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原発作業員およびご家族、国民のみなさまへ〜原発作業員のための自己造血幹細胞の採取と保存計画について
http://www.asyura2.com/11/genpatu10/msg/525.html
投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 05 日 15:16:36: 6WQSToHgoAVCQ
 

原発作業員およびご家族、国民のみなさまへ〜原発作業員のための自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の採取(さいしゅ)と保存計画について〜

   ■ 虎の門病院血液内科
      谷口修一
      谷口プロジェクト事務局一同
      Save Fukushima 50
      ( http://www.savefukushima50.org/?lang=ja )

  
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■from MRIC
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回、私たちの意見を、子どもから大人まで、一般の方に分かりやすい文章として
まとめました。

【0.はじめに】

 福島県の原子力発電所(原発、げんぱつ、といいます)で、3月11日の地震と津
波により起きた事故は、今まで世界の誰も経験したことがないような大問題となって
います。その問題は今も続いており、今後もすぐには解決しそうにありません。この
事故をなんとかしようと、多くの作業員のみなさまが、原発を直したり、少しでも良
くするために、大変な努力をされていることは世界中のみんなが知っています。私た
ちは、放射線が出ているとても危険で難しい仕事場の中で、日本のためにはたらいて
いる作業員のみなさまに感謝しています。

 一方で、私たちは、その仕事中に万が一、大量の放射線をあびてしまう(被ばく、
といいます)という事故が起こることを心配しています。私たちは、原発で作業を続
けてくださるみなさまへ、私たち血液医療の専門家ができることは何か、ということ
を3月11日以来ずっと考えました。そして出た結論の一つが、原発作業員のみなさ
んの自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を前もって採取(さいしゅ)、
保存することを提案し、実際にそのための準備を整えることでした。外科手術など多
くの他の医療と同じく、この方法には良い面も悪い面もあります。しかし、私たちは
良い面のほうが多いと考え、自分たちの家族がもし福島原発ではたらくのであれば、
必ずこの方法をすすめると思います。

 自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の採取と保存は、大人にも分か
りにくく、ちょっと聞きなれない、特別な方法に思えるかもしれません。でも実は、
この方法は、世界中で何万人もの健康なボランティアの人たちがすでに経験したこと
のある方法です。そんなに特別なことではありません。今までのボランティアの人た
ちと大きく違うのは、採取したあとに他の人にそのままあげてしまうか、原発作業員
の人たちが、将来自分が病気になったときのために保存しておくのか、というところ
です。

 私たちは、大人でも子どもでもよく分かるように、私たちのこの意見を文章にまと
めました。できるだけ分かりやすい言葉で、私たち自身の子どもでも理解できるくら
いにやさしくです。きっと原発作業員のみなさまにも、お子様をお持ちの方はいらっ
しゃるでしょうから、みんなにきちんと私たちの意見を分かってもらうためです。少
し長くて大変かもしれませんが、じっくり読んでもらえるとうれしいです。

【1.私たちが今回の提案を考えた理由】

 私たちは、福島県の原子力発電所で起こった大変な事故を、なんとか解決しようと
一生けんめい努力している、原発作業員のみなさまを応援しています。私たちは、医
療の、特に血液の病気の専門家ですから、原発を修理するのには何の役にも立ちませ
ん。だけれども、原発作業員のみなさまが放射線の事故で病気になったときは、私た
ちのできることを精一杯やろうと思っています。さらに、もしもの時のために、でき
るだけ準備をしておこうと考えています。備えあれば、うれいなし、ということです。
なぜなら、原発作業員の人たちは、すごく危ない仕事場で、日本のみんなを守るため
にずっとがんばっているからです。彼らだけを危ない目に遭わせて、自分たちが知ら
ないふりをするのは、とても良くないことだと思うからです。

