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イランへの経済制裁、世界はどう動く?:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100525/214577/
2010年5月28日(金)
イランへの経済制裁、世界はどう動く?
菅原 出 【プロフィール】ブラジル、トルコ、イランが合意した低濃縮ウラン交換計画
イランの核開発問題をめぐる米国とイランの外交戦がますます激しさを増している。
5月17日、テヘランを訪問中のブラジルのルラ大統領とトルコのエルドガン首相が、イラン政府との間で、イランの低濃縮ウランを国外搬出する計画で合意に達したと発表。イランが保有する低濃縮ウランの1200キログラムを隣国トルコに搬出して国際原子力機関(IAEA)の管理下に置き、フランス、ロシアや米国などが合意した場合に、20%に濃縮・加工された核燃料棒120キログラムがイランに引き渡されるという内容である。
ブラジルとトルコは過去数カ月間、イラン核開発問題の外交的解決に向け、密かに調整・仲介外交を続け、今回の合意にこぎ着けたことについて、「外交的勝利だ」「これで対イラン経済制裁は必要なくなった」と述べて、その成果を強調した。
今回、ブラジル、トルコとイランが合意した低濃縮ウラン交換計画は、昨年10月に米国を中心とする国連安全保障理事会常任理事国5カ国+ドイツがイランに提案し、一時イランが合意したものの、その後反故にした計画と酷似している。
イランは1967年以来、テヘランにある研究炉でがん治療などに使われる医療用アイソトープを製造している。この研究炉はもともと米国の技術で製造されたものであり、それ以来数十年間にわたりIAEAの監視の下で操業している。この研究炉では20%の低濃縮ウランが使用されており、現在イランが使用しているのは、90年代前半にアルゼンチン政府によって提供されたものだが、その在庫が尽きてしまうため、イラン政府は昨年IAEAに対して、新たなウラン燃料の供給を求めていた。
これに対してオバマ政権は、第三国から20%の濃縮ウランをイランに供給する代わりに、イラン自身が国連安保理の度重なる決議に違反して、ナタンズにあるウラン濃縮施設で過去数年間にわたり蓄積してきた3.5%の低濃縮ウランを国外に輸出して20%まで加工してはどうか、と考えた。昨年10月の時点で、イランは3.5%の低濃縮ウランを1500キログラム程度蓄積したと考えられていた。
イランが国内に蓄積している低濃縮(3.5%)ウランの大半にあたる1200キログラムをロシアに輸出して濃縮率を20%に高め、それをさらにフランスに送って燃料棒に加工してイランに戻し、テヘランの研究炉で使用する、というのが昨年10月に米国、ロシア、フランスなどが「IAEA提案」としてイランにオファーしたものだった。
これに対してイランは、自国が苦労して蓄積してきた低濃縮ウランの大半を国外に搬出することに強硬に反対した。もし米国やロシアが約束を破ったとしたら、イランは苦労して貯めた低濃縮ウランを取り上げられることになってしまう。だからイランの差し出す3.5%の低濃縮ウランと第三国が供給する20%の濃縮ウランを、イラン国内で交換すべきだと主張して譲らなかったのである。
これに対して、イランと関係の良好なブラジルとトルコが仲介の労をとり、イランが信頼を寄せるトルコに低濃縮ウランを搬出することに合意させた、というのが今回の三者合意の画期的な点であった。昨年10月の提案をベースに、イランと西側主要国との不信感のギャップを埋めるべく、トルコがイランの低濃縮ウランの保証人になるという提案であった。
対イラン経済制裁を発表したオバマ政権ところがこれに対して米国は、翌5月18日に、イランに新たな経済制裁を課すための国連安保理決議案の草案にロシアと中国が合意したと発表し、あくまで追加の国連制裁をイランに課す道を進める方針を打ち出した。
