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原発やめますか、続けますか 史上空前の大アンケート 一流企業トップ100人、 有識者50人に聞く
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/8068
2011年06月14日(火) 週間現代:現代ビジネス
全日本人必読「日本の針路を問う!」
三菱重工/ソニー/東芝/富士通/トヨタ/日産/朝日新聞/読売新聞/フジテレビ/TBS/電通/博報堂/新日鉄/東レ/資生堂/住友化学 /第一三共/三井物産/三菱商事/全日空/JR東海/三井住友/みずほ/三菱UFJ/日本生命/損保ジャパン/東京ガスほか/有馬朗人/加藤典洋/柳澤桂子/南部陽一郎/井上章一/木田元/池谷裕二/山田太一/橋本治/高村薫/岡本行夫/猪瀬直樹/田中秀征/佐藤優 ほか
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■「戦後最大の危機」原発事故を一流企業トップたちはどう考えたか
日本はいま、重大な岐路に立たされている。原発をやめるか、それとも続けるのか---。
いつ起きるかもわからない原発事故を怖れ、内部被曝やガンに怯えながら毎日を過ごしたくないと、多くの人が切に願っている。
脱原発を進めれば電力供給が不安定になり、発電コストも割高になるとの指摘がある。しかし、いったん事故を起こした原発の処理・廃炉には、想像を絶する莫大な費用と長い期間が必要になることも、今回、明らかになった。一方で、こういう意見もある。
「産業界は当面、電力消費量が少ない早朝や土日に操業することで電力不足を回避しようとしていますが、1年も2年も節電を続ければ、各企業の国際競争力は失われかねない。
それに加えて、もし日本にある原発54基をすべて止めるとなれば、日本の産業界は空洞化しかねない。現にアメリカと韓国が日本企業の誘致に動き出しており、特に韓国は『電気料金を3分の1、法人税を5年間無料にするから』と必死にアプローチしている。もし企業が海外に拠点を移せば、国内の雇用はままならなくなる」(自民党・エネルギー政策合同会議副委員長の西村康稔代議士)
原発をやめるにせよ、続けるにせよ、決して他人事ではいられない。だからこそ私たちはいま、「原発をどうするか」といったテーマについて、真剣に議論しておく必要があるのではないだろうか。
そこで本誌は今回、一流企業の社長100人と有識者50人を対象に大アンケートを実施した。次の5つの選択肢から、妥当だと考えるものを選んでもらう。
@国内にある54基の原発を、できる限り早く、すべて運転停止するべきだ
A段階を踏んで、順次停止していくべきだ
B福島第一、浜岡の2つのみ停止し、それ以外は稼働を続けるべきだ
C浜岡原発も含め、安全性が確認され次第稼働すべきだ
D答えられない
計150人中、もっとも多い回答は、原発の段階的な停止を求める29人だった。その詳細は次ページから掲げた表をご覧いただくとして、まずは企業トップの見解から紹介しよう。
■浜岡も含め、動かすべし
日本を代表する一流企業のトップが、国の将来を大きく左右する原発問題を、どう考えているのか。多くの人たちが社長の「生の声」を聞きたいと思うはずだ。中部電力が浜岡原発を稼働停止した際、スズキの鈴木修会長兼社長は、「地元企業として、一人の日本人として高く評価する」とコメント。明確に持論を表明した。
ところが、今回社長自ら選択肢を選び、コメントも寄せたのは、100社中22社のトップにとどまり、その他の企業はさまざまな理由で回答しなかった。ある企業の広報担当者は、語気を強めてこう回答を拒否した。
「(週刊現代からの)アンケートを見たんですけど、回答しない場合でも、なんで誌面に企業名が出るのですか。だったら最初から(アンケートを)受け取らなければよかった。正直、お戻ししたいぐらいですよ。
そもそも、そちらが勝手に当社をピックアップしたんですよね。でしたら、任意のアンケートなのですから、答える、答えないを決めるのも、こちらの勝手じゃないですか」
結局、アンケートが届いたかどうか、確認の電話の最中に回答を断られた。それは社長の意向なのかと本誌記者が問うと、
「アンケート等に答える、答えないの判断は、社長から一任されていますから」と答えた広報担当もいた。
しかし、「戦後最大の危機」ともいえる原発問題について、なんら見解を持たない企業トップがいるとは思えない。経営への影響ばかりを気にするのではなく、日本を代表する各業界のリーディングカンパニーとして、堂々と意見表明し、社会的責任を果たすべきではないだろうか。