 原発作業員の人たちは、放射線がたくさん出ている危ない場所で仕事をしています。
もしたくさんの放射線をいっぺんにあびてしまった場合は、体のいろいろなところが
病気になります。特に病気になりやすいのは、体中を流れている血、つまり血液で、
ある程度の放射線の量をこえると血液の細胞が減ってきて、もっとたくさんの放射線
をあびると、おしまいには血液の細胞がなくなってしまいます。血液は、体に酸素を
はこんだり、けがをしたとき血を止めたり、ばい菌から体を守ったりと、とても大切
な役割をする、人間が生きるのになくてはならない成分です。ですから、血液の細胞
がへってしまうと、貧血になってふらふらしたり、血が止まらなくなって体からどん
どん出ていったり、ばい菌が体中で暴れだしたりと、とても大変な病気になってしま
います。

 もしも放射線をたくさんあびるような事故がおこって、血液がへる病気になったと
きは、私たち血液の医療の専門家が、すぐに治療をしないといけません。福島の原発
事故のことを聞いたとき、原発作業員のみなさまの万一の事故にそなえて、病気の治
療をできるだけ上手にできるように、前もって自分の血液の細胞、造血幹細胞(ぞう
けつ かんさいぼう)をとって保存しておけばいいじゃないか、ということを私たち
は思いつきました。

【2.どんなときに保存した血液の細胞が役に立つのか】

 原発作業員の人たちは放射線がたくさん出ている場所で、放射線をあびすぎないよ
うに、慎重に気をつけながら仕事をしています。でも万が一、思いがけない事故や地
震が突然起こったりして、たくさんの放射線をあびてしまった場合には、体のいろい
ろなところが病気になってしまいます。前にも書きましたように、特に病気になりや
すいのは血液です。こういう時に役に立つのが、健康な血液の細胞を体のなかにいれ
る移植治療(いしょく ちりょう)です。保存しておいた血液、つまり自己造血幹細
胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を使った治療は、骨髄移植(こつずい いしょ
く)とよく似た治療で、血液を作るはたらきを回復させるための移植治療の一つです。

 少し血液がへる程度の、ちょっと多めの放射線をあびたくらいであれば、移植治療
のようなことまでしなくても、血液を増やす注射をするだけで、へった血液が治る場
合もあります。ただ、このような場合でも、血液を増やす注射だけするより、移植治
療を一緒に使った方が、より早く回復する可能性があります。

 逆に、一度にものすごく大量の放射線をあびてしまった時には、血液以外のところ
も重い病気になってしまいます。このような場合に、私たちの計画があまり役に立た
ないのは、専門家ですから自分たちでもよく分かっています。でも、血液は体中をま
わっているとても大切な体の成分なので、血液が治れば、体の他のところが病気にな
ったとしても、治療がやりやすくなると思います。しかし、放射線のダメージが強す
ぎる場合は、移植治療や他のいろんな治療で手をつくしたとしても、命が助からない
こともあります。どんなに医療の技術が発達していて、あらゆる治療法を用いたとし
ても、治すことが難しい場合が残念ながらあるのです。

 このように、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を使った治療は万
能ではありません。ただ、ある程度の放射線事故で血液の病気になったときには、必
ず役に立つ治療法だと考えています。

【3.自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の保存とは】

 造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)とは、血液の細胞をつくるおおもととなる
細胞です。この細胞を健康なときに“自分の血液の中から”抜き出し(採取、さい
しゅ、といいます)、将来、これを使った治療が必要になった場合に備え、冷凍(れ
いとう)して保存しておくことを、『自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼ
う)の保存』といいます。血液の細胞がなくなるくらい放射線をあびてしまったら、
冷たいところで保存しておいたこの血液の細胞を、とかして体の中に戻すのです。こ
れを『移植する』といいます。この治療方法は骨髄移植(こつずい いしょく)とよ
く似ていて、血液をつくるはたらきをよくするための治療法の一つです。血液が病気
になった人に対しては、すでに日本でも外国でも、世界中でたくさん行われてきた治
療法です。

 ちょっと聞いたことがないような、大人にも難しい方法とお感じになったかもしれ
ません。でも、まだまだ知名度は低いですが、この保存の方法は世界中で何万人もの
健康な人たちが、すでに経験したことがある方法なのです。この人たちは、自分の
きょうだいや他の知らない人でも病気になった人に、血液を分けてあげたという、
ちょうど献血するのと同じようなボランティアをした人たちです。病気になって困っ
ている人たちのために、血液を分けてあげようという元気な人たちは、日本でも他の
外国の国々でも、この方法で造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を採取し、保存
することができます。日本の血液専門の医療者もこの方法を多く経験しています。

