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記者の目:地震懸念で運転停止の浜岡原発=舟津進
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110607k0000m070144000c.html
毎日新聞 2011年6月7日 0時00分
「原子炉が止まっても原発は安全ではない」
中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)で、すべての原子炉が停止した5月14日。原発敷地内にある参観者用の展望台(地上37メートル)から、東海地震の想定震源域の真上にある5基の原発を眺めながら、私はこう考えていた。
今回の「運転停止」は「冷温停止」のことだ。3〜5号機の原子炉内の水温は100度未満に保たれているが、計2400体の燃料集合体がいまも装着されたままで、中部電は「当分の間その状態を維持する」と説明している。冷やし続けなければ再び発熱して破損し、水素爆発などの原因となることは東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発事故が教えている。
さらに使用済み燃料プールには5基で計6625体もの燃料集合体が水中保管されている。うち、廃炉の1、2号機にもまだ計1165体残っている。さまざまな作業で生じた低レベルの放射性廃棄物を詰めたドラム缶3万4810本も固体廃棄物貯蔵庫に保管してある。
原発にはこうした放射性物質を外部に漏らさないための施設や冷却用のポンプなどがあり、運転停止中も機能維持が必要だ。1、2号機は09年1月に運転を終了したが、今も中央制御室が従来通り働き続け、運転員が廃炉前と同じ態勢で24時間勤務している。
◇冷温停止でも安全ではない
私は「運転停止中も原発は生きている」と考えている。「停止」となったものの、今、大きな揺れや津波が来たらと思うとゾッとする。
私と同じ思いの人と出会った。福島県浪江町の農業、山田義行さん(72)だ。
自宅は福島第1原発から約10キロ。3月12日、避難指示で自宅を離れ、福島県内の避難所3カ所を転々とし、知人のつてを頼り4カ所目で御前崎市の公営住宅に入居した。夫婦2人、「やっと落ち着ける」と思いきや、原発の排気筒が見えるのに気づいた。約3キロ先の浜岡原発だった。
浜岡原発の運転停止作業が始まった5月13日、山田さんを訪ねた。浪江町で地区の役員をしていた山田さんはもともと原発推進派だった。福島第1原発の交付金で潤う近隣自治体を見て、「わが町にも原発を」と電力会社に働きかけてきた。しかし、大震災で原発への認識は一変した。御前崎市に原発があるとは聞いていたが、こんなに近くとは思わなかったという。山田さんの「停止しても安心できない」という言葉は重い。
私が浜岡原発から約20キロの掛川通信部に赴任したのは04年10月。5号機の運転開始(05年1月)から今回の全面停止まで、17冊のスクラップ帳の約4分の1は原発関連の記事で埋まっている。▽東海地震に備えた耐震工事開始(05年5月)▽プルサーマル計画公表(同9月)▽5号機タービン羽根脱落事故(06年6月)▽1、2号機廃炉と6号機新設計画の決定(08年12月)など節目を見続け、自治体や住民らの動きを追ってきた。
事故が起きると浜岡原発に駆けつけ、防護服を着て原子炉建屋に入ったことは10回近い。定期検査の際に見た、燃料プールで光る青白い核物質の輝きを今も覚えている。原子炉格納容器下に潜り込み、配管にも触れた。放射性廃棄物処理工程で運搬容器が転倒した事故では、作業員の懸命な復旧作業を見守った。
中部電がプルサーマル計画などの説明会を開くたび、危険性を訴える市民と主催者とのかみ合わない議論に耳を傾けた。一方、入社17年目で5号機の運転員になった30代職員の喜びと誇りを、炉心に近い中央制御室で聞いたこともある。
◇建設時見逃した特殊地層を発見
地域にさまざまな影響を与えてきた浜岡原発だが、09年8月の駿河湾を震源とする地震(マグニチュード6.5)では、同じ敷地にある3、4号機に比べ5号機の揺れが大きかった。中部電は約7カ月後の昨年3月、付近の地下岩盤に地震波を増幅する特殊地層があることを公表した。建設時には見逃したが、最新のボーリング調査で明らかになったのだ。
この際、中部電が運転停止の機会を利用して約1.6平方キロの原発敷地と周辺で地下構造を徹底して調査することを求めたい。津波も怖いがその前に、直下で起きる地震動の直撃で原発機器が破壊されて起こる重大事故を恐れるからだ。高さ約15メートルの防波壁建設は調査後でも遅くない。
菅直人首相が中部電に運転停止を要請した直後、御前崎市役所には1日100件を超す意見が電話などで寄せられた。「要請を受け入れるべきだ」との内容が多かったが、中部電の停止決定後はぴたりとやんだ。しかし、停止で一件落着ではない。私は監視を続けていく。
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