http://www.asyura2.com/10/warb5/msg/106.html
Tweet |
米国史上最長の戦争はいまだ先が見えず:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100615/214962/
2010年6月16日(水)
米国史上最長の戦争はいまだ先が見えず
菅原 出 【プロフィール】カルザイ大統領はなぜ2人の治安担当閣僚の首を切ったのか
アフガニスタンのカルザイ大統領が、2人の治安担当閣僚を首にしたことで、米国の対アフガン作戦はさらに先行き不透明な状況に陥っている。
6月6日、カルザイ政権の内務大臣ハニフ・アトマル(Hanif Atmar)と同国情報機関のアムルラ・サレハ(Amrullah Saleh)長官が辞職したことが明らかになり、米軍や北大西洋条約機構(NATO)関係者を驚かせた。
2人ともカルザイ氏が大統領に就任した2002年以来、同大統領に仕えてきた閣僚であり、アトマル大臣はこれまでに3つの閣僚ポスト、サレハ長官は2004年以来、アフガン・インテリジェンス機関のトップをつとめてきた。両者共に西側政府の信頼が厚く、エイケンベリー駐アフガニスタン米大使は、両者のことを「世界レベルの政治家だ」と称賛していた。
とりわけアフガン情報機関は、CIA(米中央情報局)がこのサレハ長官と二人三脚で築き上げてきたものであり、同長官は米政府のアフガニスタンにおける目と耳の役割を果たしてきた。
カルザイ大統領とサレハ長官は、カルザイ政権が進めるタリバンとの和解交渉をめぐり、拘束中のタリバン指導者をどこまで釈放するか、という問題で衝突していたと言われている。カルザイ大統領はタリバンとの和解を早急に進めるため、より多くの重要なタリバン拘束者を早く釈放しようと考えているのに対し、米国やサレハ長官はより慎重に考えてカルザイ大統領にストップをかけていた。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、最近カルザイ大統領の閣内における孤立がますます深まっており、同大統領はタリバンを新たな同盟者と考えてタリバンとの和解交渉を急いで進めようと焦っていたという。つまり、オバマ政権が慎重にタリバンとの和解交渉を進めようと考えているのに対し、焦るカルザイ大統領は一気にタリバンとの交渉を進めるために、自分に逆らうサレハ長官の首を切ったのではないか、というのである。
怖くて米主導のプロジェクトに参加できないこうした中、マクリスタル駐アフガン米軍司令官が、正式にカンダハル作戦を遅らせることを発表している。
「私は急ぐ必要はないと思っている。実際に行動するのに数カ月がかかるが、それは必ずしも悪いことではない。早く行うこと以上に、それを正しく行うことが重要なのだ」
こう述べた同司令官は、カンダハル作戦を実施するために不可欠な、地元指導者たちの協力を得るのに予想以上に時間がかかっていることを認めた。昨年開始したヘルマンド県マルジャでの海兵隊の作戦は、いまだに期待された効果を出しておらず、「マルジャすら平定出来ないでカンダハル作戦などできない」という結論が出され、カンダハル作戦の延期が決まったのだという。
そのマルジャでは、数千名の海兵隊に加え、特殊部隊のチームも入って地元の若者を組織して治安組織を作るなど、タリバンの脅威から住民を守るためのさまざまな工作活動が展開されているが、タリバンの巧妙な暗殺、脅し作戦により、米政府に協力するマルジャ市民が現れずに困っているという。
USAIDの開発プロジェクトでは、マルジャ市民10000名の雇用を創出する予定だったのが、現在までにわずか1200名しか応募者がおらず、マルジャ農民向けに4000セットのポンプを配布する計画でも、参加者が少ないため全体の25%程度しか配布されていない状況だという。とにかく、タリバンからの報復を恐れて米政府主導のプロジェクトに怖くて参加できない状況が続いているのである。
カルザイ政権の不正摘発チームの活動こうした中、オバマ政権内では、「キング・オブ・カンダハル」として知られ、南部最大の都市カンダハルを支配する大統領の弟アフマド・ワリ・カルザイを何とかしなくてはならないのでは、との議論が再び活発になっている。
今年の3月の時点で、マクリスタル司令官は、政権内の反対派の意見を押し切って、ワリ・カルザイを排除するのではなく、彼の力を強化することで、彼と共にカンダハル作戦を実施する方針を決めていた。しかし、それにもかかわらず、ワリ・カルザイは、持っているはずの影響力を行使して、カンダハルの有力指導者たちを説得し、米軍の作戦に協力させることをしていない。少なくとも米軍からはそのような不満が強く出ているのである。
