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敗戦と並ぶ国難に、国民の多くが、できることで立ち上がり、海外からも賞賛されている。一方で政府・東電は、原発事故の収束に後手後手で対応し、深刻な危機に「直ちに人体に云々」など、気休めをない交ぜた断片的な情報に国民の不安が募っている。
また原発事故が収束していないのに、復興構想会議など20を超える官僚主導の組織が発足し、復興税が浮上した。だが、核燃料の冷温安定と、放射性物質の漏出防止は、震災復興戦略の大前提である。
さらに内外の風評被害を防止するのは、日本社会への信頼である。貨幣も、信頼がなければ、ただの紙切れに過ぎない。親子間、夫婦間も信頼がなければ、家族として成り立たない。企業も、同じである。国家も、指導者・政府と国民が信頼し合わなければ、社会の活力は生まれない。しかし信頼される、国の舵取りが不在なのだ。
内外で原発を推進してきた政府・東電が、収束の当事者では、国民の信頼を得ることはできない。菅首相も、原発のベトナム輸出に関わっていた。今の日本に何よりも必要なのは、東電任せの政府に替わる司令塔を構築し、事故の収束に国民の智恵と力を結集することではないだろうか。
4月12日に、3月12日のレベル4が7となった。だが、これまで放出した放射性物質13京ベクレル(チェルノブイリの約一割)は、そこにある放射性物質総量8100京ベクレルの1%程度に過ぎない。そして東電自体が、さらなる水素爆発を懸念し、窒素を注入している。
また4月21日、東電は、4月1〜6日に2号機の取水口付近から海へ放出された、放射性物質の推定試算総量が4700テラベクレルと発表した。これは、同原発1〜6号機の年間限度の約2万倍、集中廃棄物処理施設などから海に放出された放射性物質の総量の約2万8000倍に相当し、流出想定量は約520トンだったという。
そして東電は、政府の要請を受け、4月17日、今後6〜9か月程度を目標に、核燃料を冷温安定させ、放射性物質の放出を抑える工程表を発表した。原子炉の冷却は、窒素注入を進めながら格納容器を水棺にし、使用済み燃料プールと共に、新たに熱交換機を設置する。また原子炉建屋をフィルターなどを備えたカバーで覆うなどだ。
要約すると、爆破で損傷した施設を修復し、格納容器を水棺化して、汚染水の除染システムを設置するというのである。だが、こうした対策は、その場凌ぎで、初動以来の場当たりを転換できない。工程表は世論向けで、全体的な原発事故の現況と、先行きは不透明なままである。
小熊英二は、「復興の前提は、原発事故の大局的対策だ。政府は、さらなる避難拡大や経済的・国際的影響など、あらゆる事態を想定した長期戦略を公表して国民を納得させてほしい。何も知らされずに非常事態になれば、かえってパニックがおきる。」という。東電も政府も、こうした工程表が必要なのだ。
東電は、水素爆発防止に、1号機格納容器へ2週間窒素を注入したが、圧力は上がっていない(2・3号機も検討中)。また2号機の汚染水を、集中処理施設に10トン/時間移送し、トレンチの水位は1センチだけ下がったという。1日240トン、汚染水は2号機だけで2.5万トン、その1/100しか1 日に移せないのだ。
ここで重要なのは、1〜4号機の複数原子炉と使用済み核燃料プールが、未曾有の放射性物質を抱えていることだ。また、それぞれが同時かつ複雑に損傷し、修復のモグラタタキが懸念される。そして冷却機能を回復できず、放射性物質の空・陸・海への放出が続くのだ。
そこで、爆破した建屋の雨水を含め、外からの冷却注水と汚染漏出水の循環経路と、水量の収支に注目する必要がある。そして工程表の対策が頓挫する場合も想定し、これと並んで、別の冷却と閉じ込めの方策を提示したい。
第一に、冷却注水による汚染漏水を、現在の外部キリン注水に再利用し、できる所から保管、除染、熱交換する。何よりも、だだ漏れ冷却水の循環経路と水量の均衡回復を、優先し開始するのだ。
一方で、高松城の水攻めに倣い、原発古墳のような水棺型冷却システムを構築する。具体的には、1〜4号機の原子炉・タービン建屋を、鋼鉄とコンクリートの障壁で囲み、その周囲を瓦礫利用の盛り土で固めて堰堤を築き、施設全体を冷却メガ・プール(水棺)にする。余震・津波対策の堤防も、その一環だ。
また既存・増設のタンクに加え、原発臨海防波堤の取水口、排水口を閉鎖して、その入り江を汚染地下水の受け入れ・保管タンクとする。これを原発の水棺とつないで、地下漏水を含めた、冷却と閉じ込めの別循環回路を構築するのだ。
次に、住民の避難で、政府は20キロ圏を警戒区域とした。同心円や計画区域の避難地域設定は、4月21日文科省公表の放射線量調査結果とも符合していない。自主的な避難地域を、80キロに広げ最悪事態に備えた方がよい。また強制立ち退きに、抗議し同意しない人も出るだろう。避難生活の支えと、納得できる説明が必要だ。
