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インフレがロシアの軍事力を低下させているらしい
極東での軍事プレゼンスも変わっていきそうだ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/15686
減少が止まらないロシアの核戦力 高コスト、生産力減退で新型への更新が進まない
2011.07.25(Mon) 小泉 悠
ロシア
今年6月1日、米露は、新核軍縮条約(新START)に基づく核削減の状況を公表した。
このデータによれば、ロシアが保有する核戦力は、核弾頭1537発、運搬手段(大陸間弾道ミサイル[ICBM]・潜水艦発射弾道ミサイル[SLBM]・爆撃機合計)521基/機、配備/非配備状態の発射装置(SLBM発射管・ICBM地下サイロ・爆撃機合計)865基/機であるという。
新STARTでは本来、2018年までに弾頭数を1550発以下、運搬手段を700基/機以下、発射装置を800基/機以下まで削減すると定めていたので、発射装置以外は条約の期限より7年も早く目標を達成してしまったことになる。
米国よりも核軍縮に熱心な結果なのか?
米露、新核軍縮条約に調印
新START条約に調印した米ロ大統領(2010年4月8日)〔AFPBB News〕
一方、米国は弾頭1800発、運搬手段882基/機、発射装置1124基/機で、条約の制限内に収めるためにはさらに核削減を進めなければならない。
このことは、ロシアが米国よりも核軍縮に熱心であることを示しているわけではない。
周知のようにバラク・オバマ米政権は「核のない世界」をスローガンに核軍縮を積極的に推進しており、新START条約の交渉過程でも、弾頭を1000発以下まで削減することを提案していたと伝えられる。
一方、ロシア側は、国境を接する中国を抑止する必要もあって米国より多数の弾頭を保有する必要を主張し、結局は上記の1550発という数字に落ち着いた。
では、このような経緯にもかかわらず、ロシアの方が核保有量が低下しているという状況はどのような理由によるものであろうか。
以前、新START条約について取り上げた際にも紹介した通り、ロシアの戦略核戦力は老朽化によって減少の一途をたどっている。
ソ連時代に開発・製造された多くの弾道ミサイルが旧式化しているうえ、メンテナンス費用の不足や、ソ連時代の製造元が現在はウクライナ企業になってしまったこと(大型ICBMを設計していたユージュノイェ設計局など)などが重なり、毎年数十基単位でミサイルが退役し続けているのである。
だが、これに代わる新型ミサイルの調達は低調だ。
現在、ロシアはサイロ発射式のRS-12M2「トーポリ-M」ICBMと道路移動式のRS-24「ヤルス」ICBM、近代化改修を受けた667BDRM型潜水艦用の「シネーワ」SLBM、それに新型の955型潜水艦に搭載する「ブラワー」SLBMの調達を進めている。
だが、その調達ペースは著しく低い。
ICBMの年間調達数はわずか9基のみ
「トーポリM」(ウィキペディア)
例えば、「トーポリ-M」の年間調達数は、2009年に11基を記録したのが最大で、ここ数年は6基/年というペースが続いている。
「ヤルス」に至っては2009年から今年まで年間3基ずつしか調達されておらず、したがってICBMの年間調達数は合計で9基にしかならない。
旧式ICBMの退役を補うには、全く不十分な調達ペースだ。
その背景は様々に考えられるが、根本的な要因として指摘できるのが、生産設備のキャパシティ不足だ。
現在、ロシアには弾道ミサイルを生産できる工場が2つしかない。1つはクラスノヤルスク工場で、液体燃料型ミサイル専門。もう1つのヴォトキンスク工場は固体燃料専門だ。
ところが、上で挙げた新型弾道ミサイルのうち、液体燃料を使用するのは「シネーワ」SLBMのみ。
ほかはすべて固体燃料型であり、したがってヴォトキンスク工場がすべての生産を担当せねばならないのだが、同工場の生産能力は冷戦中の最盛期でさえ、年産48基程度(「トーポリ-M」の原型となった「トーポリ」ICBMの場合)であったとされる。