 これと同じ保存の方法を、原発作業員のみなさまもやったらいいんじゃないか、と
いうのが私たちの考えた事です。他の人にあげるのではなく、危険な場所ではたらく
原発作業員の人たちが、もしものときのために自分たち用に保存しておけばいいかも、
というアイデアです。今までボランティアの人たちがしてきたことと大きく違うのは、
他の人にそのままあげてしまうか、将来自分が病気になったときのために取っておく
のか、というところだけです。難しい言葉を使っているようですが、実は、そんなに
特別なことをしようと言っているのではありません。

 つまり、これまで説明したように、現在でも日常的に健康な人でも行われている方
法を、原発作業員の人たちにも提供しよう、というのが私たちの提案にすぎません。
通常の生活よりも被ばく量が多い仕事場ではたらく原発作業員のみなさま自身が、も
しものときのために自分たち用に保存しておくことは、思いがけない事故でたくさん
被ばくしたときの治療に役に立つだろうという考えなのです。

【4.どうして前もって自分の血液の細胞を保存するのか】

 放射線の被ばく事故が起こってしまってから、他の健康な人などから別の血液の細
胞をもらって移植することもできます。骨髄バンクやさい帯血(さいたいけつ)バン
クという言葉を聞いて知っている人も多いでしょう。自分の血液を保存していない場
合は、あとできょうだいや骨髄バンクなどを通じて、他の人の造血幹細胞(ぞうけつ
 かんさいぼう)をもらうこともできます。しかし、完全に血液の型が合う人が見つ
かることは今でも難しく、うまく見つからない場合や、仕方なしに一部ちがう血液の
型の細胞を使って治療をしている人もいます。また、他の人からもらうまでには時間
がかかりますし、他の人の細胞を移植するために起こる拒絶反応(きょぜつ はんの
う)を防ぐために、いろんな薬をたくさん使ったりするので、治療はとても大変にな
ります。

 自分の造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を前もって冷凍して保存しておけば、
もしもの事故の時はとかしてすぐ使えるし、もともと自分自身の細胞ですから、拒絶
反応の心配はなく、よけいな薬も使わないですみます。ですから、治療は他の人のも
のを使う場合にくらべ、上手くいきやすくなります。ぜったい上手くいく治療法とい
うのは残念ながらありませんが、放射線被ばく事故で移植をする場合は、他人の細胞
を使った治療より、自分の細胞を使った方が、成功する可能性が高いと私たちは考え
ています。

【5.採取(さいしゅ)、保存するときの方法】

 造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を前もって採取、保存するときには、私た
ちの病院に来ていただいて、数日のあいだ骨髄(こつずい)から普通の血液の中(末
梢血、まっしょうけつ、といいます)に、造血幹細胞を送り出すための専用の薬を注
射します。そして、血液検査で確認し、造血幹細胞が血液の中に出始めたら、採取を
はじめます。採取は特注の機械を使って行います。これを末梢血幹細胞採取(まっ
しょうけつ かんさいぼう さいしゅ)といいます。今回の計画には、私たちの病院
だけでなく、全国107の病院も協力してくれる予定なので、他の病院でも行うこと
が可能です。

 採取する血液の量は、缶ジュース1本にも足らないくらいの少しの量です。一度、
血液を外の機械に抜き出し、機械のなかで造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)と
それ以外の血液の成分に分けます。必要な分だけを保存のための専用の袋に、それ以
外の血液の成分は体のなかにもどします。治療に必要と考えられる量を採取するには、
通常3〜4時間かかり、採取の間はベッドに横になっていないといけません。もし1
日でとれない場合は、もう1、2日かけて行うこともあります。
 
【6.私たちの提案に対する反対意見】

 私たちの、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を採取、保存しよう
という提案に対して、『そんなの駄目だ、あんまりお勧めしません』という偉い人た
ちもいれば、『それはとてもいい考えだね』と言ってくれる専門家たちもいます。日
本や外国の血液や被ばく医療の専門家の間でも、この意見は分かれているのです。私
たちも、意見が分かれるのは当然だと思います。なぜなら、今回福島で起こったよう
な、地震や津波の自然災害によって大きな原発事故が起こり、しかも、その修理に長
い時間がかかるという経験は、人類の歴史のなかでも全く初めてのことです。ですか
ら、それに備えた医療の準備は、世界中のどんな有名な専門家であっても経験したこ
とがないのです。

