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原発から60km人口29万福島市内が危ない 異常な量の放射性物質を検出
スクープ 緊急調査で判明
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/9034
2011年06月21日(火) 週刊現代:現代ビジネス
基準値の10倍以上。コバルト60まで出た。いますぐ子供たちは集団避難すべきだが、政府はもちろん黙って知らんぷり
恐れていたことが現実になろうとしている。
「ここ福島市は、子供が住んではいけない場所になってしまいました。本来は集団避難するしかないんだ。でも政治家は誰もそれをわかっていない。いや、むしろ知りたくないと思っているんでしょう」
福島市に住む中手聖一氏(50歳)は、怒りをこらえてこう語る。
日本政府は4月19日、子供たちの年間被曝量の上限を、それまでの1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに突然引き上げた。中手氏は、その暴挙に抗議すべく結成された「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」の代表を務める。
福島第一原発から約60km離れた福島市は、政府が指定した避難区域にもちろん入っていない。だが浪江町、飯舘村と、原発から北西方向の汚染が特にひどいのは周知の事実であり、「福島市も危険ではないか」という懸念は早くから囁かれていた。
「浪江、飯舘のようにまんべんなく放射線量が高いのではなく、いわゆるホットスポット(突然数値が高くなる場所)があちこちに隠れているのが福島市なんです。でも政府が『安全だ』と言い張るから住民の危機意識が低い。そのことが事態をより深刻にしています」(中手氏)
安全でないことに住民が気付けない—放射能汚染が「目に見えない」ゆえの恐怖だ。そして目に見えないのをいいことに、対応を先延ばしにするのが今の日本政府の常套手段となっている。
県庁所在地の福島市には官公庁や県内の主要企業が集中する。抱える人口は29万人強。それなのに政府は何の対策も講じようとはしない。
「国が何もしてくれないなら、自分たちで考えて動くしかない」
そう決意して、中手氏は前述のネットワークを立ち上げたのだ。
6月7日、中手氏も見守るなか、福島市内である緊急調査が行われた。
調査の主体となったのは国際環境NGOのグリーンピース。中手氏らの思いに呼応し、7人のスタッフが福島に急行した。
IAEA(国際原子力機関)に先がけ、3月27日に「飯舘村の線量が高い」と初めて発表したのはグリーンピースだった。その後も土壌や野菜、海産物の汚染状況を調べ、情報を公開し続けている。
注目すべきは、グリーンピースが4月11日時点で、早くも菅直人首相にこう要請していることだ。
〈放射線量が依然として高く、人口も多い福島市や郡山市を含む地域を「特別管理地域」と指定し、汚染度の高い地区を除染するなど適切な措置を早急にとること〉
言うまでもなく、この要請を政府は無視している。今回、改めて緊急調査に踏み切った理由を、グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一事務局長が説明する。
「現在は学校の校庭や幼稚園、保育園の園庭の土壌汚染ばかりクローズアップされていますが、校庭・園庭が大丈夫ならいいのか。たとえば通園路や通学路はどうか。近くにある公園はどうなのか。子供たちが普通に生活するなかに、様々な危険が潜んでいます。保護者の方からも希望があったため、詳細な調査に踏み切ることにしました」
日本政府が適切な情報発信をしないこともあり、「フクシマ」の汚染実態は、いまや世界各国の関心事となっている。今回の調査のためにグリーンピース本部のトップ、クミ・ナイドゥ事務局長と、核・原子力問題担当部長のヤン・ベラネク氏が来日。直々に線量の測定を行うことになった。
本誌は調査に同行、次々に明らかになる事実を目の当たりにした。そのすべてをここにレポートする。
■子供が遊ぶ公園で
調査チームはまず、福島市役所から車で5分ほどの場所にある公園で調査を開始した。
公園を調査対象にしたのは理由がある。福島県は国の安全基準である3・8マイクロシーベルト/時を上回る放射線量が計測されたとして、4月24日、県内の5つの公園に「1日1時間以内」の利用制限を出した。その後の調査で基準値を下回ったとして、すべての公園で利用制限が解除されたのが、調査前日の6月6日だった。
「そもそも、3・8マイクロシーベルト/時という数値は年間20ミリシーベルトの高い被曝限度を前提に算出されており、適切とはいえない。本来は利用制限どころの騒ぎではないんです。子供の健康に直結する公園は厳しくチェックすべきです」(前出の佐藤氏)
