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野菜と海藻(ワカメ・コンブ・のり) 放射能汚染調査の全記録
「隠したがる」「減らしたがる」国より、環境NGOのほうが信用できる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/6353
2011年06月02日(木) 週刊現代:現代ビジネス
■なぜ国は海藻を調べないのか
「またあと出しかよ、と失笑が漏れましたね」
そう語るのはある全国紙の政治部記者だ。5月16日、枝野官房長官の定例会見の席だった。
「記者から『民間団体が独自で行っている放射線量の調査を参考にする気はないのか?』と質問が飛んだんです。その時、枝野さんが『以前から十分に参考にしている』という趣旨の発言をしたので、記者たちはあ然としました」
枝野氏は例の淀みない口調で、こう続けた。
「私が承知しているだけでも、早い段階でグリーンピースが国内で調査を行ったものについて、そのデータや調査手法について報告いただいて、私のほうからもこういったもの(調査結果)を十分に参考にするようにということで、下ろしたこともございます」
枝野氏は、グリーンピースの調査結果を参考にするよう、担当省庁(おそらく文科省)に指示をした、と言うのである。
「この発言の背景には、実は先週号の週刊現代の記事があるんです。官邸が『いかにしてグリーンピースに反論・対抗するか』と熱心に協議している様子が、官邸の内部文書によってバレてしまった。それを何とかゴマカすために、『以前からグリーンピースの調査は参考にしていた』と、今さら言い出したようです」(前出の政治部記者)
内部文書には、こう書かれていた。
〈適正とは思えない数値がグリーンピースから出てきた時に政府として反論できる体制をとることが必要〉
〈グリーンピースの調査までに対応・対抗できるように関係省庁で調整〉
枝野氏が言うことが真っ赤なウソであることがわかる。「参考にするよう」指示をしたのではなく、「反論・対抗するよう」指示していたのである。
グリーンピースは、日本では反捕鯨運動をする「過激な団体」というイメージがあるが、世界、特にヨーロッパでは信頼性の高い環境NGOとして知られる。
実際、今回も福島県飯舘村の放射線量が高いといち早く(3月27日)発表したのはグリーンピースだ。政府が同村を「計画的避難区域」に指定したのはその3週間後のことである。
「隠したがる」「(危険な数値を)減らしたがる」国とグリーンピース、どちらが信用できるか、もはや比較するまでもないだろう。
グリーンピースはこれまで空気、土壌、海水に加えて、野菜、海藻についても独自に放射能汚染調査を行い、その結果を公表している。その驚くべき数値を、ここにすべて記そう。
まずは海藻。いずれも5月3日~9日の間に、福島県内の沿岸または沖合で獲れたものだ。
●久ノ浜港沿岸で採取したホソメコンブ=1万9000ベクレル/kg以上
●久ノ浜港沿岸で採取したフクロノリ=1万6000ベクレル/kg以上
●四倉港沿岸で採取したカヤモノリ=1万4000ベクレル/kg以上
●四倉港沿岸で採取したホソメコンブ=1万8000ベクレル/kg以上
●江名港沿岸で採取したアカモク(ホンダワラ科の海藻)=2万1000ベクレル/kg以上
●富神崎港南沿岸で採取したアカモク=2万3000ベクレル/kg以上
●福島第一原発の南東53km沖合で採取したアカモク=1万3000ベクレル/kg以上
この値は放射性物質の総量を示している。放射性ヨウ素の基準値が2000ベクレル/kg、放射性セシウムの基準値が500/kgだから、いずれにしてもとんでもなく高い値だ。
なぜ海藻を調べるのか。東京海洋大学名誉教授の水口憲哉氏が説明する。
「海に放出された放射性物質は、水より比重が大きいから、いずれは海底に堆積していきます。ですから、海底に棲息して動かない海藻類は放射能汚染の影響を受けやすいんです。本来、海藻を調べるのが汚染の実態を知るいちばん簡単な方法なんですが、政府は絶対に調べようとしない」
グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一事務局長もこう首をかしげる。
「放射能汚染を調べる際の国のガイドラインに、コンブなどの海藻類を『指標生物として使う』と明記されています。政府だって、海藻が汚染のリトマス試験紙になると、本当はわかっているはずなんです。動き回る魚と違って、汚染のマッピングもできるわけですから。もっと言えば、まず海底の土を最初に調べるべきなのに、政府はそれすらやっていない」
■水産学者も本籍は原子力村
なぜ、政府は調べようとしないのか。ある海洋学者が匿名を条件に明かしたその理由に、また呆れる。
「省庁の縄張りを理由にしているんです。水産庁は漁業を管轄する省庁だから、『食用になる海産物を担当する』というタテマエがある。だから海底の土は、現状では文科省の担当になるんです。でも文科省は陸の調査で忙しい。普段は利権拡大に利用する縄張りを、今回は怠慢の言い訳に使っているわけです」
百歩譲って海底の土が水産庁の担当外という言い分を認めたとしても、コンブやノリなどの海藻は立派な食用品であり、水産庁が調査しない理由はない。
そして水産庁が土を調べないなら、政府はすぐにでも文科省に調査を命じるべきだろう。「省庁の縄張り意識と怠慢」で国民の生命が危険にさらされるなど、もってのほかである。
気になるのは、遅ればせながら避難区域が広がる陸と比べて、海洋汚染への対応があまりに遅れていることだ。
「それは学者のチェック機能がまったく働いていないからです。実は、水産関係の研究者も『原子力村』に取り込まれている人が非常に多い。理由は簡単で、原発は海辺につくらなくてはならず、必ず漁業補償の問題がでてくるからです。放射能は安全だ、原発は安心だと漁師たちを説得する時に、水産学者も一役買うことになる。