回答した中では、「浜岡原発も含め、安全性が確認され次第、稼働すべき」(以下、「条件付きで稼働」)を選択したトップが6人いた。そのうちの一人が、福島第一原発の1~3号機と5、6号機のプラントを納入した東芝の佐々木則夫社長である。次のような理由を掲げながら、原発関連事業の継続に意欲を示した。
「原発やめますか、続けますか」一流企業トップの回答
http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/6/3/-/img_6323759c3d4f7ebc551c5b572c46bdaa878253.jpg
表の見方
まず設問1で「今後の原子力発電について、基本的な考え方」を聞いた。選択肢は
「1、国内にある54基の原発を、できる限り早く、全て運転停止するべき」(全て停止)、
「2、段階を踏んで、順次停止していくべき」(段階的に停止)、
「3、福島第一、浜岡の2つのみ停止し、それ以外は稼働を続けるべき」(福島・浜岡は停止)、
「4、浜岡原発も含め、安全性が確認され次第稼働すべき」(条件付きで稼働)、
「5、答えられない」の5つ。
一部、選択肢に自分の考えに合うものがないと独自の回答を寄せたケースもある。設問2は、設問1の答えの理由を自由形式で書き込んでもらった。なお、企業については、設問に回答があったところを「トップの回答」とし、それ以外を「回答しなかった企業」に掲載。並びは五十音順。回答が長いものは一部を抜粋した
回答しなかった企業
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「当社は、福島サイト事故の早期収束・安定化に向けて全力で支援している。今後も原子力発電の安全性・信頼性のさらなる向上への取り組みを行っていく。
原子力発電の停止に関しては、電気料金アップによる国内産業に与える影響、雇用への影響などにおいて、さまざまな議論がある。
たとえば、業務用電気料金では、現在、韓国は日本の約4割との試算があり、さらなる電力料金の値上げは、今後の国内産業の育成、日本の製造業の国際競争力の維持において、望ましくない。
また、品質の良い安価な電力の安定供給、CO2排出問題への対処等の観点からも、エネルギー全体のベストミックスの観点からの議論が必要である」
ベストミックス—電気事業連合会の解説によれば、原子力をベースとしながら、火力、水力など、それぞれの発電方式の特性を生かしながら、日本にとって最善の組み合わせを考えるべきとの主張である。
■国際競争力を維持するには必要
やはり原発関連事業を手がけ、'12年度には4000億円の受注計画を立てている三菱重工業の大宮英明社長は、本誌が提示した選択肢には「該当なし」と回答。中長期的に見ても原発推進の方向性は変わらないとする見解を披瀝した。
「国内及び世界の電力需要と地球温暖化対策・エネルギーセキュリティ対策の観点から、原子力発電抜きのエネルギー政策は、現実的ではなく、当面のスローダウンは否めないが、中長期的には原子力推進の流れは変わらないと見ている。
但し、そのためには、国、東京電力による福島第一原子力発電所の事故原因の究明結果を受けて、万全の安全対策を講じることが必須であり、更に、社会からの原子力発電に対するコンセンサスを得る努力を行いながら推進することが大切と考えている。
かかる認識の下、当社としては、この震災での教訓を踏まえて技術研鑽に努め、国、電力会社と連携し、原子力総合メーカーとして『電力安定供給の実現』という使命を果たしていきたい」
東芝と同じ三井グループに名を連ねる東レの日覺昭廣社長も、「条件付きで稼働」を選択。日本の国力を維持するためには、原発の安全性を高めるとともに、原発をうまく利用すべきと説く。
「長期的には、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの比率を大幅に高め、原子力や化石燃料への依存度を下げて行くべきであり、当社としても昨年『環境・エネルギー開発センター』を設置するなど、積極的に研究開発を進めている。
しかし、これらの技術を本格的に普及するには、経済性や電力の安定供給等の面でまだまだ解決すべき課題が多く、短期的・中期的には原子力や火力発電に頼らなくてはならない。
