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極めて異例 クビになった「暴走司令官」:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100628/215169/
2010年6月30日(水)
極めて異例 クビになった「暴走司令官」
マクリスタル駐アフガン米司令官解任の真相
菅原 出 【プロフィール】スタンリー・マクリスタル駐アフガニスタン米軍司令官が更迭された。
戦争最中に、しかも今後の戦争の行方を左右する決定的に重要な時期に、現地司令官を解任するという事態は、米国の戦史史上でも極めて異例のことである。そんな異例の事態が起きた背景には何があったのだろうか。なぜマクリスタルはこの時期に「政権批判」を行ったのだろうか。
「暴走司令官」騒動の背景を分析していこう。
インタビューではなく私的な会話「米アフガン戦略 不協和音 政権批判の司令官 更迭も」
6月24日付『朝日新聞』はこのような見出しで、この問題を大きく報じた。欧米各紙ともに「マクリスタル司令官が政権上層部を批判し、政権内部の亀裂の深さが明らかになった」という文脈でこの問題を報じた。
そもそもこの問題は、米誌『ローリング・ストーン』がマクリスタル司令官およびその側近たちに「インタビュー」をした記事を掲載し、6月22日にインターネットでその記事が報じられたことに端を発している。
「暴走司令官」という見出しのこの記事は、マクリスタル司令官が09年1月に国防総省でオバマ大統領と初めて同席した際のことを、「居心地悪そうにびくびくしていた」と回顧したと報じている。またアフガンへの増派戦略に批判的だったバイデン副大統領について、「バイデンって誰だ」と馬鹿にするような発言をしたことも記述されている。このほか、ジョーンズ大統領補佐官やアフガン担当のホルブルック特使等を批判するコメントも掲載されている。
多くの読者は、この『ローリング・ストーン』の記事の原文を目にすることなく、この記事の内容を伝える他のメディアの記事を読み、「このような批判をしたマクリスタルは何を考えているのか。首を切られて当然」との印象を持ったことだろう。
だが、『ローリング・ストーン』誌の記事を実際に精読してみると、おかしな点に気づくはずである。同誌の記事で引用されているのは、ほとんどが「インタビュー」というよりも「私的な会話」であり、「ボスは〜と言っている」といったような匿名のマクリスタル司令官の側近たちのコメントが中心になっている。
「これはプライベートな会話ではないか。記事になることを知らずに発言しただけなのではないか?」
との疑問をすぐに抱いたのは私だけではないだろう。実際『ニューヨーク・タイムズ』紙のヘレン・クーパー、トム・シェンカーとデクスター・フィルキンスは、6月23日付の記事の中で、
「このローリング・ストーンの記事の著者マイケル・ハスティングスは、マクリスタル大将の側近サークルに対して私的で親密な関係を持つことを許されたようだ」
と不思議そうに書いており、その理由として、
「ほとんどのコメントが、マクリスタル大将とその側近たちがリラックスしてくつろいでいるバーやレストランのような場所で、彼らが無防備な状況で発せられたように思われるからである」
と書いている。私もこの三氏とまったく同様の印象を抱いた。この点に関して『ワシントン・ポスト』紙のグレッグ・ジャフとアーネスト・ロンドノは、
マクリスタル司令官のメディア担当補佐官で民間から任用されたダンカン・ブースビー氏が、明確な取材ルールを確立せずに司令官側近たちと会話をすることをハスティングスに認めてしまった」
との米軍関係者のコメントを掲載している。
明確な取材ルールの欠如この点について、かつてハスティングスを雇っていたことのある『ニューズウィーク』誌が直接本人に取材の経緯について訊ねている。
「あなたが記者であり公表されることを前提としていることがすべて明確になっていたのでしょうか? それと記事全体について事実確認調査はしっかりとなされたと言えるのですか、イエスと言えますか?」
これに対してハスティングスは、「もちろんだ。それは私にとって明確だった。私は4分の3くらいの時間は常にテープレコーダーやメモ帳を持ち歩いていた。(前略)私が記者でローリング・ストーンのためにマクリスタル大将のプロフィールに関して記事を書いていることは明確だったし、その点は常に明確だった」