調査チームは、公園の隅に盛られた土の塊やトイレの裏の排水路など、数値が高いと予想される場所を調査していく。使用している測定器はベラネク氏の出身地であるチェコ製で、価格は日本円で約120万円。放射線の総量測定に加え、放射性物質の核種も特定することができる。
盛り土の計測値は6・3マイクロシーベルト/時(以下、測定値はすべて/時)だった。国の目安の1・7倍。数値の大きさに緊張が走る。公園の隅にあった枯れ葉の塊からも、4・2マイクロシーベルトを計測した。佐藤事務局長が言う。
「本来、汚染された枯れ葉はドラム缶などに詰めて20年、30年と管理しなければならない。焼却処分は放射性物質が広がるので論外です。こうして放置された枯れ葉が風で舞い散ると、汚染が拡大することになる」
さらに深刻な測定値が続く。トイレ裏の雑草が生えている地面は9・1マイクロシーベルト、トイレ入り口の排水路付近に至っては12・5マイクロシーベルトを計測した。同行していた地元の保護者は、驚きを隠さずに語った。
「小さい子供は、土や葉っぱが積み上がった場所に引き寄せられるように行きますよね。水たまりで遊ぶのも好きですから、枯れ葉や水まわりで高い数値が出たのはショックです。国や行政が安全だと言い張っても、もう公園で遊ばせる気にはなりません」
もう一つ、調査チームが重視したのは、この公園で検出された核種だった。セシウム134、セシウム137に加え、コバルト60が検出されたことを、測定器は示していた。
「コバルト60は自然界に存在しない人工の放射性物質で、半減期が5・3年と長い。60km離れた福島市で検出されたことは、原子炉のメルトダウンによって一定量のコバルト60が放出されたことを証明する、重大な事実です」(原子力工学が専門の九州大学特任教授・工藤和彦氏)
調査チームは初夏を感じさせる暑さのなか、揃いのジャンパーに長靴、防護マスク姿で放射線測定器を持ち歩いている。肌の色の違う男女の集団は、閑静な住宅地の公園ではかなり異様に映る。
そのため、調査チームが公園にいる間は、一般人は近寄ろうとしなかった。ところが調査が終わると、母親に連れられた幼児がすぐにブランコで遊び始めた。母子は、自分のすぐそばにホットスポットがあることを、もちろん知らない。
一行は次に、公園からほど近い市立渡利中学校に向かった。
福島県内の学校では、汚染された校庭の表土除去が始まっている。が、福島市は対応が遅かった。調査に同行した保護者によると、「失望して他県へ転出した家族も多い」という。
この日、渡利中でも校庭の表土を削る作業が行われていた。作業員によると、削り取った土は敷地内に穴を掘って埋め、仮置きしている。校庭の周囲にブルーシートが張られているのは、近隣住民から苦情が出たからだ。しかし、放射性物質の拡散を防ぐのにブルーシートが万全でないのは言うまでもない。むしろ目隠しのように思える。
■年間240ミリシーベルト
チームが調査を始めようとする、まさにその時だった。一人の年配男性がやってきて、いきなり抗議を始めた。
「あんたたち、もうやめてくれないか。数値を測られるのが嫌だという住民もいるんだ。『ギャーギャー騒ぎ立てるな』というのが本心だよ。私は医者だが、この地域は住んでも問題ないと思っている。子供? それだって、危険を証明するデータなんてないだろ!」
そうまくし立て、去っていった。
この男性を責めることはできない。放射能に生活を脅かされているのは彼とて同じことだ。
しかし、政府が「健康被害より風評被害」を強調してきたことで、国民が健康被害を過小評価している現実がある。特に子供や妊婦に関しては、周囲も含めて危険性を認識することが必要不可欠となる。
渡利中で土壌の除染が始まるより前、中手氏が独自に調べたところ、駐車場そばの倉庫周辺の土は360マイクロシーベルトを記録していた。
今回、除染が済んだ土に測定器を近づけると、それでも45マイクロシーベルトを表示した。基準値の約12倍。国の計算では年間に240ミリシーベルトを浴びる量だ。福島第一原発の最前線で働く作業員の被曝限度(250ミリ)に近い。ベラネク氏の表情が険しくなる。防護服を着用し、土を採取する。
中手氏が校庭の除染作業を眺めながら言う。
「見てください。校庭の土を除染する横で、いつも通り授業をしている。どう考えても矛盾しているでしょう。でもこれが、国と行政の対応なんです。すべてが場当たり的で、長期的な展望がない。今いちばん必要なのは、子供たちを安全な場所に避難させることなんです」
チームは次の調査に移った。渡利中学校から約200m離れた私立保育園「こどものいえ そらまめ」の通園路の測定だ。住宅街を通る片側一車線の道路を一行は進む。
歩道の線量を測っていく。泥や落ち葉が蓄積した側溝で線量が高くなる傾向があるので、重点的に調べる。側溝は平均で約2マイクロシーベルトだった。
