http://www.asyura2.com/11/genpatu13/msg/510.html
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福島では県が主催する「健康調査」が本格的に始まろうとしている。
そして、TV局や大手新聞は、それがあたかも住民の健康に配慮した行政の思いやりから行われるものであるかのように報じている。
3月11日以降の事実経過を知っているひとであれば、責任やパニックを避けようとしたのか、お金や手間暇をケチったのかはわからないが、中央政府や福島県が、住民の健康を平気で踏みにじり、減らすことができた被曝さえ知らん顔で放置していた犯罪的対応ぶりを知っているはずである。
「健康調査」の第一義的目的は、長期にわたる低・中放射能汚染が2百万人ものまとまった数の人体に及ぼす影響を知ることである。
このような“チャンス”は史上稀に見るものであり、“西側”研究者にとっては千載一遇の機会である。
しかし、この「健康調査」は、たんに“人体実験”にとどまるだけでなく、さらに悪用され、東電・政府が、健康被害の補償から逃げる根拠にされる可能性さえある危険な代物なのだ。
(10年後のお話と想定)
●パターンA:発症例が従来の平均値よりやや多い地域で発症
ある地域で未成年者Aが甲状腺ガンを発症した。
その地域のここ数年の甲状腺ガンの発症率は、3月11日以前の福島(日本)の発症率と“有意差”がないと結論されている。
そうなると、未成年者Aは、甲状腺ガンの発症原因が福島第一の原発事故にあると認定されない可能性が高く、東電や政府から補償が受けられないことになる。
●パターンB:累積線量がそれほど高くない地域の発症例
ある地域で成年Bが白血病を発症した。
その地域は、他の地域に比べ、放射性物質の降下量が少なく累積外部被曝が少ないとされている。
成年Bが福島第一で放射能漏洩事故がなければ白血病に罹患していなかったとしても、その地域の累積線量を根拠に、福島第一原発事故との因果関係は認められず、補償も受けられない可能性がある。
●パターンC:発症例が異常に大きい地域で発症
ある地域で未成年者が次々と白血病を発症した。
その地域は、確かに、放射性物質の降下量が多く累積外部被曝も多いとされている。
それでも、その地域で大量に発症した白血病患者には、福島第一の事故との因果関係が認められず、補償も受けられなかった。
「えっ、そんなバカな!?」というのが普通の常識的な判断だが、政府や原子力利用推進派はそのような正常な考え方や判断力を持ち合わせてはいない。
この例は、仮想的につくった話ではなく、既にあった話を福島に適用してみただけのものである。
英国のセラフィールド核燃料再処理施設周辺で小児白血病の発生率が全国平均よりはるかに高いことがわかり、再処理施設から放出された放射性物質が主たる原因ではないか疑われたが、その発生率が放出された放射性物質の量から推定される“期待値”よりはるかに高いという理由で認められなかったのである。
予測を超える大量発症は、大量過ぎるがゆえに、核施設からの放射能流出が原因にならないというトンデモ理論がまかり通っている。
“異常”に高い発症率であれば、ホットスポットや生活スタイルから起きる内部被曝など、これまでの研究が見逃している要因を必死に探し求めるのがまっとうな研究者の努めだと思うが、そうではなく原子力施設が“無罪”であることの有力な証拠に使おうとするのである。
言ってしまえば、政府寄りの研究機関や研究者のこれまでの“研究成果”が予測する発症パターンに適合した人だけがかろうじて補償の対象になり、その他は、統計的処理値が低かろうが高かろうが、福島第一の原発事故との因果関係が認められず、補償も受けられないことになってしまうという話だ。
福島県が行っている「健康調査」なる代物は、一時的な気休めにはなるかも知れないが、我が身をモルモットして差し出すことであり、下手をすると、原発事故が原因で将来発症しても、なんやかんやとケチを付けられ補償さえ受けられない根拠に使われるデータ収集を意味する。
疫学調査で出されたタバコ発ガン主犯説と同じで、ある仮説をもっともらしく説明するのは、データの切り取り方や論理の組み立て方で容易である。
(念のため、タバコに発がん要因がないと言いたいわけではない)
「健康調査」に協力することが、補償の道さえ閉ざし、自分の首を絞めることにもなりかねないことに留意して、協力するかどうか決めるべきである。
※ 関連投稿
「福島県健康調査」:被曝と疾病に関わるデータ収集が第一義の目的:県民は費用相当のお金をもらうだけで自主的健康診断を!
