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2009年11月に発刊された武田邦彦先生の名著「偽善エネルギー」は、原子力発電をはじめとしたエネルギー問題を解説した本です。Amazonのベストセラーラ商品ンキング: 本 - 725位、本 > 科学・テクノロジー > エネルギー > 一般部門 では2位となっています。10日ほど前の幻冬舎の新聞広告では「6万部突破」とありましたので、現時点では10万部を突破しているかもしれません。福島原発事故による原子力発電への関心の高まりが本書をベストセラーに押し上げたことは間違いないでしょう。
最初に目次をあげておきましょう。
第1章 エネルギーの現状を把握する―石油、原子力、太陽、水力、風力の問題点 (石油はいつまで持つか原子力は安全か ほか)
第2章 食糧と温暖化問題を考える―エネルギー問題から派生すること (人間の生命エネルギー、食糧の未来事実に基づかない温暖化問題)
第3章 日本のエネルギー問題―将来に必要な備えとは (石油の代わりはどこにあるのか原子力発電に頼っていいのか ほか)
第4章 エネルギーの未来と私たちの生活―今後、向かうべき方向とは (世の動きや価値観は30年ごとに変わる石油がなくなって困る分野の技術開発が必須 ほか)
この本の特徴を1つだけ挙げるとすれば、その読みやすさでしょう。エネルギー問題を扱っていながら、その内容は平易で読みやすく、小学生でも読みこなせる内容です。エネルギー問題を扱っていながらこれほど読みやすい本はこれがはじめてです。なぜかといえば、読者に考えさせるような書き方をしていないのです。書かれていることには目新しいことはなく、書かれていることそれ自体を理解するために必要な知識は小学生レベルで十分です。この本の本質は、書かれていないことにあるように思います。書かれていないことに真実があるのです。
それでは原子力発電に的を絞って内容を見ていきましょう。
『日本の原発「軽水炉」は安全である』 ・・・ 53ページ
と断定して書かれています。しかし、現実には福島原発の軽水炉はメルトダウンした訳ですが…。武田邦彦先生は、スリーマイル原発事故を引き合いに出して、『「スリーマイルのようなことが起こったから原発は危ない」といわれますが、それは正確ではありません。「スリーマイルのようなひどいことが起こっても、環境にはまったく影響がなかった」というのが正しいのです。反対する人の気持ちはわかりますが、事実を歪曲してはいけません。』と書いています。 ・・・ 55ページ
では事実はどうだったのでしょうか。スリーマイル原発事故は冷却材喪失事故であり、冷却材が失われた結果、核燃料集合体が超高温となり核燃料の45%、62トンが溶融し、うち20トンが原子炉圧力容器の底に溜まりました。事故3日後には「8キロ以内の学校閉鎖、妊婦・学齢前の幼児の避難勧告、16キロ以内の住民の屋内待機勧告」などが出され、周辺の自動車道路では避難する車による大パニックが発生しました。格納容器に充満した水素ガスが爆発をおこす可能性が高まっていたからです。幸いにして水素爆発には至りませんでした。そうならなかったのはまったくの幸運に過ぎません。「スリーマイルのようなひどいことが起こっても、環境にはまったく影響がなかった」ということをもって、「原発は安全だ」とは到底いえないことです。武田邦彦先生はこのことをどう考えているのでしょうか?
またこうも書いています ・・・ 167ページ
『たとえば、日本のほとんどの地域なら600ガルを超えることがないので、安全を見れば800ガルで原発を造れば心配ありません。そのとき、住民から「安全か」と聞かれたら、私は胸をはって「安全」と答えます。自分自身も、私の子供でも孫でも近くに住むことができます。「それでは未来永劫、800ガル以上の地震はこないと保証できるか」と聞かれたら、「それはわからない」と答えます。「無責任だ」と言われればそうかもしれませんが、それで十分だと思います。』
では日本の原子力発電所で記録された揺れ(加速度)はいくらだったでしょうか?