『ワシントン・ポスト』紙は、「われわれはワリ・カルザイに建設的な支援を望んでいるのであり、破壊的な支援ではない」とのフレデリック・ホッジーズ准将(南部アフガン司令官)のコメントを掲載し、米軍内に広まるこの不満ぶりを伝えている。
また同紙は、ワル・カルザイが、この夏に新たにカンダハル市に派遣される予定の900名の警察官の配置について、250名を彼が議長をつとめる州議会の警備に、110名を彼の個人的なボディーガードに割り当てることを主張して米軍を怒らせていると報じている。
今年の3月にマクリスタル司令官がワリ・カルザイと共に歩む道を選んだ理由の一つは、「ワリ・カルザイが不正をやっている」ことを裏付ける確たる証拠が欠如していることだった。カルザイ大統領に対して、「あんたの弟が不正をやらかしている」と訴えても、いつも証拠不十分で逃げられてしまっていた。
そこでマクリスタル司令官の情報参謀であり、NATO軍の軍事情報部門のトップをつとめるマイケル・フリン少将が中心となり、アフガン政府の不正、腐敗の証拠を集めるためのタスクフォースが動き出している。アフガンの情報機関や治安機関、軍などと協力してこうした内部不正の情報を収集し、カルザイ政権に圧力をかけて内部から変えて行こうという試みである。
すでにこうしたタスクフォースから上がってくる情報をもとに、アフガン軍がワリ・カルザイの不正を糾弾する動きが始まっているが、冒頭で記したカルザイ大統領による内務大臣や情報機関長官の首切りは、こうしたアフガン政府内の腐敗対策の動きとも関係している可能性が高い。
信頼できる現地パートナーが存在しない限り、いかなる対反乱作戦もうまくいかない。この原則に立ち戻り、米軍はアフガン政府内の腐敗対策を推進しようとしているが、それはそのままカルザイ政権との「戦争」を意味する。
アフガン戦争は6月7日、開始以来104カ月を迎え、ベトナム戦争を超えて米国史上最長の軍事作戦となった。が、オバマ政権のアフガン戦略は、ローカル・パートナーの不在という根本的な欠陥を抱えたまま、先は見えないままである。
【主要参考文献】 『菅原出のドキュメント・レポート2010年6月14日号』
“Afghan Leader Forces Out Top 2 Security Officials”, The New York Times, June 6, 2010
“Karzai’s Isolation Worries Afghans and the West”, The New York Times, June 7, 2010
“General: Kandahar operation will take longer”, Washington Post, June 10, 2010
“Still a Long Way to Go for U.S. operation in Marja, Afghanistan”, June 10, 2010
“Taliban Aim at Officials in a Wave of Killings”, The New York Times, June 9, 2010
“Ahmed Wali Karzai, an ally and obstacle to the U.S. military in Afghanistan”, Washington Post, June 13, 2010
“U.S. Military Intelligence Puts Focus on Afghan Graft”, The New York Times, June 12, 2010
◆関連記事
- 米国諜報史上に残るCIAの大失態:日経ビジネスオンライン|菅原出 上葉
http://www.asyura2.com/09/warb2/msg/609.html - 国際政治の表舞台に戻ってきた「詐欺師」|菅原出 上葉
http://www.asyura2.com/10/warb3/msg/412.html - 軍事作戦を仕切る“素人”CIA|菅原出 上葉
http://www.asyura2.com/10/warb3/msg/859.html - 平静を装いながらも悪化の一途。オバマ政権VSアフガン政府|菅原出 上葉
http://www.asyura2.com/10/warb4/msg/417.html - イランへの経済制裁、世界はどう動く?|菅原出 上葉
http://www.asyura2.com/10/warb4/msg/670.html
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。