http://www.asyura2.com/11/genpatu12/msg/939.html
※ 添付資料:
セラフィールド再処理施設周辺の健康被害をめぐる原発推進派と脱原発派(今中さん)の二つの資料を提示
■ 原発推進派
<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設による健康影響
<小項目> 健康影響調査
<タイトル>
英国における原子力施設周辺の小児白血病 (09-03-01-01)
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<概要>
英国の核燃料再処理施設周辺(セラフィールド、ドーンレイ)で小児白血病の発生率が全国平均よりはるかに高いことが1983年発表され、その主たる原因は再処理施設から放出された放射性物質によるものではないかという疑いがもたれた。
この真偽を確かめるため専門家による諮問委員会等で詳細な検討が重ねられたが、その発生率は環境中に放出された放射性物質の量から推定される期待値よりはるかに高いものであり、説明がつかなかった。現在(2000年1月)も、他の種々な原因について検討中である。
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<更新年月>
2005年02月
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<本文>
1983年11月1日、英国ヨークシャーテレビ局は、セラフィールド再処理施設周辺の町村で子供のがんや白血病の発生率が全国平均よりはるかに高く(例えば2.4km離れたシースケール町では10倍)、それは再処理施設から放出される放射性物質によるものであるとした内容のテレビ放送を行なった。
そこで専門家がその事実の正否について検討を行なった。セラフィールド再処理施設(旧名:ウィンズケール再処理施設)からの放射能の環境中への放出量を調査し、また疫学調査の結果を吟味した結果、放出量から期待される白血病発生率と観察値の間には大きな差のあることが判明した。すなわち、シースケール町(Seascale:イングランドの北西海岸)の1950年集団の住民各個人が、1950〜1970年の期間に施設から放出された放射能で受ける赤色骨髄線量を計算すると、約3.5mSvとなる。これは調査期間中の自然放射線による線量の13%に相当する(ただし、この値には1957年のウインズケール原子力発電所での火災に起因する0.8mSvの線量が含まれている)。これよりシースケール住民の白血病の発生リスクを求めると、0.091例という値が得られる。一方、現実には1945年以来、4例の20歳未満の白血病患者がシースケールで発生している。これから自然放射線による白血病発生リスク0.5例を差し引くと、3.5例が過剰発生ということになる。放射性核種放出による過剰発生の期待値は0.091例であるから、この値は期待値の40倍である。したがって、3.5例の過剰発生をすべてセラフィールド再処理施設からの放射性核種放出によるものとは考え難い。
放射線以外の発がんに関係がありそうな要因や放射線と他の要因との複合作用についても検討したが、この地域に特有な発がん要因は見出されなかった。結局テレビ報道の真偽を立証することができなかったが、そうかといって完全に否定するような有力な証拠も得られなかった。
この問題はその後も尾を引き、他の再処理施設周辺(ドーンレイ:Dounreay、スコットランド北部西海岸、図1参照)でも同様な調査が行なわれ、専門誌に論文が発表されている。すなわち、ドーンレイ原子力施設から12.5km以内の区域で、1979〜1984年間に0〜24歳の白血病発生が期待値の約10倍高くなっていた。しかし、1968〜1978年には過剰発生はなかった。これらの結果は白血病発生数が調査期間および調査区域に大きく依存することを示している。一方、ドーンレイでの放射性物質放出量と疫学調査の結果とを再検討した他の専門家の研究によると、ドーンレイ原子力施設から25km以内の地区の小児白血病は英国平均の2倍高いが、統計上有意ではない。しかし、12.5km以内では3倍高く統計上有意となること、および1979〜1984年間に限ると25km以内でも統計上有意となり、12.5km以内ではさらに10倍も高くなることから、ドーンレイ周辺で若年齢者に白血病の発生が有意に増加していることは確かである(表1参照)。セラフィールド再処理工場周辺でも同じような傾向があることから、再処理工場の何らかの特性がドーンレイ周辺の若年齢者の白血病のリスクの増大をもたらしているということはありうる。