 政府や原子力安全委員会の人や専門家で、反対している人たちの意見はこんな感じ
です。
『そんなにたくさんの放射線があたらないように、ちゃんと気をつけて測っているか
ら、そんな大量被ばくの事故はおこらない。』
『外国の人たちもそんなことは勧めてないし、日本人みんなが納得している提案でも
ない。』
『病気になるのは血液だけじゃないので、他のところが病気になったら役に立たな
い。』
『少しくらい血液の細胞が減っても、注射で治るから大丈夫。』
『血液の細胞を保存するときに薬の注射をするから、その薬で病気になったらかえっ
て危ない。』
『お金だってたくさんかかるんじゃないの?』
『誰が事故にあうのか分からないから、みんながするのには無駄が多すぎる。』

 次に、これらの反対意見に対して、私たちがどう考えるのか説明していきましょう。

【7.放射線事故の危険性について】

 『大量の被ばく事故が起こらないように、きちんと測っているから心配しなくてい
い。』、と反対する人たちは言っていますが、そもそもめったに起こらない地震と津
波で今回の原発事故が起こったことは、世界中のみんなが知っています。万が一、作
業をしている間に地震や津波がおこったり、原発の建物がこわれたりして、たくさん
の放射線をあびてしまう被ばく事故が起こることもあるんじゃないか、と私たちはと
ても心配しています。偉い地震学者の人たちは、まだ大きな余震が起こることを予想
していますし、つい最近、津波にそなえて、福島原発に新しい防波堤を付け加えられ
ることが決まったばかりです。

 また、新聞などを読むと、作業員の人たちがあびた放射線の量もちゃんと測られて
いないと書いてあります。今までどれくらい被ばくしたのか、きちんと分からないの
では、たくさん被ばくしないよう気をつけていると言われても、とても安心すること
なんてできないと思います。また、いま働いている人たちの血液検査などの健康診断
が、ちゃんとされていなかったという話も聞いています。同じ量の放射線をあびたと
しても、異常がでにくい人とでやすい人がいます。ですから、すでに作業をした人も、
これから作業を始める人も、一人一人をちゃんと診察して、定期的な健康管理するこ
とがとても大切だと思います。
 
【8.採取、保存するときの問題点】

 反対意見の人たちが言うとおり、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)
を採取、保存することは、いい事ばかりではなく、問題点もあります。主に3つの問
題点があげられるでしょう。健康な人に専用の薬を使うこと、費用に関すること、そ
れと、採取にかかる時間です。

 一つ目は、健康な人に専用の薬を使う問題です。専用の薬を使うので、すごくたま
にですが、薬のせいでよけいな重い病気になってしまうことがあります。また、何年
も経ってから、薬のせいで白血病という別の血液の病気になっちゃうんじゃないか、
と心配する人もいます。しかし、健康な人が何日か注射するだけであれば問題ない、
というのが世界中の専門家の意見です。世界中の骨髄バンクなどで、健康な人にこの
専用の薬を使うことはすでに認められています。でも、このやり方をしたあとに、こ
われた原発の修理に出かけた人は世界中どこにもいないので、私たちも、まずは大丈
夫だと考えていますが、ぜったいぜったい安全とまではいえません。ですから、注射
をして血液を保存しておいてから原発で働くのと、保存せずに働くのと、どっちが安
心できそうか、よくよく考える必要があります。あとは、いっぱい注射をしたり、検
査をしたり、専用の薬のせいで熱がでたり、頭痛や腰痛になったりするので、不愉快
な思いを我慢しないといけません。

