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『低線量被曝とどう向き合うか
〜相馬市玉野地区健康相談会レポート〜』
■ 森 甚一:都立駒込病院
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■from MRIC
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私は都立病院で内科の専門研修を行っている5年目の医師である。3月11日の震災の
日以後、被災地の役に立ちたいと考えて機会を探っていたところ、5月28、29日相馬
市玉野地区の健康相談会の話を聞き、医師として参加することができた。ここで集め
られた客観的なデータは後に公式に明らかにされるはずであるから、一医師としての
私個人の体験を報告したい。
玉野地区は相馬市の北西部の山間部に位置する。相馬市街から車で向かうと、5km
ほどで国道は両側を新緑の木々に覆われる山道となり、これをさらに15kmほど走ると
目の前に田畑の広がった盆地が開ける。相談会の会場はこの国道から山を登るように
細い道を入っていった先にある玉野小・中学校だ。2日とも生憎の雨天で、雲と同じ
くらいの高さにある会場は、霧がかり半袖では少し肌寒い。
この地区は福島第一原発から北西50kmの距離にあり、いわゆる自主避難地域外であ
るが、玉野小学校校庭では5月25日に毎時放射線レベル3.0マイクロシーベルトを記録
した。これは原発から同心円上南西にある、湯本高校(0.4マイクロシーベルト)など
に比べ相対的に高値である。この原因としては、原発からの距離が北西に40km離れて
いるにもかかわらず3.3マイクロシーベルトを観測し、4月22日計画的退避区域に指定
された飯館村と同様、地形や風向き、霧が関係していると考えられている。このよう
な相対的に高い放射線量を記録したことで、この地域に住む住民の方々は放射線被爆
に対する漠然とした不安に駆られながら日々の生活を送っている。今回の健康相談会
の目的は、このような住民の方々の現在の健康状態を採血、採尿を含めた客観的な
データを確認し、健康上の疑問に対して医師が直接答えることで、放射線に対する不
安を和らげようとすることであった。
相談の対象になったのは、玉野地区の住民140世帯470人。玉野小・中学校の体育館
を会場にして、28、29日の午前・午後の4つの時間帯に分かれて行われた。健康相談
会を運営したスタッフは、市職員、バックアップをしてくださる星槎グループの方々、
東京大学や防衛医大の学生、県内外からの集まった医師達であった。まずは学生・市
職員が事前に作成された問診票を元に大まかなアンケートをとる。その後身長・体重
測定、採血・採尿が行われ、最後にアンケートを元にして医師が問診・診察を行い、
後日コメントをそえて結果を郵送する方式がとられた。結果、2日間で全対象者の
65%に相当する307人が受診した。このことからも住民の関心の高さがうかがえる。
参加した医師数が11名と多かったために、いわゆる検診のように短時間で人数をさば
いていくのではなく、一人一人のお話を10〜15分程度じっくり聞くことができた。私
が2日間で問診・診察を行った方は約30人で、年齢別の内訳は大まかに10代1割、20代
1割、30〜50代が2割、60歳以上が6割だった。
問診を初めてすぐに、私は至極当然のことに気付かされた。私の現在の症状に関す
る問いかけに対する住民の方々、特にお年寄りの答えは、「腰が痛い」、「膝が痛
い」、「耳なりがする」など様々であるが、これらは震災の後に出現した症状ではな
い。健康相談会に集まった方々は、震災以前から糖尿病・高血圧・変形性関節症と
いった慢性疾患を抱えているが、基本的には健康な方々なのだ。そしてこの短期間の
低線量の被爆によって身体的な影響が現れるはずもない。(現れていたら大問題であ
る。)
私は参加できなかったのであるが、この前の週に飯館村で同様の会が開かれている。
玉野地区と飯館村の両方に参加した医師によれば、飯館村は屋内退避指示が出ていた
ため、お年寄りの活動性が落ち、屋外にでられないストレスから血圧が上がってし
まったケースがあったという。そのことと比較すると玉野地区のお年寄りは、震災前
後で活動量が変わっていないため、心身とも見るからに壮健である。私が問診した約
20人のお年寄りのうち、放射線に気をつかって外出を控えていると答えた方は1人し
かおらず、それ以外のみなさんは震災前と変わらずに農業など屋外作業を継続されて
いる方がほとんどだった。この方々の心配事は、自身の健康ではなく、「せっかく
作った農作物が売れるかどうか」「牧草から高濃度の放射線が出たため、畜産業を続
けられるかどうか」などであった。私は生活習慣病を持った高齢者の方々には、「放
射線の心配よりもタバコをやめなさい」「このまま普段通りの運動を続けることがあ
なたの寿命にとってはずっと大事」というような指導をした。生活習慣病の管理を強
調すると、住人の方々の放射線への不安は和らいだ印象がある。
一方で、若い方に問診をする際には非常に神経を使った。若年者に長期低線量被ば
くがいかに影響するかに関しては現在のところわかっていないからだ。ある高校生の
女の子は、原発20km圏内の浪江町に住んでいたが、避難指示後、祖父のいる玉野地区
に移住した。安全だと思って避難してきた先でも低線量被曝が待っていたわけだが、
この子に対して何を言ってあげられるのか、正直私の中にも答えはなかった。問診票
の「叔父 胃癌」の文字が目についた。「放射線については、あなたがここに書いて
くれているような、『外出するときにマスクをする』、『(検査のされていない)自
分の家で作った野菜はなるべく食べない』を続けていく程度でそれほど心配はいらな
いよ。あと、井戸水は検査がキチンとされて安全であることが確かめられるまで避け
たほうがいいかな。」私は話しながら、彼女が聞きたいことはそんなことではない
「ここに住んでいていいのかいけないのか」だろうと、わかっていたがそれに答えら
れないことを歯がゆく思った。
この健康相談会の趣旨は住民の方々の不安を解消することである。しかし、我々は
高齢者を除いてその不安を払拭するに足る十分な科学的根拠を持っていない。長期の
低線量放射線被曝に人体がさらされた場合、全員の癌の発症が上がるかというとおそ
らくそうではない、しかし中には放射線に対する遺伝学的な脆弱性を親から受け継い
だ人がいるであろう。これを抽出する現実的な手がかりは家族歴しかない。後日郵送
される受診者へのコメントには「心配ありません、普段通りの生活を続けることがよ
いでしょう。」に加え癌家族歴のある方については、「定期的な癌健診をおすすめし
ます。」を書き加えなければいけないだろう。
充実感とともに無力感を味わった相談会参加であったが、今回具体的に行動してみ
て初めて分かったことは多い。今後とも被災地住民の方々と顔を突き合わせた支援に
協力していきたいと思う。
都立駒込病院
森 甚一
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