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風知草:「原発への警鐘」再び=山田孝男
http://mainichi.jp/select/seiji/fuchisou/
毎日新聞 2011年4月25日 東京朝刊
先週、浜岡原発を止めてもらいたいと書いたが、止まる気配はない。あらためて警鐘を鳴らさなければならない。そう考えていた折、30年来、原発への警鐘を打ち鳴らし続けてきた経済評論家、内橋克人(かつと)(78)の話を聞く機会を得た。
神戸新聞の経済記者からフリーに転じて44年。モノづくりの現場を歩いた豊富な取材経験に基づき、経済技術大国・日本の過信と、現代資本主義の人間疎外を鋭く問う評論活動に定評がある。NHKテレビ「クローズアップ現代」で登場回数最多の常連解説者と言ったほうが通りがいいだろうか。
この人は米スリーマイル島原発事故(79年)後の84年、週刊現代の連載ルポをベースに講談社から「日本エネルギー戦争の現場」を出版した。どのくらい読まれたか記録がないが、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)直後に「原発への警鐘」と改題して文庫化。これは5万3000部売れた。
やがて地球温暖化防止と原発ルネサンスの20年が訪れ、労作は忘れられる。が、3・11を経て先週、一部復刻版「日本の原発、どこで間違えたのか」(朝日新聞出版)が出た。福島第1原発ルポに始まり、このままでは亡国に至ると結ぶ原著には予言書の趣がある。
内橋はこう言っている。原発安全神話には根拠がない。原発推進の是非が国会やメディアを通じ、文字通り国民的議論に付されたためしがない。あくなき利益追求という経済構造に支配されているのが実態だ。その危うさを問うべき学者も、メディアも、利益構造の中に埋没している。その現実が、地震と津波であらわになったというのが内橋の確信である。
原発は維持拡大か、縮小廃止か。世論は割れている。毎日新聞の調査(18日朝刊)では「原発依存は、やむを得ない」が40%。「原発は減らすべきだ」が41%で「全廃すべきだ」は13%だった。「原発は今後どうしたらよいか」と聞いた朝日新聞の調査(同)では、「増やす」5%、「現状程度」51%、「減らす」30%、「やめる」11%という分布になった。
日本は二つの領域に分断された。引き続き原発依存型の経済成長と繁栄を求める人々の日本と、今度という今度はそこから脱却しなければならないと考える人々の日本に。
この亀裂を埋め、まとめるのは政府の役割のはずだが、国策の根幹に斬り込む議論を寡聞にして知らない。福島の制御と三陸の復興に忙殺されているのは分かるが、首都圏や東海地方に第2撃の巨大地震が来ないと言えるか。来てもマグニチュード7程度という中央防災会議の想定内と言えるか。
内橋は、「原発への警鐘」の終盤で、第二次大戦の敗因を分析した戦争史家の文章から以下を引用している。
「有利な情報に耳を傾け、不利な情報は無視する(日本政府固有の)悪癖に由来するが、日本的な意思決定方式の欠陥を暴露したものであろう。会して議せず、議して決せず……。意思決定が遅く、一度決定すると容易に変更できない。変化の激しい戦争には最悪の方式で、常に手遅れを繰り返し、ついに命取りになった……」
日本には現在、54基の原発があり、総電力供給量の3割を賄っている。2030年までに14基増やし、原発依存率を5割にあげるという政府のエネルギー基本計画は妥当か。大胆な議論に期待する。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
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