http://www.asyura2.com/10/warb7/msg/380.html
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湾岸産油国では王政デモがバーレーンとオマーンへ及んでいる。サウジアラビアでのデモはまだ小規模なもので多くて300人程度だ。
3月4日、バーレーンの首都マナマ南郊で、シーア派とスンニ派が一時衝突する事態が起きた。2月のデモ発生後、バーレーンで両派の衝突が伝えられるのは初めてだ(3月5日 産経)。
■ @ バーレーンとイラン
リビアに反政府デモが飛び火し、すでにバーレーンではシーア派によるデモが起こっていた2月18日、米保守系シンクタンク、「アメリカン・エンタープライズ」のマイケル・ルービン氏がバーレーン問題の重大さを提起している。
What To Do about Bahrain
http://www.aei.org/article/103193
バーレーンはアメリカ海軍第5艦隊が司令部を置くアメリカの中東戦略上の要衝であり、そこではアフガニスタン、イラク、イラン、ペルシャ湾岸、ソマリア沖湾岸などの軍事作戦がサポートされる。
ルービン氏の指摘の一つは、シーア派が6〜7割を占めるバーレーンを対岸のイランが併合する可能性があるというもので、ほぼ同様な指摘を陰謀論系の田中宇氏が数日後にしている。
「バーレーンの混乱、サウジアラビアの危機」 (2月21日)
http://tanakanews.com/110221bahrain.htm
イランは1970年までは歴史的に「議論の余地のない主権」として、バーレーンを正式に自国の領土として主張してきたが、1971年のバーレーン独立時にイランのパーレビ国王がその権利主張を明確に放棄した。ところが、1979年のイスラム革命後、イランは再びバーレーンに対する深い関わりあいを主張し始めた。
バーレーンにおける初めてのシーア派暴動は1979年に起きている。1980年にもシーア派住民の暴動が起きたが、1981年に政権打倒を目指して起きたシーア派のクーデター計画の発覚で、バーレーン政府はイラン国内で訓練された破壊活動グループを逮捕したと発表。政府は同グループがテヘランに本部を置く「バーレーン開放のためのイスラム戦線」に属することを明らかにした(『イスラム急進派』 岡倉徹志著 1987年刊 岩波書店)。
田中宇氏によるとその後、1980年代以降90年代を通じ、イランはバーレーン政府の政権転覆を試み画策してきたようだ。
ルービン氏によれば、イランの権力者達はサダム・フセインがクウェートについて語ったように、バーレーンについての領有をこれまでも繰り返し語ってきている。イランの高官たちはペルシャ湾についての構想を話す時、いまもバーレーンのスンニ支配階級を潰し、アメリカの支配から自由にするためにバーレーンへのイランの支配を取り戻すことを話すそうだ。
When Iranian officials talk about their desire to transform the Persian Gulf into a Persian lake, they envision sending Bahrain's Sunni ruling elite packing and returning Iranian dominance to Bahrain in order to rid the region of American influence.
バーレーンの政変が国際情勢において重大なのは、米第5艦隊の司令部が位置するという事のほかに、一日の世界の原油生産量の10%を占め、シーア派人口が多くを占めるサウジアラビア東部州でのデモと連動する恐れがあるからなのはマスコミの伝える通りだ。
この問題について、ワシントンに籍をおくイスラエル系シンクタンク、「ワシントン中近東政策研究所」(The Washington Institute for Near East Policy )のサイモン・ヘンダーソン氏は、下記の記事で分析を行っている。
Gulf States Mull Massive Aid to Oman and Bahrain (3月4日)
http://www.washingtoninstitute.org/templateC05.php?CID=3321
ここでの重要な点の一つは、シーア派の要求に対してバーレーン政府が譲歩することのないように、サウジアラビアが強く圧力をかけているという事だ。バーレーンのシーア派が要求する事柄と同様な事がサウジ国内へ波及することを恐れるのがその理由だ。
バーレーンはドバイ、カタールに続く中東第3位の金融センターで、サウジの政治的影響力が強く経済的にも密接な相互関係にある。中東情勢に通じている佐々木良昭氏の3月6日のブログで述べられているように、バーレーンはコーズウェイ(陸橋)でつながったサウジアラビア国内の一部、両国は一体といった感覚であるそうだ。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2011/03/no_991.html
それゆえ、サウジ政府は陸橋で続いたバーレーンのデモを国内のデモの前線と捉えており(ルービン氏)、英国のテレグラフ紙の伝えるところでは、サウジのアブドラ国王は、バーレーン政府に対して「若しバーレーン政府が自力でデモ隊を解散させることができないのならば、サウジアラビアの警備隊を派遣する」とのべたそうだ。3月11日と20日にはフェイスブックを使ってデモの呼びかけが行われているが、現在のところ多くて300人程度の小規模デモにサウジが厳しい警戒態勢を強めているのはそのためだ。
http://markethack.net/archives/51701742.html
これまでもバーレーンでのデモではサウジの機動隊が出動することが行われていたが、2月21日の毎日新聞では、クリントン米長官はサウジアラビアの軍事介入を恐れているとワシントン支局の記事が掲載されている。
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20110222k0000m030065000c.html?inb=yt
サウジの機動隊の出動について、前述のアメリカン・エンタープライズのルービン氏の記事では、今回のデモではイランが機動隊を介入させる可能性を指摘している。この見方については、イランは国内でデモを抱えているので、たとえスンニ派政権の転覆であっても中東で4番目の政権転覆ドミノを支援することはないだろうという見方もできる。
