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玄海原発が「プルサーマル」と「再稼働」で"第一号"となったのはなぜか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/11273
2011年07月07日(木) 伊藤 博敏「ニュースの深層」:現代ビジネス
玄海原発が、また窮地を救ってくれた---。
電力業界が、九州電力と玄海町に"感謝"のまなざしを向けている。
「3・11」の衝撃的な福島原発事故から4ヵ月が経過、国民のみならず世界の関心が「フクシマ」に注がれるなか、事故処理は一進一退を繰り返し、どの国においても「脱原発」が本気で論議されている。
その最中に、玄海町は運転停止中の玄海原発2,3号機の再稼働に同意した。古川康・佐賀県知事が容認姿勢を示していることもあり、玄海原発が再稼働の口火を切る可能性が高い。
本音で早く原発を再稼働させ、電力の安定供給につなげたい電力各社にとってみれば、玄海町の大英断である。それだけの信頼関係を築いてきた九州電力とともに、感謝の念を"密か"に贈っている。
しかも、玄海原発の"第一号"はこれで二度目である。
日本の原子力行政は、使用済み核燃料を再処理、ウランとプルトニウムを取り出して使う核燃料サイクルを基本としている。ところが、高速増殖炉も再処理工場も本格稼働に手間取り、見直しを余儀なくされた。
"つなぎの策"として採用されたのが「プルサーマル計画」である。ウランとプルトニウムの混合酸化物のMOX燃料を原子炉で燃やし、燃料効率を上げるとともに、プルトニウムを消費、核燃料サイクルを堅持しようというもの
だが、通常のウラン燃料より取り扱いが難しいMOX燃料には反対が多かったし、一度は「プルサーマル計画」に同意していた福島県が、02年に発覚した東電の「事故隠し」に反発、白紙撤回するなど計画は暗礁に乗り上げた。
この事態を解消したのが玄海原発だった。
■原発によってよみがえった過疎の町
九電は、04年5月、玄海原発3号機への導入を計画、県と町に「事前了解願い」を提出、06年3月に県は周辺市町村の意見も調整のうえで、「プルサーマル計画」を「了解」したのだった。
その後、MOX燃料が運び込まれ、各種試験を重ねたうえで、09年12月2日、日本初の営業運転開始に漕ぎ着けた。
この計画を推進するために、どれだけ九電が"努力"しているかを、私はこのコラム(「電力マネーで創立された早稲田佐賀学園とプルサーマルの関係」6月2日号)でお伝えした。九電は創立資金22億円の内の20億円を早稲田佐賀学園に寄付、唐津市が切望する中高一貫の名門系属校が、10年4月、開校したのだった。唐津市は玄海町に隣接、意見調整が求められる自治体である。
そのほか九電は、10年4月、「佐賀国際重粒子腺がん治療財団」に39億7000万円を寄付、地元との関係重視を鮮明にした。
原発が立地する自治体への手厚いケアは、今や周知の事実となっている。原発によって蘇った「過疎の町」は少なくない。
玄海町は、1960年代に原発が誘致されなければ、間違いなく「さびれゆく漁村」となる運命だった。だが、原発立地が決まって工事が始まり、第1号機が1970年に完成、原発と共存共栄する町となった。
07年度から09年度までの3年間に、電源立地交付金と固定資産税で124億5100万円を受け取り、歳入に占める割合は53・2%だった。この豊富な収入によって人口6500人の町は、公共工事の削減に怯えることのない豊かさを享受している。
■受注を続ける町長のファミリー企業
町だけではない。
再稼働を通じて、全国ニュースに登場することが多くなった岸本英雄・玄海町長のファミリー企業である岸本組も原発の"恩恵"を被っている。
岸本組は1911年(明治44年)に創業、唐津市と玄海町の土木工事で基盤を築き、岸本町長もかつては専務を務めており、現在、弟の剛氏が社長、町長は株式の15%弱を保有する大株主である。
従業員100名内外を抱え、売上高41億5800万円(09年3月期)の事業規模は、唐津市と玄海町を基盤とする企業のなかでは抜群の存在感で、岸本剛氏は佐賀県建設業協会の会長も務める。
岸本組の事業は公共工事に依存、民需は九電に負うところが多い。民間調査会社の報告書には、「国交省佐賀地方整備局発注の共同溝設置」「唐津市佐志小学校の改築」「唐津市農協のみかん選果場新築」「早稲田佐賀学園校舎改装」「玄海原発の関連建築」といった工事名が並ぶ。
原発立地の自治体は、電源三法と固定資産税で潤い、同時に原発関連の工事や補修で雇用が確保され、地域は振興、原発と共存共栄の町が形成される。理屈ではなく、ガッチリ組み込まれて身動きが取れず、「脱原発」など絵空事である。
玄海町はまさにそんな町であり、九電は長い時間をかけて玄海町と唐津市、そして佐賀県を"籠絡"していった。
厳しさで知られる長崎市市議会の政治倫理条例は、「議員の配偶者、二親等以内の親族、又はこれらの者が役員をしている企業」について、市発注の請負辞退といった「遵守事項」を定めている。
玄海町にそうした条例はないものの、九電によって潤う町の公共工事や九電絡みの工事を、町長のファミリー企業が受注を続け、勢力を維持する構図には違和感がある。
安全を引き換えにしていないか---。
そんな疑問が生じるわけで、カネにモノをいわせる「電力方式」を、プルサーマルに続いて再稼働でも受け入れた岸本町長には、その姿勢を問うてしかるべきなのである。
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