日本の産業が国際競争力を維持し成長する為には、安価なエネルギーを安定して供給することが不可欠であり、その為には東日本大震災の教訓を踏まえて安全対策を強化した上で、浜岡原発も含めて休転中の原子力発電所を出来るだけ早く再稼働させることが必要である。また、一部の老朽化した原子力発電所については、より安全で効率の良い新型の原子力発電所にリプレースする(編集部注・取り替える)ことも必要と考える。
即ち、短期的・中期的には、原子力発電所の安全性を高め上手く利用することが、日本の国力を維持し、日本国民の健康で文化的な生活を守ることに繋がると考えている」
福島第一原発で遠隔操作重機によってがれきの撤去作業などに取り組む大手ゼネコン・清水建設の宮本洋一社長は、「条件付きで稼働」を選び、
「原子力発電の安全性をより高め、利用していくとともに、将来的には、再生可能エネルギーを含めた多様なエネルギーの供給体制が必要と考える」
と回答した。だが、同じゼネコンの鹿島と大林組、竹中工務店は、アンケートの内容そのものや社長の多忙などを理由に回答していない。それはなぜか。鹿島の幹部社員によると、実はゼネコン業界には「大声を出しづらい雰囲気」が漂っているという。
「東電に限らず、原発の周辺の土木工事を他の電力会社からも請け負っています。今回の福島原発の事故でもウチからかなりの人数を投下して補強、修理工事の処理にあたっています。ですから、ゼネコンとしては原発について『稼働してもらいたい』というのが本音でしょう。停止した浜岡原発の付帯工事もウチが請け負ってやっていますからね」
かつて、鹿島は「超高層(建設)の鹿島」と称されていた。東京・千代田区に立つ霞が関ビルは「戦後日本の経済復興を象徴する金字塔」と位置づけられているが、そうした高層ビルの建築を、鹿島は得意としてきたからだ。
しかし、どのゼネコンも超高層ビルの建設を始めるようになると、「超高層の鹿島』の看板はかすんでしまう。その後、付けられたのが「原子力の鹿島」という新たな称号だった。1956年に原子力室という部署を立ち上げて以来、鹿島は原子力発電所の土木、付帯工事に全社を挙げて取り組んできたという。
この幹部社員が続ける。
「もっとも、ウチに限らず、ゼネコン業界の多くの企業は当然原発推進でしょう。54基の原発の恩恵を建設会社はみな受けているんです。しかも、福島原発事故の前には、さらに原発を増やすということで需要を見込み動いてきたのですから、『原発を稼働停止したほうがいいなんて言えない』というのが本音ですよ。
とはいえ、明確に原発推進の方針を打ち出せば、世間のバッシングを受けるかもしれないので、なかなか大声では言えないんです」
■新エネルギーへの代替を
金融業界には、ゼネコン業界とは別の、旗幟を鮮明にしづらい理由が存在しているようだ。
東電の有価証券報告書(平成21年度)によれば、大株主の欄には、第一生命、日本生命、三井住友銀行、みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行といった錚々たる企業の名前がズラリと並んでいる。
そもそも第2位の大株主であり、互いに大幹部が社外取締役を務めるなど、東電と親密な関係にある第一生命を始め、生保各社はいずれも回答をしていない。
東電の社債の募集に際し、野村ホールディングスなどの証券会社も、「社債の引き受け業務によって利益を得ていますから、はっきりと原発問題について言及しづらいのかもしれません」(証券アナリストの植木靖男氏)
三井住友、みずほ、三菱UFJの各フィナンシャルグループも、足並みを揃えたように5択では「答えられない」を選択。三菱UFJ・FGの永易克典社長は、「もうしばらく様々な状況を見極めたうえで判断したいと考えております」と理由を述べているが、あるメガバンクの幹部は、回答の「ウラ側」を次のように明かす。
「ウチのトップの場合、アンケートを見た瞬間、『厳しいアンケートだ』とつぶやいていたそうです。そして、考えた末に、『これしかないだろう』ということで選択したのが、『答えられない』だったと聞いています。
正直申し上げて、原発の件については、非常に答えにくいんです。銀行にとって、お金を借りて設備を拡大していく、ライフライン事業などを手がける装置産業は、大切なお客さまです。つまり、原発を推進すれば儲かる企業も、逆に脱原発のほうが儲かる企業も、いずれも顧客になりうるからです」
その他、東電に35万株(取得価格2215億円)の株式を保有してもらっているKDDIは、社長が不在で確認が取れないことを理由に「答えられない」を選んでいる。東電と結びつきの強い企業の場合、