「側溝の下の汚泥や落ち葉は、雨で流れたのかもしれませんね」
とグリーンピースのスタッフが言う。しかし忘れてはならない。本来、住宅地の線量は0・1以下だ。連日のように福島の「高レベル汚染」が報道され、私たちの感覚も徐々にマヒしている。国が定めた3・8マイクロシーベルトという基準は、けっして「安全」を意味していない。これは、小佐古敏荘参与が「子供の安全に責任を持てない」と涙し辞任した、年間20ミリシーベルトから算出された、まやかしの安全基準なのだ。
保育園が近づいてくる。正門が見えるあたりに剣道場がある。その周辺を調べ始めた時、ベラネク氏の持つ測定器の示す数値が突如上昇を始めた。
2・6、5・4、8・1、11・0、14・2、17・7・・・。勢いよくデジタル表示が更新されていく。最終的には19・6マイクロシーベルトを記録した。
そこはちょうど、雨どいから水が流れ落ちる場所だった。ベラネク氏が言う。
「一般的に汚染度が高いのは、植物の生えているところ、土がむき出しの地面、コンクリートやアスファルトの順番です。そしてもっとも危険なのが、雨どいの排水口の下なのです。それが溝などに繋がっていればまだマシですが、地面に垂れ流しになっていると危ない。屋根に降り積もった放射性物質が雨で流され、排水口の下にたまるんです。そこが土の地面だったり、植物が生えていたりすれば、数値はより高くなる。だが、福島の人々はその事実をほとんど知りません」
不安な表情で調査を見守っていた保護者が、
「・・・犬は大丈夫なんでしょうか。先ほどから聞いていると、線量が高いのはうちの犬が好きそうな場所ばかりです。犬を通して子供が被曝する可能性はないのか心配です」
とつぶやいた。
■自主避難しかない
さらに、剣道場玄関脇の雨どいの下で、数値がさらに跳ね上がった。
35マイクロシーベルト。
園児が保育園に通うために、普通に歩いて通る道の脇に、基準値の9倍を超えるこのホットスポットがある。もちろん、この事実は氷山の一角にすぎない。そらまめ保育園もこの剣道場も、福島市街の何の変哲もない住宅地にある。
福島市内の他の多くのエリアが、同じ状況に晒されている。それはもはや疑いようのない事実だ。グリーンピースが「福島市を特別管理地域に指定して、汚染度の高い場所を除染する」よう政府に求めてから、もう2ヵ月になる。その間、国会では政治家が政争を繰り広げるばかりで、福島市内のホットスポットは議論の俎上に上がることすらなかった。
一行は園内へ。実は5月6日、グリーンピースは園内の線量を測定している。その時は、園庭にあるブランコの木製椅子部分が27・27マイクロシーベルトだった。もっとも高かったのは園の裏側に積んであった枯れ葉で、なんと90・90マイクロシーベルト。門間貞子園長が語る。
「震災後、園児数は23名から9名に激減しました。ショックだったのは、『土が危ないからビル内の保育園に移ります』と言われたことでした。土や草に戯れ育つのが子供です。そのためにこれまで、天然の遊具を使ってきたのに・・・。5月14日に地域の住民らの助けを受け、汚染された表土を除去し、園内の一角に掘った穴に埋めました。困ったのはやはり雨どいの下で、いくら掘っても線量が高いのです。土を入れ替えた結果、表土の線量は5月15日時点で9・09から0・39まで下がりました」
土の入れ替えが終わり、自宅待機していた子供たちも少し戻ってきた。が、除染をしても問題は残る。
「ひとつは遊具。高圧洗浄機で除染しても数値は3割から5割しか下がらない。ほとんどの遊具を取り外し、園内に保管したままです。取り除いた表土もビニールシートをかけて保管していますが、どう処理するのか見当もつかない。汚染された物質をいつまで園内に置いておくのか。国は早く対処法を示してほしい。不安と緊張の中にいる現場の気持ちを、少しでもわかってほしいんです」
そらまめ保育園に5歳の娘を預ける鈴木晃代さんもこう話す。
「『今一番ほしいものは線量計』というお母さんは多いですね。子供を放射線量の少ない地域に避難させるか、それともこのまま生活していくか、悩み続ける毎日です。国会の不毛なやり取りを見て、いずれにせよ自主避難しかないな、とは思っています」
グリーンピースのトップであるクミ・ナイドゥ氏は調査を終え、厳しい表情でこう語った。
「いまフクシマは、親が住むのに世界で一番つらい場所かもしれない。誰もサポートしてくれない。子供に何もしてやれない。私の出身地、南アフリカもそうでしたが、子供に危険が迫った時、守ってやれないのは親として悲しく切ないことです。今日はその現実を目のあたりにしました」
チェルノブイリでは、福島市内と同レベルの汚染地域はすべて避難区域に含まれていた。世界最悪の放射能汚染は、今この瞬間も、静かに進行している。
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