の検針票がはがきで送られてきていた。
そこには「非常変災の影響により検針にお伺いすることができませんでしたので、先月分と同様のご使用量とさせていただきました」という説明しかなく、差額を返すという記述もなかったため、よほど苦情が殺到したのだろう。
被災地でもないのに、検針できないから3月分はいったん2月分と同額を徴収するというのである。そんなことが許されるのか、というのが率直な感想だったが、一度も眼を通したことのない電力供給約款には、災害などで検針ができなかった場合は、暫定料金を請求できる規定があるという。うまくできているものだ。
もちろん差額は後で返してくれるというが、2月はエアコンの稼働率が高く、我が家は2万円を超える料金を支払っていた。お客が使いたいだけ使い、使った分の料金は自動的に徴収できる。商品やサービスの代金回収に四苦八苦している幾多の会社に比べれば、電力会社の集金システムはきわめて効率的であり、サラリーマンの源泉徴収にも通じるものがある。「電力会社は官僚的」といわれる所以は、意外にもそのあたりにあるのかもしれない。
その後も郵便受けには4月以降の検針票とともに、4月の請求分から3月の超過請求分を差し引く仕組みを図で説明したリーフレットも配られた。
悔し紛れに、これまではさほど気に止めることもなかった検針票を見つめなおしてみると、これまでどれだけ電気をムダに使ってきたかを痛感させられただけでなく、いくつかの発見もあった。
4月分からは「太陽光促進付加金」という新しい項目が増えた。我が家は17円。月々の使用電力量に応じて1キロワット時あたり3銭の割合で、太陽光発電の余剰電力を東電が買い取る費用を消費者が負担する新しい仕組みだ。
これでは「太陽光発電は高くつくんですよ」と言わんばかりの表示方法だと思うのは私だけだろうか。
検針票に表示されないコスト
実は、太陽光促進付加金以外にも、電気料金には電力事業にまつわる様々なコストが織り込まれているが、その明細は書かれていない。もともと、電気料金は発電、送電、配電など電力会社の経営にかかるすべてのコストに、ある程度の利潤を足すという「総括原価方式」で決まっているので、普通の企業と違って電力会社はよほどのことがなければ赤字になることはない。
検針票には表示されないコストの1つに、青森県六ヶ所村で日本原燃という電力業界の共同出資会社が続けている「核燃料サイクル」のための費用がある。立命館大学の大島堅一教授は「1世帯当たり月額200円程度を電気料金から回収している」と指摘する。そうだとすると、太陽光の負担よりよっぽど高い。
例えば、原発で燃やした使用済み核燃料をリサイクルする「バックエンド」事業には18兆8000億円(電気事業連合会試算)かかるとされている。このうち、使用済み核燃料の再処理などに要する15兆2000億円については電力会社が積立金を積むことが法律で認められている。貸借対照表にある「使用済燃料再処理等積立金」がそれで、東電は2011年3月末で9826億円を積み立てている。電力会社の積立金は、公益財団法人・原子力環境整備促進・資金管理センターにまとめられ、同3月末の運用残高は約2兆4416億円に上る。同センターにはほかに放射性廃棄物の最終処分に使う積立金も8374億円ある。合計3兆2790億円の“埋蔵金”である。
問題は、この核燃料サイクル事業が失敗に続く失敗で袋小路に入り込み、電力業界にとっても厄介な金食い虫になってしまっていることだ。原発推進を続けてきた自民党と、2030年に原発依存度を50%に高める「エネルギー基本計画」を閣議決定して原発推進路線を引き継いだ民主党。与野党を問わず、原発政策に精通している有力議員からは「どうしてこんなことになってしまったのか」という本音が漏れ聞こえてくる。関係者の間では、東京電力の勝俣恒久会長も一時は、核燃料サイクルの「返上」を望んだ、と言い伝えられている。