 二つ目は、保存にかかるお金のことです。採取のためには入院していただく必要が
あります。毎日の注射と採血、その間の思いがけない副作用に備えるためです。です
から、様々なお金がかかります。これは治療目的ではないため、全て自費診療(じひ
しんりょう、自分でお金を出すということ)となります。しかし、地震のあとに多く
の方がたくさんの物やお金を寄せてくださったように、原発作業員で採取される方に
対しては、ご負担が少しでも軽くなるようにと、一部の薬や機械の部品については、
会社が寄付してくれたものもあります。これらを使い、最小限の負担となるよう、私
たちの病院では準備しています。詳しい費用についてはご連絡いただければ説明を差
し上げます。

 三つ目は、採取にかかる時間の問題です。日本でも世界でも普通に使っている専用
の薬を使って、普通のやり方をすれば、採取がおわるまでに4、5日くらいかかりま
す。もっと早くすましてくれ、という人のために、別のやり方も用意しています。外
国で使っていて、日本ではまだ使っていない薬を使う特別なやり方をする方法です。
健康な人でこの薬を使ったやり方は、他の国でもまだあまり行われたことがありませ
ん。ただ、このやり方をすれば、2日くらいで、普通のやり方をするより短くてすむ、
というのがだいたいの見積もりです。いずれにせよ、採取する間は入院する必要があ
り、その期間はお仕事を休んでいただかなくてはなりません。

【9.誰が保存すればいいのか】

 原発作業員の中の、誰が私たちの提案する計画を実際に受け、自分の造血幹細胞
(ぞうけつ かんさいぼう)を保存すればいいのか、というのは難しい問題です。み
んなが一人一人違うからです。若い人もいれば年配の人もいます。放射線のせいで病
気になりやすそうな人もいれば、そうじゃない人もいます。また、原発の仕事と一口
に言っても、ずっと長くはたらく人もいれば、ちょっとの間だけしかはたらかない人
もいると思います。仕事に慣れたベテランの人もいれば、仕事場に生まれて初めて行
く人もいます。はなれた所であまり危なくない仕事をする人もいれば、放射線の出て
いる場所に近づいて、すごく危ない作業をする人もいるんだと思います。一人一人の
考え方も違うでしょう。事故なんか起こらないだろうから大丈夫、と思う人や、心配
性だからできることは何でもやっておいて安心したい、という人もいるでしょう。

 ですから、私たちの計画についてよくよく説明を聞いて、十分納得してもらった上
で、保存をするのかしないのか、原発作業をされる方の一人一人がちゃんと選べるよ
うにするのがとても大切だと考えています。これは、原発作業員のみなさんは全員保
存しないとか、全員保存するとか、いっぺんに決めてしまうより手間のかかる方法で
すが、一番いいやり方だと思います。

 私たちは原発での作業の様子をテレビや新聞などで知っているだけで、実際の原発
の仕事場がどうなっているのかは、行ったことがないので分かりません。危なさがど
れくらいあるのか、本当のところは知らないのです。ただ、この作業はまだまだ長く
かかりそうだという話です。今まで起こったことのないようなタイプの大事故なので、
危険がとても多いようにみえます。

 私たちの提案は、大きな原発事故に対して人類の歴史の中で初めて行うような計画
になります。私たちの提案した計画は正しいことなのでしょうか? どんな偉い人で
も、賢い人でも、外国の人でも、その正解を教えてくれないし、そもそも正解を知っ
ている人なんて神様しかいないのです。そんなことはやったことがないからやらない
方がいいよ、という人がいるのも、もちろんよく理解できます。ですから、何年か
経った将来には、やっぱりやらないで良かったね、ということになるかもしれません。
逆に、あのときやっておけば良かった、という話になるのかもしれません。福島県の
原発事故は、日本で起こった大事故なのですから、私たち日本人が自分自身の頭で
ちゃんと考えて、自分の責任でどうするのかを決める必要があるのだと思います。

【10.分かりやすくするためのたとえ話】

 私たちの提案を分かりやすくするために、たとえ話を使って説明してみると、こう
いうことになります。

 津波に対して堤防をつくることを考えてみてください。政府や原子力安全委員会な
どの人たちは、5メートルの高さの堤防を作りました。今のところ、これで十分防げ
るだけの大波しか来ていません。でも、私たちは津波がきたときに備えて、7メート
ルくらいの高さの堤防にしようよ、と提案しています。それには手間もお金も時間も
かかりますし、堤防を高くするときにかえって別の事故がおこるかもしれません。こ
れから大波しかこないなら、堤防を高くしても無駄なだけになります。逆に、大津波
が来てしまったら、私たちの提案する堤防でも何の役にも立ちません。ちょうどよい
大きさの津波が来たときにだけ、私たちの提案する堤防が役に立つというものです。