水産系で放射能を扱っている研究所はたくさんありますが、総じて電事連(電気事業連合会)から研究費をもらっている。放射能を専門にする水産学者の多くは『本籍=原子力村』なんです」(前出の海洋学者)
海は広いから大丈夫、という幼稚だが殺人的な言い訳が通用しないことを、本誌は再三指摘している。枝野氏は今週もこの記事を読むのだろうから、今度こそ、グリーンピースの調査結果を参考にするよう、水産庁なり文科省なりに下ろすべきである。
続いて、野菜のデータに移ろう。4月5日~9日、グリーンピースが福島県内で調査した結果だ。
●南相馬市の野菜畑1の白菜=8790ベクレル/kg
●南相馬市の野菜畑2のほうれん草=4万3485ベクレル/kg
こちらも核種は特定されていないが、基準値は海産物と同じくヨウ素=2000ベクレル/kg、セシウム=500ベクレル/kg。もっとも危険性が少ないとされる放射性ヨウ素だったとしても、南相馬のほうれん草は21倍以上の高い値を示している。
南相馬市は原発からも近く、恐ろしい数値にもある程度心の準備ができるかもしれない。では、次の値を見てほしい。
●福島市郊外の小規模野菜畑のからし菜=1万9940ベクレル/kg
●福島市郊外の小規模野菜畑の小松菜=7万3775ベクレル/kg
●福島市郊外の小規模野菜畑のニラ=2万295ベクレル/kg
●福島市郊外の小規模野菜畑のブロッコリー=1万6180ベクレル/kg
●福島市郊外の小規模野菜畑のほうれん草=15万2340ベクレル/kg
15万ベクレルという桁外れの数値が、福島市郊外の野菜から出ている。福島市は言わずと知れた、県の行政機能が集中する県庁所在地。約30万人の市民が暮らすが、放射能汚染に注意を払っている人がどれほどいるだろうか。
県下第2位の都市、郡山市の北西約10km、本宮市の小規模農家でもグリーンピースは調査した。
●ブロッコリー=1万8845ベクレル/kg
●カリフラワー=2万5180ベクレル/kg
さらに同じ場所で、土壌の調査も行っている。その検体は二つあり、一つは3万2980ベクレル/kg、もう一つは、なんと「高すぎて計測不能」という結果だった。9万9999ベクレル以上、ということだ。
前出のグリーンピース・ジャパン事務局長、佐藤氏はこの福島市と郡山市近くのデータを重視する。
「政府から一定の情報が開示されている現在、最も恐ろしいのは、『自分たちの住んでいる場所は安全だ』と思い込むことです。福島・郡山両市の人口を合わせると60万人超。それだけの人々が、長期的かつ無自覚に放射能汚染にさらされる可能性があるのです」
福島県は、福島市、郡山市で5月16日に採取された野菜からは、放射性物質はいっさい検出されなかったと発表している。
「私たちの調査からは日が経っており、当時より数値が下がっている場所もあるでしょう。しかし、放射能汚染を考える時に重視しなければならないのは、『ホットスポット』の存在です。少し離れたら何でもないのに、突然、驚くほど測定値が高くなる地点がある。放射性物質の蓄積は、地形や気象の影響を大きく受けるからです。
福島、郡山両市の人々を全員避難させるのは、もちろん現実的な対応策ではありません。我々が国や県に求めているのは、『ホットスポット』を見つけて、そこをすみやかに除染することなんです」(佐藤氏)
■政府が流す「安心デマ」
グリーンピースが4月11日付で菅首相に要請した項目の一つにこうある。
〈放射線量が依然として高く、人口も多い福島市や郡山市を含む地域を「特別管理地域」と指定し、汚染度の高い地区を除染するなど適切な措置を早急にとること。さらに、住民に対して放射能から身をまもるための実行可能なアドバイスを提供すること〉
実行可能なアドバイス、それはいたって基本的なことだ。外出から戻ったら丁寧に手を洗う、外出時には必ずマスクをする、雨にはなるべく濡れないなど。これらを注意して実行することで、無用な外部被曝を防ぐことができる。
「危険性のアナウンスをする、それが政府にできるいちばん簡単なことです。結果的に危険がなかったとしても、それは喜ぶべきことです。少なくとも、危険を小さく見せようとする現在の態度よりは、よほど正しいでしょう」(佐藤氏)
一部には「被災地を助けるために、被災地で獲れた野菜を食べよう」という風潮がある。その発想を否定するものではないが、国や県が発表する「野菜は安全キャンペーン」を鵜呑みにしての行動なら、慎んだほうがよさそうだ。
「自己責任で食べる」という人は止められないが、その判断を幼い子供や若い女性に押しつけてはならない。炉心のメルトダウンを隠していたような政府が、国民の命を守ってくれると思わないほうがいい。
野菜と同様、「魚は安全」と言い張る水産庁に、三重大学海洋個体群動態学研究室の勝川俊雄准教授が警鐘を鳴らす。勝川氏は水産原子力村に反旗を翻す、数少ない科学者のひとりだ。
「福島原発1号機と3号機から出た、基準値の100倍と言われる汚染水を海に放出する時に、東電と国は2号機の超汚染水との比較で『低濃度汚染水』という呼称を使った。魚でも『(化学物質の)PCBやDDTに比べると、放射性物質は魚に溜まらないから安全』と言う。一事が万事この調子です。
海にバラまかれた放射性物質は、生物濃縮を経ていずれ人間に返ってくる。それは科学的に証明されていることです。政府が意図的に流す『安心デマ』によって、意識を持っていれば防げた内部被曝を引き起こしてしまうのではないか。私はそれが心配でならないのです」
グリーンピースの調査を政府が嫌がるのも、コントロールが利かないからだ。誰の声に耳を傾けるか、国民一人一人が真剣に考えなければならない。
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