かつて核燃料サイクルは、1973年の石油危機以来、脱石油路線を模索してきた日本にとって、「夢のエネルギー」「準国産エネルギー」ともてはやされる存在だった。使用済み核燃料を再処理してリサイクルすれば、半永久的に発電に使える――。その夢が夢と消えたのは、1995年の高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)のナトリウム漏れ事故だった。ウランをプルトニウムに変え、発電しながら消費した以上の燃料を作り出す高速増殖炉については、米欧各国も90年代に技術的、経済的限界に直面して開発を断念した。もんじゅは事故以来15年の時を経て、2010年5月に試験運転を再開したのもつかの間、8月に燃料交換装置が原子炉容器内に落下。今も運転停止状態が続いている。
長引く六ヶ所の機能停止
3月11日、六ヶ所村も震度4の揺れに襲われた。再処理工場は外部電源喪失に見舞われたものの、非常用電源で対応。使用済み燃料を貯蔵しておくプールの周りに冷却水が溢れるなどしたものの、目立った被害はなかった。むしろこの施設が抱えている問題は、震災よりもずっと前から再処理工場、ウラン濃縮工場など主たる設備が長らく機能を停止したまま、無用の長物と化していることにある。
六ヶ所村の核燃料再処理工場などの遠景(2009年12月撮影)
再処理工場は、使用済み核燃料を処理した後に残る高レベルの放射性廃液を封じ込める「ガラス固化体」を作る設備で故障が続き、試験運転を停止したままだ。ガラス固化の技術はフランスや英国ではすでに実用化されているが、日本独自の技術開発にこだわるあまり、1997年の稼働予定は遅れに遅れ、計画延期は実に18回に及ぶ。現在は2012年10月を目指しているが、建設費は構想当初の6900億円から2兆2000億円へと3倍に膨れ上がっている。
もんじゅが動かないながらも、使用済み核燃料から再処理で取り出したウランとプルトニウムを混合してMOX燃料を作り、原発で燃やす「プルサーマル」という次善の策はある。こちらは半永久とはいかないが、核燃料のリサイクルにはなるので、国と電力業界にとっては頼みの綱だ。
ところが、六ヶ所村ではMOX燃料工場の着工時期も延び延びになっている。高レベルの放射性廃棄物を埋設処分する最終処理場が見つからない、といった懸案の前に、自前の設備で再処理の工程をこなせず、MOX燃料工場にも手がつかず、一部の使用済み核燃料の再処理は英国とフランスに頼み、MOX燃料やガラス固化体を送り返してもらっている。
さらに昨年9月、電力各社は日本原燃に対する合計4000億円の追加出資に応じた。ウラン濃縮工場の遠心分離機更新や、ウランとプルトニウムを混合するMOX燃料工場などへの投資に振り向けるというが、どれだけ資金をつぎ込んでも核燃料サイクルの本格稼働には至らないという泥沼の状態にある。
再処理工場がいつまでも動かない結果、日本中の原発に溜まっている使用済み核燃料は、貯蔵設備の限界に近づきつつある。福島第1原発の事故では冷却プールで保管していた使用済み核燃料棒も損傷し、放射性物質が飛散したとみられている。原子炉の中で核反応を起こしている核燃料に比べればはるかに安全と思われていた使用済み核燃料でさえ、「これほどの危険性を秘めているとは、正直なところ知らなかった」(経済産業省幹部)という声も上がった。
福島第1原発事故の収束と巨額の損害賠償という難題に直面する今となっては、核燃料サイクルは、もはや国にも電力業界にも背負いきれない重荷になってしまったのではないか。
かつて、この核燃料サイクルにストップをかけようとした男たちがいた。
2004年春、経済産業省の若手官僚たちが「19兆円の請求書〜止まらない核燃料サイクル」と題する文書を手に永田町や霞ヶ関を走り回り、「今こそ立ち止まって考え直すべきだ」と訴えた。電力自由化に最も積極的な論客である八田達夫・大阪大学招聘教授(当時は国際基督教大学教授)が、日本経済新聞の経済教室で「核燃再処理、経済的に破綻」との見出しを掲げ、再処理工場の稼働を政府の責任で中止すべきだという主張を展開したのも、この年の7月だった。