『東京電力は30日、新潟県中越沖地震により東京電力柏崎刈羽原発3号機タービン建屋1階で、瞬間的な揺れの強さを示す加速度が原発では過去最高とみられる2058ガル(ガルは加速度の単位)に達し、設計上の想定(834ガル)を1200ガル以上超えたと発表した。1000ガルを超える揺れは、全7基のうち4号機以外の6基で記録された。また、3号機の揺れの周期を分析すると、原子炉本体など重要機器への影響が大きい短周期の小刻みな揺れを含め、各周期で想定を2倍程度上回った。経済産業省原子力安全・保安院によると、地震により東北電力女川原発、北陸電力志賀原発でも揺れが想定を超えたが、全周期でこれほど大きく超えたのは初という。
東電はこれまで、原発の地下最深階での加速度だけを発表し、最大680ガルとしてきた。この日は、揺れやすい上階も含めた97カ所で観測した地震波形などを保安院に報告した。 2058ガルが記録されたのはタービンを載せる台の上で、比較的揺れやすい構造だった。同じ台の上では1号機のタービン建屋1階で1862ガルを記録し、想定値(274ガル)の7倍近くに達した。ただ、東電によると1号機は想定値の算出方法が他と違い、想定と揺れの加速度を比べるのは不適当だという。 また、地震計の測定範囲を1000ガル以下に設定していたため、振り切れて「1000ガル以上」としか分からない測定点が10カ所あった。』
以上のように最大で2058ガルが記録されています。これは2007年7月16日に起きた地震です。武田邦彦先生の名著「偽善エネルギー」が発刊されたのは、2009年11月です。武田邦彦先生は柏崎刈羽原発で記録した揺れを知らないのでしょうか? 知っていたなら、800ガルで心配ありません、などと書くはずがありません。こんな重要な事実さえも知らないで「800ガルで大丈夫」などと言われても到底信用することはできません。
武田邦彦先生の次の言葉をどう受け止めたらよいのでしょう。
『「それでは未来永劫、800ガル以上の地震はこない保証できるか」と聞かれたら、「それはわからない」と答えます。「無責任だ」と言われればそうかもしれませんが、それで十分だと思います。』
この論理は、東日本大震災に伴う津波で福島原発の海水ポンプがやられ、10台ある水冷式の非常用ディーゼル発電機が動かなくなり、さらにバッテリーの直流電源も機能しなくなって、全電源喪失、いわゆるステーションブラックアウトに陥った事態を前にして、原発関係者がいった「想定外の津波だった」という言い訳と同じ論理です。つまり、「現時点で想定できる事態に対しては、安全を保障できる。しかし、想定を超える事態で何が起きるか保証の限りではない」という訳です。想定できる事態とは、「過去に記録のある最も大きな地震・津波」のことです。武田邦彦先生は、これより大きな地震が発生する可能性は否定できないが知らないよ、と開き直っている訳です。これこそ無責任そのものだと言わなければなりません。未来永劫とは明日かもしれないのです。
こうも書いています。 ・・・ 170ページ
「原発は軽水炉を使い、耐震性を高め、巨大地震の発生するところを避け、人口の少ないところに建設し、付近の家庭にヨウ素剤を配れば、備えは完璧で、まったく心配がありません。原発は安全です。間違いありません。迷うのは止めましょう。」
これは原発推進論者の主張そのものです。武田邦彦先生って原発推進論者だったのですね。「巨大地震の発生するところを避け」って日本のどこですか? 日本のどこでも巨大地震あるいは強い直下型地震が発生してもおかしくありません。あらかじめそうした地震の発生するところを特定し避けることは、現代の科学では不可能です。できもしないことをできるようにいって原発を造るのは詐欺です。
ヨウ素剤を配られた住民はどう思うでしょうか。重大事故が起きた直後なら話は分かりますが、こんなものを使わなければならない事態が起きることを想定しながら、暮らすことなど住民には我慢できないはずです。それはその地に住めなくなることを意味するからです。原発は安全だといっておきながらヨウ素剤を配る。バカにするなと住民は怒り出すでしょう。そうした最小限の想像力さえ、武田邦彦先生は持ち合わせてはいない、と思わざるを得ません。
次は放射性廃棄物の処分について、こう書いています。 ・・・ 171ページ
『これも技術的にはすでに解決しています。原発の廃棄物を、その危険性に合わせて「高レベル」「中レベル」「低レベル」に分けて、それぞれ危険性に応じて容器に入れ、地下に埋めます。私はこの技術について詳しく知っていますが、将来にわたって日本の原発から出る廃棄物を現在の技術で処理していけば心配ありません。日本の子孫に影響を与えることもありません。』
では現実はどうでしょうか。
『原子力発電所の運転、解体などに伴い発生する廃棄物のうち、放射性物質の濃度が比較的低いものの浅地中(ピット)処分については、1992年から青森県六ヶ所村にて処分が実施されており、これまでに200リットルドラム缶換算で約23万本分を埋設処分している。それでも、2009年度の低レベル放射性固体廃棄物の保管量(実用発電用原子炉施設のもの)は、1年間で約2万4100本相当が増加している。2009年度末に各発電所の固体廃棄物貯蔵庫にある保管量は、約64万8500本相当にもなっている。