 また、もしものときの保険にたとえることもできます。万が一の事故が起きても、
困らないように保険をかけるのです。保険をかけたからといって、実際に事故が起
こってほしいと思う人はいないでしょう。私たちも同じです。自己造血幹細胞(じこ
 ぞうけつ かんさいぼう)を保存したとしても、実際にそれを使って移植するよう
な事故が起こらず、保存した細胞を使わないですむのが一番いいと考えています。

 私たちは、現代の医療で最もいいものを用意したいのですが、予測のできない未来
や自然の力の前では、いくら人間が進化して何でもできるんだ、といばってみても、
この程度のものなのです。何が起こっても大丈夫、という方法は残念ながらありませ
ん。そういう意味では、私たちみんなは謙虚な気持ちで、みんなで仲良く支え合って
生きていくのが、一番大切なのだと思います。

【11.私たちの計画の現在の状況】

 私たちが最初にこの計画を提案してから、すでに一ヶ月以上が経ちました。私たち
の提案に対して、原発の問題に一番くわしい専門家の原子力安全委員会や政府の人た
ちは反対しています。彼らの意見にはもっともな面もありますが、私たちと違って医
療の専門家ではありません。ところが、日本を代表する科学者が集まる、日本学術会
議の人たちも反対しているという意見が先日でてきました。私たちはこの意見書を読
んでとてもびっくりしました。というのは、偉い科学者たちが集まって書いたはずの
作文なのに、内容が間違いだらけだったからです。この人たちは、自分たちがどうし
て反対しているのかきちんと理解せずに、ただ反対意見を言っていた、ということで
す。ここで私たちは、よく勉強している大人の人たちにも、ちゃんと私たちの意見が
伝わっていないことに気づき、自分たちの説明の方法に不十分な点があったことがよ
うやく分かりました。

 今回の原発事故の問題を分かりにくくしているのは、私たち専門家が難しい言葉ば
かり使っているのも原因の一つだと分かったのです。専門家だけで通じる特別な言葉
を使って議論するだけでは、全く駄目だということです。私たちは医療の専門家です
が、その仲間の間でさえも、うまく言葉が伝わっていないために勘違いが起こってい
ます。意見が違うというだけでなく、思い違いや誤解があるために別の意見になって
しまうのです。科学者の間ですらこうですから、原発作業員のみなさま、そのご家族
や親戚、友人たち、さらには一般のみなさまには、私たちの意見と、政府や他の専門
家たちの意見がどうしてまとまらないのか、なかなか理解できなかったと思います。

 そこで私たちは、できるだけ分かりやすい言葉で、私たちの考えを説明するために、
これまでの文章を書きました。専門家で意見が違うことはよくありますので、実際の
この医療を受けるかどうかは、私たちの提案をよく理解してもらった上で、原発作業
員のみなさまの一人一人の考えを大切にして決めるのが一番だと思います。福島の原
発事故は、私たちの大事な日本で起きた問題なのですから、偉い人や外国の人などの
意見に任せるのではなく、日本人のみんなが自分の頭でちゃんと考えて、自分自身で
責任の持てる意見を持つことは、とてもとても大切なことです。

【12.おわりに】

 私たちは、今まで何年も何十年も、白血病など血液の病気の人たちの研究と治療を
してきました。これまでの知識と経験から、私たちは、原発作業員の人たちが、自己
造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を前もって保存しておけば、万が一、
放射線被ばく事故が起こってしまったときに役立つに違いないと考えています。これ
は政府や他の専門家の偉い人たちが反対しても、変わらない意見です。

 最後に、私たちの大好きな宮沢賢治(みやざわ けんじ)さんの言葉を借りて、私
たちの説明はおしまいにします。

 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない。」

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コメント
 
01. 2011年5月05日 15:39:38: zKaoGPfIoE
リスクもあるようなので、本文にあるように
作業員ひとりひとりの意思で選べるようにすべきだ。