と少ししどろもどろな様子で答えている。しかも「事実確認調査はしっかりとなされたのか」という部分には明確に答えていない。
ここでもう少し詳しくハスティングス氏の取材の経緯を振り返ってみよう。4月中旬に同氏は、フランスのパリでプレゼンテーションを予定していたマクリスタル大将に対する取材を認められ、1〜2日間の予定で同大将とのインタビューのためにパリを訪れた。ところがアイスランドの火山噴火に端を発する欧州航空業界の混乱によりフライトがキャンセルになったことなどから、マクリスタル大将のチームと思いがけず行動を共にすることになり、結局その後ベルリン、カブール、カンダハルとワシントンへと、約1カ月間もマクリスタル大将たちと行動を共にすることになったのである。
火山噴火による交通混乱という緊急事態で急きょ行動を共にすることになったため、どこからどこまでが取材のためのインタビューで、どこからがオフレコで、どこが背景説明なのかといった明確なルールを確立することなく、「私的で親密な関係を持つことを許される」状況になってしまったものと思われる。
1カ月も行動を共にすれば記者と軍人という立場を超えて自然と仲良くもなろう。記事に書かれるとは知らず、気を許して本音を語っていたとしても不思議ではないだろう。ちなみにマクリスタル大将やその側近たちは、秘密組織である特殊部隊での生活が長かったこともあり、基本的にメディア慣れしていなかった点も指摘されている。
このジャーナリスト、マイケル・ハスティングス氏と明確な取材のルールを設定していなかったとすれば、マクリスタル・チームのメディア担当者の大失敗であり、ハスティングス氏も、ルールの曖昧さを逆手にとって、私的な会話まで書く「掟破り」を犯した可能性が極めて濃厚である。
「裏切られた」マクリスタルこの見方を裏付けるように、6月25日付の『ワシントン・ポスト』紙は、「ローリング・ストーンがマクリスタルとの取材ルールを違反した」との記事を掲載し、「オフレコだと思って彼や側近たちが話した内容を書かれてしまったことについて、マクリスタル大将は記者に裏切られたと米軍は結論付けた」ことを伝えている。
米軍の調べによれば、マクリスタル大将およびその側近たちが「オン・ザ・レコード」および「背景説明」として応じたインタビューの中には、ハスティングスが記事の中で引用したコメントは一切含まれていないということだった。つまり、引用のコメントはすべて、公開を前提とされない、いわゆる「オフレコ」中の会話だったというのである。
もっともマクリスタル司令官を解任したホワイトハウスは、「どのような文脈でこうした攻撃的なコメントがなされたかにかかわらず、こうした文民指導部に対する不敬をマクリスタル大将が許容していたという事実だけで十分だ」というコメントを発表していることから、たとえ記者の取材違反の事実が立証されたとしても、ホワイトハウスの決定が変わるわけではない。
『ワシントン・ポスト』はまた、ローリング・ストーン誌の事実確認調査(fact-checker)についても興味深い事実を伝えている。ローリング・ストーン誌はこのマクリスタル・インタビュー記事の事実確認調査として30項目の質問を米軍に対して行っており、『ワシントン・ポスト』紙はこの質問事項のメモを入手して公開しているが、このメモを見る限り、米軍側はローリング・ストーン誌が実際に報じた記事の内容を事前にまったく想定できなかったと思われる。例えば話題となったマクリスタル大将とオバマ大統領の国防総省での最初の会談については、正確な日付を確認しているだけで、どのような会話がなされマクリスタル大将がどのような印象を抱いたかについては一切確認作業がなされていない。
基本的にかなり詳細に事実確認がなされているにもかかわらず、マクリスタル大将やその側近たちが政権上層部を批判したコメントについては一切事実確認がとられていないのだ。ネガティブな発言部分の確認をすれば、「それはオフレコでの発言だから公開しないように」と言われるのが確実だったので敢えて質問しなかったのではないか、と疑わざるを得ないほど、見事にその部分については質問がなされていないのである。