「今日、私はこの委員会の席で、ロシアと中国が制裁決議案に合意したことを発表します。米国は過去数週間、5カ国(国連安保理常任理事国+ドイツ)と新たな経済制裁について緊密に協議を重ねてきました。本日、この決議案を国連安保理理事会全体に公表する予定です」米議会上院の外交委員会で証言したヒラリー・クリントン米国務長官は、ブラジル、トルコ、イラン政府の発表の翌日に、このように発表して世界を驚かせた。新たな対イラン制裁案には、国連安保理常任理事国5カ国とドイツの6カ国が合意しており、その内容は、イランの金融機関を対象とした制裁や、特に核開発で中心的な役割を果たしているイラン革命防衛隊を対象にしたものになっている。新たな要素としては、過去の対北朝鮮制裁に習い、イラン向けもしくはイラン発の貨物を運ぶ船舶や航空機に対して、禁制品が含まれているという疑いがある場合には、国連加盟国が積み荷の検査を実施できるとした点があげられる。
国連安保理の決議には、最低でも9カ国の同意が必要であり、常任理事国5カ国以外にも最低で4カ国の合意が必要になる。現在の非常任理事国は、トルコ、ブラジル、オーストリア、ボスニア、ガボン、日本、レバノン、メキシコ、ナイジェリアとウガンダである。
非常任理事国のうちの二カ国にあたるトルコとブラジルが、今回イランとの外交解決の提案をしたわけだが、その両国の仲介外交に対して、オバマ政権は思いっきり冷水を浴びせたのである。このオバマ政権の行動に両国は怒りの声明を発表しており、とりわけトルコは「これまでオバマ政権に対して報告をしてきたではないか。オバマ大統領自ら我々の提案を後押ししてくれていた」と述べて、「梯子を外した」オバマ政権を強く非難した。
オバマ政権の狙いクリントン国務長官は、過去数カ月にわたり、ブラジルとトルコ両政府に対して、イランとの取引を成立させようとしても無駄である、その代わりに次の安保理の制裁を支持すべきだと言い続けていたと述べている。
いずれにしても、現時点において、ブラジルやトルコがイランと合意にこぎ着けた濃縮ウラン交換計画は、オバマ政権にとってもはやその魅力は薄れてしまっている。繰り返すが、昨年10月の時点では、1200キログラムの低濃縮ウランとは、イランが保有する総量の80%を占めるものだった点が重要だ。
しかし最近のIAEAの報告書によれば、現在までにイランは少なくとも2065キログラムの低濃縮ウランをすでに蓄積しており、1200キログラムは全体の58%程度を占めるに過ぎない。しかもイランは月に125キログラムのペースで低濃縮ウランを生産しており、今回国外に搬出すると宣言した量を、わずか10カ月程度でまた蓄積することができてしまう。
イランがもし核兵器開発に向かうと決意したとすると、原爆一個を製造するのに約1000キログラム程度の低濃縮ウランが必要だと言われている。医療用アイソトープの製造用に加工した濃縮ウランを、軍事転用することは技術的に困難である。そこでイランが蓄積している低濃縮ウラン1500キログラムのうちの1200キログラムを国外に搬出し、医療用アイソトープ製造用としてイランに戻すのであれば、イラン核兵器開発をめぐる緊張を和らげることができる…、というのが昨年10月時点でのロジックであった。
もし国内にある低濃縮ウランの大半を一度に国外に搬出し、軍事転用できない形に加工することにイランが合意するのであれば、イランが核兵器開発をしようとしているのではなく、純粋に平和利用だけをしようとしている、というイランの従来の主張を裏付ける一つの証拠になり得る、とオバマ政権は考えたのであった。
ところがイランはすでに今年の2月に、自前で20%濃縮を行う道を進み始めており、さらにウラン濃縮施設を10か所も新設する計画を発表している。この2月の時点で、オバマ政権はそれまでの「対話」路線から、「新たな国連経済制裁を課してイランを孤立させる」路線へと明らかにギアを切り替えたのである。
イラン、北朝鮮問題で米中が取引?5月22日に、オバマ政権は、シリアやイランの兵器開発に協力していたとして非難してきたロシア企業に対する制裁を解除することも発表した。米国がそれまでブラックリストに掲載していたのは、ロシア国営の武器輸出企業Rosoboronexportとロシア最大の通常兵器の製造会社であるTula Instrument Design Bureauの2社を含んでいる。これらのロシア企業に対する制裁を解除することが、ロシア政府が、今回オバマ政権が進めている対イラン制裁案に同意する条件の一つだったとされている。
面白いことに今回の安保理制裁案は、イランに対してハイテクの防衛ミサイル、すなわちロシアがイランに対して売ることに合意している長距離地対空ミサイルS−300の売却を禁じてはいない。実際に売却するかしないかにかかわらず、このS−300の取引は、ロシアがイランやイスラエルに対して持っている外交カードの一つであり、オバマ政権はロシアに対して、このカードの有効性を維持することで合意したことになる。
