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エジプト革命で始まる中東の真の独立
2011年1月30日 田中 宇
http://tanakanews.com/110130egypt.htm
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チュニジアの革命がエジプトに飛び火している。エジプトは1920-50年代にアラブ・ナショナリズムの震源地であり、当時はアラブ諸国の民衆による民主化運動によって各国が統合され、広大なアラブ勢力となり国際台頭していくと期待された。だがその後強まった冷戦構造の中で、米国はアラブ諸国を再分断することに成功し、エジプトも親米的な独裁国に成り下がり、米国の仲裁でイスラエルと和解させられた。エジプトはアラブ諸国の分断を容認する存在となっていた。だが今、チュニジアで始まった民衆による政権転覆の革命がエジプトに飛び火し、革命はヨルダンやイエメンなどにも伝播している。50年ぶりに、アラブ諸国が米国に分断された傀儡勢力である状態から自らを解放するかもしれない展開が始まっている。
アラブ諸国では、英米に育てられた軍の力が強く、軍がイスラム同胞団などイスラム主義勢力を弾圧し、独裁政権や王政を守ってきた。今後、独裁政権が次々と崩壊していくと、軍とイスラム主義勢力との対立状態になる。イスラム主義勢力は各国の貧困層の広範な支持を受けており、米政府の要求どおり中東が完全に民主化されると、各国に支部を持つイスラム同胞団によるアラブの統一、つまりアラブのイスラム革命が起こりうる。これはアラブが反米勢力に転換することを意味している。米政府は、口ではアラブ諸国に民主化を求めつつ、裏で各国の軍に統制をとらせ、イスラム主義を弾圧しようとするだろう。アラブの民衆は、今のところ反米スローガンを口にせず、星条旗も街頭で全く焼かれていないが、米国が各国の軍によるイスラム主義勢力の弾圧を容認すると、民衆は反米になり、イスラム主義への支持を強めるだろう。中東の革命は長引き、少なくとも今年いっぱいは続きそうだ。
(以下は、私が毎日「田中宇プラス」の有料記事「拙速分析」として配信しているものの中から、エジプト関連のものを抜き出して編集したものです。ほかにも大量の記事を、ほぼ日刊で配信しています)(田中宇の拙速分析)
エジプトの首都カイロの街頭では1月29日、デモ隊に暴力を振るっていた警察隊が姿を消し、代わりにデモ隊を弾圧しない陸軍が各所に進駐した。市民の中には、軍がムバラクを追い出してくれるとの期待が強く、街頭における兵士と市民の関係は良い。ムバラクが1月29日、30年間で初めて副大統領に任命したスレイマン諜報長官は軍人で、ムバラクが軍に譲歩した観がある。今後、ムバラクが辞任してスレイマンが大統領に昇格する展開がありうる。(In Egypt, protesters and soldiers declare: The army and the people are one)
ムバラクは、81年に前任大統領のサダトが暗殺され副大統領だった自分が昇格した経緯があり、保身のためずっと副大統領を置かなかった。スレイマンは、90年代にイスラム同胞団を弱体化して政権を守った功労者だ。米国はエジプト政府が民主化を容認しなければ軍事支援を止めるといっている。民主化を容認すると、貧困層の広範な支持を受けるイスラム同胞団が与党になる。今後のエジプトは、軍と同胞団が長期対立する構図になりそうだ。(Egypt's Military Is Seen as Pivotal in Next Step)
米国政府は従来、エジプトの選挙が形式だけであっても「選挙もやっており民主的な国だ」とムバラクを支持してきた。だがムバラク政権がいつ崩壊しても不思議でない状況になる中、米政府は30年間も米国の傀儡をつとめたムバラクを見放す方向に動いている。米政府はこの10年、世界中が民主化されるべきだと主張し続けてきたので、崩壊していくムバラク政権を支持しきれず、中立を装わざるを得なくなっている。ムバラクは内閣改造をやって改革したことにしようとしたが、米政府は「内閣改造だけでは不十分だ」と表明した。(Analysts warned Obama: Don't end up on the wrong side of Egypt's revolution)(Sacking Egyptian ministers not enough, U.S. State Department says)
1月29日、カイロに駐在していたイスラエル大使館の官員たちが、ヘリコプターで大使館を脱出し、エジプト空軍の基地を経由してイスラエルに帰国した。エジプトの事態を注視していたイスラエル勢が撤退したことは、ムバラク政権の終焉が近いことを示している。ムバラクの息子で後継者と目されていたガマル・ムバラクとその弟の一家が、カイロからロンドンに亡命したことも確認された。(Israeli diplomats flee Egypt amid unrest)(Egypt's intelligence chief appointed vice-president; Mubarak's family leaves for London)
今後、エジプトは従来のような親イスラエルの国でなくなる。近隣の親イスラエル勢力は、ヨルダンとパレスチナ自治政府(PA)だけになるが、ヨルダンでも連日イスラム同胞団が反政府デモを展開している。パレスチナでも「パレスチナ・ペーパー」の暴露を機に、PAを非難する政治行動が強まっている。中東での米国の覇権が劇的に弱まり、イスラエルの新聞は自国の孤立を危惧する記事を出した。(Without Egypt, Israel will be left with no friends in Mideast)