当時、六ヶ所村の再処理工場には「アクティブ試験」と呼ばれる試験運転の開始時期が迫っていた。実際にプルトニウムを使う最終試験に踏み出してしまえば、巨大な設備と配管は放射能に汚染され、後戻りしにくくなる。19兆円もの巨費が無駄になる。そういう危機感が彼らを突き動かしていた。当時、経済産業事務次官だった村田成二氏(新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長)が裏で彼らを動かした、とみる向きもあったが、事実はやや異なる。思い詰めた彼らの熱意に動かされ、村田氏が黙認した、というのが実態に近い。
しかし、この策動もつぶれる。
村田氏は結局、「打ち方やめ」の指示を出した。志半ばにして敗れた男たちの胸中には、今も無念が残る。
なぜ、村田氏は彼らを見殺しにせざるを得なかったのだろうか。
「潜在的核保有論」の影
当時、経済産業大臣を務めていたのは、故・中川昭一氏だった。中川氏は自民党の政務調査会長となった2006年、北朝鮮の核実験を受け、非核三原則を前提としながらも、日本の核保有について「議論は大いにしないといけない」と発言し、物議を醸した。
生前、中川氏に聞いたことがある。プルトニウムを含む核廃棄物を再処理する工場を日本国内に置く意義がある、と。ある経産官僚も「中川氏は、いわゆる『潜在的核保有論』による抑止力を意識していた」と述懐する。日本が核燃料サイクルを続けていれば、いつでも核兵器を作れる、という潜在能力を暗示することになる、ということだ。中曽根康弘元首相から連綿と連なる自民党の保守勢力には、どうしても核燃料サイクルを推進したいという政治的思惑があったのだ。
日本経済研究センターの深尾光洋研究顧問(慶応義塾大学教授)は6月、「核燃料再処理は無期限停止を」と主張する論考を発表した。
「再処理工場も事故が続いて本稼働が延び延びになっており、今回の事故を考えると稼働自体が困難になると見込まれる。このため、六ヶ所村の再処理工場を無期限に停止して、使用済み核燃料の中間貯蔵施設として再利用することで得られる経済価値は、再処理費用19兆円から廃止に必要なコストを差し引いた約10兆円となる」と、八田氏の推計を引用して再処理ストップの効用を説いている。さらに「実際、過去の再処理工場のトラブルの多さ、コスト管理の失敗を考慮すると、再処理停止に伴うコスト削減はもっと大きい可能性が大きい」とも指摘している。
「19兆円」の根拠となっている電事連の18兆8000億円というコスト試算は、実は全国で発生する使用済み核燃料を半分だけ再処理するという前提に立っている。その後、全量再処理すると想定した国の原子力委員会のコスト試算は実に43兆円。再処理せず、すべて地中に直接埋設する「ワンスルー」の場合は30兆〜39兆円と幅があるが、再処理よりは少なくてすむという見積もりである。
原子力環境整備促進・資金管理センターに積み立てられた3兆円を超える埋蔵金は、法律により、再処理と最終処分に使うものと定められている。最終処分の積立金はどのみち必要になるとしても、もし再処理を諦めれば、2兆4416億円を福島県の被災者の賠償に充てる道が開けるかもしれない。
いずれにせよ、19兆円とか、43兆円とか、途方もない金額を投入すべき事業なのかどうか。いま一度考え直すべき時機が来たことは間違いない。
■変更履歴
1ページ最終段落冒頭に、「例えば、原発で燃やした使用済み核燃料をリサイクルする「バックエンド」事業には18兆8000億円(電気事業連合会試算)かかるとされている。このうち、使用済み核燃料の再処理などに要する15兆2000億円については」を追記します。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2011/07/07 10:00]
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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著者プロフィール
市村 孝二巳(いちむら・たかふみ)
日経ビジネス副編集長 兼 編集委員。
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