http://www.asyura2.com/11/genpatu11/msg/712.html
Tweet |
http://www.labornetjp.org/Column/20110525
人間は五感を頼りに生きている。が、放射能はこの五感に何ひとつ反応しない。そこで、原発事故で周辺の住民が避難した27キロ先の集会場のほうが、実はずっと高レベルの放射能に汚染されていたという、笑うに笑えない事態も起きている。わたしはこの事実を、NHKのETV特集『ネットワークでつくる放射能汚染地図――福島原発事故の2か月』という90分の番組で知った。番組は単なる学術番組ではなく、いまの放射能の汚染におびえている日本人がいちばん知りたい状況を解き明かしてくれる、生々しい記録なのだ。それも43歳の木村真三という研究者(写真)の個人的な仕事を中心にして。
木村さんは厚労省に勤めていた放射能の研究員であったが、上司から行動を慎めと忠告され、身動きできなくなった。かれはこれに抗議して退職し、自らの意思で福島の現地に赴き、土を採集して、それを大学の研究仲間に送ったのである。その土から高レベルの放射能が検出された。なぜそうしたか。かれには3歳の子どもがいた。チェルノブイリで多発したように幼児の甲状腺がんはもっとも怖い。これを未然にふせぐには何よりも実態調査からはじめなければならない。といっても、かれにできることは広大な汚染地帯の点と点の調査でしかない。そこに助け舟が現れた。84歳になる岡野眞治さん。かれはビキニやチェルノブイリに調査に出かけているその道のベテランだが、いまは鎌倉で隠居生活をしている。木村さんはかれに協力を求め、岡野さん手製の測定装置を車につんで、NHKのスタッフが同行して現地に向かう。岡野さんの機器は走っている車中からも各種の放射能レベルが測れるというすぐれものだった。これによって放射能は円を描いて飛散しているのではなく、風向きによってまだら状になって飛散していることがわかる。それが東京方面にも向かっていることことも。
この番組の特徴はもう一つある。それはNHKのスタッフが、木村さんたちに同行して荒廃した無人地帯を撮っているだけでなく、各地を訪れたさい、独自に避難している人々や避難しないでいる人々にカメラを向け、それぞれの思いをじっくりと聞き、悲惨な状況を、ときには別のチームを組んで、何日間にもわたって記録していることである。人々はNHKがきてくれたということで、悲痛な思いのたけを吐露している。
たとえばその一つ。4万羽の鶏を飼っている養鶏場の老人は、エサがこないと途方にくれている。鶏はエサのないエサ場を空しくつついている。何日かたってスタッフが再訪すると、鶏は全部餓死している。老人はシベリアの抑留から生還し、50羽の飼育からはじめたという。「こうやってだんだんふやしてここまできたのさ。(それが)この姿だからさ」と老人は絶句する。虚空に脚を上げたまま動かない鶏にカメラは焦点をあてる。このように、長年その土地でつちかってきたくらしの一つひとつがある日突然、根こそぎ奪われてしまった。絶望はいかばかりか、言葉が出ない。
このドキュメントをみることをおすすめしたい。放射能がじわりと人間生活を破壊し、希望をふみにじっていく――そんな時代がやってきた。それでもわたしたちは生きていかねばならない。そのことをまず理解することが大切であるからだ。なお、番組の中心となる七沢潔ディレクターは、かつて高木仁三郎の番組を手がけ、原発問題の著作もあるが、現場から放送研究所に追われ、「沈黙を強いられる」巨大組織のなかでたたかっている人でもある。(木下昌明/2011年5月25日記)
*この作品は、5月28日(土)午後3時から教育テレビで再放送される。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素11掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。