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福島第1原子力発電所の周辺の汚染状況について、日を追うにつれデータが増えている。政府や研究者が公表する汚染状況の地図をみると、高い濃度の汚染地域がかなり広い範囲にわたることが改めて確認できる。こうした地域の住民にもっと早く避難を指示できなかったのか。放射性物質の拡散を予測するデータが、震災発生の翌日から首相官邸に届いていたものの、すぐに生かされていなかったことが明らかになった。避難の指示などにかかわる一連の政府の判断は不可解だ。場当たり的に見える判断の結果責任は重い。
政府は放射性物質の大気への拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の計算結果を4月25日になって公開した。3月12日から1時間ごとに、そのときの風向・風速に伴い、放射性物質がどの方向に流れたかを知る手がかりになる。
原発から最も大量の放射性物質が放出されたとみられる3月15日。午前6時ころに2号機の下部で爆発があり、同10時ころに敷地内で毎時400ミリシーベルトの放射線が計測された。原発周辺ではこの日、午前中は北から風が吹いていたが、午後になって風向きは南風に変わり、夕方5時ころから降水があった。午後10〜11時のSPEEDIの計算結果をいま改めてみると、原発から北西方向に放射性物質が流れていたことがうかがえる。これが雨、あるいは雪によって地上に落ち、高い汚染をもたらした。
結果論にはなるが、この段階以降、汚染は原発から同心円に存在するのではないことがはっきりした。にもかかわらず、政府が「計画的避難区域」と称して、半径20キロ圏外の5市町村の住民の避難を決めたのは、4月12日。SPEEDIの試算結果を、たったの1例だけだが、ようやく示したのは3月23日だ。
細野豪志首相補佐官は5月9日、公表の遅れについて「反省している」とわびたが、だれが公表を止めていたのかは明言しなかった。
枝野幸男官房長官は5月20日、予測データが3月12日に首相官邸にファクスで届いていたにもかかわらず、首相や官房長官らに報告されていなかったことを明らかにした。原発事故発生時にこうしたデータをどう扱うか、ガイドラインなどで手順がはっきり決まっている。しかし、なぜか手順が守られなかった。
本物の緊急事態に際して、机上の手順通りに進めてよいのか、迷ったのだろう。初期の予測は不確実なものだ。公表にあたっては説明抜きではかえって混乱を招きかねない。そうした性格のデータであることを事前によく考え抜いておらず、いざというときに迷いが生まれ、判断を誤ったのではないか。この点は、事故調査で解明してほしい。
4月24日の日本経済新聞電子版の記事「政府と東電が明らかにすべき原発リスク情報は…」で、周辺地域の汚染地図づくりが遅いことを指摘した。
その後、5月6日に文部科学省は米エネルギー省と共同で実施した航空機からの放射能汚染調査の結果を発表した。高感度の測定機を載せて原発から80キロ圏内を飛行、上空でとらえた地表面から高さ1メートルの放射線量率と、地表における放射性物質の蓄積状況を割り出した。その結果はモニタリングカー(放射線計測車)などによる地上での放射線量測定マップと傾向が似ている。SPEEDIの予測とも合致して、原発から北西方向に高濃度の場所が長く伸びる。
注目されるのは地表の蓄積量だ。放射性セシウムが1平方メートル当たり600キロベクレル(60万ベクレル、緑の領域)を超える場所が浪江町から飯舘村にかけて存在する。放射線量でみると、毎時5マイクロシーベルトの地域とほぼ重なる。
実は「チェルノブイリ原発の周囲では、放射性セシウム蓄積量が1平方メートル当たり555キロベクレル以上の場所は今も厳戒管理区域とされ、居住は認められるが、農地としては使えない。1480キロベクレル以上は住むことも禁止されている」と、原子力発電環境整備機構フェローの河田東海夫(とみお)氏は指摘する。河田氏は日米共同の航空機調査より早い段階で、公表データをもとに地表の蓄積量を推定し、その深刻さについて関係者に警鐘を鳴らしてきた。その推定も航空調査の結果と大まかに重なる。
地表の蓄積量が大事なのは、そこに住む人々の健康にかかわるだけでなく、避難住民が地域に戻る際に重要な判断材料となるからだ。河田氏の試算ではチェルノブイリ周辺の居住禁止区域に相当する汚染は福島県で約600平方キロに達するという。日本政府は避難解除の基準をまだ決めていない。もし旧ソ連と同じ目安を採用するなら約600平方キロは除染しないと住民は戻れない。表土をはがしたり森の木を切ったりする必要が出てくる。
福島第1の事故での放射性物質の放出量はチェルノブイリの10分の1とされる。比較的狭い地域とはいえ、チェルノブイリ並みの汚染が存在する。
これはまだ推定を多く含む数字だ。はっきりさせるには、実測による精密な汚染地図づくりが要る。セシウムだけでなくストロンチウムなど他の放射性物質も測る必要がある。そのうえで避難解除の基準を決めていくことになるだろう。原子力安全委員会は土壌の汚染度ではなく、その場所の放射線量を解除の目安にする考えのようだが、まず議論の材料となるデータが大事だ。
汚染地域での長期的な健康影響について、専門家の見方は分かれている。チェルノブイリ事故の場合、子どもの甲状腺がんが非常に増えた以外は、過去25年間で住民の発がんはそれほど増えていないという報告書(国連チェルノブイリ・フォーラム報告)がある。子どもの甲状腺がんも、チェルノブイリでは汚染された牛乳を摂取し続けた結果であるため、いち早く牛乳などの出荷規制をした日本の場合、心配はないとする見方だ。国内の専門家にはこの立場の人が多いようだ。一方、国連の調査ではとらえきれていない健康影響があるとの主張(ニューヨーク科学アカデミー報告)も存在する。
放射線の人体への影響について、科学にまだ解明し切れていない部分があるというのが現状だろう。
だからこそ、福島では住民の継続的な健康調査が必要だ。避難するまでにどれくらいの放射線を浴びたかを把握したうえ、長期間にわたって半年ごとなど定期的に健康診断を受けられるような仕組みを政府の責任でつくるようにすべきだろう。
細川律夫厚生労働相は4月20日の国会答弁で約15万人を対象にした調査を行うとしたが、なかなか具体化しない。5月17日に政府が示した工程表にはようやく健康調査が1項目盛り込まれた。
人々の健康にかかわる重要な問題に動きが鈍い。
編集委員 滝順一
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