しかし、一方でドーンレイから放出された放射性物質により周辺公衆のうける線量は、自然放射線、医療放射線、フォールアウトを含めた全体の1.3%とごく低く(表2参照)、1989年の時点での知見では、白血病の過剰発生を放出された放射性物質で説明することはできない(表3参照)。
1990年、ガードナー等は25歳以下の白血病およびリンパ腫について、行政教区レベル(シースケール町を含む)の小地区、並びに放射能汚染地域一帯と従業員の居住区を含む郡レベルで、症例−対照研究を行った(文献6)。可能性が疑われる9つ以上の要因についてそれぞれ白血病発症との関連を調査した。その結果、一般環境中の放射性物質が関係するような海岸で遊ぶ頻度とか、魚を食べる頻度などの因子について、対照者群に比べ患者群がより多く曝露されていたというデータは得られなかった。しかし表4に示すように、父親がセラフィールドで働いていた場合の相対リスクは高く、さらに被ばく線量別にわけると、線量の大きいほど白血病発症の相対リスクが増加し、線量−反応関係を示した。さらに、受胎前6ヶ月の線量では10mSvで白血病発症の相対リスクが有意に7倍も高かった。また、放射線作業開始後の累積線量が100mSv以上で相対リスクは約6倍と大きく、有意であった。
しかしながら、その後行われた他の調査では、子供の受胎前の父親の被ばくだけではシースケール町の白血病発症のクラスターは説明できず、Kinlenは人口が粗な地域に大量の人口が流入した場合に生じるウィルス感染に対する免疫力の低下で説明しようとした(この考え方をKinlen人口混合説と呼ぶ、文献6、7)。1983年のテレビ放映以後、この件に関する1990年までの経緯をまとめたものが図2に示してある。
1994年の論評(文献8)によると、父親の受胎前被ばくとその子供の白血病の発生率との間には関連性があるという仮説は、放射線遺伝学の知見においても、小児白血病の遺伝性に係わる知見においても、またその他の放射線および白血病リスクに関する研究からも支持できず、おそらく父親と白血病との関連性は偶然による可能性が高いこと、またもう一つの可能な説明としては、Kinlenのいう都市部、或いは農村部からの人口流入説もあるが、この説だけでは説明できず、恐らく種々な原因の中の一つであろうとしている。
スコットランド北部のドーンレイ再処理施設から25km以内で、1968〜1991年にわたり、0〜24歳の年齢層での白血病・非ホジキンリンパ腫の発生率の期待値5.2に対して、観察値12と約2.4倍で有意(p=0.007)な集積性が観察された。さらに1985〜1991年では観察値/期待値は4/1.4で約3倍で有意(p=0.059)であった。しかしながら、セラフィールド施設で見られたような、高い発生率と父親被ばくとの関係は見られなかった(文献9)。
イングランド・ウェールズにおける原子力施設周辺25km圏と6つの対照地域の発症率を調査した。このうち子供の白血病が有意に高かった施設は2つで、1つはセラフィールドで、もう1つはアルダーマストン・バーグフィールドで観察値/期待値=219/198.7=1.10(p=0.031)であった。これらから、すべての原子力施設近辺で白血病の過剰発生があるとは言い切れない(文献10)。
イングランド北部で1968〜1985年の間に急性リンパ性白血病と診断された15歳未満の小児について地域集積性について調査したところ、5地域に集積が認められたが、放射線以外の環境要因による可能性が高いと報告されている(文献11)。
________________________________________
<図/表>
表1 ドーンレイ地域、0〜24歳の白血病登録(1968〜1984年)
表2 1960年に生まれたある個人の赤色骨髄への被ばく線量(1960〜1984年の線量(mSv)
表3 1950〜1984年にドーンレイ付近のサーソ市で生れた4,550人の子供に対する放射線誘発白血病の推定値
