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毎日新聞 2011年4月25日 0時58分
http://mainichi.jp/life/health/news/20110425k0000m030103000c.html
旧ソ連・ウクライナで86年に起きたチェルノブイリ原発事故は、発生から25年となる今も深い傷痕を残している。特に当時の周辺住民は今なお健康被害に苦しみ、原発事故との関連が認められず切り捨てられる例も多い。被ばくとの因果関係がきちんと解明されていないためだ。大気中に放出された放射性物質のレベルは大きく違うとはいえ、福島第1原発事故でも今後、周辺住民への長期にわたる健康調査と配慮が求められる。【キエフで田中洋之】
「(当時のソ連)政府は深刻な問題は起きないといっていた。それなのに……」
ウクライナの首都キエフ北東部のデスニャンスキー地区にある自宅アパートで、ナジェージュダさん(56)は孫のイリヤ君(3)を抱きしめた。次女オリガさん(32)の三男イリヤ君は、心臓弁膜症とダウン症に苦しむ。オリガさんは「こちらの話すことは理解しているのですが、言葉が出ないのです」と顔を曇らせた。
25年前。ナジェージュダさんは、原発職員だった夫と娘2人と一緒に原発から約3キロ離れたプリピャチに住んでいた。原発労働者の町として建設され、当時の人口は約5万人。当時としては最先端の設備がそろい、自然も豊かで住みやすかったという。住民の平均年齢は26歳と若く、活気にあふれていた。
事故は4月26日午前1時20分ごろ起きた。「深刻な事故とは知らされず、屋内退避の指示もなかった。その日は土曜日で暖かく、子供たちは日中、外で遊んでいた」。住民に避難命令が出たのは翌27日。「(健康被害を抑える)ヨウ素剤も支給されなかった」とナジェージュダさんは振り返る。
半年後に今のアパートに入ったが、しばらくして家族に健康被害が認められるようになった。別のアパートに暮らす長女レーシャさん(35)は6年前、甲状腺に異常が見つかり、手術で甲状腺を全摘出した。レーシャさんの3人の子供も病気がち。ナジェージュダさんとオリガさんも頭痛などの体調不良に悩まされてきた。
オリガさんの長男(14)は妊娠6カ月の早産で、次男(10)もぜんそくを患う。三男のイリヤ君は病気のため幼稚園から入園を拒否された。オリガさんは「小学校にはちゃんと通えるといいのですが」と話す。
イリヤ君は病気と原発事故の関連が認定され、月に166フリブナ(約1700円)の手当を国から支給される。だが、ほかの5人の孫たちは事故と健康障害の関連が認定されず、プリピャチ出身者の子供向けの手当、月16フリブナ(約160円)しか受け取れない。被災者の医療支援を行っているウクライナの民間組織「チェルノブイリの医師たち」のニャーグ代表は「放射線と病気の因果関係の解明につながる統計や調査は、費用がかかることもあり行われていない」とウクライナ政府の対応を批判する。
ナジェージュダさんが住む地区には約2万人のプリピャチ出身者がまとまって暮らす。元住民でつくる自助組織「ゼムリャキ(同郷人たち)」は互いのきずなをつなぎとめる文化活動を続ける一方、先天的な障害をもって生まれる子供たちを救済するプログラムをつくった。だが事故から25年が経過し、スポンサー探しは難しくなっているという。ゼムリャキ代表のクラシツカヤさん(55)は「次世代の子供たちに健康被害は広がっている。チェルノブイリの悲劇は決して終わっていないのです」と話した。
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