一方、ロシア以上に、中国が今回の安保理制裁案に同意したことに注目が集まっている。中国はこれまでも対イラン制裁には反対の立場をとり続けてきたため、オバマ政権が中国の合意を得るためにどんな譲歩をしたのかが重要であろう。
その一つに、韓国海軍哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したとされる事件との関係が指摘されている。韓国はこの事件を受けて国連安保理で対北朝鮮制裁の決議を求める方針を明らかにしており、ここでも中国が新たな対北朝鮮制裁に対してどのような対応をとるのかが注目されている。
米国は中国に対して、「この哨戒艦問題は国連安保理ではなく、地域レベルの対話で対応策を検討する」という中国案に賛成する代わりに、イラン問題では中国が米国の提案する制裁案に合意するという取引がなされたのではないか、との指摘がワシントンで出ている。
イラン問題で中国の譲歩を勝ち取る代わりに、北朝鮮問題で米国が中国に譲歩するという取引がなされた…、十分にありそうなシナリオではある。オバマ政権は一見韓国を全面的に支持している態度を見せているが、中国との間でどのような政策をとってくるかに今後注目をする必要があろう。
いずれにしても、オバマ政権は、イラン核開発問題に関して、ブラジルとトルコが仲介したイランとの合意を蹴飛ばし、国連安保理での対イラン制裁を進める方向に進んでいる。しかしこのブラジル・トルコ仲介案が、他の非常任理事国に与える影響は小さくない。実際に5月21日には欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表が、「イラン高官と会う用意がある」と述べて、濃縮ウラン国外搬出提案を再協議する動きも出てきている。他の非常任理事国の間でも、新たな国連制裁ではなくブラジル・トルコ仲介案を進めようという動きが強まる可能性も否定できない。
米国とイランの外交戦はさらに熾烈さを増していくことになろう。
【主要参考文献】 「菅原出のドキュメント・レポート 2010年5月24日号(Vol. 3)」
“Iran deal sets back US goal of sanctions”, The Financial Times, May 17, 2010
“Iran agrees to send uranium to Turkey”, The Financial Times, May 17, 2010
“Iran nuclear fuel swap: who can make the fuel rods?”, The Christian Science Monitor, May 17, 2010
“Iran nuclear fuel swap: why US, others are no longer so keen on it”, The Christian Science Monitor, May 17, 2010
“U.S.: Agreement on draft resolution for new Iran sanctions”, Washington Post, May 18, 2010
“Major Powers Have a Deal on Sanctions for Iran, U.S. says”, The New York Times, May 18, 2010
“Hillary Clinton: Russia, China to back new Iran nuclear sanctions”, The Christian Science Monitor, May 18, 2010
“U.S. Takes Russia Firms Off Blacklist, Citing Shift on Iran”, The Wall Street Journal, May 22, 2010
“Clinton: U.S. inks Iran sanctions draft”, Politico, May 18, 2010
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