表4 ウェストカンブリアの若年者における白血病リスク増加に関する因子
図1 英国における原子力施設
図2 英国原子力施設周辺における若年齢層白血病のこれまでの経緯
http://www.rist.or.jp/atomica/
「タイトル一覧」を選択し、大項目で9の「放射線影響と放射線防護」を選択し、リスト表示になったら、「原子力施設による健康影響 健康影響調査」まで下がり、最初にある「英国における原子力施設周辺の小児白血病 (09-03-01-01)」を選択する。
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■ 脱原発派
※ 表やグラフは原子力資料情報室の当該ページでご確認を。
セラフィールド再処理工場からの放射能放出と白血病
京都大学原子炉実験所 今中哲二
昨年12月、多くの反対の声を無視して六ヶ所村の再処理工場がウラン試験に入った。この機会に、英国の原子力発祥の地であり世界有数の再処理工場があるセラフィールド(旧名ウィンズケール)からの放射能放出と周辺での白血病問題について振り返ってみた。
1.シースケール村での白血病多発
テレビドキュメンタリー:セラフィールド再処理工場周辺で子供の白血病が増えていると最初に報じたのは、1983年11月に英国で放送された「ウィンズケール・核の洗濯工場」というテレビドキュメンタリーだった。地元TV局が再処理工場の取材に入ったところ、敷地から3kmほどのところにあるシースケール村で子供の白血病が増えているという話を聞きつけた。シースケール村は人口約2000人で主に再処理工場労働者が住んでいる。テレビ局取材チームは、1956〜83年の間に22歳以下の白血病が7件発生していたことを確認した(表1)。その白血病発生率は、イングランド平均の10倍に相当し、テレビ報道は大きなセンセーションを引き起こした。
ブラック報告:英国保健省は、ブラック卿を委員長とする7人のメンバーからなる専門家委員会を結成して問題の調査に当たらせた。半年あまりの調査を終え、いわゆるブラック報告書1)が発表されたのは1984年の7月だった。その内容は、「シースケールでの子供の白血病発生率は明らかに大きい。しかしながら、放射能放出による被曝で予測される白血病増加は0.01〜0.1件にすぎず、セラフィールドからの放射能が白血病の原因とは考えられない」というものであった。工場からの放射能放出と被曝リスクの解析にあたったのは英国放射線防護局(NRPB)であった2)。オックスフォード大学のドレイパーらは3)、ブラック報告以降1990年までのデータにおいてもシースケール村での白血病増加が継続していることを確認している(表2)。
ガードナー論文:ブラック委員会のメンバーであったサザンプトン大学のガードナーらは、シースケール村での子供白血病増加の原因を明らかにするため、「症例・対照溯り研究」を実施した。まず、シースケール村を含む西カンブリア地方で1950〜85年に発生した25歳以下の白血病52症例と、症例とほぼ同じ環境下にあって白血病にならなかった対照例564件を選び出した。そして、症例と対照例について、医療放射線被曝歴、魚を食べる量、浜辺で遊ぶ時間といった、白血病と関連しそうなさまざまな要因の過去履歴を調べて比較したのである。1990年に英国医学雑誌(BMJ)に発表された論文4)によると、統計的な有意性が認められ白血病の原因として推測されたのは、「生まれた場所のセラフィールドからの距離」と「妊娠時に父親が再処理工場で働いていたかどうか」という要因だった。なかでも、父親が100ミリシーベルト以上の被曝歴をもっていた場合の相対危険度は6.24(95%信頼区間1.51〜25.76)という大きな値であった。
ガードナー論文をうけて、子供が白血病やリンパ腫になった2家族が、工場所有者である原子燃料会社を相手に損害賠償裁判を起こした。1992年にはじまったその裁判は、ガードナー教授が1993年1月に死亡したこともあって、1993年10月に原告側の敗訴に終わった。疫学的に相関関係が認められても因果関係の証明にはならないとして斥けられたのだった。
その後の疫学研究:オックスフォード大学のキンレンらは、大規模産業開発にともなって建設された新興住宅地で「人口混合効果」により子供の白血病が増加しているという説を発表し、シースケールの白血病の原因も人口混合効果であると主張している5)。