なお文科省は、福島圏内の幼稚園、学校に放射線の量3.8マイクロシーベルト/時間とした。通常の生活0.05マイクロシーベルト/時間の76倍だ。算出の根拠は、20ミリシーベルト/年から時間当たりで計算している。一般の日本人は、1ミリシーベルト/年なのだ。誰に、こんな引き上げの権限があるのか。
また子供の屋外活動を制限したが、子供は外で遊ぶべきで、放射線が高くて子供を外へ出せないのは異常で、子供を外へ出せないほど福島は危険なのだ。なお、土煙を防ぐなどの措置が検討されているが、3.8マイクロシーベルトは外部被曝が前提で、内部被曝は、口を洗う、窓を閉めるなど大変である。被曝は微量でも危険、子供はなおさらで、避難させるべきだ。
第二に、先行き不透明なまま、東電・政府の損害賠償、夏場の電力供給、政府の東電支援と、その財源が論じられている。
東電の事故対応に、巨額の緊急融資をした大手銀行は、融資の焦げ付きを恐れ、損害賠償のリスクから東電を切り離し、政府主導で新設する原子力保険機構が、賠償責任を負う独自案を作成した。
一方で政府は、原発事故の損害賠償で東電の自己責任を優先し、それを賠償額が超える場合には、電力各社・銀行・政府などによる賠償支援機構が、交付国債・電力各社の負担金と銀行の政府保証融資で、東電に資金援助をする原案を纏めた。
そして菅首相は、震災・原発事故の収束と財政再建の目処がつくまで、政権を担うという。安全神話の原発設置、後手後手の事故対応に、政府・東電を始め、誰も責任を明らかにせず、電気料金値上げ・国債発行・増税で国民に転嫁して、自分の立場や企業を守ることしか考えていないのだ。
今の政府、東電は、低濃度汚染水を人為的に海に放出した。今後も、後手後手の対応が続き、この事故を収束できないだろう。このまま推移すると、いずれ菅政権と東電は、内外から、戦争責任と似た、原発事故の処理責任を問われることとなる。
これが、被災者、そして日本に住み続ける全国民の目にどう映るのか。敗戦前後の日本を思い出す。目の前のことだけでなく、広い視野で対応できる司令塔が、今、必要だ。
そこで、有志議員の特別立法で、原発事故の収束に一切の権限を付与する、国を挙げた対策本部の設置を提案する。それは、技術方策を始め、原発の推進・反対を問わず、国民の知恵と力を結集する新しい体制だ。
なお今度の事故で、原発の安全神話は大きく揺らいだ。だが脱原発への転換は、生活や経済の持続と安定が関わり、国民的な多くの論議が必要である。
NHKテレビで、「揺れる女心」という報道を見た。原発震災不況の中で、結婚指輪だけが売り上げが急伸し、婚活相談窓口に訪れる女性が急増しているという。仕事が減り、テレビなどの視聴時間も少なくなって、単身家族の不安を実感した事情が報じられていた。
これまで少子高齢化は、先進国に共通のものとされ、社会保障が支えてきた。その土台には、過労・非正規労働と共働き、育児・教育・医療・介護の問題がある。原発震災や計画停電が、利便と効率の技術文明、利潤追求の企業経営と、仕事と暮らし、家族や地域社会を揺るがしたのだ。
原発震災は、安全神話を揺るがしただけではない。技術文明と利潤追求が、自然と人間不在の経済・生活モデルであることを示唆している。目に見えないが、こうした本能的な社会変動が、内外に起きているのだ。
米国の歴史家、「敗北を抱きしめて」のジョン・ダワーも、この歴史的な危機
に、日本人が示した「いたるところに雨ニモマケズの心しなやかな強さ」が、
「ふつうの人々も「原発」議論重ね世界引っ張る力に」進展することを期待している。
<復興メモ>
・仮設住宅は仮設でなく、津波再来時の待避に備えた、菜園付きのセカンドハ ウスに。用地は、後背地高台の不耕作地、自治体・集落・地権者・入居希望 者が協議する。
・姉妹都市と共に、姉妹コミュニティーを。限界集落と町内会を、直売所で結 ぶ。
・灌漑・輪作・放牧の高度化、自然更新・択伐・林牧複合、魚釣り林など、農 林漁法、地場産業技術を変革する。
・流域圏域に、自治体・企業・団体・大学などによる地域再生プロジェクトを 設置し、起業・経営・金融・生活相談の窓口、情報システムを構築する。
(就職・健康・医療・介護.・法律・税務など)
・生産拠点の選択集中から、地域資源・現場技術を活かし・つなぐ、分散型に 転換する。
・エネルギーを、自然力利用に転換する。分散・双方向の発電システムを、固 定価格買い取り制度で。
・財源は、復興国債(中国・産油国ファンド引受)、地方一括交付金方式、復興 長期無利子資金を充てる。
・後手後手の対応に、集権体制の不毛がある。救国の司令塔をつくれ。
住民主導社会、自立と共生の理念、地域政策・地域政党。
・利便と効率信仰、成長神話を克服する。活かし・つなぐ現場技術・生活スタ イルの変革で。(パチンコ・自販機・ドラッグ・サプリメント・ゲーム機、コ ンビニ24時間営業、テレビ深夜放送などの自粛)
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