「『できるだけ早く稼働を停止すべき』などと発言すれば、今後の取引に影響が出かねないため、どうしても社長の歯切れは悪くなってしまう」(松蔭大学大学院経営管理研究科の中村元一教授)という。
旧来からのしがらみにこだわるあまり、口が重くなる企業が多い中、富士フイルムHDの古森重隆社長は、「条件付きで稼働」を選択しつつも、海外からの信頼を重視する、広い視野に基づいた意見を展開している。
「国内発電量の3割を占める原発を代替するエネルギー源の確立には時間がかかる。次世代のエネルギー開発を進めながら、原発の安全性向上を図るべき。地震・津波といった自然災害への備えなど、原発の安全性についてどういう安全策が必要か徹底的に検討しなければならない。安全性に関する情報を世界各国と共有し、世界的な原発安全基準を設定することが必要。また、福島第一原発事故については正確な情報を開示し、海外からの信頼を得る国際広報を行うべき」
また、三菱ケミカルHDの小林喜光社長は、目先の利益にとらわれることなく、長期的な展望に立った代替エネルギーの開発を提言している。
「現時点では、資源の少ない日本においては原子力発電が有用であるとは思うが、今一度安全について徹底的に検証し、しっかり安全を確保した上で利用する必要がある。
しかし、30~50年のレンジでは、新エネルギーの代替を進め、その割合を減らしていくべき」
いまこそ、日本が新しいエネルギーシステムに転換できるチャンスなのに、「各企業が主張をあいまいにしたり口をつぐめば、新しい構造改革の芽をつぶすことになる」と富士通総研経済研究所の主任研究員・高橋洋氏は警鐘を鳴らす。
ピンチをチャンスに変えるために、産業界あげて、いま日本に必要なエネルギーのあり方を検討すべき時だろう。
■有識者たちはどう考えるか停止派が継続派を大きく上回った
50名の有識者にもアンケートを行った。原発停止の是非について熱のこもった意見が続々と集まった。
まずは「段階を踏んで、順次停止していくべき」と言う文芸評論家の加藤典洋氏、「安全性が確認され次第、原発を稼働すべき」と言う元外交官で首相補佐官の経験もある岡本行夫氏という対照的な二人の意見を紹介しよう。
あなたはどちらが日本の進むべき道だと考えるだろうか。
「新しい原発は作りませんが、当分の間、原発は自然代替エネルギー主体の発電までへの『つなぎ』として保持します。ゆっくり、段階を踏んで進む。
第一に、もはや『つなぎ』なので、まず、核燃料サイクル政策を破棄する。(青森県)六ヶ所村の再処理工場、(福井県敦賀市の)もんじゅを廃止。それにあてられてきた人員と組織を、ただちに代替エネルギーの開発に振り向けます」(加藤氏)
「原発部分を自然エネルギーに頼れというのは机上の理論。実際には多くの制約あり。原子力の継続利用か生活・産業レベルの大幅引き下げかどちらかしかない。原発は更に安全なものが作れるだろう」(岡本氏)
原発を、自然エネルギーで代替できるのかどうか。その点で二人の見方は真っ向から対立している。
中には「答えられない」という選択肢を選ぶ有識者もいたが、必ずしも意見表明を避けたからというわけではない。
元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が語る「答えられない理由」。それは国民的議論を尽くしていない段階で軽々に原発の是非を決することは間違いだという考えに基づく。
「本件については、原発の安全性、経済的合理性、さらに原発開発を推進することによって得られる核兵器開発の基礎体力が日本の安全保障に対して与える影響について、まず、専門家がきちんとした議論をする必要があります。それを欠いたところでの立場表明は、印象論の域を出ません。印象論で、原発存続の是非について立場表明することは国益に反すると思います。現時点において判断に足る十分な議論がなされているとは思えません。
かつて毛沢東が述べた『調査なくして発言なし』というルールを論壇に定着させることが重要と考えます。それだから私は1の質問に『答えられない』のです」(佐藤氏)
有識者に対するアンケートの結果をまとめると、
●国内にある54基の原発をできる限り早く、すべて運転停止すべき→6人
●段階を踏んで、順次停止していくべき→30人
●福島第一、浜岡の2つのみ停止し、それ以外は稼働を続けるべき→1人
●浜岡原発も含め、安全性が確認され次第稼働すべき→7人
●答えられない→5人
●該当なし→1人
と、停止派(36人)が継続派(8人)を大きく上回った。
■結局は高くつく
今回の福島第一原発事故を目の当たりにし、考え方が変わったという有識者もいた。