大規模な疫学研究を行なったのはニューカッスル大学のディキンソンらで、1950〜91年の間にカンブリア地方で生まれたすべての子供27万4170人(父親がセラフィールド労働者1万7319人、その他25万6851人)を対象に、25歳になるまでの白血病と非ホジキンリンパ腫を調査する「固定集団追跡調査」を実施した。固定集団調査は偏りが入りにくく、信頼度が大きいとされている。2002年に発表されたディキンソン論文6)によると、父親がセラフィールドで働いていた場合の子供の白血病リスクは、その他の集団の1.9倍で、しかも父親の被曝量とともに有意に増加していた。生まれた場所をシースケール村に限ると、相対リスクは9.2という大きな値であった。さらにディキンソンらは、キンレンらが主張する人口混合効果に関する補正をしても、相対リスクは減らなかったと述べている。
疫学論争とは別に、欧州議会内の緑グループが結成した欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、ストロンチウムやプルトニウムによる内部被曝が従来考えられてきたより約300倍危険であるという内容の2003年勧告7)を発表し、シースケール村での白血病の原因は再処理工場からの放射能による内部被曝であると主張している。ECRRの主張は興味深いものの、汚染や被曝に関する具体的なデータの分析が不十分であり、私の判断では仮説の域に留まっている。
2.放射能放出と被曝量
ブラック報告は、白血病の原因が放射能放出であるためには、シースケール村の被曝量が40〜400倍ほど大きい必要があると結論している。そこで、ブラック報告が依拠しているNRPB報告を含め、セラフィールドからどれくらいの放射能が放出され被曝量評価がどのように行なわれてきたのか、これまでの文献をあたってみた。調べて驚いたのは、放射性廃液がまるでタレ流し状態で放出されていたことと、周辺の環境と住民に対する放射線モニタリングデータがほとんど見あたらなかったことである。
放射能放出:図1aは、原爆プルトニウム生産用再処理工場の操業がはじまった1952年から1990年までの液体放射能の放出量である8)。運転開始当初、高レベル廃液はタンクにためられたが中レベル以下の液体放射能はそのまま海に放出されていた。1964年には発電用原発の再処理工場が動きはじめている。1974年にセシウム137の放出が急増したのは、プールに貯蔵されていた使用済燃料の腐食が進み、その汚染水をそのまま放出したためである。図に示した全期間のセシウム137の放出量は4京1000兆ベクレル(約110万キュリー)におよび、この量はチェルノブイリ事故で爆発した原子炉から放出された量の2分の1から3分の1に相当している。一方、プルトニウムの放出量は610兆ベクレル(1万6000キュリー)で、重さにすると約27kgとなる。この量は、長崎原爆で使われたプルトニウムの約2個分である。その他の放射能を含め大変な量の放射能が、英国とアイルランドの間の狭いアイリッシュ海に放出された。1970年代後半のアイリッシュ海での魚のセシウム137濃度は1kg当り1000ベクレルを越え、海草のルテニウム106濃度は1kg当り1万ベクレルを越えていた。
図1bは気体放射能の放出量である。原爆用プルトニウム生産炉が空気冷却であったため、最初の5年間は空気中微量成分であるアルゴン40が放射化されてできるアルゴン41の放出量が飛び抜けている。1957年のセシウム137のピーク(22兆ベクレル)は1号炉の火災事故にともなう放出である。図には示していないが、この事故によるヨウ素131の放出量は7500兆ベクレルと評価されている。この図で最も着目して頂きたいのは、「プルトニウム(ジョーンズ)」と「プルトニウム(NRPB)」の比較である。ジョーンズらの1995年論文8)のプルトニウム放出データは、1984年のNRPB報告に比べて、はじめの10年間は100〜300倍、それ以降は約10倍も大きな値である。