しかも最後の質問である「マクリスタル大将はオバマ大統領に投票したのか?」に関して、マクリスタル・チームのメディア担当者であるダンカン・ブースビーは、「重要。この点は含まないようにしていただきたい。これは個人的な情報であり彼の任務とは無関係である。この点を明らかにすることは不適切である」と明確に回答しており、軍人は個人の政治的な立場を公開しないという原則についても明記していたにもかかわらず、実際のローリング・ストーン誌の記事では、「マクリスタル大将がオバマに投票した」と書かれてしまっている。ここからも同誌の取材確認に対する態度が表れている。
この事実確認調査のやり取りを見る限り、マクリスタル・チームがローリング・ストーン誌およびハスティングスに「裏切られた」と感じても仕方はあるまい。
もちろんマクリスタル司令官やその側近たちが、ワシントンの文民指導部や国務省に対して、この記事で書かれているようなネガティブな感情を持ち、プライベートではネガティブな発言をしていたことは紛れもない事実であろう。
またマクリスタルが進めるアフガン戦略が行き詰まりを見せており、ホワイトハウスが不満を募らせ、文民指導部と現場指揮官との間で対立や摩擦が生じていたことも間違いない。そしてもちろんマクリスタルや彼のスタッフがこうした取材に対して「脇が甘かった」点も否定できない事実である。
しかも公にこうした情報が流れてしまった以上、彼らとしてはひたすら謝罪する他為す術はなく、オバマ大統領としても最高司令官としてこのようなチーム内の結束の乱れを許すわけにはいかなかったろう。
この記事を書いたマイケル・ハスティングスはかつて、「取材源と親しくなり酒を飲ませて歌を歌わせる。こうして舞台裏の事実をレポートするのだ」と誇らしげに書いていたことがある。ローリング・ストーン誌は若者向けの左派系雑誌であり、普段から国防総省と付き合いのある媒体ではない。つまり、今回の記事によって「ペンタゴン立ち入り禁止」になったとしても別に痛くも痒くもない。本来2日間の取材予定が一カ月になったのだから、ハスティングスに対して「絶対に面白いネタを取ってこい」と命じていたとしても不思議ではない。
こうしてマクリスタル大将は、若干30歳のフリージャーナリストの「裏切り」によって34年の軍歴に泥を塗られ、実に哀れな形で表舞台からの退場を余儀なくされたのである。
【主要参考文献】 より詳しい背景は『菅原出のドキュメント・レポート』2010年6月28日号参照
Michael Hastings, “The Runaway General”, Rolling Stone, June 25, 2010
“McChrystal’s Fate in Limbo as He Prepare to Meet Obama”, The New York Times, June 23, 2010
“Obama orders McChrystal back to Washington after remarks about U.S. officials”, Washington Post, June 23, 2010
“How ‘Rolling Stone’ Got Into McChrystal’s Inner Circle”, Newsweek, June 22, 2010
“Rolling Stone broke interview ground rules with McChrystal, military officials say”, Washington Post, June 25, 2010
“Rolling Stone fact checker sent McChrystal aide 30 questions”, Washington Post, June 25, 2010
より詳しい背景については、「菅原出のドキュメント・レポート」をご参照ください。これは、オバマの対テロ戦争の実態や世界の安全保障情勢、諜報コミュニティの暗闘など国際情勢のディープなバック・グラウンドを分析し、現在進行形の世界の大地殻変動をドキュメントする会員制ニュースレターです。レポートのお申込みは、以下のホームページ「国際政治アナリスト菅原出のGlobal Analysis」
◆オバマと戦争
- 米国諜報史上に残るCIAの大失態:日経ビジネスオンライン|菅原出 上葉
http://www.asyura2.com/09/warb2/msg/609.html - 国際政治の表舞台に戻ってきた「詐欺師」|菅原出 上葉
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