「今後、日本人は国際結婚の場などで、差別を受けることがあるように思います。よほどきわだつ商品ならともかく、日本製品も売りにくくなるのではないでしょうか。原発の電力は低コストですが、結局は高くついてしまったと思います。
私自身、原発は安全だという電力会社のTVキャンペーンに洗脳されていました。その反省もこめ、志は『できる限り早くすべてを運転停止するべき』ですが、まあ現実とのおりあいもはかり『段階を踏んで、順次停止していくべき』と答えます」(国際日本文化研究センター教授の井上章一氏)
「これまで私は原子力発電を容認してきました。その社会的責任を反省するとともに、原発を推進する立場にあった政治、企業、地域住民のそれぞれの利害とぎりぎりの折り合いをつけた結果が『福島第一、浜岡の2つのみ停止し、それ以外は稼働を続けるべき』の選択となりました。
付け加えて言いますと、国家や科学技術や宗教には神と悪魔の二つの顔があると思っていますが、原子力発電にもその二つの顔があると考えています」(宗教学者の山折哲雄氏)
原発は安全、原発はクリーン、原発は制御できる・・・。事故が起きるまで、国民はその実態を見抜くことができなかった。原発が持つ「悪魔の顔」が姿を現したいま、その現実を直視することなく原発を論じることはできないだろう。
生命科学者である柳澤桂子氏、精神科医の香山リカ氏は、直接的な被害より心理面や将来の不安が大きいと指摘する。
まずは「即時停止」派の柳澤氏の意見。
「原子力を使えば放射性物質が出ます。放射性物質は微量でも、DNAを傷つけてガンや突然変異を誘発します。発育の盛んな胎児や子どもほど危険です。このような放射性物質の作用に閾値はないと言われています。また生殖細胞は胎児のうちにできますが、生殖細胞に突然変異が起こると子や孫、ひ孫と未来まで傷が受け継がれます。
ですから妊婦から生殖年齢の人々はすべて微量でも放射性物質を浴びないようにしないと人類の中に突然変異が蓄積してしまいます。何よりも高レベル放射性廃棄物の処理の仕方も解決されていないのに、原子力発電をするのは、とんでもないことです」(柳澤氏)
続いて香山氏は「順次停止」派。地震そのものより人々の恐怖心のほうが怖いと言う。
「いま稼働中の原子力発電所の現実的な危険性はともかく、事故が起きたときに人間が管理することができないという原発は、社会とそこに生きる人たちに与える心理的な恐怖があまりに大きい。
実際に今回の事故後、原発うつ、原発パニックで生活に支障を来す人、受診に来る人が急増している。その原発をいきなり止めても、人々に根付いてしまった根源的な恐怖はなくならない。むしろ段階的な停止に向けて、きちんとした計画やロードマップを示し、管理しながら止めることができることを示すほうが、この甚大な心理的被害を軽減させる上では効果的であると考えられる」(香山氏)
政府や電力会社の事故対応のお粗末さに批判を浴びせる有識者もいる。
「原子力発電そのものよりも、この間の事故対応を見ていると、いまの日本人の危機管理能力やシステムでは存続は難しい。技術は普遍的なものでフランスにやれて日本にできないということはないはずだが、原子力発電を巡る既得権益層が、ガバナンスを低下させている実状を変えない限り無理だろう」(作家で東京都副知事の猪瀬直樹氏)
「運転を停止するだけでは不十分。一日も早くすべての原発を廃炉にすべきだ。発電方法は原子力だけではないのに、これまで政府や電力会社は『安全神話』を作り上げ、他の道を封じてきた。これからは原発以外の発電方法を考えるべきだ」(評論家の佐高信氏)
■条件付きで原発存続の声も
暴走を始めたら誰も止められない。放射性物質が猛烈な規模とスピードで日本全国に飛散、見えない恐怖が国民を襲う。制御不能な原発事故は「想定外」の被害を撒き散らすのだ。
それでも原発を継続する必要はあるのか。今回のアンケートでは少数派だったが、「原発稼働を継続すべし」と考える人たちももちろんいる。
元文部大臣で東京大学名誉教授の有馬朗人氏は「原発継続派」。その理由をこう語る。
「まず地震、津波、その他考えられるすべての災害に十分な安全性を確保する必要があります。さらに化石燃料の涸渇、地球温暖化に備え、自然エネルギーの開発を急ぐ必要もある。そのため税金を増やすことも必要であろう。
それが十分になるまではどうしても原子力発電を利用せざるをえないと判断する。エネルギー不足の際には、あらゆる資源を活用せよ」(有馬氏)
弁護士でさわやか福祉財団理事長の堀田力氏は同じく「原発継続派」。だが、あくまで条件付き≠ナの意見である。
