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風評被害を出さないために私たちが知っておくべきこと
2011.05.11(Wed) 白田 茜
筆者プロフィール&コラム概要
前回に引き続き、福島第一原子力発電所の事故が食品に与えた影響について見ていく。
放射性物質とともに食品に大きな影響を与えたのは風評被害だ。茨城県産の農作物は消費者の買い控えが続き、大きな損害を受けた。
そもそも、「風評被害」とは何だろうか。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科の関谷直也氏が発表した「『風評被害』の社会心理」が参考になる。
風評被害とは、「ある事件・事故・環境汚染・災害が大々的に報道されることによって、本来『安全』とされる食品・商品・土地を人々が危険視し、消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害」のことを指す。
風評被害は次のような過程を経る。
初めに、「人々が不安に思い、商品を買わないだろう」と市場関係者が考えた時点で、取引拒否、価格下落という経済的被害が生じる。
次に「経済的被害」「人々の悪評」を政治家や評論家などが想像する。そして、経済的被害、政治家などの認識、街頭インタビューの「人々の悪評」などが報道され、社会的に認知された「風評被害」になる。
さらに、報道量が増大し、多くの人々が「忌避」する消費行動を取る。政治家などの「想像上の『人々の心理・消費行動』」が実態に近づき、「風評被害」が実体化する。
今回の原発事故でも、出荷制限されていない茨城県産の野菜が小売業者から返品されたり、中央卸売市場の入荷量が一時期半分以下に落ち込むなどの風評被害が起きた。
茨城県農林水産部長の宮浦浩司氏は、マスコミの取材に対して「例年の出荷額から推計すると、出荷制限された3品目で6億円程度、風評被害によるその他の青果物の価格下落が47億円程度で、50億円を超える数字になる」と述べている。
つまり、出荷制限されたホウレンソウ、パセリ、カキナの3品目で市場への出荷減少や返品などで6億程度の損害を被り、さらに出荷制限を受けていない品目も風評被害によって価格が下落し、47億円程度の損害を受けたということだ。
放射能の強さはそのまま人体に影響しない
原発事故が起きてからこの2カ月間、多くの人が初めて耳にするような単位の数字が連日報道されてきた。
放射線を出す能力を意味する「放射能」の強さを示す値に、「ベクレル」(Bq)、「シーベルト」(Sv)がある。ベクレルは放射能の強さを計る単位で、シーベルトは放射線を浴びた時の人体への影響度を示す単位だ。「ミリシーベルト」(mSv)はシーベルトの1000分の1である。
人体への影響を測るために、ベクレルをシーベルトに換算する必要がある。食品安全委員会が発表している「放射性物質に関する緊急とりまとめ」によれば、換算の方法は次の通りである。
(例)500ベクレルの放射性セシウム137が検出された飲食物を1キログラム食べた時の人体への影響
500(Bq)×1.3×0.00001=0.0065mSv
「1.3×0.00001」は、放射能の単位であるベクレルから人体への影響の単位であるシーベルトに換算するための係数(口から摂取した場合の放射線量と臓器が受ける線量の関係を示すもの)だ。係数は放射性物質によって異なる。
この数式を見ると、放射能の強さがそのまま人体に影響するのではないことが分かる。野菜を1キログラム食べた例を挙げたが、普段このような量の食品を一度に食べることはまずない。
現実的な例を挙げると、500ベクレルの放射性セシウム137が検出された食物を100グラム食べた場合の人体への影響は0.00065ミリシーベルト。胃のX線検診を1回した場合の放射線量(0.6ミリシーベルト)の約1000分の1だ。放射性物質を含む食品を少量摂取しても、ただちに人体に影響があるとは考えにくい。
日常生活でも放射線を浴びている