費用は国が全額負担すべきだ。東電に金を払いたくない人も
これを負担したくないという人は少ないはず。
東電の役員報酬から出すのが一番いいが。

国がこれに反対するのは、そんな事故は絶対起こり得ないという
いつもの役人的発想からきている。


02. 2011年5月06日 22:20:07: mHY843J0vA
こちらに対する反応ですね

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/shinsai/pdf/housya-k0425.pdf
原子炉事故緊急対応作業員の自家造血幹細胞事前採取に関する見解
平成23 年4月25 日
(平成23 年5 月2 日一部修正)
日本学術会議東日本大震災対策委員会
1.前文(見解の背景)
東日本大震災と超大津波災害による東京電力第1 原発の原子炉群の復旧作業に従事して
いる作業員が高線量被ばくした場合に使用するために、あらかじめ自身の造血幹細胞を採
取・冷凍保存しておき、必要になった場合に自家造血幹細胞移植を行い救命しようという
提案が出されている。これに対して原子力安全委員会は「不要」と判断していることが報
道されている。
この問題を重視した日本学術会議東日本大震災対策委員会は基礎医学委員会・総合工学
委員会合同放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会で検討した結果を踏まえ、下記の結
論を得たのでこの見解を発表する。
なお、高度に専門的な知見を含む課題であるので、日本血液学会内で、倫理的な側面を含め
て十分議論され、できれば統一的見解を示されることを期待する。
2.本文
日本学術会議は自家造血幹細胞移植が他者造血幹細胞移植に比し、適応のある急性被ば
く犠牲者に迅速かつ安全に実施できる利点を有することは理解するが、福島原発緊急対応、
復旧作業に現在従事している作業者に実施できるように事前に採血保存することは不要か
つ不適切と判断する。
3.理由
1)放射線防護対策の視点
* 現在作業者は緊急時被ばく状況の参考レベルを250mSv に設定して放射線業務に
従事している。この防護の計画管理がなされている状況では、造血障害の発症する
2000mSv, 造血幹細胞移植が必要な7000mSv 以上の急性全身被ばくを受ける可能
性はない。
* 上記計画管理ができないような突発的事態が発生する可能性は否定できないが、そ
の場合にも次項で述べる緊急被ばく医療の視点から不要である。
* 提案の実現には循環血液(末梢血)の造血幹細胞を増やすための処置(薬剤投与)
と採血の負荷を作業者にかけることになる。万一、この状態が持続する時に放射線
を被ばくした場合の健康影響が明らかでないため、事前の処置は安心感より不安感
を作業者に増幅する可能性もある。
2)緊急被ばく医療の視点
* 急性放射線症候群の治療計画の中で、造血幹細胞移植は緊急処置とはされておらず、
骨髄抑制が予想される線量の被ばくに対しては、造血を促進するサイトカインを
緊急投与し、14−21 日後にも強い再生不良状態が継続する場合に造血幹細胞移植
を考慮すべきとしている。(Health Phys. 98(6):825-832, 2010)
*上記は移植片対宿主拒絶反応(GVHD)を回避する配慮を含み、自家造血幹細胞移
植ではその配慮は必要がないとしても、一方で安全性と効果が証明されていない臨
床研究の段階にある医療処置を健康人に実施する医療倫理的課題を包含する。さら
に、造血幹細胞を末梢血に動員する当該薬剤は造血幹細胞を刺激する作用を持って
おり、被ばく時に作用が持続していた場合に放射線誘発白血病のリスクを高める可
能性がある。(参考文献等削除部分)
* 全身の急性高線量被ばくでは、造血障害も重要であるが、肺、消化管、神経系など
多臓器の機能障害が同時に発症するため、造血幹細胞移植のみで救命できない場合
がある。例えば、JCO 事故で高度の被ばくを受けた2 人の作業者にはいずれも造
血幹細胞移植を行い、急性期の造血障害を乗り越えることができたが、肺、腎臓、
消化管などの多臓器不全で死亡にいたった。
(ゴシック・太字体は、今回の修正部分)


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