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脱原発は可能か
2011 年6 月21 日
株式会社 日本総合研究所 調査部理事 湯元 建治
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夏場を間近に控えて、電力不足問題に新たなリスクが生じている。関東圏では、東京
電力の供給力引き上げと、企業、家計の15%節電に向けた懸命の努力により、計画
停電は回避できる目途が立ってきた。しかし、ここに来て関西電力が節電要請を行う
など電力不足問題が全国的に波及する兆しが出てきた。
その原因は、政府による浜岡原発の突然の停止要請を契機に、全国で定期点検に
入った原子力発電所の再稼働が地元自治体の反対により、困難になっているためで
ある。日本全体で54 基ある原発のうち、すでに35 基が停止し、現在稼働しているの
は19 基に止まっている。さらに、新たに定期点検に入る原発が止まれば、来春には
すべての原発が止まってしまう。
政府・経済産業省は、原発の追加安全対策のための立ち入り検査を終え、短期的な
安全対策はすべて適正に行われたとして、再稼働に理解を求めているが、自治体側
ではさらなる追加対策などを求めており、再稼働までにはなお相当の時間がかかる
見通しだ。
こうした状況の背景には、ドイツ、イタリアなどで原発廃止・凍結に向けた動きが表面
化していることがある。ドイツでは日本の原発問題の発生を受けて、原発稼働期間の
2034 年までの延長を決めていたメルケル政権が、5 月末にこれを撤回、2022 年まで
にすべての原発を停止するとの政策転換を行った。また、イタリアでも国民投票の結
果、原発凍結賛成が95%を占める結果となっている。
わが国でも、こうした流れを受けて、原発を全廃し、太陽光や風力発電などの再生可
能エネルギーに転換すべきであるとの議論が勢いを増しつつある。菅総理も再生可
能エネルギー比率を現行の9%から2020 年に20%に引き上げることを表明した。し
かし、ドイツの事情や歴史的経験を踏まえると、わが国の場合、原発の完全廃止には、
いくつもの大きなハードルがあることを認識しなければならない。
第1 に、ドイツは、すでに1998 年に原発廃止を決定し、その後、2000 年に入って以
降、再生可能エネルギーの導入促進に向けて、政策面から固定価格全量買取制度
(Feed-in Tariff)の導入など強力な後押しを行ったことがある。これは、20 年間買取価
格を固定することで事業者の採算性の透明化を図り、新規参入を促進するとともに、
毎年の買取価格を逓減させることにより、早期導入の強力なインセンティブをもたらし
た。この結果、ドイツは太陽光発電の累積導入量で世界一、風力発電では世界第3
位の地位を占め、総発電量に占める再生可能エネルギー比率は、2010 年で17%に
達したが、これを2020 年には35%に引き上げるという、わが国をはるかに上回る高
い目標を設定している。わが国も原発を廃止するならば、それと整合性の取れた少な
くともドイツ並みの目標設定が必要だ。
第2 に、再生可能エネルギーの導入コストの問題である。わが国でも、民主党政権の
下で全量買取制度の導入に向けた法案が提出されているが、国会で店ざらしの状況
にある。また、電力料金の引き上げを懸念する産業界の賛成も得られていない状況
だ。そもそも、政府は、再生可能エネルギーの導入に必要なコストの明示すら行って
いない。ドイツが必要コストを国民に明示した上で、実際に電力料金を引き上げで対
応してきたのとは大違いだ。わが国の場合、さらに状況が厳しいのは、原発事故が現
実に起こってしまい、廃炉費用、火力発電への転換コスト、避難者への補償コスト、放
射性物質の廃棄コストなどトータルで10 兆円は軽く上回るとみられるコストがかかる
ことだ。再生可能エネルギー導入コストも含めたコストの全体像や電力料金の引き上
げ幅など、国民に対する適切な判断材料を提供する必要がある。
第3に、欧州では広域送電網が整備されており、各国間で電力融通が可能であること
だ。日本では、西日本と東日本で周波数が違うため、国内での十分な融通ができな
いことも今回の原発事故で明らかになった。しかも、欧州では発電事業と送配電事業
が分離されており、原子力のフランス、風力のドイツ、デンマーク、太陽光のスペイン、
水力のノルウェーなど各国の特徴を生かした効率的な電力配分が可能なシステムが
構築されている。北欧4カ国でも送配電分離の下で、共同電力市場を有している。出
力の不安定な再生可能エネルギーを安定的に供給するためには、こうした仕組みの
構築が必要不可欠だ。しかし、日本の当面の課題は、原発問題の収束と重い補償コ
スト負担による東電の経営問題解決に優先度があり、送配電分離の議論は簡単に
進みそうにない。しかし、原発全廃に舵を切るならば、この問題は避けて通れないは
ずだ。
第4に、ドイツでは、バイオマスによるコジェネレーションを中心に、家庭の給湯・冷暖
房用に地域熱供給システムが進んでいることだ。コジェネレーションは、排熱を利用
することから、電気よりもエネルギー効率が概ね2倍になるため、総エネルギー消費
抑制に寄与する。ちなみに、ドイツのトリッティン元環境相によれば、世界平均の3倍
に上る日本の家計の一人当たり電力消費をドイツ並みに下げることができれば、原
発の廃止は十分可能だという。しかし、わが国で、それを実現するためには、コジェネ
レーションなど供給サイドだけではなく、需要サイドをエネルギー節約型に変えていく
努力が必要だ。例えば、在宅勤務が普通の勤務形態になったり、エアコンや家電製
品が1部屋に1台という生活スタイルを見直したり、働き方やライフスタイルそのもの
を抜本的に変えていく覚悟と努力が求められる。
以上のようにみると、脱原発に向けたハードルはかなり高いと言わなければならない。
しかし、例えば、2030年までに再生可能エネルギー比率を30%以上に引き上げる目
標を設定し、移行期には、コンバインドサイクルLNG火力発電など高効率火力発電の
導入を進めつつ、最終的には、太陽光発電をはじめ、風力、バイオマス、地熱発電な
ど幅広い再生可能エネルギーの導入を促進して行くことは、十分に可能だ。いたずら
に感情論に陥ることなく、再生可能エネルギーの政策面とコスト面、地域熱供給シス
テムの導入促進、個々人のライフスタイル面など多様な観点からその可能性を冷静
かつ徹底的に検討し、国民的な議論を深めていく必要があろう。
以 上
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