被曝量評価:1950年生まれで20歳になるまでシースケール村にいた人の、セラフィールドからの放出放射能による被曝は、1957年の火災事故の寄与も含めて、白血病の誘発が問題となる骨髄線量として3.5ミリレムであり、その間の自然放射線被曝の13%にすぎない、とNRPB報告は評価している。図1のような大量放射能放出データを眺めると、私の直感では信じがたいほど小さな数字である。そこで、NRPB報告を子細に読み込んでみると、評価の秘訣は被曝モデルにあることが判明した。すなわち、NRPBの評価はもっぱら、放出、拡散、沈着、移行、摂取といったプロセスをモデル化することによって得られているが、計算結果はモデルで採用するパラメータの値によって大きく変わってくる。通常は、環境モニタリングデータと比較しながら計算モデルの確かさをチェックするが、セラフィールドについては「幸いなことに」運転当初の環境モニタリングデータがほとんどなかった。NRPB報告には、シースケール村での空間線量率測定データがまったく示されていないし、モデルで用いた海産物の汚染データについても、1950年代のデータは皆無に近く、魚の汚染データはセシウム137で1963年以降、プルトニウムでは1974年以降のデータしか使われていない。
セシウム137による内部被曝については、住民の全身計測を行なって直接測定することが最も確かな評価方法である。ブラック報告は、シースケール村の青少年112人の全身計測を実施したが大きな汚染はなかったと述べている。しかし、この全身計測はブラック委員会が出来たあとに実施されたもので、放射能放出が急減した後の段階での測定であった。セシウム137の体内半減期が約100日であることを考えると、そのデータから10年前の評価はできない。結局、ブラック報告が根拠としているNRPBの被曝量は、モデルの確かさが検証されていない評価値であった。
そこで、最近の文献データと比較しながら1955年の気体放射能によるシースケール村での被曝を見積もってみよう。ジョーンズらの1991年の論文9)によると、1988年のアルゴン41とプルトニウム等(アメリシウム241を含む)の気体放出にともなう被曝は、それぞれ55マイクロシーベルトと5.6マイクロシーベルトとされている。図1bのデータから、1988年のアルゴン41とプルトニウム等の放出は、それぞれ2400兆ベクレルと6億ベクレルである。1955年のそれぞれの放出量は、50京ベクレルと4400億ベクレル(ジョーンズ)であるから、単純な比例計算により1955年の被曝は、アルゴン41により11.5ミリシーベルト、プルトニウム等により4.1ミリシーベルト、合計で15.6ミリシーベルトとなる。一方、NRPB報告の1955年の被曝量は、すべての気体放射能、液体放射能を含め0.3ミリシーベルトである。すなわち、ジョーンズらの論文データに基づくなら、アルゴン41とプルトニウム等の気体放出だけでNRPB報告の50倍となった。
液体放射能による被曝についても、海産物の摂取パラメータを変えるだけで被曝量が30〜100倍違ってくることはNRPB報告自身が認めている。
シースケール村の子供たちの本当の被曝量が、ブラック報告で考えられた値より50〜100倍大きかったとしても不思議はないと言えよう。汚染レベルのバラツキ、生活習慣や体質の違いなどを考えるなら、さらに10倍大きな被曝をうけた人がいたかも知れない。結論として、シースケール村の白血病の原因は、セラフィールドから放出された放射能であると考えておくのが、もっとも素直な判断であろう。
1) Black, Investigation of the possible increased incidence of cancer in West Cumbria, HMSO 1984. 2) NRPB-R171, 1984. 3) Draper, BMJ 306 p89, 1993 4) Gardner, BMJ 300 p423, 1990. 5) Kinlen, BMJ 310 p763, 1995.
6) Dikinson, Int. J. Cancer 99 p437, 2002 (本誌339号参照).
7)本誌360号参照. 8)Jones, IAEA STI/PUB/971, 1995.
9) Jones, Radiat. Prot. Dosim. 36 p199, 1991.
http://www.cnic.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=35
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