しかし、3月2日の時事通信によればクリントン米長官は、「上院歳出委員会の公聴会で、イランが中東各国の政変に影響力を行使するため、エジプトやバーレーン、イエメンの野党や反政府勢力と直接・間接的に接触していることを明らかにした」。
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クリントン米国務長官は2日、上院歳出委員会の公聴会で、イランが中東各国の政変に影響力を行使するため、エジプトやバーレーン、イエメンの野党や反政府勢力と直接・間接的に接触していることを明らかにした。(中略)同長官は、イランが「情勢に影響を与えようと全力を尽くしている」と強調。レバノンのシーア派イスラム教組織ヒズボラやパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスなどを通じ、エジプトの野党勢力と連絡を取っていると指摘した。(3月3日 時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110303-00000061-jij-int
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アメリカの対外情報能力については、CIAをはじめとする諜報機関が「9.11テロ」以降、DHS(国土安全保障省)の下に置かれ、巨大な権限と力、そして情報収集能力が大幅に低下している事が知られている。しかしこの公聴会でのクリントン長官の報告で、バーレーンへのイランの介入が現実味を帯びてきた。
サウジの機動隊に対して、イランがバーレーンへ革命防衛隊(IRG)を送り込んだ時のオペレーションを、すでにアメリカは検討しているはずだ。そのような事態になれば世界の原油価格は一気に高騰し20年ぶりの湾岸危機になる。
2月26日、政権転覆を図ったとして当局に手配されているバーレーンのイスラム教シーア派系野党指導者、ハサン・ムシャイマ氏が、ロンドンから帰国している(2月27日 日経)。
■ A オマーンのリスク
さらにペルシャ湾での石油リスクについてサイモン・ヘンダーソン氏は、上で述べたイランによる要因の二つ目として、ペルシャ湾の出口のホルムズ海峡をイランとともにはさむ位置にあるオマーンのリスクを挙げている。2月27日には石油産出国オマーンでも2000人のデモがおき、原油価格が上昇した。
オマーンはイランとGCC(湾岸協力会議)に対しては中立的な立場をとっており、スンニ派とシーア派から分派したイバディ派が国民の多数を占める。政治的にはGCCのスンニ派に強調しているが、シーア派の居住地域がある。このためオマーンについては、GCCの他のスンニ派の4カ国とは別扱いにして注意して考えた方がよいとヘンダーソン氏は述べている。またオマーンはペルシャ湾の出口に位置し、北部の海岸はイランに33kmで接近しているというイランにとっては戦略的な位置に置かれた国だ。
クリントン長官が明らかにしたようにイランがバーレーンの野党や反政府勢力と組み、またオマーンとも同様な行動をとっているとしたら、世界の原油市場にとって大変な脅威だ。
6カ国で作る「湾岸協力会議」は3月5日、火種であるバーレーンとオマーン対してサウジが中心となり財政支援策の協議に入った。
ペルシャ湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議」は5日、反政府デモが続く同会議加盟国のバーレーン、オマーン両国への支援策を協議する。中東版「マーシャル・プラン」を策定して財政支援し、デモを早期に沈静化して加盟国への波及を食い止めたい考えだ。(3月4日 毎日)
このほかヘンダーソン氏は、2月17日の論考で、サウジアラビア東部州の石油施設が長年にわたるアルカイダの攻撃対象となっているという重要点も挙げている。
Saudi Arabia's Fears for Bahrain
http://www.washingtoninstitute.org/templateC05.php?CID=3309
■ B イランの中東支配
最後に現在の中東情勢を俯瞰してみたい。
イスラエルのアヤロン副外相は3月1日、現在の中東情勢について、
「原理主義者が(権力の)空白を利用する事態」への警戒を表明。緊迫するリビア情勢については同国内に限定された「部族戦争」との見方を示し、「中東で危機が起こるとすればイラン発であり、アヤトラ(イスラム教シーア派指導者)のイランが主要な脅威だ」と強調した。(3月2日 毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110302-00000040-mai-int
イラン国内では反政府運動・デモの鎮圧が続けられているが、アメリカとイスラエルは中東でのイランの影響力増大を警戒している。ニューヨークタイムズのマイケル・スラックスマン氏は、今回の中東情勢の激変で、今後サウジアラビアの影響力低下によるイランの中東支配が進むと分析している(この論説の要約記事をネット検索中見つけた)。
Arab Unrest Propels Iran as Saudi Influence Declines (2月23日)
http://www.nytimes.com/2011/02/24/world/middleeast/24saudis.html?_r=2&scp=5&sq=iran%20bahrain&st=cse
NYタイムズは「中東情勢の激変がイランを大国にする」と指摘
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0228&f=business_0228_052.shtml
この記事の中でスラックスマン氏は、カタールとオマーンはイランに傾斜し、エジプト、チュニジア、バーレーン、イエメンはイランの影響力を受けているとの見方をしている。
オバマ政権に入り、イラクではイランによる傀儡化が急速に進み、サウジアラビアにはイラン勢力による包囲網ができつつある状況だ。
DOMOTO
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html
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