パレスチナでは、アルジャジーラなどがパレスチナ自治政府(PA)の無数の機密文書「パレスチナペーパー」を誰かからもらって報道し、PAのアッバス政権がイスラエルに多大な譲歩をしていたことが暴露された。エジプトとヨルダンがイスラム主義化の前夜的な状況になっていることもあり、アッバスの人気が失われている。アッバスの側は支持者を集めて「パレスチナペーパーはニセモノだ」と騒がせる盛り上げ策をやっているが、いつまで持つか。アッバスは権力を保持できたとしても、イスラエルに強硬姿勢をとるしかない。(Palestinians give Abbas hero's welcome after he denounces 'Palestine papers')
エジプトと並び、米国にとって中東の要衝にある親米政権だったイエメンでも、サレハ大統領に対する反政府運動が強まっている。1月15日にチュニジアの政権が崩壊して以来、エジプト、イエメン、ヨルダンで、親米政権に対する反政府運動が強まっている。3カ国とも政権転覆に至る可能性が高まり、中東で米国の影響力が瓦解していきかねない。もう一つの親米国であるサウジアラビアでは1月29日、政府がムバラク支持を表明したが、港湾都市ジェッダでは反政府デモが起きている。4つの国のいずれも、政権が転覆されたら、その後にできる政権はイスラム主義色が強くなり、米国ではなく、スンニ・シーアの対立を乗り越えてイランと親しくしたがる。(Pro-Democracy Revolutions a Big Problem for US)(Dozens of protesters arrested in Jeddah)(Yemeni Protests Turn Violent)
1月28日、エジプトのムバラク大統領が国営テレビで演説し、国民の不満を緩和する改革が必要であることを認め、内閣の総入れ替えを行うと発表した。国民の多くは、独裁者であるムバラク自身の辞任を求めており、反政府運動は終わらず、翌日も続いた。この日、反政府運動の開始後、初めて軍が街頭に進駐し、市民に歓迎された。市民らはチュニジアと同様、エジプトでも軍が市民に味方してムバラクを辞めさせることを期待している。軍幹部たちはムバラクが息子のガマルに大統領を世襲させることに反対で、そのために市民の反政府運動を容認していると指摘されている。(Mubarak Dismisses Egypt's Government)
同日には、米オバマ政権の広報官が、エジプト国民の不満は正当なものであり、ムバラク政権は国民の要求に応えねばならないと表明した。それが行われない場合、米政府はエジプトに対する年15億ドルの軍事支援を凍結するかもしれないと脅した。この表明はエジプトの革命を煽動している。(White House warns $1.5bn aid to Egypt could be withdrawn)
1月28日の金曜礼拝を機に、エジプトの最大野党であるイスラム同胞団が反政府運動に正式に参加し始め、ムバラクに辞任を求めた。エジプト革命は、今はまだナショナリズムの発露が中心だが、いずれイスラム主義の色彩が濃くなると、NYタイムスも予測している。同胞団はエジプトが発祥で、すべてのアラブ諸国に組織を持つ汎アラブ的な、世界最大かつ最古のイスラム政党だ。中東の要衝に位置する大国エジプトの革命は、アラブ全体のイスラム革命に発展し、インドネシアからモロッコまでのイスラム諸国の全体に大きな影響を与え、地政学的な大転換になる。(With Muslim Brotherhood Set to Join Egypt Protests, Religion's Role May Grow)
中東における米国の影響力が急速に減退するのと対照的に、イランの政治影響力が急拡大している。レバノンで親イランのヒズボラが政権をとったし、イラクでもシーア派イスラム主義の政権が確立した。アフガニスタンの政権もイランと親密さを増している。シリアやトルコも数年前から親イランの傾向だ。いずれも単なるイランの傀儡ではなく、イランと対立する局面もあるが、米英の傀儡色が強かった従来の中東各国の状況を打破しようとする点でイランと協調している。エジプトやヨルダンで政権転覆が起きると、イランと親しいイスラム主義の勢力がさらに強まる。サウジアラビアも、王政が存続したとしてもイスラム主義に迎合せざるを得ない。中東は、従来のスンニとシーアの対立を止揚したイスラム主義が米英イスラエルの支配を壊して自立していく方向になる。(Iran's allies gain clout and possible softer edges)
1月27日には、中東専門家の英新聞記者ロバート・フィスクが「民主化」を好む英国(英米)の戦略の偽善性を指摘した。歴史的に英国はエジプトに「民主化しろ」と求めてきたが、1910年代からエジプトで民主化運動が起きて(英傀儡の)王政を転覆しようとすると、英当局は運動家を投獄し、その後で再びエジプトに民主化を求めることを繰り返してきたと。英米はムバラクの独裁を容認しつつ、エジプトに「民主化しろ」と圧力をかけることで、英米の傀儡であり続ける状態を作ってきた。今、エジプトで起きている反政府運動は、そうした英米覇権の偽善的な戦略自体に対する、国民の反乱だ。エジプトが真に民主化されてイスラム主義の政権ができたら、英米はそれを「イスラム独裁」と非難するだろう(イランのイスラム政権を非難したように)。だが英米の覇権の力は下落傾向にあり、非難は「小言」にすぎなくなる。(Robert Fisk: A new truth dawns on the Arab world)
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