熟練労働者が失われたことで現在の生産能力は当時よりかなり低下していると考えられるので、「トーポリ-M」「ヤルス」「シネーワ」と3種類の大型弾道ミサイルを同時並行で生産するのは、キャパシティ的にかなり厳しいだろう。
しかもヴォトキンスク工場は陸軍向けに「イスカンデル-M」戦術弾道ミサイルの生産まで行っているから、なおさらだ。
2010年の生産実績を見てみると、「トーポリ-M」が6基、「ヤルス」が3基、「ブラワー」が3基以上、「イスカンデル-M」が12基以上で合計27基となっており、ただでさえ限られた生産能力が分散されてしまっていることが窺われる。
もちろん、ロシア政府も手をこまぬいているわけではない。
戦略核戦力の整備を巡りスキャンダルが発覚
ユーリー・ソロモノフ(コメルサント)氏
今年3月にプーチン首相が述べたところによれば、政府は今後3年間でヴォトキンスク工場を含む弾道ミサイル生産企業に150億ルーブル(約400億円)を投資し、このうちヴォトキンスク工場には17億ルーブル(約46億円)が拠出されるという。
また、こうした投資により、「ヤルス」「ブラワー」「イスカンデル-M」の生産を2013年以降、現在の2倍に引き上げるとしている(ただし、「トーポリ-M」については言及がない)。
その一方、戦略核戦力の整備を巡って、7月に入ってからちょっとしたスキャンダルが持ち上がっている。
きっかけは、「トーポリ-M」「ヤルス」「ブラワー」の開発を手がけたモスクワ熱力学研究所(MITT)のソロモノフ設計官が有力紙『コメルサント』(7月6日付)に寄せたインタビューだった。
この中でソロモノフは、国防省は2011年度の予算執行書に一件もサインしておらず、このためにICBMの生産が全く進んでいないと暴露したのである。
これに対してドミトリー・メドベージェフ大統領は、インタビューが掲載された当日の閣僚テレビ電話会議でセルジュコフ国防相に対し、次のように述べた。
国防発注の遅れを招いた責任者は、地位にかかわらず厳しく罰せられなければならない――スターリン時代なら銃殺ものだ・・・。
スターリンのくだりは冗談めかした口調ではあったものの、事実上は叱責である。これに対し、セルジュコフは、翌8日の記者会見で猛烈なソロモノフ批判を展開した。
セルジュコフによれば、国防省は現在、発注額に比べて実際の納入額の高騰があまりにも激しい軍需企業に対しては支払いを停止する措置を取っており、全契約の18.5%がその対象となっている。
MITTへの予算執行が停止されているのも弾道ミサイルの価格高騰が目にあまるためで、2010年度に比べると「トーポリ-M」は39億ルーブル(約113億円)、「ヤルス」は56億ルーブル(約162億円)も値上がりしているという。
仮に2011年度も昨年と同じく「トーポリ-M」6基、「ヤルス」3基のペースで生産を行ったとすると、値上がり分だけで1164億円もの負担増になる計算だ。
ミサイル1基当たり100億円以上の値上がり
ロシア軍全体の装備調達費が年間5000億ルーブル(約1兆5000億円)程度にすぎない現状では、弾道ミサイル1基当たりの値上がり額が100億円を超える現状は確かに看過できないものだろう。
とはいえ、予算が執行されなければ新型ミサイルの調達は止まったままであり、核戦力の減少に拍車がかかるのは必至だ。
今後、ロシア軍の通常戦力は小規模紛争対処型へとシフトしていくことが予想されるため、大規模な侵攻を抑止できるのは戦略核戦力だけである。
また、ロシアが米国と対等に渡り合っていくうえでの交渉材料としても、戦略核戦力の分野は天然資源と並ぶ貴重な交渉材料となっている。
それだけに、MITTを巡る問題にどう解決をつけるのか、セルジュコフ国防相の手腕に注目が集まっている。本欄でも今後の展開を待って、近く続報をお伝えすることとしたい。
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