「次の二つの条件付きで、『浜岡原発も含め、安全性が確認され次第稼働すべき』を支持します。(1)安全性は、従来最大の津波、地震等の倍の規模を想定したものであること。(2)自然エネルギーの開発・伸長に全力を挙げ、代替していくこと」(堀田氏)
期待されている自然エネルギーだが、本当のところどこまで原発の代替ができるのか。サイエンス作家の竹内薫氏が「世界の専門家たちがどう考えているのか」を紹介する。
「原発やめますか、続けますか」有識者の回答 @
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「原発やめますか、続けますか」有識者の回答 A
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「ネイチャー誌、サイエンス誌などの論説は、再生可能エネルギーが原子力を完全に代替できるまで30年程度と見積もっており、世界の専門家の意見は大筋で一致している。
原子力をすべて火力で代替することは今でも可能だが、燃料費の高騰を招き、天然ガスや石油を握っているロシアや中東に安全保障上の切り札を渡すことになり、経済運営がきわめて不透明になってしまう。それは石油ショックの再来以外のなにものでもない。
ちなみに、短絡的に他国の自然エネルギー政策は真似できない。たとえば、ドイツは再生可能エネルギーに賭けて失敗しても、隣国フランスの原子力発電でつくった電力を融通してもらえる。日本は島国であり、隣国からの電力は期待できない。同様に、金融立国であり工業を持たないアイスランドの真似もできない」
有馬氏、堀田氏、竹内氏はいずれも「原発継続」派だが、その理由は微妙にニュアンスが異なる。ただ3者が共通して強調するのは、原発の安全管理を徹底的にやることの重要性だ。
海外の科学雑誌では、遠くないうちに茨城県沖を震源とするマグニチュード8ほどの地震が起こる可能性も指摘されているという。
「その場合、すでに防波堤が破壊されている福島第一原発はきわめて危険な状態に陥る可能性がある。政府がその対策を講じていないのは疑問。浜岡だけを停止させる科学的な意味はない。特に菅首相があげた87%という数字(今後30年以内に東海地震が起きる確率)は、世界的には根拠が薄弱だと言われており、理解不能。
今は危機的な状況なので、(地震予知や確率の数字を主張し続ける『日本』ローカルな)学者だけではなく、世界中の地震学者の知見を結集すべき」(竹内氏)
■今、この時だからこそ考えたい
ほかにも「原発継続」派からは「将来日本の原発をどうするのかは、きちんと国民的な議論をしてコストと安全性のバランスを考えるべき」「電力が足りないことで起こる新たな健康被害もある」などの声があがった。本文では紹介しきれない有識者たちの意見は、前ページの表にまとめた。
さて、ここまで見てきて、あなたはどう考えるようになっただろうか。原発に対する思いや考えに何か変化はあっただろうか。
振り返ればこれまで日本では一部の専門家や活動家の間だけで原発問題が語られてきた。多くの国民はその危うさをなんとなく感じながらも、大きな声をあげることなく、ずるずると現状追認してきた。
全廃か、条件付きの継続か。いずれにせよ、変えるなら今しかない。もう政府や電力会社だけのせいにして済ますことはできない。
歴史学者の磯田道史氏、哲学者の木田元氏の言葉から、日本が進むべき針路のヒントが見えてくる。
「ピンチはチャンス。目先のことに惑わされず、国家百年の計を立てたほうがいい。10年我慢すれば必ず、日本人はエネルギー問題で世界全体に貢献するようになれる。われわれはそれだけの潜在力をもっている。
そう信じて未来にむけて頑張れる日本人になるか。『電気がないから恐いけど原発』という臆病な発展性のない日本人になるか。分別するときだ」(磯田氏)
「いま日本で原発を停止すると、20年前の経済水準に戻るそうだ。しかし、われわれの世代の者は、第二次大戦敗戦後、もっとはるかに低い経済水準・生活水準で暮らしてきた。それでも別に屈辱は感じなかったし、みじめな思いもしなかった。
同胞を危険にさらしてまで、豊かになったり、便利に暮らさなくてもよいのではないか」(木田氏)
停止派も継続派も共通していたのは、国難に直面した日本の現状を打開したいと真に想う気持ちにほかならない。原発とともに生きるのが幸せなのか、それとも原発なしで暮らすのが幸せなのか。いま有識者たちの言葉に触れて、改めて我々一人一人が考えるべきときを迎えている。
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