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特集ワイド:「あってはならない事故」−−原発、謝罪の歴史 甘い処分で体質不変(毎日新聞)
◇技術的疑問、封じられ
福島第1原発事故で、平身低頭を繰り返す東京電力幹部たち。しかし、振り返れば原発を巡る事故や隠蔽は後を絶たず、同じような場面は過去何度も繰り返されてきた。なぜ失敗の教訓は生かされなかったのか。「謝罪の歴史」を振り返った。【山寺香】
「原子力は『絶対に』安全とは誰にもいえない」「このことを忘れ、謙虚さを失うようなことがあれば、そこには新たな事故・災害が待っている」−−。99年9月30日、茨城県の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所で臨界事故が発生した後、国の原子力安全委員会が作成した「原子力安全白書」(00年版)には、踏み込んだ表現で反省の弁が書き連ねられていた。根拠のない「安全神話」が形成された背景に「絶対的安全への願望」があったとすら指摘している。
原発の危険性を訴え続けてきた京都大原子炉実験所の小出裕章助教が言う。「絶対安全はないと書いたにもかかわらず、国や電力会社はその後も『大きな事故はありません』と繰り返してきた。この言葉が生かされていれば、福島第1原発のような事故は起きなかったはずです」
JCOの木谷宏治社長(当時)は、
「あってはならない事故を起こしてしまい、心からおわび申し上げます」
と何度も頭を下げたが、衆院科学技術委員会で長年にわたり違法作業が行われてきたことを突かれると、
「安全成績は優秀で、これまで事故もなかった」
と反論した。
02年8月には東京電力が、多くの原子炉でシュラウド(原子炉内の炉心を覆う筒状の隔壁)にひび割れがあったなどの記録を改ざんしていた、トラブル隠しが露見する。南直哉社長(当時)は、福島県の佐藤栄佐久知事(同)に、
「改めて一から(信頼を)作り直したい」
と顔をしかめて謝った。佐藤知事は「国と東電は同じ穴のムジナ。東電だけでなく原子力全体の問題として体質改善をしないと同じ問題が起こる」と厳しく批判した。佐藤知事が「同じ穴のムジナ」となじった背景には、経済産業省が2年も前に内部告発を受けながら、実態解明が進まなかった事実があった。
この問題を受け、経済産業省原子力安全・保安院は、点検記録の改ざんなど不正に対して懲役刑を科すよう罰則規定を強化した。ところが一方では、同時期に、放射能漏れのような大きな問題が起きない箇所の配管などはトラブルがあるまで補修しなくてよいとする「維持基準」の導入を決めている。
■
安全性は二の次で、保守点検の“規制緩和”を進める。そんな国の姿勢に、NPO法人原子力資料情報室共同代表の伴英幸さんは「あのとき、保安院は問題をどれだけ深刻に受け止めていたのか。疑問ですね」と憤る。そして、そこに「原発推進を前提にした政策的意図」を感じた。
06年11月には、再び東電で原発の検査データ改ざんが発覚。翌年3月には、東電福島第1原発と北陸電力志賀原発で、核反応が制御不能になる臨界事故を隠蔽していたことが明るみに出た。志賀は99年、福島第1は78年のことで、28年間も国民の目をそらしていたのだ。
当時の謝罪会見で、東電幹部からは、
「報告する必要がないものだった」
との発言が飛び出し、北陸電幹部も、
「トラブル続きだと地元の信頼を損なうと考えた」
と“率直”に語った。
それでも東電の勝俣恒久社長(現会長)は、原発のある自治体へのおわび行脚で、
「徹底的にうみを出したい」
「データこそが品質管理の原点。データを粗末に扱わない風土を確立したい」
と述べている。
この問題を受け、全国の電力会社が一斉に実施した「総点検」では、火力や水力発電所も含め12社で1万件を超える不正が見つかり、当然、国からの重い処分が予想された。
ところが、保安院が下したのは、重大事故の報告を義務づけるよう保安規定を変更するという、肩透かしのような甘い処分。過去の隠蔽責任を問わなかった。甘利明経済産業相(当時)は処分発表当日の会見で「電力会社は社会的なペナルティーを受けている」と幕引きを急いだ。
07年7月、新潟県で中越沖地震が発生。東電の柏崎刈羽原発の変圧器で火災が発生し、黒煙が上がった。延焼すれば原子炉を冷却するための外部電源が失われる危険性もあったが、東電幹部は、
「想定を超える揺れ」
だったと強調。鼓(つづみ)紀男副社長は福島県に対し、
「課題を徹底的に洗い出し、福島第1、第2原発でも防止策に万全を期す」
と頭を下げた。
そして今年3月11日。東日本大震災で福島第1原発事故が発生。国と東電はまた「想定外」を繰り返し、教訓は生かされなかった。例えば09年に産業技術総合研究所が指摘した、貞観地震(869年)で東北地方を襲った大津波の記録なども、対策には生かされなかった。外部からの「データ」は「粗末」に扱われたままだったのである。
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「金と独占力、政治力、国の規制権限が一つになり、原発推進の是非が議論されないまま突き進んできた。戦時中、戦争継続に疑問を持つと『非国民』と言われたように、原発推進に少しでもブレーキをかける意見は『反原発』とレッテルを貼られてきた。当然議論すべき技術的な疑問さえも、封じ込められてきたのです」。元原子力技術者の飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長は、原子力を推進する電力会社や政治家、学者らでつくる「原子力村」の閉鎖性と癒着構造を批判する。
そして、こう続ける。「彼らは原発推進が妨げられないように、法律の条文と(謝罪の言葉の)字面をどうすり合わせるか、マスコミや反対派に突っ込まれないかという視点だけで『安全・安心』を連呼し、現実の不安には積極的に対処してこなかった」
菅直人首相は中部電力浜岡原発の「全面停止」を政治決断した。ただし、防波壁など津波対策が完了する2〜3年後には運転を再開する方針も表明している。いずれにせよ今度こそ「謝罪」を現実の安全対策に生かさなければ、原発事故で古里を追われたり、被ばくの危機にさらされる人たちを裏切ることになる。
「これを機に、原子力村の『体質』を変えなければならないが、原発の歴史を振り返ると、現実にはそう簡単に変わるとは思えない」。前出の小出さんは懸念する。
「レベル7」という日本の原子力史上最悪の事故を起こした今、表面を取り繕うだけの謝罪はもう許されない。
【過去の主な原発関連事故と不正】
95年12月 高速増殖原型炉もんじゅでナトリウム漏れ事故
99年 9月 JCO東海事業所で臨界事故。作業員2人死亡
02年 8月 東電の福島第1、第2原発と柏崎刈羽原発でシュラウドのひび割れなどを隠蔽したトラブル隠しが発覚
04年 8月 関電の美浜原発で配管破断事故。作業員5人死亡
06年11月 東京電力で検査データ改ざんが発覚。これを発端に電力12社で1万件を超える不正が発覚
07年 3月 東電福島第1原発(78年)と北陸電志賀原発(99年)の臨界事故隠しが発覚
07年 7月 新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発の変圧器火災が発生。その他のトラブルも多発
11年 3月 東日本大震災の津波で福島第1原発の非常用電源が喪失。水素爆発を起こし多量の放射能が放出される
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毎日新聞 2011年5月17日 東京夕刊
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