放射性物質の濃度が上がると、状況はより困難だ。使用済燃料を再処理する過程で発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の地層処分については、2007年に高知県東洋町から調査の受け入れ表明があったものの、その後受け入れを撤回。以後、調査に応募する自治体はない。原子力発電所の運転、解体などに伴い発生する廃棄物のうち、放射性物質の濃度の比較的高いものの余裕深度処分も、処分の実施主体はいまだ決まっていない。現在、電気事業者が、日本原燃の協力を得つつ事業化に向けて技術的検討を実施している段階である。』
低レベル放射性廃棄物でさえ、一部は地下への埋設ができず、地上に貯まり続けてその量は増加し続けているのです。高レベル放射性廃棄物にいたっては、受け入れを表明する自治体がおらず、埋設場所さえ決まっていないのが現状です。そしてその処分技術も検討段階にあるにが現実です。武田邦彦先生の論は机上の論理です。現実を見ようとしてはいません。
高レベル放射性廃棄物が生命にとって無害になるまで10万年かかります。つまり高レベル放射性廃棄物を10万年にわたって安全な状態にしておく必要があるのです。多くのプレートが複雑にぶつかり合い、多くの火山が活動しており、世界有数の地震国である日本列島はおよそ放射性廃棄物を10万年間に渡って安全な状態に保つ場所としては最も不適当な場所でしょう。数万年後の人類にとってそれは危険なものだよとどうやって伝えることができるというのでしょうか。
こんなことも書いています ・・・ 55ページ
『原発は地震でどうなるか分からない』
武田邦彦先生は本書の中でさかんに耐震性の弱い原発は倒壊すると書いています。鉄筋コンクリート製の建物は津波では倒壊しません。この「倒壊」ということが何を意味するのか読んだだけでは判然としません。原子炉圧力容器が倒壊するのか、原子炉格納容器が倒壊するのか、燃料プールが倒壊するのか、はては原子炉建屋が倒壊するのか、あるいは以上のすべてが倒壊するのか? 倒壊ということは「建物などがたおれてつぶれること」という意味です。決して「破損」するといったレベルでは済まないといっていることになります。
しかし、現実に「倒壊」した原発は存在しません。柏崎刈羽原発では震度6強、福島原発は震度6強、宮城県女川原発でも震度6強でした。想定加速度を上回る揺れを受けながらも「倒壊」した原発は、これまでありません。想定加速度を上回る揺れに見舞われた訳ですから、配管がずれたりといった内部構造物の損傷は多数ありましたが、武田邦彦先生がいうような原発が「倒壊」するような事態は起きていないのです。
それよりも15メートルに達する津波によって、福島第一原発はステーションブラックアウトという大事故を起こしてしまいました。日本の原発は冷却水に海水を使用します。そのため原発はすべて海に面して建設されます。そうであれば津波による被害は当然想定されてしかるべきものです。
武田邦彦先生には、地震で耐震性の弱い原発が「倒壊」するという考えはあっても、津波によって壊滅的な被害を被るという考えがスッポリ抜け落ちています。原子力発電の素人なら無理もありませんが、武田邦彦先生は内閣府原子力委員会と内閣府原子力安全委員会の専門委員に就任しており、原子力の安全に責任のある立場の人物です。その武田邦彦先生が、津波による原発の被害をまったく考えていなかったという事実には驚くほかありません。
ついでにいうと、近い将来に巨大地震の発生が迫っているといわれている震源域の真上にある。浜岡原発については何も言及がありません。原子力発電所の固有名詞がまったく出てこないのです。これは本当に不思議です。武田邦彦先生には、危険な原発として具体名をあげて警鐘を鳴らすといった姿勢がまったく見受けられません。言うことといえば、「耐震性の弱い原発は倒壊する」という一般論だけです。これでは読者には何の意味もありません。当たり前のことが書いてあるだけです。小学生でも言えそうなことです。読者が知りたいのは、耐震性の弱い原発はどれかという具体的な指摘です。残念ながら本書にそういうことを期待しても無駄です。
福島原発事故が起きてから、武田邦彦先生は自身のブログでさかんに情報発信しています。そのブログが一部の主婦層に人気だそうです。その武田邦彦先生が2011年5月14日付けで新刊を出しました。書名は「原発大崩壊」です。Amazonの内容紹介にはこうあります。
「一日30万アクセスの注目ブログの著者・緊急の書下ろし! 原発が地震で壊れるのは想定内、都合のいい情報を信じてはいけない! 安全神話の嘘がバレたいま、原発とどう向き合うかを問う警世の書。」
なんという手回しの良さでしょうか。Amazon ベストセラー商品ランキング: 本 - 108位 となっています。かなり売れているようです。内閣府原子力委員会と内閣府原子力安全委員会の専門委員に就任し、「安全な原発」を推進してきた「原子力ファミリー」の一員である武田邦彦先生は、みずから原子力発電を推進してきた者として、福島原発の事態を受けて真摯な反省を行なったことがあるのでしょうか?
