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被曝者に放射性核種による内部被曝についてインフォームドコンセントを
■ 山野辺滋晴:共立耳鼻咽喉科院長
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■from MRIC
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今回の福島第原発事故では、国際放射線防護委員会(ICRP)の提案に従って、一般
人の被曝限度量が年間1mSvから20mSvに緩和されました。同様に、水道水中の放射性
ヨードは300bq/Lに暫定的に引き上げられ、除染基準も1万3千cpmから10万cpmに引き
上げられています。これらの措置は住民の移住を回避するためですが、原発事故では、
CT検査のような外部被曝だけではなく内部被曝も伴うため、原発周辺から関東一円に
居住する人々の不安を払拭できていません。いま、こうした人々の不安を拭い去るた
めには、ストロンチウムなど様々な放射性核種による内部被曝について、医学的な立
場から丁寧にインフォームドコンセントすることが必要ではないでしょうか。
昔、私はアイソトープ(放射性核種)実験施設で研究したことがあります。様々な
放射性核種が使用される実験施設では、放射性物質は厳しく管理されており、空間や
床面で数十〜数μSv/hの放射線量率が計測する状況など許されませんでした。もちろ
ん、そうした放射能汚染状況下での飲食や日常生活など論外でしたが、現在の原発事
故周辺地域では、どんな放射性核種が存在しているのかも判らないまま、同様の環境
で住民の方々は生活しているわけです。つまり、生活環境に存在する放射性核種の種
類と濃度に関する情報が不足しているために、社会に混乱を招いているのでしょう。
いま、如何なる放射性核種が存在するのかしないのか、地域毎に情報提供する必要が
あると思います。
原子力安全委員会作成の環境放射線モニタリング指針[1]では、原子力施設におい
て異常事態が発生した場合には、平常時モニタリングを強化し、空間放射線量率、大
気中の放射性物質、気象観測、積算線量の監視を強めて、原子力施設からの予期しな
い放射性物質又は放射線の放出を早期に検出し、環境における放射性核種の蓄積状況
を把握するよう指示しています。こうした平常時モニタリングでは、ストロンチウム
を含む様々な放射性核種が測定対象として取上げてあります。しかし、今回の原発事
故のような緊急時モニタリング時には、測定対象は放射性のヨウ素、セシウム、ウラ
ン、プルトニウムだけに限定され、ストロンチウムを始めとする多くの放射性核種が
当初の測定対象から除外されています。こうした欠陥が前述の指針にあるため、現時
点では情報公開している放射性核種が極めて少なく、大気中や海中に漂う放射性核種
の種類と濃度も公表されておらず、現状の情報公開は人々の不安を払拭するために必
要十分とは言えません。
この指針では、内部被曝の原因となる放射性プルームの移流・拡散から人々を守る
ため、既に開発してあった緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEED
1)を活用するよう指示されています。けれども、30キロ圏外の一部地域で基準を超
える内部被曝の可能性を示唆した予測結果[2]が公表された後は公表されなくなり、
大気中の放射性核種や気象の観測結果から放射性ヨウ素やプルトニウムの飛散予測地
図を作成して人々の健康被害を防止するための情報提供は中止されています。
日本では放射性ストロンチウムは計測対象ではありませんが、EUを始めとする多く
の諸外国では、環境試料中の放射性ストロンチウムも計測対象です[3]。(但し、日
本では放射性ストロンチウムの濃度は放射性セシウムの一割と想定してあるため除外
されています。)さらに、高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、大気中の様々
な放射性核種の種類と濃度について実際に測定結果が公表されていますし[4]、フラ
ンスの民間機構では、福島第一原発周辺で採取した土壌などの環境試料を計測し、そ
の中に含まれていた放射性ヨウ素やセシウム以外の放射性核種についても公表してい
ます[5]。このように、様々な放射性核種について観測結果を公表した上で、現状の
内部被曝が危険なレベルにない事を実証してこそ、人々の不安が払拭されると思いま
す。
また、医学的に内部被曝量を把握するのであれば、ホールボディカウンタを使えば
内部被曝量を実測することができます。原発事業所では作業員の健康を守るため、三
ヶ月に一回の定期検査が義務付けられていますから、当然、今回の事故では周辺住民
にも同様の検査を実施すべきだと思います。JOC臨界事故では、周辺住民へのホール
ボディカウンタ検査の実施が遅れてしまい、事故当時の内部被曝状況を把握できな
かった事が問題視されています。同じ過ちを繰り返さないために、今回の福島原発事
故では周辺住民に対してホールボディカウンタの存在を早急に周知して、体内のヨウ
素131が測定限界以下になる前に、希望者に対してホールボディカウンタ検査を行い
サンプリングすべきでしょう。さらに、国立がん研究センター嘉山孝正理事長が提案
されたように、原発周辺住民にフィルムバッジを配布し外部被曝量を各個人で定量す
べきです。現状は間違いなく非常事態ですから、医療関係者が日常的に行っている放
射線量管理を超法規的に暫く中断し、余剰となるフィルムバッジを福島県東部の住民
全員に優先して配布することも検討すべきだと思います。
皆さん御存知のように、原爆の被爆者は大量の放射線が晩発性障害を引き起こす事
を体験していますから、放射能の危険性を世界に訴えています。ただ、その一方で、
ある程度までの放射線を外部被曝したり内部被曝したりしても、一部の人々を除いて
一生を大過なく健康に過ごせることも被爆者は知っています。こうした知見から類推
すれば、被曝しても健康を害さないためには、放射線被曝をできるだけ少なくすべき
です。いま、年間累積放射線量が100mSV以下であれば安全で危険は極めて少ないかの
ような風潮がありますが、被曝者の安全を守るためには、測定困難なα線やβ線を出
す放射性核種による内部被曝も考慮し、できるだけ被曝しないように十分な被曝防護
対策を周知徹底する必要があることを忘れてはいけないでしょう。
私は被爆二世で、放射線影響研究所の健康調査を受けています。ですから、被曝者
の健康を守るためには、生活環境の放射線量を正確に計測して危険性の有無を調べ、
必要な検査を確実に実施し継続していくことが大切だと思います。そのためには、い
ま広く行われている空間線量率の計測だけでなく、大気や放射性降下物に含まれる様
々な放射性核種について計測して地域の危険性を把握しつつ、被曝者各個の被曝線量
を管理して頂きたいと思います。原発推進では安全性ばかりが強調されて、危機管理
が蔑ろにされました。この過ちを繰り返さないためにも、予期せぬ内部被曝を防止す
るためにストロンチウムなどの危険な放射性核種に関する計測体制を整備した上で、
計測した情報を全て公開して適切に危機管理し、どこまでが安全で、どこからが危険
なのか、原発周辺で生活する被曝者へのインフォームドコンセントの確立をお願い致
します。
参照[1] http://www.nsc.go.jp/anzen/sonota/houkoku/houkoku20080327.pdf
参照[2] http://www.asahi.com/national/update/0326/TKY201103260337.html
参照[3] http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/20110411_01.html
参照[4] http://www.kek.jp/quake/radmonitor/index.html
参照[5] http://www.acro.eu.org/OCJ_jp
共立耳鼻咽喉科院長
山野辺滋晴
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