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【結局は震災前のエネルギー戦略から脱却できない東電救済スキームと浜岡原発停止のまやかし】
岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
今月に入ってから、菅政権は日本を確実に衰退させる間違った政策決定を二つも行ないました。一つは浜岡原発の停止であり、もう一つは東電救済スキームの決定です。
【方向性は正しいが、プロセスが杜撰な浜岡原発停止の影響】
浜岡原発の停止という方向性自体は正しいと評価することができます。それでも、菅政権の決定は今後に禍根を残すものと言わざるを得ません。それは、決定のプロセスがあまりに杜撰だからです。
まず、浜岡原発を停止させた場合、それが中部電力管内はもとより日本全国の電力需給にどのような影響を及ぼすのか、そしてそれが産業や経済にどのような影響を及ぼすのかを事務的にしっかりと詰めた形跡はありません。
しかし、例えば中部電力は東京電力に100万キロワット弱の電力融通をしていること、中部電力管内は日本の製造業の中核で供給電力の半分が産業用途であることなどを考えると、浜岡原発の停止の影響は当然大きいのであり、それをしっかりと詰めることなく決定するというのは、論外です。
更に問題なのは、浜岡原発の停止要請を菅総理が行なったというのは、官邸が原子力安全・保安院の判断は信用できないと公に認めたに等しいということです。
福島第一原発の事故が起きてから、原子力安全・保安院は日本全国の原発に対して緊急安全対策を講じるよう指示を出しました。そして、菅総理が浜岡原発の停止を要請した同日に、浜岡を含むすべての原発がそれをクリアしたと発表しています。それなのに菅総理が浜岡原発の停止を要請しているのです。
その根拠は大地震が起きる確率という確率論ですが、新潟中越地震も東日本大震災もその確率が非常に低い場所で起きました。つまり、何%なら安全とは言えないのです。となると、原発を地元に擁する自治体は当然疑心暗鬼にならざるを得ませんので、定期点検中の原発の再稼働は非常に難しくなるでしょう。その結果、電力不足がドミノ倒しのように全国に広がる可能性が非常に高くなってしまったのです。
そうした大きな問題があるにもかかわらず、なぜ菅総理は性急に浜岡原発の運転停止を決断したのでしょうか。小沢一郎氏側が浜岡を含む原発問題で政局を仕掛けようとしていたので機先を制して発表した、という噂がありますが、そのような政局的な理由だけから日本経済に深刻な影響を与える決断をしているとしたら、それは論外です。
【東電救済スキームの問題点】
一方で、東電の救済スキームがほぼ決定されました。“ほぼ”という理由は、本当は昨日の関係閣僚会合で決定されるはずが、菅総理の判断で先送りされたのですが、その内容はこれまで報道されてきたものと基本的に同じで、このコーナーで何度か指摘した問題点がそのまま残っています。
東電に徹底的な資産売却や内部留保吐き出しを迫っておらず、減資も金融債権カットも予定されていません。かつ、原発事故の責任の一端があるはずの国は、原子力推進予算を賠償に回すとか原子力埋蔵金を吐き出すこともしていません。
スキームの文言上は電力料金値上げに頼る姿勢は控えられていますが、実際には、東電・金融機関・政府の痛みはほとんどなく、最後は電力料金値上げを通じて国民に負担を転嫁しようとしているのです。
加えて言えば、スキーム上は東電が賠償について無限の責任を負い、未来永劫かかってでも機構に賠償金を返済し続けるとなっていますが、それは裏を返せば、賠償のために東電をずっと存続させることを意味し、原発事故による電力供給の不安定化の原因でもある発送電一体・地域独占という電力供給体制を変える気はまったくないのです。
ただ、このスキームについては希望を持てる点が二点あります。
一つは、スキームを作る過程で経産省の官僚は、東電にリストラを徹底させるためにも、火力発電所の売却を迫ろうとしていたようなのです。これは、リストラの徹底という観点と電力供給体制の変革という観点から非常に正しかったのですが、残念ながらすぐに叩き潰されました。それでも、こうした正しい主張があったことは、今後への希望となり得ます。
もう一つは、このスキームを確定して機構を設立するには法律が必要であるということです。当然、法律案が提出されたら国会で議論されることになりますので、ここで自民党をはじめとする野党が正論を主張すれば、正しい内容に修正される可能性はあります。東電の政治的な影響力の凄さを考えると不安も感じますが、野党はいよいよその真価を問われるのではないでしょうか。
【“value of Japan”(日本の価値)が問われている】
以上のように、今月に入ってからの菅総理の二つの決定で、短期的のみならず中長期的にも、全国的な電力不足と電力料金値上げが日本経済の成長の制約要因となる可能性が高くなってきました。企業が日本を見捨てて海外に逃避する可能性も同時に高まっています。
加えて言えば、こうした間違った政策決定が、世界における“value of Japan”(日本の価値)にも大きく影響することに留意すべきではないでしょうか。
東日本大震災まで、世界が認める日本の価値の一つは、経済力であり安心・安全・高品質でした。政権の大震災や原発事故への対応の混迷で、それでなくとも最近は海外での報道は批判的なものの方が多くなっていますが、理念なき浜岡原発の停止(菅総理の会見では再生可能エネルギーを強調するが、政府の実際の行動は震災前と同じ原子力の推進)や、市場のルールを無視し、かつ電力供給の独占体制を維持しようという東電救済スキームは、いずれもエネルギーの世界で(フクシマに蓋をして)“震災前”を再現しようとしているに他なりません。
それは、世界に対して、これだけの大震災と原発事故を経ても日本は自己変革できないというメッセージを発していると同じです。震災から2ヶ月を経て、既に日本を見る世界の眼は厳しくなっていることも意識すべきではないでしょうか。
そう考えると、こういう支離滅裂な亡国の選択をする菅政権は早く倒れるべきではないでしょうか。被災者への思いやりはいつまでも忘れてはいけませんが、そればかりに終始せず、国民が怒るべき時が来たのではないでしょうか。
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