追加です。5月13日の NEWSポストセブン のサイトに、武田邦彦先生の話しが掲載されています。その全文を引用します。
「原発の『想定外』は責任逃れのために作った指針」と専門家
引用開始
2009年に刊行された著書『偽善エネルギー』(幻冬舎新書)の中で日本の原発は地震対策をしっかり行うべきだと警告し続けてきた中部大学教授・武田邦彦5 件氏は、自身が委員を務めた原子力安全委員会でのやりとりについて、苦い顔で振り返った。
2006年9月、原子力安全委員会では耐震設計の審査基準を改定することになった。武田教授はこの基準を見て心底驚いたという。
「それまでは安全な原子力を造ろうという方針だったはずですが、このときの指針では、電力会社が地震や津波を想定し、それより大きな地震があったら『想定外』とみなす、つまり仕方がないという内容だったのです」(武田教授)
さらに指針には、「原発に『想定外』のことが起こった場合、【1】施設が壊れて【2】大量の放射性物質が漏れて【3】著しくみんなが被曝する」とはっきり書かれていたという。
「それは、電力会社が想定しない範囲であれば、原発が壊れて国民が被曝してもいいという意味です。この指針は、電力会社と保安院が結託して『想定外』には責任を取らないようにしたものなのです」(武田教授)
委員だった武田教授は、これでは責任逃れではないか、と委員会で食い下がったが、指針は通ってしまった。
「ぼくはそれまでは原子力推進派でした。でもこんなことを許すわけにはいかず、それ以後、原子力批判派に変わりました」(武田教授)
東京電力の清水社長が「津波は想定外」と繰り返したのも、この指針に沿った責任逃れだと武田教授はいう。
※女性セブン2011年5月26日号
引用ここまで
これを読んでおかしいと思いませんでしたか? 核心の部分を書くと、武田邦彦先生は、2006年9月に原子力安全委員会での出来事を次のように書いています。
「このときの指針では、電力会社が地震や津波を想定し、それより大きな地震があったら『想定外』とみなす、つまり仕方がないという内容だったのです」「ぼくはそれまでは原子力推進派でした。でもこんなことを許すわけにはいかず、それ以後、原子力批判派に変わりました」
この指針の考え方は、武田邦彦先生が「偽善エネルギー」の167ページに書いてあることと同じ論理です。つまり、武田邦彦先生が2009年に発刊した「偽善エネルギー」において書いた次のことと、2006年9月に原子力安全委員会決めた指針の考え方はまったく同じなのです。
『たとえば、日本のほとんどの地域なら600ガルを超えることがないので、安全を見れば800ガルで原発を造れば心配ありません。そのとき、住民から「安全か」と聞かれたら、私は胸をはって「安全」と答えます。自分自身も、私の子供でも孫でも近くに住むことができます。「それでは未来永劫、800ガル以上の地震はこないと保証できるか」と聞かれたら、「それはわからない」と答えます。「無責任だ」と言われればそうかもしれませんが、それで十分だと思います。』
「ぼくはそれまでは原子力推進派でした。でもこんなことを許すわけにはいかず、それ以後、原子力批判派に変わりました」(武田教授)
などというのは武田邦彦先生の見え透いた嘘です。「こんなことを許すわけにはいかず」と本当に思ったなら、「偽善エネルギー」の167ページに書いてある『「それでは未来永劫、800ガル以上の地震はこないと保証できるか」と聞かれたら、「それはわからない」と答えます。「無責任だ」と言われればそうかもしれませんが、それで十分だと思います。』などということは絶対書けないはずです。
武田邦彦先生は、自らが批判する原子力安全委員会における指針と同じように「想定外」には責任をとろうとしないのです。
武田邦彦先生は嘘つきです。
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