放射線量を考える上で、参考になる数値比較がある。放射線医学総合研究所ウェブサイトにある「放射線被ばくの早見図」だ。
私たちは、日常生活の中でも放射線を浴びている。例えば、1人当たりの自然放射線は、世界平均で年間2.4ミリシーベルト。
世界には、自然界が放出する放射線を強く浴びる地域があり、例えばブラジルのガラパリでの放射線量は年間10ミリシーベルトと見積もられている。
また、すっかり周知の事実となったが、飛行機に乗ると地上以上に放射線を浴びる。例えば、東京からニューヨークへ飛行機で移動すると0.1ミリシーベルト(片道)である。
医療機関ではさらに量が増え、胃のX線集団検診(1回)が0.6ミリシーベルト、CTスキャン(1回)が6.9ミリシーベルトだ。
100ミリシーベルト以下は放射線以外のリスクに紛れ込んでしまう
短期間に100ミリシーベルト以上の放射線に被曝した場合、ガンになるリスクが高まると言われている。また、1000ミリシーベルト以上浴びると、吐き気や下痢、やけど、頭痛などのガン以外の病気になるリスクが上昇する。
私たちは、普段の生活でもガンのリスクにさらされている。例えば、食生活、たばこ、その他の生活習慣などでガンになる確率が変動する。このような生活習慣などで自然に発生するガンのリスクは30%程度と言われている。
放射線が100ミリシーベルト以下だと、自然に発生するガンのリスクに紛れてしまい、放射線の影響なのかどうかを判定することは実は難しい。
制限を厳しくすれば影響は拡大する
それでは、飲食物の摂取が制限される放射線量はどれくらいなのか。
放射性ヨウ素については、日本では「5ミリシーベルト以下」と制限される。5ミリシーベルトの被曝でガンになるリスクは0.0001レベル。つまり、1万人当たり1人、ガンになるリスクがあるということだ。
この基準を厳しいと見るか、ゆるいと見るか。もっと基準を厳しくして、放射線量を低減させるためにあらゆる手段を講じるべきだという意見もある。
しかし、それは果たして可能だろうか。基準を厳しくすれば、実際のリスクはそれほど高くないにもかかわらず、国民は常に放射線量の数値上のリスクにさらされ続けることになってしまう。
飲食物の摂取制限も過度に行われることになり、今より広範囲で他品目にわたる農作物の出荷制限が長期間続くことになるだろう。
厳しい出荷制限が続けば、農家や市場関係者、県にも大きな損害を与えることになる。検査にも多額の税金が使い続けられることになるだろう。
徹底的に検査すれば安全なのか
「徹底的に検査して国が安全を保証する」という考え方は分かりやすく、支持されやすい。しかし、私たちはここで冷静になるべきではないだろうか。上述してきたように、放射性物質を含む食品を少量摂取しても、ただちに人体に影響があるとは考えにくい。
食の安全をめぐって、様々な基準値との付き合いは今後も続きそうだ。そこで、「値の意味」をあらためて考えることが大切だ。
例えば、一度暫定基準値を上回っても、その後のモニタリングで3週連続、値を下回れば出荷制限が解除されるのは前篇で紹介したとおりだ。
これは「暫定基準を超えること」と「危険な状態が続くこと」がイコールではないことを意味している。
また、出荷制限の暫定基準値についても、まだ、十分に「真意」は伝わっていないのが現状だ。
科学的に証明された「安全」と、私たちの主観的な心の状態である「安心」は異なる。たとえリスクが低くても国が規制をしているのは、「安全」に沿った対策というよりむしろ「ここまで厳しく規制すれば、消費者のある程度の信頼を得られるだろう」といった「安心」を市民に与えるための意味があると考えられる。その効果については議論の余地もあるが、基準値の意味については心に留めておいてよいだろう。
原発事故から2カ月。いまだに農作物などの出荷制限は続き、風評被害も根深い。社会的な損失を勘案してリスクを合理的な可能な限り低くしていくのか。それともリスクをゼロにするために労力とお金を無限に費やすのか。今、われわれの良識が問われている。
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