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【ただちに危険だ! 原発通信】bU 秋場龍一
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津波が来るぞ!
みんなが家から逃げるように必死でさけんでいる。
その家の主であるお父さんは、以前の大津波のときに、わが家まで津波は来なかったので、だからこんかいもこの家にはぜったいに来ない――。
そう判断したお父さんは、みんなが逃げているのにかかわらず、逃げずに家のなかにとどまった。
だけど、こんどの津波はお父さんの家をあっというまに呑みこんでしまった。そして、お父さんは亡くなった。
もしお父さんが「津波が来るぞという」さけびにこたえて避難していれば、お父さんはぜったいにたすかった。
もし避難して、津波がお父さんの家まで来なかったとしよう。なんだ、やっぱり来なかったじゃないか。逃げてとんだ徒労に終わったとお父さんは思ったにちがいない。
「徒労」と「いのち」。この差はあまりに大きい。大きすぎる。
おとうさん、咳が出る。もう1カ月以上出ている。この咳、風邪かなと思っていたら、なかなか治まらない。ちょっと心配になって、近くの町医者で診てもらう。
その医者いわく「風邪ですかな。お薬を出しておきましょう」。
なんだ、やっぱり風邪か。医者まで行って、とんだ徒労だった。
徒労だと思ったものの、お父さんはほっとひと安心した。
だけど、お父さん、医者からもらった薬を服んでも、いっこうに咳は治まらない。1か月、2か月たっても。そこでお父さん、また心配になって、こんどは妻のすすめもあって大学病院で診てもらった。
「肺がんです。手術はできません。化学療法と放射線治療をやります」
その半年後、お父さんはこの世にいなかった。
「徒労」と「いのち」。この差はあまりに大きい。大きすぎる。
福島でつぎつぎに原発が爆発した。
子供をもつお母さんのこころに放射能の不安がつのった。
官房長官、それにテレビや新聞に原発や放射線の専門家と称する、東大や東工大などの教授や准教授などの肩書をもった人たちが出てきて、口ぐちにこう言った。
「ただちに健康への障害はありません」
だいじょうぶなんだ。心配して徒労だったけど、お母さんはほっとひと安心した。
それからしばらくたって、ヨウ素やセシウムという放射性物質が水道水や野菜、牛乳、魚介類から見つかった。
厚労省や文科省に官房長官、それにテレビや新聞に原発や放射線の専門家と称する、東大や東工大などの教授や准教授などの肩書をもった人たちは、口ぐちにこう言った。
「ただちに健康への障害はありません」
つづいて、「風評被害の影響で福島の農家の人たちがこまっています」
お母さんは放射能に汚染された水や食べ物は危険だと思ったけど、そんな声を聴いて、ほっと安心した。だいじょうぶなんだ。心配して徒労だったけど。
そして福島原発事故から4年たった――。
子供のようすがおかしい。なんだか、ぜんぜん元気がない。
お母さんは子供を連れて病院を訪れた。検査の結果が出た。
「放射線障害による晩発性白血病でしょう」
その医師はお母さんを憐れむように、こう言ったのだ。
「あの、原発事故の……」
お母さんは絶句してこう訊いた。
「おそらく、そうでしょう。ここのところ、この地区の子供の白血病が急増していますから」
――ぼくはいまさっき、犬の散歩から帰ってきて、すぐにこれを書いた。
犬の散歩で行った公園では多くの園児たちが芝生のうえで遊んでいた。
その園児たちの光景をみて、ぼくはこんなことをふっと浮かべてしまったのだ。
そうここは放射能高濃度のホットスポットと報道やネットで話題もちきりの柏市である。
それでも、公園に行けば、まるで放射能汚染なんて、まるでなにもないかのように、園児たちが無邪気に遊びまわっている。
ぼくはオオカミ少年(オヤジのほうが正しいけど)とよばれたってかまわない。不安を煽ると糾弾されたってかまわない。
お父さん、お母さん、そしてみんなに言いたい。
「徒労」と「白血病」。この差はあまりに大きい。大きすぎる。
不安な人のこころに、専門家がだいじょうぶだといえば、だれだってひとまず安心する。
だけど、「専門家」の肩書をいいことに「ただちに影響はありません」と、「安全をイメージ」させることばで、一般市民の不安を払拭させる。こんな、人をいっときだけ安心させることばにだまされてはいけない。
「ただちに影響はありません」
このことばのあとには、こんなことばが隠されているかもしれない。
「ただし、しばらくして影響が出るかどうか、それはわたしの知るところではありません」
防ごうとすれば防ぐことができたはず被害を、その「ただちに影響はありません」ということばによって、むざむざ人を危険な状態にさらす。
いま注意して暮らせば、あるいは避難すれば防げるはずの危険が、そのことばによって。
ぼくがオオカミ少年なら、彼らは逆オオカミ少年だ。
そして逆オオカミ少年のほうが、ずっとずっと罪は大きい。
「徒労」と「白血病」。この差はあまりに大きい。大きすぎる……ように。
彼らは人を安心させておいて、人を破局にみちびく。
そういえば、こんな逆オオカミ少年もいた。
「日本の原子力発電所で大事故はぜったい起こりません」
逆オオカミ少年に気をつけろ!
放射性物質という名の津波が、あなたを呑みこむところまで来てるのかもしれない。
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